軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

【外伝】奴隷販売2

その日、狐人族の首都フォルネウのグランドーク家にある訓練場で少年と少女が、武術の訓練を行っていた。

そして、辺りには乾いた木がぶつかり合う乾いた音と、少年少女の声が響いていた。

「はぁああああ‼」

少女はセミショートボブの黒髪を靡かせ、棒術を使い少年に襲い掛かる。

だが、少年は余裕のある笑みを浮かべながら手に持った木剣で軽くいなし続けていた。

「シトリー、少し力み過ぎだよ。もっと、力を抜いてごらん」

「うぅ……アモンにーさま。すこし、てかげんしてよぉ……」

シトリーは、兄であるアモンに目を潤ませながら怨めし気に返事をする。

だが、アモンは諭すように優しい言葉をかけた。

「だ~め。獣人族は『強さ』がすべてだからね。今から訓練をして強くならないと、シトリーが大変だからね。だから僕は兄として、今は心を鬼にしているんだよ?」

「うぅ……にーさまのいじわる‼」

二人はそんな掛け合いをしながら、しばらく訓練を続けていた。

獣人族はどの部族においても『強さ』が重視される。

それは、部族長の血族でも変わらない。

その為、アモンはシトリーに武術を教えていた。

本来、このような事をするのは父親であるガレンの役目だが、ガレンはシトリーと初めて訓練を行った際、その気弱な性格などから『才能が無い』という判断を下したのだ。

その為、シトリーの屋敷における立場は低く、その扱いは他の兄弟のように手厚くはない。

アモンは、妹がそのような扱いをされることに心を痛めており、自主的に妹の面倒を見ていた。

シトリーもその事をわかっており、訓練中に口では悪態を付くこともあるが、彼女なりにいつも必死でアモンに挑戦を続けている。

「よし、そろそろ休憩しようか」

「はぁ……はぁ……はい、にーさま……」

二人が訓練の手を止めると、グランドーク家の執事でもあるリックがアモンに話しかけてきた。

「アモン様、訓練中に申し訳ありません。ラファ様がお部屋で話したい事があるとのことです」

「姉上が? わかった。訓練中だったから、身嗜みを整えたらすぐに姉上の部屋に行くと伝えてくれ」

「承知しました」

リックはアモンの言葉に頷き、一礼するとその場を後にした。

アモンはシトリーに振り返ると、ニコリと微笑んだ。

「シトリー、今日はここまでにしよう。以前よりかなり上達しているよ」

「ほんと⁉ ありがとう、にーさま‼」

シトリーは、顔を綻ばせて満面の笑みをうかべてアモンに抱きつく。

アモンはそんな彼女の背中を優しく「ポンポン」と叩きながら、褒め続けていた。

その後、アモンは自室で身嗜みを整えると足早にラファの部屋を訪れる。

「姉上、入ってよろしいでしょうか?」

「アモン……? ああ、そういえば私が呼んだわね。入ってきていいわよ」

「失礼します……なっ⁉」

部屋に入るなり、アモンは顔を赤らめてラファに慌てて背中を向けた。

「あ、姉上‼ いくら姉弟でも、裸を安易に見せてはならないといつもお伝えしているでしょう⁉ 何故、私が訪れる時はいつも裸なのですか‼」

「あら……そんなのアモンの反応が初心で面白いからに決まっているわ」

ラファはアモンの反応に笑みを浮かべながら、服を着替えていく。

布の擦れる音が聞こえると、アモンは安堵しながらも呆れたようにため息を吐いた。

「はぁ……姉上、私をからかうのもほどほどにして下さい。それよりも、どのようなご用件でしょうか?」

「うふふ、つれないわね。あなたが気にしていた『奴隷』の件でも伝えてあげようと思ったのにね」

奴隷の件、その言葉を聞いてアモンの眉がピクリと動いた。

「いよいよ、ですか。それで……『どこかの商会がまとめ買いしたい』とでも交渉してきましたか?」

アモンは背中越しに、ラファに含みのある返事をする。

彼女は、思いがけない言葉を聞いて嬉しそうな表情を浮かべると、楽しげに言葉を発した。

「へぇ……すでに知っていたのね。あ、もうこっちを向いても大丈夫よ。アモン」

聞こえた言葉にアモンは安心した様子で振り返ると険しい表情を見せた。

「……知っていたわけではありません。ですが、以前からバルストでは『ある商会』が奴隷のまとめ買いを考えている、という情報はありましたからね。調べたら、後ろだてもある結構な大商会で驚きましたよ」

エルバやマルバスすら知らない情報を持っていたアモンに、ラファはますます嬉しそうな笑みを浮かべている。

「いいわ、今日のあなたは私を楽しませてくれるのね。その情報を掴んだから、奴隷販売の反対を止めたのかしら?」

彼女問いかけに、アモンは険しい表情を浮かべると苦々し気に呟いた。

「……そうですね。今回の奴隷販売された子達は、恐らく商会の後ろ盾となっている場所に行くと思います。時がくれば、今回の件を通じてそこの『領主』と良い関係が築けるかもしれませんからね」

「奴隷達を餌にして、商会の後ろ盾となっている『領主』と関係を築くというのね? その考えは面白いわ。アモン、あなたの事をほんの少しだけ見直してあげる。それから、この事は兄上達には黙っておいてあげるから、今後も私を楽しませなさい」

満面の笑みを浮かべるラファに、アモンは呆れた表情を浮かべながら頷いた。

「承知しました……」

その後、ラファと雑談をしたアモンは彼女の部屋を後にする。

彼は、そのまま自室に戻ると机に座り、引き出しから一通の手紙を取り出した。

それは、アモンの理想を支持する者達がバルストで集めた情報を記したものである。

アモンは手紙を開き、重要な情報の一文に目を通すと人知れず呟いた。

「……クリスティ商会、その背後にあるのは帝国貴族と思われる……か。さて、鬼が出るか蛇が出るか……」