軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

アレックスの失言

「うう……僕には今、リッド様の笑顔が悪魔の微笑みに見えますよ……」

「姉さんの言う通りです……とんでもないことを軽く言いますよね……」

エレンとアレックスは僕がお願いした『属性素質鑑定機』の量産について、頭を抱えながら僕に怨めしい視線を送っている。

でも、僕はその視線を軽く流して咳払いをすると、次の話題に話を進めた。

「ゴホン……それで、お願いしていたもう一つの件、『木炭車』の開発はどうかな?」

二人は僕の言葉を聞くと諦めた表情で互いの顔を見合わせると、エレンが真面目な顔になり僕を見据えた。

「すみません……『属性素質鑑定機』の改良が忙しかったので『木炭車』に関してはまだ少しかかりそうです。あ、でも、サンドラさん達との意見交換もしているので、構想自体は大分良い感じで進んでいますよ」

僕はエレンの言葉を聞き終えると、険しい表情を浮かべながら申し訳なさそうに言葉を紡いだ。

「そっか……無理を言って悪いんだけど、状況が変わって木炭車の開発も出来る限り急いで欲しいんだ」

「え……⁉ ど、どういうことですか……?」

「実はね……」

エレンとアレックスは僕の言葉に、少し戸惑った表情を浮かべた。

そんな二人に僕は、母上の治療に使う薬の原料となる薬草に問題が発生していることを説明する。

そして、その解決方法に『木炭車』による輸送が有効ではないかという考えを伝えた。

元々、『木炭車』に関してはレナルーテに行った際の『馬車』の乗り心地が悪かった事から、解決方法をメモリーと話していた時に出て来た発想だ。

木炭を作る事を決めた理由には、実はこれも絡んでいる。

馬車の乗り心地の改善と燃料問題について、メモリーに相談した時に彼は言った。

「それなら、『木炭を量産』して燃料問題を解決。さらに、リッドの記憶にあった『木炭で走る自動車』を作ればいいんじゃない?」

僕は、木炭で走る自動車なんて前世の記憶にあっただろうか? と思ったが、メモリーが引っ張り出して来た『記憶』には確かにあった。

さすがに、詳しくはわからないがおおまかな仕組みだけは記憶の中に『絵の資料』があったので、それを紙に僕が『手書き』で書き写してエレン姉弟の二人とサンドラ達に渡したのだ。

彼女達は僕の前世の記憶にあった知識に感動すると、凄い剣幕で絶対に作ってみせると息巻いていた。

ゴムの木をクリスに依頼して、探したのも様々な理由はあるが『木炭車』に使う為の『ゴムタイヤ』を作るための部分が大きい。

エレンとアレックスは、僕の話を聞き終えると真剣な面持ちになり口元に手を充てながら、何やら考え込み始める。

それから、少しの間を置いてエレンがおもむろに口を開いた。

「わかりました……僕とアレックスで何とかしてみせます。ただ、人手の部分がどうしても問題になるので、獣人族の子達の中に、『狐人族』がいたら優先的にこちらに回してもらうようお願いします」

「ありがとう。要望の点は出来る限り優遇するよ。無理を言ってごめんね」

僕は言い終えると、エレンとアレックスに向かいペコリと頭を下げる。

二人は僕の一礼に慌てた様子でエレンが言葉を発した。

「リッド様、頭を上げて下さい‼ 僕達はリッド様にお仕えすると決めたんですよ‼ それなら、リッド様のお母様であるナナリー様の為に全力を尽くすのは当然の事です‼」

「姉さんの言う通りです‼ 俺達はリッド様の為ならなんだってやって見せますから、頭を上げて下さい」

二人の言葉と気持ちがとても嬉しくて、僕は頭を上げると同時に目頭が熱くなり頬に涙が伝う。

僕は、服の袖で涙を拭うと少し潤んだ眼で満面の笑みを浮かべた。

「二人共……本当にありがとう。これからもよろしくね」

言葉を言い終えてから二人を見ると、僕の顔を見ながら何故か呆気にとられているようだ。

そして、何やら照れたように少し顔を赤く染めた後、片手で頬を掻いている。

そんなに、涙を流した僕の顔は変だったかな? そう思った時、エレンが僕に戸惑った視線を向けた。

「リッド様、その潤んだ眼の笑顔は可愛すぎて……まるで『微笑みの爆弾』です。破壊力が凄いから、人によってはリッド様が『男の子』である事を本当に悔やむかもしれませんね……ねぇ、アレックス?」

「……はぁ⁉ 姉さん、なんで俺に振るんだよ‼」

「ふふ……だって、アレックス、顔が真っ赤じゃん」

二人は楽し気なやりとりをしているが、僕はエレンの言葉を聞いた瞬間に『ピシッ』と凍りついていた。

何故なら、半年以上前に僕にとって恐ろしい出来事が起きた事を如実に思い出したからだ。

その瞬間、『彼』が『変装していた僕』に告白してきた事を思い出して、全身に悪寒が走る。

僕は『ハッ』とすると、アレックスに近づき両肩を掴んで凄い剣幕で睨んだ。

「アレックス……僕はファラ一筋だから、他を当たってね……?」

「な……⁉ リッド様まで何をいっているんですか⁉ 俺にはちゃんと好きな人がいますよ‼」

僕の言葉にアレックスは、勢いのあまりに言わなくていい事まで口走っている。

その言葉に、目聡く反応したのはエレンだった。

彼女はアレックスに対してニンマリとした笑みを浮かべている。

「なるほどぉ、アレックスもそういうお年頃だもんねぇ。でも、そっかぁ、リッド様のお屋敷に用事がある時は、やたら行きたがるのはそういう理由だったのねぇ……」

「ほう……お屋敷の女性にご興味がおありなのですか? そうなると……メイドの誰かでしょうか? それは、バルディア家に仕える者としても興味がありますね」

エレンの言葉にまさかのディアナが笑みを浮かべて乗って来た。

椅子から立ち上がりにじり寄るエレンとディアナの剣幕に怯えて、アレックスも椅子から思わず立ち上がって後ずさりを始めた。

しかし、僕はそんな彼に生暖かい眼差しを送る事しかできない。

気付けば、アレックスは壁際に追い込まれて逃げる場所が無くなってしまった。

そんな彼に、エレンとディアナがそれぞれの片手で『壁ドン』をすると、おもむろに顔を近づけ凄んだ様子で静かに語り掛ける。

「さぁ、アレックス……お姉さんである僕に誰が好きなのか……言ってごらん?」

「アレックス様、バルディア家に仕える者として知っておかねばなりません……言って下さい」

二人の剣幕に、アレックスは真っ青になっている。

僕はこうなった彼女達を止められる自信がないので、笑顔で成り行きを見守っていた。

その時、アレックスは『ハッ』として僕に視線を送りながら叫んだ。

「ああぁあ⁉ そうだ、リッド様、すっかり忘れていました‼ ご依頼を頂いていたナナリー様用の『新しい車イス』が先程完成したんです‼ お見せしたいので、工房に来ていただけませんか⁉」

「え⁉ 本当‼ わかった、すぐ見に行こう‼」

「はい‼ ではこちらにどうぞ‼」

アレックスは僕の返事に、逃げ道を見つけたかのように俊敏に対応してくれる。

そんな僕達の二人のやりとりに、エレンとディアナが怨めしい視線を向けながら、つまらなさそうな表情を浮かべていた。

だが、僕は気付かないふりをしてその場をやり過ごすのだった。