軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

サンドラと打ち合わせ

その日、僕はサンドラと魔法訓練を行う前に打ち合わせをする為、応接室で彼女が来るのを待っていた。

机の上にはディアナが淹れてくれた紅茶と、今までサンドラと作って来た『魔法学の教育課程』の書類が綺麗にまとめて置いてある。

僕は彼女が来るまでその紅茶を飲みながら書類に目を通して再確認をしているところだ。

書類に目を通しながら紅茶を口に運んだ時にドアがノックされたので、返事をするとディアナが応接室に入室すると会釈してから僕を見据える。

「リッド様、サンドラ様がお見えになりました。ご案内してよろしいでしょうか?」

「わかった。お願い」

僕の返事を聞いた彼女は再度会釈をしてそのまま退室する。

僕はカップに残っていた紅茶を飲んでしまうと、確認をしていた書類を机の上に戻してサンドラが来るのを待った。

それから、間もなくドアがノックされ、返事をするとサンドラが入室してくる。

「リッド様、お待たせしました‼」

「サンドラ先生、来てくれてありがとう。こちらにどうぞ。ディアナ、悪いけどサンドラ先生に紅茶をお願い。それから、僕にもう一杯注いでくれるかな?」

サンドラに机を挟んだ正面のソファーに座るように促しながら、僕は途中でディアナに視線を移して紅茶をお願いする。

ディアナは「承知しました」と会釈をしてから、部屋を退室した。

サンドラは促されたソファーに腰を降ろすと、楽しそうに輝いている目を僕に向けた。

「それにしても急展開ですね……連絡をもらって驚きました。まさか、一度に一五〇名前後の獣人の奴隷を購入するとは思いませんでしたよ」

「そうだよね。僕も正直、こんな動きになるとは思っていなかったから驚いているよ」

先日、父上やクリス達との打ち合わせが終わった後、僕はすぐにサンドラに『口外禁止』と書いた手紙を送って事の次第を伝えていた。

勿論、奴隷の子達に施す『魔法の教育課程』についてサンドラと確認をする必要があったからだ。

奴隷達を購入する目的の一つである『奴隷達に魔法を組織的に教育して、領地発展の足掛かりにする』という計画を伝えた時、サンドラはとても驚いていた。

でも、すぐに「面白い‼ 是非やりましょう‼」と目を輝かせていたのは彼女らしいと思う。

だけど、気掛かりなことがあった僕は、サンドラに尋ねた。

「それで、お願いしていた『人達』の様子はどう? 父上にも話は通して、簡単な研究所に使えそうな施設は用意したけど、皆気に入ってくれた?」

「ふふ、ご心配なさらずとも皆張り切って私の研究や魔法の教育課程の作成について手伝ってくれています。ようやく好きな研究で暮らしていけるって、バルディア家に皆感謝していますよ」

サンドラは言い終えると、嬉しそうに微笑んだ。

僕はその表情を見て、心配が安堵に変わり彼女の微笑みにつられるように笑みを浮かべる。

「そっか、良かった。いずれ、改めて皆に挨拶に行かないといけないね」

「はい、是非いらして下さい。皆も喜ぶと思います」

僕の言葉にサンドラは心底嬉しそうな優しげな笑顔を浮かべている。

彼女の笑顔につられ、僕は顔を綻ばせながら『彼等』のことを思い返していた。

実は、半年程前から現在に至るまでの間に、バルディア領にはあちこちから『ある人材』がやってきていた。

彼らは帝都の研究所でサンドラが『所長』をしていた当時、同じ研究所に勤めており彼女の部下で研究員だった人達だ。

彼らは帝都において『魔力回復薬』を作成するために、身分関係なく集められた『優秀な研究員』だった。

だが、残念な事に製作不可と思われていた『魔力回復薬』の研究と『身分関係なく集められた研究員』に対して、資金投資されることに疑念と不満を持った一部の帝国貴族達によるやっかみを買ってしまう。

その後、一部の貴族達による暗躍によってサンドラと彼らは研究を阻害され思うような結果が出せず、責任を取らされて研究所から追い出されることになってしまった。

サンドラの場合は、持っている知識と知恵が母上の治療に結び付くかも知れない。

と、感じた父上がバルディア領に来てほしいと伝えたことで事なきを得ている。

しかし、他の研究員はそうはいかない。

皆それぞれに地元で祝福されて帝都の研究所に行ったのに不当に扱われ、地元に帰らざるを得ない状況はとても辛いものだっただろう。

中には命を絶とうした者もいるらしく、サンドラや他の研究員達が必死に説得して思い留まらせるのに大変だったそうだ。

そんな仕打ちを受けたサンドラが、秘密裏に僕と共同で『魔力回復薬』を完成させてしまった事は皮肉だと思う。

魔力回復薬の存在は、母上が快復するまでは公にしない予定だ。

だけど公表した暁には、一部の無能な帝国貴族による史上最悪の汚点となることは間違いない。

そこまで、思い返した時にドアがノックされ、僕が返事をするとディアナが紅茶を二人分持ってきてくれた。

「ありがとう、ディアナ」

「ディアナさん、ありがとうございます」

ディアナは僕とサンドラの言葉に会釈をしながら無駄のなく、鋭い騎士のような所作で僕とサンドラの前に紅茶を置くと、一言付け加えた。

「お熱いのでご注意下さい」

彼女はその後、僕達に会釈をするとそのまま静かに応接室を退室した。

でも、僕が声を掛けるとすぐに動けるようにドアの前では待機してくれている。

ディアナが部屋を退室するまで、何やら視線を彼女に向けていたサンドラがため息を吐いた。

どうしたのだろうか?

「はぁ……私達の研究所にもディアナさんやカペラさんのような人が欲しいです。私も含めて研究員達は片付けより研究ばっかりに夢中になっちゃうから、色々と大変なのですよね」

「そうなの? でも、さすがにこの短期間でゴミ屋敷にはなってないでしょ?」

冗談で言ったつもりだったのだが、僕の言葉にサンドラは視線を泳がせる。

凄く嫌な予感がした僕は、険しい顔で訊ねた。

「……まさか、ゴミ屋敷になっているの? 本当に?」

「え? あ、いやぁ……ゴミ屋敷ではないのですが、資料が結構乱雑になっているので……さしずめ『資料屋敷』でしょうか……? アハハ……」

僕の質問に対してサンドラは、バツの悪そうな表情を浮かべて話しながら、最後は頭の後ろに片手を置きながら乾いた笑い声を上げる。

彼女の様子から察せられる状況を想像した僕は、父上のように額に手を当てながら俯いて首を軽く横に振ると、少し間を置いてからため息を吐いた。

「はぁ……わかった。サンドラ達の身の回りを手助け出来る人が用意出来るか確認してみるよ」

僕の返事は予想外だったのかサンドラは驚いた表情を見せた後、目を輝かせて勢いよく身を乗り出すと、嬉々とした声を発した。

「本当ですか⁉ いやぁ、言ってみるものですね。リッド様、どうぞよろしくお願いします‼」

彼女は言い終えるとペコリとその場で頭を下げる。

その様子に僕は、思わず呆れた表情を浮かべると彼女に釘を刺すように言った。

「……あのね、少しは自分達でちゃんと資料は整理しなよ? そもそも、『用意できるか確認する』って言ったのだから約束したわけじゃないからね」

「わかっています。わかっていますよ。ちゃんと整理しておきます。それにしても、どんな人が来るのか……今から楽しみにしていますね」

彼女に僕の言葉は届いていないようだ。

僕は呆れて項垂れるも話を本題の『魔法の教育課程』に戻していくのであった。