軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

リッドと家族の時間

「むぅ……どっちにしよかなぁ……」

「ふふ……メルにはどっちが『ババ』なのかわかるかな?」

メルは僕が持っている二枚のトランプを可愛い顔で睨みながら、どちらを取ろうかとても悩んでいる。

今日は僕とメルは母上の部屋に来てトランプで遊んでいた。

もちろん、母上も一緒だ。レナルーテで持ち帰った薬草を元にした新薬を投与し始めてから、少しずつ母上の体調は快復に向かっている。

まだ油断は出来ないが、それでも家族の皆で簡単な遊びが少しずつだけど楽しめるようになってきた。

最初は母上の横で絵本を僕がメルに読んだりしていたのだが、最近のメルは家族でするトランプがお気に入りだ。

ちなみに、いま皆でしているのは『ババ抜き』であり、僕とメルの一騎打ちとなっている。

その時、横で僕とメルのやりとりを見ていた母上が微笑みながらメルに声をかけた。

「メル、頑張って最後の一枚よ」

「うん‼ きめた、これにする‼」

メルが取ろうと手を伸ばした先の僕のカードは『ババ』だ。その事に、僕の横にいる子猫姿のクッキーが気付いて、何とも言えない顔でメルを見つめた。

クッキーの表情に気付いたメルはハッとすると、僕から取ろうとしていたカードを咄嗟に変えた。

「やっぱり、こっちする‼」

「あ……」

メルがカードを取った後、僕の手元に残ったカードは『ババ』だった。

つまり僕の負けである。

メルは嬉しそうに目を輝かせて満面の笑みを浮かべた。

「やったぁ‼ にいさまに、かったぁ‼」

「うん……メルはどんどん強くなるね……」

喜ぶメルはとても可愛い。

でも、今のちょっとずるくないかな?

そう思いながら僕はゆっくりと、クッキーに怨めしい眼差しを送ったが、彼は僕の視線に気付くとサッとそっぽを向いてしまった。

そんな僕達のやりとりを見ていた母上が楽しそうに微笑みながら、メルを優しく見つめた。

「ふふ……メルはどんどん上手になっていますね。クッキーの気持ちも嬉しいですが、時には堪えて見守ってあげて下さいね?」

最初、母上は視線をメルに向けていたが、途中でクッキーにも視線を移して優しく諭した。

その言葉にメルが少し慌てた表情を浮かべ、クッキーは少しバツが悪そうだ。

「う……な、なんのことかなぁ……?」

「グゥ……」

最近、クッキーとビスケットは以前に増してとてもメルと仲が良い。

どこに行くにしても一緒だ。

ただ時折、メル達が行う遊びの度が過ぎて、僕や父上から怒られることもあったりする。

その時、メルが誤魔化すように咳払いをした。

「ゴホン……もう一回、四人で『ババ抜き』しよう‼」

「うん、もう一回しようか」

僕はメルの言葉に頷きながら、カードをまとめ始めた。

ちなみに、トランプをしているのは僕、メル、母上、メルに良く似た姿で髪型だけ違う少女だ。

母上はそのメルによく似た少女を見つめた。

「それにしても、『ビスケット』が変身している姿は本当にメルによく似ていて、いつも驚かされるわね」

ビスケットは母上の声に反応すると、ニコリと嬉しそうな可愛い笑顔で返事をした。

以前、ビスケットがメルに変身した事があるのだが、その際に父上からは二度と『変身』については行わないようにと言われている。

でも、メル達は自室で誰にも見られないなら良いだろうとビスケットの『変身』で遊んでいたようだ。

ビスケットもメルと遊ぶときは『変身』している方が何かと楽しいらしい。

僕がメルとビスケット達が『変身』で遊んでいることを知ったのは、メルから見せたい事があると呼ばれて彼女の部屋に行った時だ。

何事だろう? と思ってメルの部屋に入るなりメルが二人いたので驚愕したが、すぐにビスケットだと察した僕は以前、父上に言われた事を出して注意した。

だけど、メルはビスケットに変身してもらって一緒に遊ぶのが楽しいから僕や父上、母上しかいない空間においてはビスケットの変身を許して欲しい。

その為、父上に話すにあたって僕に相談を持ち掛けたということだった。

メルはビスケットの『変身の凄さ』を僕に見せると言って、ビスケットが『変身できる種類』を見せてくれたのだが、その種類を目の当たりにした瞬間に僕は顔から血の気がサーっと引いていくのを感じた。

ビスケットが『変身できる種類』はメルから始まり、母上、ディアナ、クリス、ダナエなどバルディア家の屋敷に出入りしている女性陣をほぼ網羅していたのだ。

でも、男性陣に関してはビスケットが変身したくないらしく、変身の種類には入っていなかった。

その時のメルとビスケットは、『凄いでしょ?』と言わんばかりにご満悦な表情でドヤ顔をしていたが、僕はこの出来事をどう父上に伝えれば良いのか? と頭を抱え込んだのは言うまでもない。

メルにこの事を誰かに言ったり、見せたりした? と尋ねると、メルはバツが悪そうに「母上だけには見せちゃった」と呟いた。

母上はビスケットの『変身能力』にとても感動して喜んでくれたらしいが、同時に僕を通じて父上に話をするようにと、メルはやんわりお叱りを受けたらしい。

どうやら、母上も変身能力に感動しただけではなく、危険性もちゃんと感じてくれたようだ。

その時、僕はふと何気なく、ビスケットは何に変身した姿を母上に見せたのだろうか? と気になり、メルとビスケットに尋ねた。

見せた姿はビスケットが独自に考えた『可愛いメイドの女の子』という返事がメルから返って来た。

そうか、ビスケットは独自の姿も作れるのか。

感心した僕は、折角だから見せて欲しいとビスケットにお願いして『可愛いメイドの女の子』に変身をしてもらった。

ただ、何やらビスケットが気まずそうに変身したのが気になる。

ビスケットが変身したメイドの女の子は確かに可愛い。

うん、間違いなく可愛いのだが、何故か僕にはその姿に見覚えがあった。

そして、何故見覚えがあったのか分かった時、まるで見計らったかのようにメルが横からビスケットが変身した『メイドの女の子』の名前を教えてくれた。

ビスケットが変身したメイドの女の子の名前は『ティア』というらしい。

僕の顔色が真っ青になったのは言うまでもない。

何故、『ティア』という名前なのか? とメルに尋ねると、『ティア』に変身したビスケットが絵本を持ち出して、文字を指さしてご丁寧に教えてくれたそうだ。

そうか、ビスケットとクッキーは文字も読めるのか。

何気に重大な事実を知った気がした僕だったが、それよりも目の前にいる僕の黒歴史というか、記憶の亡霊ともいうべき『ティア』が存在している事実にしばらく唖然としていた。

そもそも、ビスケットは男性に変身はしないのではなかったのか?

ちなみに、その時のビスケットは『ティア』の姿のままで、僕の顔を見ると『テヘペロ』と可愛いが、どこかあざとい仕草をしていた。

その後、僕はメルとビスケット達と共に父上に会いに行き、事の次第を説明したところ、父上は僕同様に頭を抱え込んだ。

しかし、メル自身とメルに変身したビスケットの二人に囲まれて懇願をされた結果、案外すぐに落城してしまった。

以前も感じたが、父上はメルに対しては甘すぎると思う。

だが、さすがの父上も、変身に関しては僕達家族だけの秘密にして、誰にも言わないようにとメルに強く言っていた。

メルも改めて誰にも言わないと、僕と父上に約束してくれたのだった。

母上の言葉で、ビスケットの件で大変だったことを思い出して苦笑しながらトランプを混ぜていると、メルから声を掛けられた。

「にいさま、いつまでまぜてるの? もういいとおもうよ?」

「え? あ、そっか。そうだね」

どうやら考え込み過ぎていたようで、僕は延々と混ぜ続けていたらしい。

その後、皆にカードを配って、再度ババ抜きをしたのだが気付けばまた、メルと僕の一騎打ちになってしまった。

先程と同様にメルが僕のカードを引くことで勝敗が決定してしまう状態で、メルはよほど負けたくないのか、僕を潤んだ眼で見据えている。

「……まけないもん」

「ふふ……じゃあ、こうしようか」

僕は先程のこともあったので、持っていた手札の二枚を裏にしてメルの前に置いた。

そして、メルを見るとニコリと笑った。

「一枚がババ、一枚が恐らくメルと同じカードだから好きな方を選んでね。僕はメルが選ばなかったカードを取るからね」

「うぅ……わかった。じゃあ、こっち‼」

メルは自身の右手側にあるカードの上に手を置いた。

僕は残ったカードに手を置くと、メルに向かって言った。

「よし、じゃあ、一緒に開こうか」

「うん……」

メルが頷いたのを確認した僕は、笑みを浮かべて声を発してカードを表にした。

「じゃあ、いくよ……‼」

一瞬の静寂が訪れたあと、勝者による歓喜の声が響いた。

「やったぁ‼ また、にいさまにかったぁ‼」

「あら……また負けちゃったか……」

僕は自分が表にした『ババ』のカードを見ながら、俯いた。

うん、連続で負けても、悔しくなんかないもん。

そう思った時、部屋がノックされて執事のガルンの声が聞こえてきた。

母上が返事をするとガルンは、ドアを開けて部屋に入り僕達に会釈をしてから、僕に視線を送った。

「リッド様、訓練場にクロス様がお見えでございます」

「わかった。すぐに行くと伝えて」

「かしこまりました」

ガルンは僕の返事を聞くと、そのまま母上の部屋を退室する。

僕は、先程まで遊んでいたトランプをまとめると、メルに渡した。

「メル、今日はここまでだね。でも、次は負けないからね」

「わたしもまけないもん。にいさま、いってらっしゃい」

「うん、ありがとう、メル」

僕は座っていた椅子からスッと立ち上がると、母上にペコリと一礼した。

「リッド、怪我をしないように気を付けて下さいね」

母上は、僕が武術や魔法の稽古に行く時はいつも目に心配の色を少しだけ宿す。

だから、僕は母上を安心させるよう、力強く言った。

「はい、承知しております。では、行って参ります、母上」

母上とメルにニコリと笑みを浮かべると、僕は母上の部屋を退室して訓練場に向かった。