軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

【外伝】狐人族2

エルバの部屋の前に辿り着いたアモンは、深呼吸をするとドアをノックした。

「兄上、よろしいでしょうか?」

「アモンか? いいぞ」

返事を聞いたアモンは意を決すると、部屋のドアを開けて中に入った。

すると、そこにはエルバ以外の人物がおり、机を挟みソファーに座りながらエルバと二人で何やら楽しそうに話している。

アモンはその人物に、視線を送った。

「……マルバス兄さんもいらっしゃるとは思いませんでした」

マルバスはアモンの言葉を聞くと怪訝な表情をうかべ、不満そうに返事をした。

「……なんだ、アモン。私が居ては都合でも悪いのか? 必要であれば席を外そうか?」

「マルバス、あまりアモンをいじめてやるな。まだまだ、子供なのだからな。それより、今日はどうしたのだ?」

エルバはマルバスに視線を送りながら言い終えると、その視線をアモンに移す。

アモンはエルバの機嫌が良い事に安堵し、気持ちを落ち着かせながらおもむろに言った。

「兄上……領民を奴隷として他国に放出することをお止め頂きたいのです……」

アモンの言葉を聞いたエルバは、険しい表情を浮かべた。

すると、部屋の雰囲気が重くなり、辺りに緊張感が漂い始める。

エルバはアモンを少し怒気を含んだ目でギロリと睨んだ。

「……またその話か。どうせ、親父殿にも話して相手にされず、俺に直接相談しろとでも言われたのだろう?」

「そ、それは……」

エルバから出される緊張感と、指摘されたことにアモンはたじろぎ、うまく言葉が出てこない。

その様子を見たエルバは呆れた表情を浮かべた。

「ふん……この程度の雰囲気に飲まれるような奴がどんなに御大層な理想を語った所で、誰もついては来んぞ。それに、奴隷として放出するにはちゃんと理由もある。お前もそれはわかっているだろう?」

アモンはエルバの言葉を聞くと、俯くと手を拳に変えて悔しそうに震わせた。

奴隷として狐人族の子供達を国外に放出する理由。

それは、子供を育てるという事にはとてもお金と手間、食事が必要になるからだ。

だが、いまの狐人族の経済状況は厳しく、貧困に苦しむ領地内にある村すべての子供達を救えるほどの支援が部族として出せない。

その為、奴隷として放出される子供達は、今のままでは将来的に亡くなってしまう可能性が高い状況にある。

さらに、子供達に資金を投入して救ったとしても、『資金回収』には時間がかかり、生産性もあまり期待できない。

だから、亡くなる前に『奴隷』として売れば、国の資金になるし子供達も運が良ければ生きることが出来るというのが、エルバが以前から言っていた考えだった。

アモンはエルバの目を見据えながら、言葉を必死に紡いだ。

「しかし、今のままでは抜本的な解決にはいつまでも至りません。軍備に資金を回すのではなく、内政に資金を回して短期的ではなく、長期的に領地を見るべきです。兄上、どうか奴隷の件を撤廃願います‼」

アモンは言い終えると、エルバに向かって一礼をしたままの姿勢で彼の言葉を待った。

エルバはゆっくりと立ち上がり、アモンに近づくと彼の頭に『ポン』と手を乗せて優しく語り掛けた。

「はぁ……やはり、お前はまだまだ子供だな。だが……いい加減にうんざりだな‼」

エルバは吐き捨てるように言い放つと同時に、アモンの後頭部をわしづかみにして彼をそのまま床に叩きつけた。

部屋の中に、アモンが床に叩きつけられたことによる鈍い音が響き渡る。

彼はわけもわからずに苦悶の表情を浮かべた。

「……⁉ ぐぁああ‼ あ、兄上……何を……」

「言っても聞かぬなら、体でわからせるしかあるまい。獣人族の世界に理想はいらん。必要なのは『力』だ。俺に意見するなら、その『力』を見せてみろ」

エルバは吐き捨てるように言うと、アモンの顔を床に抑えつけている手にさらに力を込めた。

二人の様子を見ていたマルバスは、呆れた表情を浮かべている。

「兄上……あまり、ご無理をされないように。床が汚れては掃除が大変です」

アモンはうつ伏せの状態から必死に両手を床に付け、起き上がろうとするがエルバの力にまったく敵わない。

「うぐ……ぐぁああああああ‼」

それどころか、どんどん押しつぶされる感覚が強くなってくる。

やがて『もう駄目だ』とアモンがそう思った時、彼を押し潰す力が弱くなった。

エルバの抑えつける力から、解放されると同時にアモンは咳込んだ。

「ゴホゴホ‼ はぁはぁ……」

苦しそうな表情を浮かべ、床に醜く転がっているアモンを満足そうな表情で見つめたエルバは、彼の髪の毛を掴むと自身の顔の高さまで持ち上げて、彼の耳元で囁いた。

「許しを乞え、アモン。そうすれば、今日は許してやる。お前に理想は必要ない、俺の命令だけ聞いていればいいのだ。さあ、情けなく、さもしく、俺に許しを乞え、命乞いをしろ‼」

アモンは苦しさか、悔しさかわからず涙が頬を伝うのを感じた。

だが、今ここで死ぬわけにはいかない。

命乞いをしなければ、確実にエルバは容赦なく止めを刺すだろう。

アモンは口を震わせながら呟いた。

「あ、あにうえ……もうしわけありませんでした……どうか、いのちだけは……おたすけください……」

「ふふふ、ははは‼ 本当に命乞いをするとはな‼ 文字通り、口ほどにもないやつとはお前のような奴を言うのだろうな。我が弟ながら、情けない……目障りだ‼」

エルバは言い終えると同時にアモンを壁に激しく投げつけた。

壁に叩きつけられたアモンによって部屋に再度、鈍い音が響く。

アモンは衝撃と痛みに思わず声を上げた。

「がぁ‼」

投げつけた後、エルバはアモンを掴んでいた手に付いていた彼の髪の毛を払うと、ソファーに座った。

二人のやりとりを見ていたマルバスは、アモンを蔑むような視線を送りながら吐き捨てるように言った。

「全く……理想を言う前に、あなたは兄上のような強さを身に着けるべきでしょうに……」

「ふん……今日はお前の無礼を許してやろう……この部屋からすぐに去れ、俺の機嫌が良いうちに……な」

「うぅ……も、もうしわけありませんでした……」

アモンは苦悶の表情を浮かべながら、よろよろと立ち上がるとそのままエルバの部屋を出て、自室に駆け込んだ。

命からがら自室に戻ったアモンは、ベッドの横に置いてある『鈴』を鳴らした。

少しすると、青年の執事が彼の部屋にやってきた。

「お呼びでしょうか。アモン様」

「リック、ごめん。手当を……お願い出来るかな」

アモンの言葉にリックは怪訝な表情を浮かべるが、ベッドに寝ている彼に近づき状態を見ると血相を変えた。

「こ、これは酷い、誰がこのようなことを‼ すぐに手当て致します‼」

リックは他にも屋敷の者を呼び、アモンの傷に処置を行った。

処置をされている間にアモンは、リックに事の次第を説明した。

そして、事態が大事にならないように屋敷内で転んだだけと言うように伝えると、彼はそのまま眠りにつくのだった。