軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

騎士団長とクリスティ商会

「ふむ……ダイナスか。確かに実践、交渉、護衛、移送など総合的に考えて適任だろう。だが、ダイナスが不在中の団長としての業務をどうするつもりだ?」

父上は言い終えると同時に試すような視線を送って来たので、僕は深呼吸をしてから丁寧に返事をした。

「そうですね……クロス副団長に領地に残って頂いて、団長代理をして頂くのはどうでしょうか?

ダイナス団長のお供にはまた別の者を付ければよろしいかと。副団長が領地にいれば、団長も現地で動きやすいと存じます。勿論、私も副団長が行う業務を可能な限り手伝いますのでいかがでしょうか?」

ダイナスは騎士団長として、普段はバルディア領内を駆け回っている。

犯罪の取り締まりから、国境近くの警備状況の確認、さらにはダンジョン討伐など行っている業務は様々だ。

その経験から、父上の言う通り総合的に考えて適任だろう。

後は、ダイナスが不在中の対応を誰がするのか? という問題だが、これに関してはクロスを僕がサポートすればいけるだろう。

父上は僕の言葉を聞き終えると、小さく頷いた。

「よかろう、ダイナスにはクリスと共にバルストに行ってもらうことにしよう。リッド、お前はクロスと共に受け入れ態勢の準備を整えろ。それから、副団長の代わりに、ルーベンスを団長の補佐に付けるからそのつもりでいろ」

「承知致しました。しかし、ルーベンスを副団長の代わりに団長に付けるのですか?」

ルーベンスをダイナスに付けると言った父上の言葉に僕は怪訝な表情を浮かべた。

確かに、ルーベンスならクリス達とレナルーテに一緒に行ったこともあるので、連携を考えると適任かもしれない。

けれど、それだけだろうか? 僕の表情を見た父上は疑問に答えるように言った。

「ルーベンスに関しては以前から、ダイナスの元で実務を積んでもらおうと思っていた部分もあるからな。クロスにルーベンスの業務を引き継がせるつもりだ。もちろん、リッドとの武術訓練も含めてだ。まぁ、ダイナスのおもりは大変だが、ルーベンスには良い経験になるだろう」

父上は言い終えると少し楽しそうな笑みを浮かべた。

ダイナスの元でルーベンスを鍛えるということだろうか? それは、つまり父上はルーベンスをいずれ『副団長』に昇進をさせる考えなのかもしれない。

それなら、彼にとってはこの上ない『栄転』になるだろう。

僕は父上に頷きながら、自分の考えを確認するように視線を送った。

「それは……ルーベンスをダイナス団長の元で実務を積ませて、いずれ『副団長』に就任させるお考えということですか?」

「まぁ、そんな所だな。ルーベンスにとっても良い機会となるだろう」

「……承知しました」

僕は父上の言葉を聞くと返事をすると同時に頷いた。

それにしても、ルーベンスが副団長か。

年齢から考えても、バルディア騎士団の中ではかなりの出世頭ではないだろうか。

本人が聞いたら喜びそうだけど、ディアナも喜びそうだ。

二人が喜んでいる顔を想像すると、僕も嬉しくなってつい表情が綻んだ。

その時、話を黙って聞いていたクリスが恐る恐る手を上げた。

「あの、ライナー様、リッド様、その、お話がよく見えないのですが、ダイナスさんという方とルーベンスさんが私達の護衛に付いてくれるという認識で良いのでしょうか……?」

僕はクリスの言葉に思わずハッすると彼女に視線を送った。

「あ、ごめん。そうだね、その認識で間違いないよ。ダイナス団長はバルディア騎士団の『騎士団長』で、現場で臨機応変に対応が出来る人だから安心していいよ」

「バ、バルディア騎士団の『騎士団長』が私達の護衛に付くのですか⁉」

クリスとエマは護衛に付く人物にまさか騎士団長が来るとは思っていなかったようで、予想外の出来事に驚きの表情を浮かべている。

そんな二人を見た父上は二人を見据えるとおもむろに説明した。

「今回の件は、リッドとクリス達が考えた事業計画ではあるが乗った以上、バルディアとして失敗は許されんからな。これぐらいの人員は当然だ。他にも困っていることがあれば何でも言いなさい」

「うん、僕も出来る限り何でもするから、何かあれば気軽に言ってね」

「かしこまりました……ありがとうございます」

クリスは僕と父上の顔を見ると驚きながらも少し安心したような表情を浮かべていた。

やはり、バルストに行くと言うのは彼女の中でも不安があるのだろう。

バルディア騎士団の団長が護衛となることで、少しでも心強いと感じてもらえれば幸いだ。

その時、僕達とクリスのやりとりを見ていたエマが、恐る恐る言った。

「あ、あの、ちなみにダイナス様はどのような方なのでしょうか?」

彼女の言葉を聞いた僕はダイナスの事を思い浮かべながら、首をひねりながら言った。

「……一言で言い表すなら『ザ・タフガイ』だね。豪快だけど、とても気のいい人だし人徳もあるから安心していいよ」

「うむ、ダイナスならまだ屋敷内にいるだろう。急な話にはなったが、顔合わせを兼ねて呼ぶとしよう。二人共まだ、時間は大丈夫か?」

「はい、時間は大丈夫です」

クリスとエマの二人は頷くと、父上は立ち上がり部屋の外で待機していたガルンにダイナスを呼ぶように指示した。

それから、僕達が部屋で待っていると間もなく重い足音が聞こえてくる。

そして、ドアがノックされ、父上が返事をすると勢いよくドアが開かれた。

「ライナー様、お呼びでしょうか⁉」

ダイナスは部屋に入るなり、豪快に声を張り上げた。

その声の大きさに僕を含めて皆が呆気に取られていると、ダイナスはクリスとエマの二人に気付き、一礼してから声を掛けた。

「……失礼、ご来客の方がいらっしゃるとは存じませんでした。私の声で驚かせたなら、申し訳ない」

「い、いえ大丈夫です」

スキンヘッドに髭、筋肉質で豪快な感じのダイナスだが、実は礼儀正しく茶目っ気がある人物だ。

クリスとエマの二人も最初は驚いていたが、その人柄はすぐに理解したようで笑みを浮かべている。

二人を見たダイナスは僕と父上に視線を送ると、おどけたように言った。

「さて……先程までここに居たのに、わざわざ呼び戻したのは美しい彼女達を私に紹介してくれる為ですかな?」

「ふふ……確かに美しい女性達だね」

僕の言葉にエマとクリスの二人が照れた様子を見せた後、僕に視線を送った。

「リッド様、ご冗談が過ぎます……‼」

「そう? そんなことないと思うけどね。さて、ダイナス団長に改めて紹介するね、彼女達は僕がお世話になっているクリスティ商会のクリスとエマだよ」

僕はクリス達の言葉を受け流しながら、ダイナスに視線を移して彼女達を紹介した。

彼は彼女達がクリスティ商会の関係者と聞いて、少し驚いた表情を浮かべた。

「おお‼ お二人がクリスティ商会の方達だったとは驚きですな。御社が提供しております『化粧水・クリスティ』と『リンス・エマ』は私の妻も気に入っております。いやはや、良いものを提供してくれて助かっておりますぞ」

「い、いえ、喜んで頂きありがとうございます」

ダイナスの言葉から化粧水とリンスの名前が出ると思わなかったのか、クリスとエマは少し気恥ずかしそうな表情を浮かべている。

そんな二人を見ながらダイナスは言葉を続けた。

「そうそう、それからレナルーテの『ユカタ』でしたかな? あれを、バルディア領に持ち込むとは目の付け所が……」

「ゴホン……ダイナス団長、そろそろ本題を進めて良いかな?」

何やら、変な方向に話が進みそうなので僕はわざとらしく咳払いをして、ダイナスの話を遮った。

彼は僕に視線を移しながら表情を引き締めると、厳格な雰囲気を纏いながら言った。

「む……そうでしたな、申し訳ない。して……どのようなご用件でしょうかな?」

「うん、実はね……」

僕と父上が中心となり、ダイナスに今後の動きについて丁寧に説明を始めた。

途中、クリスやエマも説明に参加して補足しながら、彼からの質問にも都度返事をして話を進めた。

説明している間のダイナスは、最初に見せた豪快さや茶目っ気などはなく冷静に聞きながら問題点を考えている様子だ。

僕達が話し終えると、彼は息を吐いておもむろに言った。

「ふぅ……委細承知致しました。まず、私が選別した騎士団員を数十名、私服で投入させて下さい。それから、現地での判断はすべて私に一任して頂きます。恐れ入りますが、クリスティ商会も一時的に私の指揮下に入って頂くがよろしいですかな?」

クリスはダイナスの言葉に、静かに頷きながら返事をした。

「はい、かしこまりました」

ダイナスは険しい顔をしながら、現場で必要と思われる事を冷静沈着にまとめながら話を進めていく。

先程、僕達だけでまとめた話をダイナスが入る事で、より具体的な計画になっていくという感じだ。

それからしばらく、僕達の話し合いは続いた。

「ダイナス団長のおかげで、かなり具体的にまとまったと思う。ありがとう」

ダイナスは僕の言葉を聞くと、ニヤリと笑みを浮かべた。

「いえいえ、職務を全うしているだけです。それよりも、獣人族の子供達とはまた凄いことを考えますな。活きの良い者がいれば、騎士団にも欲しいところです」

「それは駄目だよ。彼らには僕が色々とお願いしたいことがあるから……ね」

僕はダイナスにニコリと笑みを浮かべながら、引き抜きは駄目としっかり念押しをした。

それが伝わったのか、彼は肩をすくめながら「やれやれ」といった仕草をすると苦笑いを浮かべている。

そう、これから来る彼等には僕と一緒にバルディアを発展させ、守っていく存在になって欲しいと思っている。

こうして、僕とバルディアの運命を大きく変える歯車が少しずつ動き始めるのだった。