軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

帝国

「そろそろ、帝都に着くぞ。心の準備は大丈夫か?」

「はい。こんなチャンスは滅多にありませんから。商売人としてやれることをやるだけです」

帝都に向かう途中、クリスやライナー達は小休憩を入れていた。

馬車での移動になるので、時折馬を休ませる必要があるのだ。

合わせて、同乗者や従者も休憩している。

ちなみにクリスとライナーはそれぞれの馬車に乗って移動している。

そんな中、クリスとライナーは打ち合わせを小休憩ごとにしていた。

何しろ、相手は皇后と皇帝だが、その周りには狡猾な貴族達もいる。

「帝都は伏魔殿だ。私も立場上、味方が出来ない場合もある。言葉と対応にはくれぐれも気をつけろ」

「はい。それはもう十分に承知いたしております。慎重過ぎるぐらいでいきたいと思います」

「うむ。慎重すぎると言われて丁度よい。帝都の伏魔殿において、私は赤子のようなものだ。私は辺境伯で幸せだよ」

「……あはは」

クリスは顔を少し引きつらせて、苦笑した。

実際、慎重すぎて丁度良いと本心からそう思っている。

帝国、マグノリア帝国は恐らくこの世界、大陸においての国として一番長い歴史を誇っている。

それはただ、戦争が強いだけではない。

しっかりとした政治力、武力が伴ってこそ出来るものだ。

実際、隣国はマグノリア帝国に非常に気を使っている。

「隣国同士の王族で血縁を作るよりも、帝国の貴族と血縁を作ったほうが良い場合もある」

と言われるほどである。

それだけ、政治力と武力が揃っているのがマグノリア帝国なのだ。

クリスも噂で聞いた時は半信半疑であったが、バルディア領に来て噂はかなり事実に近いのだろうと感じた。

リッドは規格外だと思うが、ライナー辺境伯は実に優秀だった。

種族や身分で人を判断しない。

その人の能力をしっかり見極めるようにしている。

もちろん、帝国の貴族全員がそうであるとは思わない。

だが、辺境伯という貴族のトップに近い人物の一人がこういった柔軟な考えを持っているのは国の強みを表しているとクリスは考えていた。

「クリス様、そろそろ出発するそうですよ」

「わかったわ、エマ」

クリスにエマと呼ばれたのは彼女の従者の獣人である。

エマは猫の獣人なので、猫耳と尻尾がある。

髪は黒く、特徴的なのは「猫目」の瞳だが、目はパッチリしていて色は黒い。

クリスの護衛も兼ねてエマはクリスがサフロン商会にいる時から、従者として一緒に過ごしている。

「クリス様、頑張ってください‼私も頑張りますから‼」

「ええ、マグノリア帝国に私たちの気概をみせてやりましょう」

移動する馬車の中で彼女たちはお互い見合って、目を期待に輝かせていた。

「帝都が見えてきたわね」

マグノリア帝都は城塞都市である。

中心に城、それを囲うように貴族街、要人用の別宅が立ち並ぶ。

その貴族街の外周を高さ5m程度の城壁が聳え立っており、城壁の外側には水堀があり城壁の外周を囲んでいる。

その為、貴族街には橋を通らないと入れないようになっていた。

水堀の外周は通常の町となっているので様々な人が行き交い、屋台などのお店も立ち並んでいる。

ちなみに、町の外周にも高さ4m程度の城壁があり、全体としてはかなり強固な作りだ。

「何度見ても、圧倒されるわね。この城塞都市は」

「ですね。エルフ領の王都でもここまで大きくないですもんね」

外から帝都の城壁を見るとやはり威圧感がある。

ただ、城壁があるから中に入るのに手間取り、時間がかかってしまうのがネックだ。

すると、ライナーの馬車の従者が先にいき、門番に何か話すと、「確認が取れましたので、先にお通り下さい」と辺境伯の馬車に続き、自分たちもすんなり入れてしまった。

「貴族っていいわね」

「ですね~」

普段はこんなに簡単に入れるものでない、通行許可証、積み荷検査、人数確認など確認事項が多いので入るのにも一苦労だ。

さすがは辺境伯というところだろうか。

馬車の中から、外を見ると町は活気に溢れていた。

旅人、商人、冒険者など多種多様だ。

そして、馬車は貴族街へと入っていく。

貴族街の出入りでも検問があったが、これもライナー辺境伯のおかげですぐに通ることが出来た。

クリスは早くも武者震いに襲われた。

貴族とコネがなければ、普通は大手の商会でもこの貴族街には入れない。

今まで入ったことのない貴族街の町並みは豪華絢爛という感じだ。

道の石並び、建物の隅々までに凝った細工がされていた。

出店などはなく、人は行き交いしているが、着ている服はどれも高価なものである。

「……まさに、貴族の町ね」

貴族街についてから、城までそんなに時間はかからなかった。

辺境伯が先に入場の手続きを行いその後、クリス達の馬車を確認する手続きに入る。

だが、やたらと検問が厳しい。

すると、先行していた馬車からライナーがやってきて、「彼女たちは、私が連れてきた信頼出来る者達だ。わかるな?」と一言声をかけると、検問していた兵士達は私達に少し苦い顔をしてから一礼して「どうぞ、お通り下さい」と無機質な声をかけてきた。

城内で馬車を降りた後、兵士から辺境伯と共に応接間にいくように言われ、ライナーと一緒に行動する。

エマも一緒だ。

少し進むとライナーは足を止め、周りを見渡す。誰も近くに居ないことを確認すると私の耳元で小さく呟いた。

「……先ほどの城内に入る前の検問をしていた兵士は、ローラン伯爵の手のものだ。恐らく、皇后様と皇女様に献上する商品の情報を得ようとしていたのだろう。皇族の皆様に献上する商品は専任の者が確認を行う。油断するなよ」

「‼ ……すいません。以後、気を付けます」

「いや、私も説明不足だった。まさか、検問から直接仕掛けてくるとは思わなかったからな」

私は身が引き締まる思いがした。

先ほどの検問兵士は「今日は、商品の献上をすると聞いている。確認のため、商品の中身も含めてすべて見せなさい」と言ってきたのだ。

恐らく、ライナー様から情報を引き出すのは難しいのでターゲットを私にしたのかもしれない。

「皇族の皆様の商品を勝手に調べるなんて、不敬になるのではないですか?」

エマが先ほどの検問の件が気になったようだ。

「恐らく、勝手にこちらが見せてきたとか、難癖を付けて逃げるだろう。それに、いざとなれば門番の兵士を切るだろうからな」

「……やり方が最悪ですね」

エマは心底嫌そうな顔で呟いている。

下っ端の兵士を簡単に切り捨てるというのは、聞いて良い気持ちはしない。

「だが、陛下達もあの程度では不敬にはせんよ。恐らく、内心は切り抜けられなかった側に、問題があるとみるかも知れんな」

ライナーは貴族達とのやりとりに慣れてはいるが辟易しているようで、「やれやれ」といった感じである。

「……ふぅ、気合を入れていくわよ」

私は自分を鼓舞するための言葉を呟き、城の廊下を進んだ。

「こちらで、お待ちください。皇帝陛下の準備が出来次第、お呼び致します」廊下を進んでいくと、ドアの前でメイドが立っていた。

どうやらここが応接間になるらしい。

「おお‼ライナー辺境伯ではありませんか。こんなところで出会うとは奇遇ですな」

ライナーが突然聞こえてきた声の主を見つけると少し、眉間に皺がよった。

「……これは、ローラン伯爵。ご無沙汰しております」

「いえいえ、辺境伯はお住まいが遠いですからな。こうして、お会いできるのは大変うれしい限りですよ。……ちなみに、そちらの美しい方は?」

ローラン伯爵は中肉、中背。茶髪に黒い瞳をしている。

彼は明らかに値踏みするような目でクリス達を見ている。

驚くのはそれを隠そうともしてない。

それはとても彼女達に不快感を与えてくるものだった。

「初めて、ご挨拶させていただきます。クリスティ・サフロンと申します」

「おお、お主が噂に聞く、兄と仲違いした後、実家を勘当されてサフロン商会を飛び出したじゃじゃ馬、クリスティ・サフロンか」

初対面なのになんて失礼な男だろうか。

だが、安い挑発に乗るわけにもいかない。

「帝都にはそのような噂があるのですね。事実無根ではありますが、何故そのような噂が流れたのか、非常に興味深いお話でございます」

私は「笑顔のまま」しっかりと受け答えをする。

怒りの感情が爆発しそうなので必死に抑える。

だが、ローラン伯爵は挑発をやめずに続けた。

「ん? クリスティ殿の後ろにいるのも噂通り獣人か。じゃじゃ馬娘と獣人の組み合わせとはやはり「獣同士」は仲が良いという話は本当なのだな」

「……は?」

クリスはまさかエマのことまで侮辱されるとは思っていなかった。

その為、言われたことの意味を理解するのに一瞬時間がかかってしまい「は?」と少し間抜けな声を出してしまった。

獣人族を「獣」と評するのは一番許されない侮辱行為である。

それをローラン伯爵はわかっていてしているのだ。

下卑た笑みを浮かべて。

私を怒らせるためだけに。自分のことは良い。

だが、エマを侮辱することだけは許せなかった。

エマは体を震わせて怒りと悲しみに耐えている。

彼女は自分のせいで私までも侮辱されてしまったと思っているはずだ。

私は震えるエマの姿を見た時に頭に血が上った。

怒りの声を出そうとした瞬間、ライナー様に制止された。

「……ローラン伯爵、悪ふざけが過ぎます。そのような噂を私は存じ上げません。それに、彼女達はバルディア家の来賓。そして、皇后陛下、皇女殿下に謁見するためにこちらに来たのです。皇族の来賓を侮辱するのは伯爵ともあろうお方が、あまりに軽率ではありませんか?」

ライナーとローランは少しにらみ合うと、ローラン伯爵が目線を外し「ふん」と鼻で笑った。

「……それは、大変失礼した。私の所に聞こえてくる彼女達の噂は、今お伝えした内容ばかりだったものでね。辺境伯の仰る通り噂を鵜呑みにしたのは軽率であったな。クリスティ殿、エマ殿、大変失礼を致した。申し訳ない」

ローラン伯爵は言葉を言い終えると軽く二人に会釈をした。

「では、私は約束があるのでこれで失礼させて頂く」と言って、ライナーを見据えてから軽く頭を下げると、その場を去っていった。

「ふん、下種な狸が……」

「あの、ライナー様、あの方は?」

クリスは恐る恐る、ライナーに尋ねた。

「ローラン・ガリアーノ伯爵だ。利権と金が大好きな男だ」

ライナーは吐き捨てるように、ローランが向かった方向に呟いた。

クリスは危うく自分が彼の誘いに乗ってしまう所だった。

それを、ライナーが助けてくれたのだ。

「クリス様、私のせいで申し訳ありませんでした」

エマは少し泣きそうな表情をしている。

「大丈夫よ、エマは何も悪くないわ」と励ます。

しかし、あの男は絶対に許さない。

クリスティ商会においてローラン伯爵家はたった今、出禁に決定した。

それも未来永劫、子々孫々まで。

「大方、君を怒らせたあと、騒ぎを大きくして献上を無くそうとしたのだろう。まぁ、深く考えるな。これは慣れだ。こんなことで落ち込んでいるほうが付け込まれるぞ」

「はい。頑張ります」

「心配するな。皇后陛下と皇女殿下は至って普通、常識人だ」

「普通で常識人」という言葉を聞いただけでこんなに安堵したのは初めてかもしれないと、クリスは思うのであった。

ローラン伯爵との一悶着があったあと、三人とも応接間に入り、ライナーはソファーに腰掛けて休んでいる。

クリスとエマは滅多にない機会だと目を輝かせながら応接間の作りを楽しんでいた。

応接間に入ってすこし時間が経過するとドアがノックされる。

ライナーが返事をすると、メイドが「失礼します」と頭を下げながら入って来た。

「皆様、皇帝陛下、皇后陛下がお呼びです。ご案内させて頂きます」

「いよいよ、ね」

クリスは緊張と期待で胸を膨らませ、足を進めるのであった。