作品タイトル不明
炭窯と火入れ
「皆、今日はまた集まってくれてありがとう‼ これからする作業で順調に進めば炭窯は完成出来ると思うから、改めてよろしくお願いします」
僕は言い終えると同時にペコリと頭を下げた。
その様子に、前回集まってくれた騎士の皆は笑みを浮かべている。
騎士を代表するようにルーベンスが前に出ると言った。
「リッド様、本日はよろしくお願い致します」
魔法で作った盛土を騎士団の皆で炭窯用に形を整えてもらい、これまた魔法で生やしたクヌギ林を伐採。
窯に入れやすい状態にしてから乾かす工程に入り数日が経過した。
今日は、炭窯完成と黒炭製炭に向けて伐採、加工した木を敷き詰めて、順調に進めば炭窯の上に屋根も制作する予定だ。
この場に集まってくれた面々は前回と同様の顔ぶれで、エレン達も協力してくれている。
僕は皆の顔を見渡すと言った。
「じゃあ、炭窯作りを開始するね。この間、伐採して加工した木材を炭窯に隙間なく敷き詰める作業をお願いします」
「畏まりました‼」
騎士団の面々は身体強化を使いながら、手際よく木材を敷き詰めていく。
その際、エレンの注意する声が響いた。
「木材を炭窯に立てて敷き詰める時は根っこ側の切り口を下にしてください‼ ネルスさん、それは向きが違いますよ‼」
「あ、申し訳ない……」
彼女が確認をしながら炭窯一杯に木材を敷き詰めていくが、それだけだと隙間がどうしてもできる。
出来た隙間を埋めるように細めの木材を隙間に入れて、槌で釘を打ち込むように差し込む作業を行い、炭窯には木材が一杯に敷き詰められた。
その後、火を入れる焚口と排煙口となる直線上に「竜骨」となる大きい木材を、炭窯に敷き詰めた木材の上に置く。
これによって、炭窯を形作ることになるわけだ。
その後、敷き詰めた木材と竜骨の高さを合わせる調整を行い、炭窯に木材を敷き詰める作業は終わりになる。
僕は状況を確認すると笑みを浮かべた。
「皆、ありがとう。次はこの間、掘り出した土をこの木材の上に被せて、ならして土を強固にすれば炭窯は完成するから、もう少しだけお願いね」
僕の言葉に騎士の皆は汗だくになりながらも頷いてくれた。
僕とエレンの指示に従い、皆はシャベルで土を木材の上に被せてから、槌などで叩いてならしの作業を行う。
それから、余った木材で完成した炭窯が雨などで濡れないようにして炭窯がようやく完成した。
結構いい感じに出来たと思う。
出来上がった炭窯を見ながら、僕は笑みを浮かべて言った。
「これで、完成だね。皆、お疲れ様‼」
「いえいえ、お役に立てて良かったです。ですが、この後は火を入れるのですよね? どのようにするのですか?」
ルーベンスが僕の言葉に返事をしながら、少し不思議そうな表情で質問をしてきた。
僕は、彼の質問にニコリと笑うと、手を差し出して掌を上に向けながら言った。
「これで、着火するよ」
僕が言葉を言い終えると、掌から火が燃え上がる。
通常は着火に時間が掛かってしまうけど、そこは魔法で短縮できる。
僕の魔法を見た皆は、少し驚いた表情をしたがすぐに納得した様子だ。
魔法を見たルーベンスが笑みを浮かべて言った。
「確かに、それなら火が付くのも早そうですね」
「でしょ? でも、気を付けないと炭窯が吹っ飛んじゃうかもしれないから、そこだけは要注意かな……」
言いながら僕は苦笑いを浮かべた。
魔法による着火は、何度かサンドラと魔法の練習を兼ねて、実験をしたことがあるので問題ないだろう。
ちなみに、サンドラとした最初の着火実験では、僕の火力が高すぎて大変なことになってしまい、父上に怒られたのは良い思い出かな?
僕は、炭窯の焚口の前に立った。
焚口は土で作られており、空気が炭窯内部にあまり入らないように小さい火入れ口が二カ所ある。
一カ所は予備だ。
「……よし、じゃあ、火入れをするから皆、念のために離れていてね」
「畏まりました」
皆に少し離れてもらうと僕は、火入れ口に手を差し出して、深呼吸をしてから心の中で唱えた。
「着火」
その瞬間、窯の中に僕が魔法で生成した火が入り込む。
僕がする作業としては、炭窯の中の木材に火が付く少しの間だけ火力を調整した火を送り続ける。
少しすると、焚口とは反対方向にある煙突から煙が上がり始めた。
煙突には、炭窯の中が高温になりやすいように「藁」で編んだ蓋がしてある。
ちなみに「藁の蓋」を編んでくれたのはメルとダナエだ。
僕がしている作業をメルが手伝いたいと言ってくれたので、藁で編んで作る蓋をお願いした。
メルは喜んで引き受けてくれて、ダナエがメルが行う作業の補佐に入ってくれたみたい。
二人が頑張って作ってくれた「藁の蓋」もしっかり活躍してくれている。
エレンは煙突から煙があがり始めて、木材に火が付いたであろうことを確認すると、僕に向かって言った。
「リッド様、火はもう大丈夫です。後は、火が消えないように交代で火の番をしばらくすれば大丈夫だと思います」
「うん、わかった。ありがとう」
僕はエレンに返事をした後、その場に居た皆を見渡してから言った。
「皆のおかげで、ここまで出来ました。後は、僕も含めて交代で火の番をしながら数日経過すれば、黒炭が出来上がります。皆さん、お手伝い頂きありがとうございました‼」
言い終えると僕はペコリと皆に向かって頭を下げた。
それと同時に、皆の歓声が聞こえた。
なんだかんだで、どうなるか不安な部分は多かったけど比較的、何事もなく作業は進められたと思う。
僕が安堵の表情を浮かべていると、ルーベンスがそんな僕を見据えた。
「リッド様、まだ火の番があるのでしょう? その部分に関しても、私たちが交代で行いますのでご安心ください」
「うん。ありがとう、ルーベンス」
彼は言い終えると、僕にニコリと笑って会釈した。
その後、皆で話し合いを行い火の番は、この場に集まってもらった騎士の皆で順番にしてもらうことになった。
僕とエレンは毎日、火の状態確認を含めて炭窯に訪れる予定だ。
エレンとアレックスは炭窯を見ながら、嬉しそうにニヤけている。
その表情だけみると、火を見て喜んでいるちょっと危ない人みたいだ。
その時、エレンが僕に振り返ると目を爛々とさせながら笑みを浮かべた。
「リッド様‼ これで、木炭が作れるようになったら、僕達は武具を沢山作っても良いのでしょうか⁉」
「ね、姉さん、気持ちはわかるけど、ちょっと落ち着こうよ」
二人は木炭が手に入るようになると、沢山武具を作れると思っているみたい。
だけど、僕が彼らにお願いしたいことは別のものだ。
僕はその話をエレン達にまだしてない。
でも、話をしたら凄く楽しそうな表情をしてくれる気がする。
僕は二人に笑みを浮かべて返事をした。
「武具もあるけど……お願いしたいものは、また別にあるんだ」
「……? 別ですか? まさか……まだ何か企んでいるのですか?」
エレンは僕の言葉を聞くと怪訝な表情を浮かべた。
僕は彼女の表情を見てクスリと笑った。
「ふふ、木炭が完成したら、またエレン達にはお願いしたいことがあるから、またその時に話すから、楽しみにしていてね?」
「はぁ……まぁ、リッド様の考えることは私達の常識の外にありますから、仰る通りに楽しみにしていますね」
エレンは軽いため息を吐きながらも、楽しそうな表情になっていた。
その時、僕とエレンのやりとりを近くで見ていた、ディアナとカペラの二人が急に咳払いをした。
「ゴホン……リッド様、私はそのようなお話は聞いておりません。エレン様達にお話しする時は必ず立ち会わせて下さいね。お目付け役として……」
「ゴホン……私もその時は、立ち会わせて頂ければ幸いです。リッド様は放っておくと、何をされるかわかりませんので……」
「はぁ……二人共、僕を何だと思っているの?」
何故か最近、ディアナとカペラからの視線や言葉が厳しくなっている気がする。
二人の言葉に返事をしながら、僕は小さく「はぁ」とため息を吐いて俯くと「やれやれ」と首を力なく横に振っていた。
そんなやりとりをしている間も炭窯からは、モクモクと煙が立ち上がっていた。