軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ライナーの怒りとリッドの弱点

僕は、自室から持ってきた書類を片手に深呼吸をして気持ちを落ち着かせてから、執務室のドアをノックした。

「……入れ」と父上の声を聞いた僕はおもむろにドアを開けて執務室に入った。

部屋の中にはガルンと父上の二人がいた。

父上は執務室の机に座っているが、珍しく少し疲れた表情が見て取れる。

きっと、帝都の仕事が大変だったのだろう。

父上は「来たか、そこに座りなさい」といつものようにソファーに座るように促されて僕と父上は机を挟んで向かい合って座った。

座ると同時に父上はガルンに指示を出した。

「濃い紅茶を頼む。あと、今日は茶菓子もくれ」

「承知いたしました」

ガルンは軽く会釈すると、執務室を後にした。

父上が茶菓子をお願いするなんて珍しい。

何か心労になるようなことでもあったのだろうか? 僕は思わず父上に声をかけた。

「父上、帝都での業務お疲れ様でございます。普段よりも大変だったのでしょうか?」

「……そうだな、確かにいつもよりは大変だったが、何故そう思う?」

父上は僕の言葉に怪訝な顔を浮かべた。普段は疲れを顔に出さないから、気になっただけなのだけどな。

「いえ、父上がいつもよりお疲れのご様子だったので……」

「……ほう」

僕の言葉を聞いた父上は不敵な笑みを浮かべていた。

だが、目が笑っていない。その瞬間、僕は直感した。

あ、これ、何か知らないけど父上怒っている感じがする。

何か父上が怒るようなことしたかな? 思い返してみるが、心当たりがない。

無言で僕を見据える父上に僕は、覚悟を決めて聞いた。

「えーと、父上? 何かわかりませんが、僕に対してお怒りというか、何か仰りたいことがあるのでしょうか?」

「そうだな……まずは温泉だな」

「あ、温泉は僕じゃないですよ? 今、メルと仲良くなっているクッキーです。理由はわかりませんが、彼が掘りあてました。カペラやディアナ、あとメイド達の有志によって毒性がないのは証明済みです。父上が戻られたら、屋敷に温泉を引っ張る工事許可をもらおうと思っていました」

説明をしながら、父上の顔の様子を見るがどうやら温泉の事ではないらしい。

丁度その時、執務室のドアがノックされた。

父上が返事をすると、ガルンが紅茶と茶菓子を持ってきて僕と父上の前にそっと置いてくれた。

「すまんな、ガルン。ところで、温泉を屋敷には引けそうか? 問題なければ、明日にでも作業を開始してくれ」

「問題ないと存じます。早速、明日から作業を開始いたしましょう」

「父上、温泉の件で少しよろしいでしょうか?」

父上とガルンの会話が途切れる頃合いを狙って、僕は挙手をした。

僕の様子を見た父上は「どうした?」と尋ねてくれた。

「僭越ではありますが、屋敷のメイドや騎士達も使えるよう、彼等用の浴場も用意して頂けないでしょうか? 湯量は沢山あるようですから、屋敷の皆で使うべきだと思います。お願い申し上げます、父上」

僕は言い終えると、父上に頭を下げた。

これは率直な僕の気持ちだった。

勿論、父上のことだから最初からそのつもりだったかもしれない。

でも、気持ちはしっかりと伝えるべきだ。

彼等用の温泉は絶対に皆のやる気に繋がるから絶対にすべきだと思う。

「リッド、頭を上げなさい。わかった、メイドや騎士達用の浴場も用意しよう。ガルン、工事の手配を頼む」

「承知致しました。ライナー様、リッド様、屋敷で勤めさせて頂く代表として温泉の件、御礼申し上げます。お二人のご配慮に感謝致します」

ガルンは言い終えると、深々と頭を下げた。

その姿を見た父上は、すぐにガルンに頭を上げさせた。

「気にするな、ガルン。リッドの言う事がもっともだ。湯量が豊富であるなら、屋敷の皆で使うべきだろう……石鹸の代用品もあるのだろう、リッド?」

「はい、父上。屋敷裏の近くにある『ムクロジの木』から取れる『実の皮』に石鹸と同じ効果がありますので、水で泡立てれば体の汚れや服の汚れも落とせます」

僕は父上に温泉近くに出来たムクロジの木についても折角だから説明した。

だが、説明を終えると父上が再度、不敵な笑みを浮かべた。

その時、僕は察して心の中で呟いた。

「あ、巨木の件を父上に言ってなかったっけ……」

多分、僕が父上が言いたい事を察したことを、父上は察したのだろう。

温泉工事の件をガルンに進めるよう伝えると、声を掛けるまで席を外すように指示をした。

ガルンは僕と父上に会釈すると、執務室から退室した。

僕は恐る恐る、父上に顔を向けるとニコリと笑顔を向けた。

その表情を見た、父上はニヤリと不敵な笑みを浮かべた。

「さぁ……リッド、説明してもらおうか? あの巨木について……‼」

「は、はい、実はですね……」

僕は事業計画書を机に裏の状態で置いて、説明を始めた。

今後のことで考えている事があり、サンドラと一緒に魔法研究を行い試した結果、巨木が出来たと伝えた。

さすがに火に油を注ぎそうなので、意図的に全力で魔力を注いだ結果、巨木になったことは伏せた。

黙って、話を聞いていた父上は、聞き終えると同時に鋭い眼光を僕に向けた。

「……はぁー……リッド、このたわけが……‼ 何度言えばわかるのだ⁉ 何かする時は事前に言えといっているだろう‼ あまり無茶をするなら、魔法をしばらく禁止にするぞ‼」

「な⁉ 魔法禁止は困ります‼ それだけは困ります‼」

父上の思いもよらない魔法禁止令に僕は全力で拒否反応を示した。

あまりの拒否反応でその場でつい立ち上がってしまった。

父上は僕の反応が意外だったようで、ニヤリと笑みを浮かべた。

「そうか、そうか。『魔法禁止令』はそんなに嫌か。ならば、今後は事前に報告しろ。内容にもよるが、あまりに酷い事後報告があればその時は『魔法禁止令』をお前に出そう」

「むぅ……わかりました。巨木の件、申し訳ありませんでした。以後、気を付けます……」

僕は父上の「魔法禁止令」に屈して頬を「むぅ」と膨らませて、座りなおした。

別にこっそり使う事も出来るが、魔法禁止になると恐らくサンドラとの連携に支障が出てしまう。

さすがにそれは困る。

父上は僕に効く有効打を見つけたのが嬉しいのか少し機嫌が良くなっていた。

僕は父上を、怨めしい目で睨みながら心の中で呟いた。

「メルじゃないけど……父上嫌い‼」

「むぅ」とした僕の顔を見て楽しんでいる様子の父上だったが、僕が裏面で机の上に置いた書類に目線を移しながら会話を再開した。

「ところでリッド、お前の本題はこれだろう? この書類はなんだ?」

「それは……僕が今後のバルディア領の発展を考えて作った、事業計画書です」

「……なに? 事業計画書……だと?」

事業計画書という言葉を聞いて、父上は眉間に皺を寄せて険しい顔に戻った。

僕の顔を見て楽しむ余裕は無くなったようだ。

僕は父上に、畳み掛けるように言葉を続けた。

「ゴホン……では、単刀直入に申し上げます‼ 父上、今こそ「養鶏」を始めましょう‼」

「……は? リッド、お前は何を言っているのだ……?」

こうして、父上との話し合いはようやく本題に入って行くのであった。