軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ナナリーとカペラ

「母上、僕はそろそろお暇致しますね」

「わかりました。また、ファラ王女のお話を聞かせてね。ファラ王女からの手紙もそれまでに読んでおくわ」

母上は僕とファラの話をとても嬉しそうに聞いていた。

途中で「早く、ファラ王女にお会いしたいわね」と呟いてくれて、僕は話しながら微笑んでいた。

今、母上の部屋の中に居るのは、僕と父上、ディアナとサンドラの四人だ。

カペラは男性ということで、部屋の外に待機してもらっている。

僕は母上との話が落ち着くと、その場で父上に振り向いてから声をかけた。

「父上、僕はカペラをガルンに紹介して来ようと思います」

「わかった。それなら私も行こう」

父上は僕に返事をしながら頷いた。

カペラは僕の従者となり、バルディア領に来てくれたダークエルフだ。

彼は元々、レナルーテ国の暗部に所属していたので、すぐに信用は出来ないだろう。

でも、味方に出来ればこれほど頼もしい人はいないと僕は思っている。

その時、母上が僕達の話を聞いて不思議そうな顔をして呟いた。

「カペラとは、どなたのことかしら?」

「あ……⁉ すみません、母上にはまだお伝えしておりませんでした」

僕はカペラの事を母上に説明した。

勿論、暗部に所属していたという話はしていない。

彼は僕をとても気に入ってくれたファラ王女所縁の華族が紹介してくれた人物で、とても優秀な人材だったので僕の従者になってもらったと伝えた。

「そう、そんなことがあったのね」

「はい。これからガルンにカペラの事を伝えて、執事指導してもらおうかと思っております」

少し危険な気もするが今後の事を考えると、変に彼と敵対するより友好を築くべきだと思う。

僕には専任の執事はいない。

でも、ファラと婚姻をすれば必ず必要になる。

それなら、優秀な人材になってもらったほうが良い、彼なら恐らく適任だろう。

「わかりました。では、いつか紹介してください」

「はい……というか、いま部屋の外に居ますからご紹介しましょうか?」

「あら、そうなの? それなら、折角だからお願いしても良いかしら?」

僕の返事に母上は意外そうな表情をしながらも、カペラに会ってみたいらしい。

僕は部屋のドアに近づいて少しドアを開けて廊下を覗いた。

すると、ドアの正面にカペラは立っており、僕に気付くとすかさず頭を下げた。

「カペラ、頭を上げて。それよりも、母上が君に会いたいって。紹介するから中に入ってきて」

「……‼ 承知致しました」

カペラは部屋の中に呼ばれるとは思っていなかったようだ。

無表情ながらも少しだけ眉がピクリと動いていた。

彼を母上の部屋に入れると、母上の傍にいる父上とディアナが少し警戒するような気配に変わった。

僕がカペラを先導するように、前を歩きながら母上に近づいた。

「母上、ご紹介致します。彼がカペラです」

「ナナリー・バルディア様、お会い出来て光栄でございます。私、リッド様の従者となりました。カペラ・ディドールと申します。どうか、よろしくお願い致します」

言い終えるとカペラは母上に一礼をした。

「カペラですね。頭を上げて下さい。こちらこそ、リッドの事を頼みます。それと……」

「母上、どうされました?」

母上はカペラの頭を上げさせると、少し考える素振りを見せた。

気になることでもあったかな?

僕が声を掛けると、母上は少し意地悪そうな笑みを浮かべて彼に質問をした。

「カペラ、あなたの目から見て、リッドとファラ王女はお似合いだったかしら?」

「……⁉ ゴホゴホ‼ 母上、何を聞いているのですか⁉」

「だって、気になるじゃない。母親として、あなたとファラ王女をどんな風に周りが見ていたのか、とても気になります」

母上と僕のやりとりを見ていた、父上は少し呆れた表情を浮かべている。

サンドラはニヤニヤしているので、どうやら彼女も気になっていたようだ。

ディアナは特に表情を変えずに佇んでいる。

カペラは何を言うべきか少し思案するとおもむろに答えた。

「……僭越ながら申し上げますと、お二人は大変お似合いだと存じます。私はファラ王女とお話したことはありません。ですが、バルディア領に帰国する際にファラ王女がリッド様との会話の中で顔を赤らめ、耳を上下に動かしておられましたので」

「な……⁉ カペラ、それ以上は言ったらダメだよ‼」

「……? 耳を上下に動かすと何故、お似合いだとわかるのですか?」

まさか、ダークエルフのカペラからその話題が出るとは思わなかった。

僕は止めようと慌てるが、母上は不思議そうな顔でカペラを見ている。

僕と母上の様子を見ると、カペラは何やら察したような雰囲気を出しながら話を続けた。

「失礼いたしました。レナルーテでは一般的なことでしたから……」

「一般的なことなら、私が聞いても構わないでしょう? カペラ、話を聞かせて?」

母上は目を爛々とさせ、興味津々でカペラに尋ねている。

それを見た僕は、諦めて項垂れると、心の中でファラに向けて懺悔した。

「ごめん、ファラ。君の秘密? が早々に母上が知ることになってしまったよ。でも、断じて僕のせいではないよ?」

カペラは無表情ではあるが、母上に尋ねられたことで何とも言えない雰囲気を出しながら説明を始めた。

「……ダークエルフの中には感情の高ぶりに合わせて、無意識に耳が動いてしまう者がたまにおります。ファラ王女はその体質をお持ちのようなので、好意的な感情が高ぶると無意識に耳が上下に動いてしまうようです」

「まぁ……とても素敵な体質ね。その動きをしたから、ファラ王女とリッドがお似合いと思ったのね?」

彼の言葉を聞いて母上の目が爛々と輝きを増している。

ここまで満面の笑みを浮かべている母上は初めてではないだろうか?

母上の勢いに負けたようにカペラは説明を続けた。

「はい。そこから察するに、ファラ王女はリッド様に好意を抱いていると存じます。リッド様もファラ王女を想っておいでの様子ですから、お二人はお似合いと存じます」

「まぁ⁉ そういうことだったのね‼ 実は、リッドがちゃんと女の子と接することが出来るか心配だったから、とても嬉しいわ‼ ……カペラ、他にも何か良い話はないかしら?」

「は、母上、もう止めておきましょう……聞いている僕が恥ずかしいです……」

僕の制止で母上は少しつまらなそうな顔をしている。

いくら何でも目の前で、僕とファラについて話される身にもなってほしい。

そう思っていると、カペラが母上の質問におもむろに答えた。

「……それと、余談ではありますが感情に合わせて耳が動くダークエルフはとても少数です。なので、その体質を持っている者と結ばれる者には『招福』が訪れると言われております」

「それは、素敵ね‼ 素晴らしい人とリッドはご縁を頂いたわね。『招福のファラ王女』はきっと、可愛いらしい女の子なのでしょうね」

「……母上、すみません。そろそろ、お暇してもよろしいでしょうか?」

母上とカペラの話が終わりそうにないので僕は無理やり会話に割り込んだ。

目の前で語られた、自分についての色恋沙汰で僕は顔が真っ赤になっていた。

ちなみに、話を横で聞いていた父上は呆れ、ディアナはため息を吐いて、サンドラは肩を震わしていた。

「あ⁉ そうだったわね。引き留めてごめんなさい。また、二人とも話を聞かせてね」

「……はい。母上。あ、あとですね。耳の動きについては、ここだけの秘密にして下さいね」

僕はファラの耳の動きについて補足した。

本人は出来る限り抑制しようとしているが、それでもつい動いてしまっている様子が見受けられる。

僕が、耳の動きの意味に気付いた事をファラはまだ知らない。

ファラ本人からの説明を聞くまで、僕は耳の動きについては何も聞くつもりはないと伝えた。

母上は僕の言葉を聞くと嬉しそうに微笑んだ。

「わかりました。私もそのことについては誰にも言わないように致します」

母上は話が終わってもとても楽しそうな表情を浮かべていた。

母上のあんなに明るい顔は初めて見たかもしれない。

でも、話題が僕とファラ王女の色恋沙汰であったことだけは個人的には悔やまれる。

補足と説明を含めた話が終わり、母上の部屋を出ると僕はカペラに注意するように言った。

「……ダークエルフの耳の動きについては、今後は秘密にすること。いいね?」

「承知致しました。今後はこのようなことがないよう注意致します……」

カペラの反省している様子を見た僕は気持ちを切り替えて、ガルンの元に向かった。

……この時の母上との話に、実は後日談がある。

母上は「ファラの耳の動き」については、約束通り誰にも言わなかった。

だが、「招福のファラ王女」という呼び方はとても気に入ったらしく、部屋を出入りするメイド達とファラの話題をするときは必ず使っていたらしい。

その結果、屋敷中にその呼び方が広がってしまった。

バルディア領にさらなる繁栄をもたらす「招福のファラ王女」

気付けば、バルディア家で働く者達の間で、ファラは公には出来ない人気者となっていた。

僕は、悪戯心でファラに送る手紙の中にそのことを記載して郵送した。

その後、ファラから筆圧強めの手紙が僕に届いた。

「リッド様、お手紙を頂きありがとうございました。早速ではありますが。『招福のファラ王女』とはなんですか……? 何故、そんなことになっているのですか⁉ リッド様の母上が『招福のファラ王女』という呼び方を気に入っているって……私の事をナナリー様になんと説明したのですか‼ 詳細を教えてください‼」

手紙に書かれた文字の具合からファラの慌てた様子がすぐに目に浮かんだ。

僕は微笑みながら返事を書くのだが、それはまた別のお話……