軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

クッキー&ビスケット

「なんとなく……か。でも、良い名前だね。僕もメルのお供にぴったりだと思うよ。『クッキー』に『ビスケット』改めてよろしくね」

メルの肩に小さい子猫サイズになって乗っている二匹は、僕の言葉に小さく頷いた。

その様子を見ていた、父上は呆れたようにため息を吐いている。

「はぁ……こうなってしまった以上はしょうがない。メルディだけでは、面倒を見きれんかもしれん。リッド、お前もちゃんとメルディと一緒に二匹を世話しなさい」

「わかりました。とりあえず、僕がしばらく面倒を見るようにしますね」

「うむ。しかし、この二匹はなんという種類の魔物なのだ?」

父上は僕の返事を聞いたあと、二匹を見ると僕に質問を投げかけた。

そういえば、父上にもメルにも種類については話していなかった。

メルも気になっていたのか、パァっと明るい笑みを浮かべている。

「にーちゃま、わたしにもおしえて‼ このこたちはなんていう、まものなの?」

「えーと、確か黒い子、だから『クッキー』が『シャドウクーガー』っていう魔物らしいよ。特徴は体の大きさを自由に変えられるみたいだね」

僕の言葉にメルは目を爛々とさせた。そして、すかさずクッキーを見つめて彼に語り掛けた。

「すごーい‼ クッキーって小さくも大きくもなれるの? みせて、みせて‼」

「……んにゃ‼」

彼はメルの言葉に頷くと、彼女の肩から地面に飛び降りた。

その時、急に彼を中心に風が吸い込まれ始めた。

すると、彼は一瞬で大きくなった。

長毛種の猫がそのまま大きくなった感じで、毛がモフモフだ。

大きさは前世で言うところライオンぐらいのサイズだろうか?

僕と父上はいきなりの出来事に加えて、大きくなった彼の迫力に少し顔が引きつった。

メルの隣にいるダナエは目を丸くしている。

「クッキー、すごーい‼」

「……ガゥゥ」

クッキーは大きくなった姿のままで、メルの前にしゃがみこんだ。

どうやら、背中に乗れと言っている感じだ。

メルは喜んで乗った。

もう、大はしゃぎである。

「うわぁ⁉ ふさふさだね~」

メルはクッキーの背中に顔をスリスリしている。

彼はそれに対して何も怒らない。

二人の様子に僕と父上は少し安堵していた。

しかし、メルはクッキーにさらなる「お願い」をした。

「……ね、クッキー。もっと大きくなれるの?」

「……グゥゥ‼」

「メル⁉ それは、ちょっ……‼」

僕は止めようとしたが遅かった。

その瞬間、クッキーの周りでまた風が巻き起こった。

思わず僕は目を瞑ってしまった。

恐る恐る、目を開けるとクッキーは馬車よりもでかくなっていた。

デカすぎる。

前世で言う所の象か、それ以上の大きさだ。

メルの隣にいたダナエはその場で尻もちをついて震えている。

「うわぁ‼ すごーい。にーちゃまとちちうえよりおおきいよ‼ みてみて、ちちうえ‼」

「メルディ‼ そのままじっとしていなさい‼」

メルはクッキーの背中から顔を出して手を父上に振っている。

その様子に父上が顔を真っ青にしながら慌てていた。

馬車の荷卸しをしていた皆は、目を丸くしてその場で慄いている。

僕は咄嗟に叫んだ。

「クッキー‼ もういい、君の凄さはわかったから。小さくなってメルを降ろして‼」

「えぇ⁉ やだ、このままがいい‼」

僕と父上の様子にクッキーは流石にやり過ぎたと思ったようでシュルシュルと小さくなった。

彼はメルの肩に乗っていたぐらいの大きさにまで戻っていく。

背中に乗っていたメルはそのまま、地面に降ろされた。

「……ンニャ」

「もう終わりなの? つまんな~い」

父上はクッキーが小さくなり、メルが無事に地面に降り立つと安堵の表情を浮かべた。

そして、すぐに表情が変わり烈火の如く叫んだ。

「クッキー‼ 馬車よりでかくなるのは禁止だ‼ もう二度とするな‼ 次やったら……毛を剃るぞ‼」

「えぇ‼ ちちうえさいてい‼」

「……んにゃぁあ……」

今、クッキーがなんて言ったか分かった気がする。

多分「そんなぁ」だ。

彼を見ると、ビスケットが彼の頭に前脚をポンポンとしている。

可愛らしい。

父上は呆れた様子で僕を睨むと言った。

「……ビスケットも同じ事が出来るのか?」

「え? それはどうでしょう。彼女はスライムがクッキーの姿を真似ているようですから。あそこまで大きくは成れないと思いますよ」

「ビスケットが『スライム』……だと?」

父上は信じられないという顔をした。

その言葉と表情にビスケットが少し怒った様子で、猫状態の変身を解いた。

すると、水色で透き通った球体状のスライムになった。

「なっ……⁉」

その様子に父上は驚愕したようだ。

そういえば僕も最初見た時に驚愕したな。

そんなことを思っていると、メルがまた嬉しそうな声を出した。

「すごい‼ ビスケットはへんしんできるのね‼ それに、つめたくてきもちいい‼」

メルは話しかけながらスライム状態のビスケットを抱きしめた。

そして、呟いた。

「ね、ひょっとしてわたしにもへんしんできちゃう?」

「メル、さすがにそれはビスケットでも無理だと思う……よ?」

「⁉……‼」

あ、地雷を踏んだかもしれない。

スライム状態のビスケットに表情はないが何故か「黒いオーラ」を感じたからだ。

ビスケットはメルの腕の中から飛び出した。

すると、クッキー同様に風が吹き荒れた。

みるみるビスケットの形が光りながら人の形に変わっていく。

なんだろう、前世の記憶で見たことがあるような変身シーンだ。

ビスケットから光が消えた瞬間、ビスケットはメルとまったく同じ姿になった。

おまけに背丈も着ている服も同じだ。

ビスケットはメルの姿で勝ち誇った様子で僕を見ると「どうだ、思い知ったか‼」とドヤ顔をしている。

「ビスケットすごーい‼ わたしがふたりになったね‼ ちちうえ、みてみて‼」

メルは自分にうり二つとなったビスケットの両手を掴みながら、可愛らしい顔で父上と僕を見た。

この時、ビスケットは「しまった、やりすぎた……」という表情になっていた。

彼女に言葉は話せなくても、人の姿になると感情が顔に出るらしい。

クッキーとビスケットが見せた離れ業の凄さに、僕と父上を含めた全員が驚愕していた。

いち早く正気を取り戻した父上はハッとすると、眉間に皺を寄せながら険しい顔で呟いた。

「……を出すぞ」

「え? 何と言ったのですか? 父上?」

「緘口令を出すぞ、と言ったのだ‼ いいか、ここにいる者は全員いま見たことは忘れろ‼ 絶対に口外するな‼」

父上の声で正気に戻った騎士達は、何事も無かったように作業に戻った。

父上は怒りの表情のまま、ビスケットに視線を送った。

だが、彼女はメルの姿のままで「ビクッ」とすると、目に涙を浮かべた。

そのまま、父上の足に抱きつくと上目遣いで父上の顔を見つめた。

メル本人も同様の事を父上のもう一つの足でしている。

「ちちうえ、ごめんなさい。だから、クッキーとビスケットをこれいじょうおこっちゃやだぁ……」

「……⁉ わ、わかったから二人とも離れなさい……」

「……んにゃにゃあ」

二人を許した様子の父上を見てクッキーがなにやら呟いた。

多分、「チョロいなぁ」じゃないかな?

僕は少しずつ、クッキーとビスケットの性格が分かってきたような気がする。

あ、そうだ言い忘れていたことがあった。

「あ、そうそう。クッキーとビスケットは夫婦みたいだよ」

「え? にーちゃま、このふたりはふうふなの?」

「そうだよ。父上や母上と一緒だね」

「そうなんだぁ。ふたりともあらためてよろしくね‼」

メルの言葉に二匹は頷いた。

父上は額に手を当てながら深いため息を吐いて項垂れた。

そうしている間にも、馬車の荷物はすべて屋敷に降ろされていたのだった。