軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

03「婿探し③」

ルカーシュ・ヘリング――聞いたことのある名だ。ミーハーな同僚が以前に話題に出したのかもしれない。

けれども家名を聞いても、どの爵位であるか分からない。社交界とは無縁だと復習しなかったせいで、有力貴族以外の家名をすっかり忘れてしまっていた。

騎士という職業柄、悪人では無いだろう。爵位を聞くのも失礼なので後で調べることにして、婿入りの追加条件を告げておく。

「ルカーシュ様、後出しで申し訳ないんですが、婿入りの際に守って欲しいことがございます。後処理が面倒になるので、借金と浮気だけはしないでください。他は自由です」

「約束する。もちろんヴィエラ殿も浮気なんてしないでくれよ。やっぱり他の男を婿にすると言って、鞍替えされるのは困る」

ルカーシュのように容姿が良いのならともかく、自分がそんな心配されるとは思ってもいなかったヴィエラは、少し瞠目してからクスリと笑った。

「私はこの通り二十三歳の年を迎えるまで、ひとつも縁談が無かったのですよ。浮気の心配はご無用ですわ。契約とはいえ、私は自分の夫を大切にすることを誓います」

「俺も妻を大切にすると誓おう」

ルカーシュは握ったままのヴィエラの指先にキスを落とした。

義理の仕草であっても、照れてしまう。顔が熱くなっているが、お酒のせいだと思ってくれることを願う。

そしてヴィエラは思い切って夜会に出て良かったと、心底思った。

容姿端麗、紳士であっても堅苦しくない性格、年相も良い青年と巡り会えたのは幸運だ。ユーベルト子爵家の危機を救ってくれるルカーシュには感謝しかない。

「ルカーシュ様、本当にありがとうございます」

「俺にとっても都合の良い話だったからな」

ニカっと笑い、ルカーシュは立ち上がった。

「両親に確認するという理由もできたし、俺は早速帰って結婚の同意を取り付けてくる。また明日連絡したいんだが、ヴィエラ殿の仕事場は魔法局の技術課か?」

「正解です。どうしてご存知で?」

「やっぱり君か。技術課に魂を仕事に捧げている中毒者がいると聞いたことがあったんだ」

「う……うふふふふふ♡」

とりあえず笑うしかなかった。噂の元凶であろうクレメントへの恨みがまたひとつ増えた。

「ヴィエラ殿も帰るのなら、裏ルートで良いなら屋敷に帰る前に君の家まで送るがどうする?」

「お気遣いありがとうございます。ではお言葉に甘えて、お願い致しますわ」

馬車代が浮いたと、喜んで誘いを受け入れる。

こうしてヴィエラはルカーシュが用意した乗り心地の良い馬車でひとり暮らしをしているアパートまで送ってもらい、解散となった。

翌朝、ヴィエラは西棟の回廊を軽い足取りで歩きながら、いつも通り魔法局技術課の仕事場へと向かっていた。

けれども、その歩みは仕事場の直前で止まった。

警戒対象者である赤髪の青年が、窓から外の景色を眺めていたのだ。

(誰よりも早く出勤している時間帯なのに、本当にどうして私はクレメント様との遭遇率がこんなに高いのよ!? できれば会いたくないのに)

そう思いつつも奥にある技術課の事務所に行くためには、この回廊は避けては通れない。

ヴィエラは気配を消して、彼の後ろを素通りしようとしたが当然気づかれる。

「ヴィエラ先輩、おはようございます」

「お……おはようございます。クレメント様」

微笑みの表情を浮かべつつ、けれども探るような目線を向けてくるクレメントに対し、ヴィエラは笑みを顔に貼り付けた。

「昨日の夜会、本気と言った割には早く帰ったそうですね」

帰宅のことはひっそり妹にだけ伝えていたし、ヴィエラは注目を集めるような令嬢ではない。

目立たないよう、馬車乗り場までルカーシュと警戒しながら裏ルートを歩いた。

それでも行動を把握されていることを知り、監視されているように感じて辟易する。

正直に、婿が見つかったと報告する筋合いはない。

「えぇ、もう夜会に用はないと判断して早々に帰宅しましたわ」

「夜会に用はない……もう出ないつもりですか?」

「はい。婿探しはもうしません」

「そうですか。賢明な判断だと思います」

クレメントは嬉しそうに笑顔を向けた。

(そんなに私が嫁ぎ遅れ続けることが嬉しいの!? それとも注文を押し付けやすい下僕が社交界に出入りするなんて、目障りだと思っていた? 相変わらずの鬼畜ぶり……でも残念ね。あなたより格好いい婿様を見つけましてよ!)

隠し玉を持っている彼女の精神は今、最強だった。馬鹿にされても笑顔で返すことができる。

「そういうことですので、失礼します。クレメント様もお仕事や訓練で怪我をなさらないよう気を付けてください」

「はい、ヴィエラ先輩もお仕事頑張ってください」

「ありがとうございます」

新規の注文や絡んでくる様子もなくクレメントが立ち去り、ヴィエラはホッと安堵のため息を漏らした。