軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

黒蛇

安心したところでスキルを確認してみよう。

鑑定スキルこそ所有していないが、自分の中に取り込まれたスキルなので感覚的な効果はわかる。

【吸血】は攻撃を与えることによって体力を回復することができるスキルで、【音波感知】は超音波を発することで周囲の情報を読み取ることができるスキルらしい。

どちらもとても有用なスキルだ。

特にこの階層についてまったく把握していないので周囲の情報を拾うことのできる【音波感知】はとても助かる。

早速と【音波感知】を使用してみる。

普通の人間には知覚できない音波を飛ばすと、音波の跳ね返りで通路がどのように続いているかわかり、その先にどのような魔物がいるのかも把握することができる。

「……この中で勝てそうな魔物は……右側の通路の奴か」

ミノタウロスを食べてから、これまで感じ取ることのできなかった魔物のオーラのようなものが知覚できるようになった。

魔力とも違う別の力。

恐らく、これが魔物の所有する魔素というやつだろう。

魔物が宿している魔素の総量は、魔物の力そのものだ。

つまり、宿している魔素が多いほどに強い魔物ということになる。

今の俺の目的はこのどこかもしれない階層から脱出すること。

【音波感知】を使えば、魔物との戦闘を極力避けて移動することができるかもしれないが、すべての魔物を避けられるとは思っていない。

階層を上がるにも最低限の強さが必要だ。

そのためにも敵いそうにない魔物は避けて、倒せそうな魔物に勝負を挑むのが確実だろう。

そんなわけで勝負になりそうな魔物が存在する右の通路へ進んでいくと、真っ黒な鱗と刺に覆われた大きな蛇がいた。

黒蛇は薄暗い通路をゆったりと進んでいる。

【音波感知】で後ろを取ることができているのでこちらが有利だ。

先制攻撃をお見舞いしてやろうと足音をできるだけ立たせずに戦斧を手にして接近。

すると、後ろ姿を晒していた黒蛇が突如としてこちらに振り向き、大きな口を開けて噛みついてきた。

俺は即座に足を止めて、その場を退く。

「この野郎、気付いてやがったな!」

俺が【音波感知】で存在を感知できるように、黒蛇も何かしらの知覚系のスキルを有しているようだ。

俺の存在を知覚していながら気付かないフリをするとは狡いことを考える。

にらみ合っていると、チロチロと舌を動かしていた黒蛇が尻尾を叩きつけてくる。

俺は戦斧を振るって、鞭のように振るわれる尻尾を弾いた。

自分よりも小さな身体をしている生物が同等の力を有していることに驚いているのか、黒蛇は驚きながらも続けて尻尾を振るってくる。

俺はじっくりと尻尾の軌道を見極め、それに合わせる形で戦斧を振るう。

弾き、時にいなし、躱し、黒蛇の怒涛のような攻撃を防いでいく。

レベルアップによって上昇した俺の動体視力はしっかりと黒蛇の動きを捉えており、パワーも拮抗している様子だった。

ミノタウロスを食べる前だったら、まるで相手にならなかっただろう。

しかし、今の俺のステータスと魔物を喰らって手に入れたスキルを駆使すれば、十分に渡り合うことができる。

俺は【筋力強化】を強めて、黒蛇の尻尾を叩くように打ちつけた。

強かな一撃に黒蛇の体がぐらりと体を横に倒す。

それを好機と捉えた俺は跳躍して戦斧を勢いよく振りかぶった。

そのタイミングで黒蛇は顔だけをこちらに向けて、口を大きく開けるとそこから黄色い霧を噴き出してくる。

それは無防備となった俺の身体を見事に捉えた。

濃い霧の向こうで黒蛇が嘲笑を浮かべているのがわかる。

だが、残念。騙したのはお前の方じゃなく、俺の方だ。

「残念ながら俺に麻痺は効かねえよ!」

俺はそのまま霧を突っ切ると、黒蛇の首めがけて戦斧を叩きつける。

跳躍したエネルギーと大きく溜めたパワーは黒蛇の首を見事に切断し、頭を吹き飛ばした。

黒蛇の残った胴体だけがくねくねと動き回っていたが、程なくすると動かなくなった。

「あぶねえ、状態異常無効化が無かったら負けていたな」

魔素の総量は大したものではなかったので十分にやれると思ったが、思わぬ隠し玉を持っていた。

ユニークスキルがなければ間違いなく敗北していただろう。

魔素の量だけで実力を図っていたら、いずれ思わぬ痛手を負うことになりそうだ。

なにはともあれ、無事に勝つことができた。

魔物を倒したら食べるのみ。それが俺の強くなるための道なのだから。

蛇ならば何度も食べたことがある。身近な動物の中では一番に確保しやすいタンパク源だからな。

冒険者になる前やお金に困った時は、よく畑や山に赴いて蛇を捕まえて食べていたものだ。

魔物だろうと大きさが違おうと基本は変わらないだろう。

頭は既に落とせているので、腰に佩いている剣を使ってチマチマと甲殻を剥がし、尖っている棘をへし折っていく。

これだけの硬度を誇る甲殻や刺を持ち帰れば、かなりの金額になりそうなものだが残念ながら素材を持ち帰ることはできない。

マジックバッグでもあれば別なのだが、無いものをねだっても仕方がないだろう。

鱗を剥がすと、その下には灰色の皮が出現したので、剣で切れ目を入れるとそのまま思いっきり引っ張って剥がした。

すると、覆われていた灰色の皮がなくなり、代わりに綺麗なピンク色の身が露出した。

後はこれを煮るなり焼くなり好きに調理するだけだ。とはいっても、調理道具も調味料もない現状では火で焼くことしかできないんだがな。

せめてもの気分を出すためにへし折った棘を串代わりにして肉に差し込み、火魔法で身を焼いていく。

狐色に染まった身が縮まり、いい匂いを放ち始めたら火を消した。

「なんか独特な香りがする……」

ミノタウロスや蝙蝠とはまた違った匂いがする。

形容するのが難しいが、ほんのりとスパイシーさがあるような気がするな。

独特な香りを堪能すると、そのまま豪快に齧り付く。

「うおお、すげえ身が引き締まってて味が濃い!」

全身の肉自体が筋肉になっているからだろうか。黒蛇の肉はとても引き締まっており、食べ応えがとてもある。それに伴い味も凝縮されており、ギュッと肉の旨みが染み出てくるようだった。

何度も食べたことのある蛇は味の薄い鶏肉のようだったが、こちらはそれの何倍も美味いな。

もりもりと肉を食べ進めていると、肉に甘身が加わった。

どうやら胴体の骨の周りには濃厚な脂がついているらしい。それが染み出して、黒蛇の肉により強いジューシーさが加わったというわけだ。

「ただ焼いただけなのに美味い! 調味料なんていらないな!」

また調味料が恋しくなるのではないかと思ったが、俺の予想はいい意味で裏切られた。

まさか黒蛇の肉がこれほど美味いとは……。

黒蛇を食べ終わるとステータスを確認する。

名前:ルード

種族:人間族

状態:通常

LV22

体力:86

筋力:57

頑強:43

魔力:34

精神:27

俊敏:44

ユニークスキル:【状態異常無効化】

スキル:【剣術】【体術】【咆哮】【戦斧術】【筋力強化】【吸血】【音波感知】【熱源探査】【麻痺吐息】

属性魔法:【火属性】

黒蛇を喰らったことで【熱源探査】【麻痺吐息】のスキルが増えていた。

なるほど。最初の俺の奇襲に気付けたのが【熱源探査】のお陰か。

視界が悪くても熱源反応で存在に気付くことができる。これがあれば不意を打たれる可能性も低くなるだろう。

【麻痺吐息】はスキルの発動を意識すると、口から黒蛇と同じような黄色い霧を噴き出すことができた。

俺はユニークスキルのお陰でなんら影響はないが、普通の魔物であれば麻痺状態になるだろう。

相手の動きを止めたい時や、無効化する際に使えそうだ。

スキルの検証が済んだところで【音波感知】と【熱源探査】を平行させて発動。

「……真っすぐに進むのだけはヤバいな」

この先には通路を埋め尽くすような巨体を誇る魔物が陣取っている。

シルエットはミノタウロスに近いが、それよりも体格は大きく、内包している魔素が尋常ではない。

明らかにヤバそうな雰囲気をしている。

急激なレベルアップと数々のスキルを獲得した今の俺でも間違いなく負ける。

一目でそうわかるほどの化け物だった。

そんな化け物を喰らえれば、どんなスキルを得られるのだろうと思ったが、さすがに勝てるはずのない勝負に挑むのはバカだ。

別にすべての魔物を倒す必要はない。まずはこの迷宮から脱出することが先決だ。

目的を見失ってはいけない。

地道に魔物を喰らって強くなってから、階層を上がっていくことにしよう。

俺はこの奈落において最弱の存在なんだ。

そう自分を戒めて、俺は奈落を脱出するために魔物を喰らい続けた。