軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ホットサンドフライ

エーベルトとの決闘に勝利した俺は、無事に寄生の嫌疑を晴らすことができた。

Bランク冒険者を真正面から打ち倒せる冒険者が、寄生などという行いをするメリットが一つもないと証明されたからだ。

それは監査官であるエーベルトの口によって広められ、俺を糾弾していた冒険者たちはその日中には沈静化した。

冒険者の中には疑いの声を上げたことを律儀に謝る者もいたし、監査官に勝利したことで俺の実力を讃える者もいた。

最初に絡んできた冒険者たちは謝罪してくるようなことはなかったが、一人で街を歩いていたり、ギルドにいても絡んでくることはない。どこか気まずそうに視線を逸らして去っていくのだ。

実は自分たちよりも格上の実力であったことがわかり、報復を恐れているのかもしれないが、そのようなつまらない真似はしないので放置だ。

日々の生活が快適になったことを考えれば、エーベルトとの決闘は結果的にやってよかったのかもしれない。

「ルード、今日は呑みましょう!」

「そうだな」

時間もかなり中途半端になってしまったし、エリシアに治癒魔法をかけてもらったとはいえ、失った血液まで戻るわけではない。体力をかなり消耗している状態で無理に依頼を受けるべきではないだ

ろう。

満腹亭に戻ろうとすると、ギルドの出入り口にエーベルトが立っていた。

明らかに俺たちを――いや、俺を待っていたのだろう。

「エリシア、ちょっと先に行っててくれ」

「わかったわ! ルードも早く来るのよ!」

俺たちだけで話したいことを察したのか、エリシアが先に満腹亭へと歩いていく。

「俺に何か用か?」

「すまなかった」

声をかけると、エーベルトは腰を深く折って謝罪の言葉を口にした。

あのプライドの高いエーベルトが素直に頭を下げたことに素直に驚く。

「エリシアさんから信頼を向けられ、隣に立っているお前が羨ましくて、あのような言いがかりをし、監査官としての職権を乱用してしまった」

「まったくだ。監査官が私情を持ち込んで、職権を乱用するなんてどうなんだ?」

「今回の不祥事は正式にギルド本部に報告し、監査官を辞めるつもりだ」

「いや、俺は別にそこまで求めるつもりは……」

エーベルトの物言いにカチンとくることはあったが、別にそこまで怒ってはいないし、憎んでもいない。今回の決闘の責任をとって、監査官を辞めろなどと求めるつもりはない。

「俺が決めたことでありケジメだ」

「……そうか」

エーベルト自身がそう決めたのならこれ以上口を出すことはない。

「まったく、どうして彼女を救えたのが俺じゃないんだ」

「お前……」

「なんだ?」

「いや、なんでもねえ」

エリシアが好きなのかと尋ねようとしたが、エーベルトの態度からそんなことを尋ねるのも野暮というものだろう。

「俺はギルド本部に戻るために街を出る。その前にお前にこれを渡しておく」

エーベルトが一枚のメモ用紙を渡してくる。

「これは?」

「各地に散っている『蒼穹の軌跡』のメンバーの情報だ。実際に会ったわけではないし、何年も前の情報だ。今もその情報通りの場所にいるかは知らないが、足取りは掴めるはずだ」

「エリシアに直接渡さないのか?」

「……彼女が仲間に会いたがっているとは限らないからな」

「どういうことだ?」

かつては苦楽を共にした仲間だ。そんな仲間たちに会いたくないなんてあるのか?

「それは俺の口から直接言う事じゃない」

「それもそうか」

エリシアに会いたくない事情があったとしたら、それは彼女に直接聞くべきことだろう。

エーベルトから聞くべき情報ではない。

「いいか? 死んでもエリシアさんを守れよ?」

エーベルトが指をつきつけながら念を押すように言う。

「言われなくてもわかってる。それが前衛の役目だからな」

眉間に深く皺を寄せていたエーベルトであるが、俺の返答に満足したのかフッと表情を緩めると踵を返した。

「さて、早くエリシアと合流しねえとな」

今頃、満腹亭の食堂でつまみを口にしながら今か今かと待っているはずだ。

いや、エリシアのことだから待ちきれずに、先に酒杯を重ねているかもしれない。

彼女のそんな姿を想像し、俺は駆け足で満腹亭に戻るのであった。

エーベルトとの決闘を終えた翌日。

マジックバッグの整理をしていると、瘴気竜の素材の使い道を考えていないことに気付いた。

「なあ、瘴気竜の素材はどうすればいいと思う?」

「売るのは論外ね。あれだけレベルの高い魔物の素材は滅多に手に入らないし」

幸いなことに今は懐に困っていないからな。

「だとしたら、何かに活用するべきか……」

武器にするか、防具にするか、それとも魔道具にするか悩んでいると、エリシアが目の前にやってきて俺の全身を凝視する。

「……防具ね」

「瘴気竜の素材の活用道か?」

「ええ。ルードもレベルが上がってステータスも上昇したことだし、それに見合う防具をつける必要があると思うの。今の防具ってEランクの頃から装備してるものよね?」

「そういえば、そうだな」

「というか、マジックバッグは納得できるとして、防具よりも先に調理道具が充実しているのはおかしくない?」

整理のために周囲に散らばっている調理器具の数々を差しながらエリシアが言う。

Eランク時代から変わらぬ防具とは反対に、俺の扱う調理道具は明らかにランクアップしていた。

マナタイトを使用した熱伝導率の高いフライパンをはじめとし、折り畳み式魔道コンロ、魔力を流すだけで食材を粉砕するミキサー、ハイスケルトンの骨を使用したボーンズナイフなどなど。最新式の魔道具がたくさん並んでおり、中には魔道具も混ざっているほどである。

防具に比べると、明らかに調理道具の方が充実していた。

「いやー、いい調理道具を見つけるとつい欲しくなってなぁ」

調理道具の罪深いところは一つ欲しいものができると、あれもこれもと欲しいものが増えてしまうことだ。次の依頼ではどんな調理器具を使って魔物を調理しようかと考えているだけでも楽しい。

「たとえ、そうでも冒険者として先に揃えるべきものがあるでしょ!? そういうわけで今日はルードの防具を作りに行くわ!」

「そ、そうだな」

呆れと怒りを滲ませながらのエリシアの言葉に俺は素直に頷くことしかできなかった。

瘴気竜の素材を使って防具を作ることになったので、俺とエリシアは宿を出て南下していく。

中央区画に比べると、やや趣のある建物が増え、職人がこしらえた武具屋、細工屋などが並びだす。

あちこちで鉄を打つような音が響き渡り、見習い職人が作品を喧伝する声を上げている。

「へー、こっちの方は職人街になってるのね」

エリシアは南区画にやってくるのが初めてらしくキョロキョロと周囲を眺めていた。

「こっちの方はあんまりこねえのか?」

「杖のメンテナンスは自分でできるし、頼むとしても鍛冶師じゃなくて魔道具師に頼むのが一般的だから」

どうやら魔法使いの杖は魔法使いの職人――魔道具師と呼ばれる者に製作や調整を頼むらしい。ただ特別なギミックなどを付与したい場合は鍛冶師にも加工を頼むようだ。

魔法なんてほとんど使えないし、稀少な魔法使いとの関わりなんて無かったので知らなかった。

「ルードさん! 今日も面白い調理器具が入ったよ!」

エリシアから杖の話を聞いていると、露店の顔馴染みとなった店員から声をかけられる。

「え? どんなやつだ?」

「ホットサンドフライさ!」

店員が見せてくれたのは、直角形になっている鉄のフライパンを二枚向かい合わせにしたものだ。

「どうやって使うんだ?」

尋ねると、店員は待ってましたとばかりに懐から食材を取り出す。

「こうやって食パンを入れて、好きな具材を載せて蓋を閉じるだけ。スイッチを押したら内部で加熱されて、あっという間にホットサンドの出来上がりさ!」

工程を説明しながら店員が蓋を持ち上げると、パンの両目にしっかりと焼き目のついたホットサンドが出来上がっていた。

「おお! すげえ!」

「普段から料理をするルードさんならこのお手軽さがわかるだろ?」

「ああ」

食堂や冒険中の昼飯にホットサンドはたまに食べるが、こんなにも早く作り上げることはできない。

食パンを押し付けながら両面をしっかり焼く必要があるのでどうしても時間がかかってしまうのだ。

しかし、このホットサンドフライを使えば、食パンとカットした具材を入れて挟んで焼くだけだ。

料理のそこまで得意じゃないエリシアでもできる。

「気になるのは実際の仕上がりだな」

「なら食べて確かめてくれ」

店員はホットサンドをまな板の上に置くと、包丁で半分に切ってくれた。

「いただくぜ」

「エルフのお姉さんもどうぞ」

「わ、私も? いただくわ」

後ろで見守っていたエリシアもおそるおそるといった様子でホットサンドに手を伸ばした。

食パンの表面はとても香ばしく、歯を突き立てるとザクッとした小気味のいい音を立てた。

中に挟まれているハムはしっかりと加熱されており柔らかく、ジューシーだ。間に挟まっているチーズはとろけており、キャベツはしんなりとしつつも歯応えが残っている。

ハム、チーズ、キャベツ、マスタードソースというシンプルな味わいだが、出来立てなのでかなり美味しい。満腹亭の食堂で提供されるのと大差のない仕上がりだ。

「美味いな」

「ええ! 具材を入れて挟むだけだからとても手軽ね! 冒険中でも使えるわ!」

ホットサンドの出来栄えと、その調理の簡単さにエリシアも感嘆の声を上げた。

冒険中の食事として用意しがちなのがサンドイッチなのだが、毎度サンドイッチではさすがに飽きてしまう。でも、このホットサンドがあれば、冒険中でも気軽に挟んで温かなものが食べられるし、

具材のバリエーションも増えるのでいいこと尽くしだ。

「火の魔石を使った自動加熱式と、直火で焼き上げるタイプがあるがどうする?」

「両方一つずつ貰おう」

「毎度! ちなみにちょっと値段は張るんだが、電気の魔石を使った圧力鍋っていうのがあってだな」

「そっちも見せてくれ!」

店員から次の商品を見せてもらおうとしたところで裾を引っ張られる。

「ダメ! 先に防具! このままじゃいつもと同じで調理道具を買い漁るだけになっちゃうじゃない!」

「いや、エリシアもホットサンドフライには感激してたじゃねえか?」

俺と一緒にノリノリでホットサンドフライを買っていたのに、今更どの口が言うんだ。

「そ、そうだけどこれ以上はダメよ! 今日は防具を作る日!」

指摘すると、気まずげな顔をするが彼女の言っていることは至極正しい。

店員が魅力的な調理道具を紹介してくるので、つい夢中になってしまった。

「悪い。今日はこの辺にしとく」

「またいい商品を仕入れて待ってるさ」

ホットサンドフライを購入すると、俺とエリシアは移動を再開するのだった。