軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

状態異常無効

バジリスタから吸収した魔素は先ほどの戦闘で消費してしまったのか、既にステータスの上昇は低くなっている。

どうやらグラムから得られるステータスの恩恵は一時的なものらしい。

それでもエリシアが大ダメージを与えてくれたことにより、バジリスタの体力はかなり消耗している。

相手も万全とはいかないので動きは五分五分、あるいは相手の方が少し上回っているかどうかだろう。

ここからは俺のすべてをぶつけて勝負だ。

【瞬歩】を発動してバジリスタの懐に飛び込んだ俺は左脚目掛けてグラムを振るった。

俺のグラムは弾かれることなく、バジリスタの左脚に浅いながらも裂傷を刻んだ。

「ゴアアッ!?」

エリシアの精霊魔法で体を覆っている鱗が剥げたからか、俺の攻撃が効いている。

ダメージを与えられるのであれば勝機はある。

俺はバジリスタの足元に食らいつくようにして動き回ってグラムを振るっていく。

「これだけ体が大きいと足元が見えねえよな!」

左目を潰せたお陰かバジリスタの視界はさらに狭くなっており、先ほどよりも付け入る隙は多くなっていた。

俺は常にバジリスタの左側を陣取るようにして攻撃を加える。

苛立ったバジリスタは俺を排除しようと脚でストンピングしてきたり、腹で押し潰そうとしてくるが単純な動きにやられる俺じゃない。

いいように攻撃を加えられてバジリスタは段々と苛立ってきたのか激しく脚を持ち上げてストンピングを始める。

「うおおお!?」

もはや俺を狙っての一撃ではないが、圧倒的な質量で乱打されれば適当な一撃でも当たる可能性が高くなる。

踏みつぶされれば一巻の終わりのため素直に距離を取る。

死角から逃れ正確に俺の位置を把握したバジリスタは、僅かに身を屈めて針を射出してきた。

迫りくる針を俺は回避する。

ガガガガッと激しい音を立てて地面に突き刺さる針。針先にはもちろん猛毒が付着している。

毒が効かないとはいえ、石造りの地面を陥没させる威力の攻撃を直撃したくはない。

疾走するとバジリスタも体の向きを変えて逃げ道を予測しながら放ってくる。

魔法を使ってくれれば吸収してステータスが上昇するのだが、それで痛い目を見ている以上はバジリスタも迂闊に使うほどバカではない。執拗に針を射出し続けてくる。

猛烈な針の嵐を回避していると、そこにバジリスタが突進をしてくる。

鈍重な体故にあまり動くことのなかったバジリスタが、ここまで大きく動いてきたことに驚いた。

全力を持って倒すべき敵と認定したからか。

動きはそれほど速くはないが、二十メートルを越える巨体が突っ込んでくるのは中々に恐怖だ。

大きく横に回避するとバジリスタは回避先にブレスを放ってくる。

瘴気と高熱がこもった攻撃を無効化することはできない。

俺は【瞬歩】を発動することでブレスをかいくぐって再びバジリスタの懐へ肉薄する。

ブレスを吐いていたバジリスタは噛み切るようにして中断し、潜り込んできた俺には針を射出してくる。

俺の【瞬歩】が読まれた。

これだけ何度も繰り返していけば、俺がスキルを発動するタイミング、加速具合を読まれるのも仕方がないのかもしれない。

飛来してくる四本のうち二本は躱すことができたが、残りの二本はどうしても回避できない。

腹をくくった俺は【硬身】を発動。

ただし身体で受け止めるのではなく、自らの身体を剣のように扱って受け流すことを選択。

飛来した針が脇腹にぶつかりギャリギャリという嫌な音を響かせる。

すぐに身体を斜めにすると、身体を穿とうとしていた二本の針は後ろへと流れた。

受け流すことに成功した俺はそのまま懐に入り込んで左脚を抉るように切り裂いた。

裂傷を抉るような一撃に鮮血が舞う。

バジリスタは苦悶の声を上げながら体を回転させて尻尾を振るった。

予想以上の速さに回避することができず、俺はグラムを盾にしながら【硬身】を発動。

「ぐっ!」

しかし、それだけではすべての衝撃を受け止めることは到底できず、俺の身体は紙のように吹き飛ばされた。

あまりの衝撃に肺の中にある息が吐き出される。

全身の骨がビリビリとした悲鳴を上げているようだった。

地面を何度か回転した末に起き上がる。

骨こそ折れてはいないが全身のあちこちが痛い。

「いってえ……」

スキルを駆使してこの様だ。まともに食らっていれば、こんなものでは済まなかっただろう。

こちらの攻撃は相手の命を脅かすことができないのに、相手の攻撃はたった一撃でこちらの命を脅かす威力。理不尽だ。

しかし、冒険者とはそんな理不尽な存在に抗うもの。こんなことで挫けたりなどしない。

敵が近距離戦を嫌うというのであれば、しつこく足元にとりついてやるまでだ。

立ち上がってすぐに駆け出すと、バジリスタは尻尾を大きく振るって薙ぎ払ってくる。

跳躍して回避すると、バジリスタはブレスを吐いてきた。

身体を空中へと浮かべている俺はそれを回避することができない。

バジリスタが勝ち誇ったような笑みを浮かべる中、俺は【操糸】スキルを発動。

指先から糸を射出するとバジリスタの翼に糸を引っ付け、手繰り寄せるようにして動いて回避。

奈落で戦ったオブゾーラスパイダーから獲得したスキルだ。

今まであまり使うことがなかったが思いもしないところで役に立つものだ。

空中へのブレスを回避すると、俺は糸で移動した勢いを利用してバジリスタの翼を斬りつけた。

「ゴアアアッ!?」

元々翼は退化しているからかバジリスタの翼は他の部位と比べると肉質が柔らかかった。

さすがに一撃で斬り落とすことはできないが刀身がかなり深くまで食い込む。

その瞬間、俺は【吸血】を発動。

スキルの発動によってグラムがバジリスタの血液を勢いよく吸い上げる。

血液を吸い上げられる嫌悪感からかバジリスタが激しく身をよじる。

翼から振り落とされた俺は何とか地面に着地。

【吸血】によって得られたエネルギーは俺の身体を癒し、全身の痛みが引いていく。

奈落で喰べた蝙蝠のスキルだ。

攻撃をすればするほど回復できるのであれば、積極的に仕掛けない理由はない。

俺は【瞬歩】を発動すると、バジリスタに一撃を加えてはすぐに離脱を繰り返す。

傷が浅くたって構わない。

俺が傷を与えた瞬間に【吸血】を発動すれば、少しずつバジリスタから血液を奪い、傷を回復することができる。

十回ほどそれを繰り返し終わった頃には、先ほど食らってしまった一撃を完全回復するくらいのコンディションに戻っていた。

強くなってからは大きな傷を負うことがなかったので使うことがなかったが便利なスキルだ。

これがあれば多少の傷を負ったとして治すことができる。

とはいえ、相変わらずバジリスタの一撃は強烈で食らえばすぐにダウンする可能性が高い。

それに傷は治すことができても気力や体力までは治すことはできない。

傷こそ癒えたものの極度の緊張により気力と体力は限界に近づいていた。

だがそれは相手も同じだ。

エリシアの精霊魔法による一撃と俺からの度重なる攻撃によって、バジリスタの体は至るところから出血している。

それに加え、俺の【吸血】によってさらに血液を奪われているので体力はかなり消耗しているはずだ。

しかし、バジリスタの右目からは消耗を感じさせない殺意と敵意の光がある。

やはり、竜に体力勝負を持ち込むのは愚策だな。

今は数あるスキルで誤魔化せているが、いずれはそれすらも読み切られる。

体力にも限界がある以上、ここらで仕掛ける他にない。

俺の中でバジリスタを死に至らしめる攻撃があるとすれば、グラムに全力の魔素を込めた一撃だ。

それ以外の攻撃は弱らせることはできるだろうが致命傷にはならない。

ならばこれに賭けるしかないだろう。

俺はグラムに魔素を込めていく。

通常の魔力とは違った禍々しい光が、グラムの刀身を包んでいく。

グラムに収束していく魔素を目にして、バジリスタが突進してくる。

自分を害するかもしれない力の高まりを前にして静観するようなバカはいない。

バジリスタは俺に魔素を溜めさせないように激しく接近し、噛みつきや前脚や尻尾での攻撃を繰り出してくる。

「ちっ、グラムに魔素を込める時間が……」

バジリスタの猛攻をかいくぐることに必死で思うように魔素を込めることができない。

魔素ばかりに集中し、バジリスタの一撃を食らってしまうのは本末転倒だ。

くっ、たった少しの時間を稼ぐことができればいいのだが。

苦戦しているとヒュンッと風を切る音が聞こえた。

次の瞬間、バジリスタの左目に風刃が食い込んだ。

眼球を抉られたことでバジリスタは堪らず絶叫を上げた。

振り返ると、後ろにはフラフラになりながらも杖を構えるエリシアがいた。

「早く魔素を込めて!」

ぼーっとしている場合ではない。エリシアが作ってくれた時間のうちに魔素を込めるんだ。

バジリスタが仰け反っている隙に俺はグラムを両手で構えて、体内にある魔素を込めていく。

グラムを覆っていた禍々しい光が強く立ち上る。

自分の体内にあるほぼすべての魔素を注ぎ込んだ。

これで倒せなかったらもうどうしようもないだろう。

半ばやけっぱちになりながら俺はバジリスタに飛び掛かる。

バジリスタは大きく口を開けると、特大の瘴気と熱を孕んだブレスを射出してくる。

今までそれを回避していた俺だが、敢えて回避することはせずに正面からブレスに突っ込んだ。

瘴気はユニークスキルで無効化し、炎は【火耐性(大)】の抵抗スキルで耐える。

瘴気炎の中に突っ込んでいくと膨大な熱量が俺を包み込んだ。

「ルード!?」

めちゃくちゃ熱い。いくら【火耐性(大)】があっても竜のブレスに耐えるのは無茶だったか。

あまりの熱量に死を覚悟した俺だったが、握っている暴食剣グラムがブレスを吸収していく。

どうやらバジリスタのブレスには純粋な瘴気と熱だけでなく、魔素も混ざっていたらしい。

グラムが魔素を喰らって俺に力を供給してくれる。

それによりステータスが上昇し、熱が少しだけ和らいだように感じた。

これならイケる。

地面を思いっきり蹴って跳躍すると視界が晴れた。

目の前には正面からブレスを突っ切ってきた俺を見て、信じられないものでも見るような表情をしたバジリスタがいた。

――なぜ生きている?

バジリスタのそんな困惑が伝わってくるようだった。

今までどのような相手だろうと濃密な瘴気の前には引かざるを得なかっただろう。

長期戦になれば相手は瘴気に蝕まれて弱っていく。そうなったところをバジリスタは嬲り殺しにしていたのだろうが俺には通じない。

「悪いな。俺に状態異常は効かねえんだ」

呆然とこちらを見上げ、隙を晒しているバジリスタの首に俺は全力の魔素を込めた一撃を振り下ろす。

魔素によって強化された一撃はあっさりとバジリスタの首を切断し、解放された魔素が大爆発を起こして胴体を吹き飛ばした。

その余波に巻き込まれた俺も吹き飛んでいく。

ごっそりと力が抜けてしまい受け身を取ることもできなかったが、俺の身体はふわりとした風に受け止められた。

「お疲れさま、ルード」

エリシアの笑みと優しい声音を耳にして、俺は意識を手放した。