軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

呪いの剣の所有

翌朝。宿の寝室で身支度を整え終えると、扉がノックされた。

返事すると、扉が開かれてエリシアがそっとこちらを覗いてくる。

「……なにしてんだ?」

「意識はちゃんとある? 呪われてない?」

「呪われてねえよ」

呪いの剣を手にした昨晩からエリシアはずっとこの調子だ。

ことあるごとにこのような質問を投げかけては体調の確認をしてくる。

「本当の本当に? 急に錯乱して後ろから斬りかかってこないでね?」

「大丈夫だっての。深淵の魔物の呪いすら無効化したユニークスキルを信じろ」

「そう言われると大丈夫そうな気がするわね……うん」

なんて言うと、エリシアは不安そうな表情を引っ込めた。

深淵の魔物の呪いに対する信頼なのか、俺のユニークスキルに対する信頼なのかがわからないな。

まあ、ことあるごとに心配の言葉を投げかけられなくなったので良しとしよう。

朝食を摂るために階段を下りていくと、今日も満腹亭の食堂は賑わっていた。

席と席の間を縫うように移動して空いている端の席に腰を下ろすと、髪を揺らしてアイラがやってきた。

「昨夜は危ないところを助けてくださってありがとうございます!」

「気にすんな。冒険者として当然のことをしたまでだ」

「アイラちゃんが無事でよかったわ」

既に昨夜に礼を告げられていたが、翌朝になっても礼を言ってくれるとは律儀な子だ。

「呪われた冒険者を倒しちゃうなんて、さすがエリシアさんですね」

「まあね!」

「おーい? 俺もちゃんと戦ったんだが?」

全部エリシアが片付けたことになっているが、俺だってきちんと戦っていたし、なんならとどめを刺したのだって俺だ。

活躍していないみたいな扱いをされるのは不満である。

なんて抗議するとアイラはクスリと笑った。

「冗談です。ルードさんって意外と強かったんですね。ビックリしました」

「成長期だからな」

「いい歳してなに言ってるんですか」

その突っ込みはやめてくれ。複雑な年齢をしている俺にはよく効く。

「これよかったら貰ってください。ここの食堂の無料券です」

ショックを受けている俺にアイラが渡してくれたのは、満腹亭の食堂で使える無料券だ。

これを使えば、一回分の食事が無料になるらしい。

それが二十枚。つまり、二十回の食事が無料になるというわけだ。

「おお、助かる! なら、早速二枚分を使って朝のおすすめを頼む」

「はーい!」

無料券を二枚渡すと、アイラは快活な笑みを浮かべてオーダーを伝えるために厨房へ向かう。

その道すがら常連客に心配の声をかけられたり、追加注文を受け取ったりと看板娘は大忙しだ。

こうやって元気にアイラが働いている姿を見られると、偶然とはいえ命を救えてよかったと思う。

朝食を食べ終わると、俺とエリシアは冒険者ギルドにやってきた。

「ルードさん、エリシアさん、少しよろしいでしょうか?」

ギルドに顔を出すと、受付をしていたイルミが相変わらずの無表情で尋ねてくる。

言われなくてもわかる。昨夜の狂化状態となっていたロンドの話だろう。

俺とエリシアが素直に頷くと、彼女によって奥にある応接室へと通される。

応接室にはギルドマスターのランカースがソファーに座っていた。

俺たちもソファーに腰かけるとランカースが口を開く。

「ここに来てもらったのは二人も察している通り、昨夜の事件についてだ。当事者である二人には詳細な経緯を話しておこうと思ってな」

「では、お願いします」

強い興味があるわけではないが、襲われた以上は経緯を知っておきたかった。

ロンド、マグナス、リグルドの三人組は三日ほど前に瘴気迷宮にいる魔物の討伐依頼を受けたらしい。

その時に彼らは瘴気迷宮のどこかで呪いの剣を手に入れたようだ。

それが呪い憑きだと気付けなかったロンドは、キャンプ地で狂化状態となってしまい仲間であるマグナスとリグルドを殺害。

そのままバロナに帰還するなり、何人もの人を殺めて潜伏していたようだ。

ギルドの調査員によると、そのような経緯でロンドが殺人鬼となってしまったとのことだ。

「なるほどな。あいつらも災難だったな」

ロンドとは別に親しくもなんでもないし、どちらかというと嫌いな部類の人間ではあったが、それでも思わず同情してしまうような末路である。

「冒険者が狂化状態になった以上、処分するのはギルドの役目だった。ギルドに代わって事態を収めてくれたことをギルドマスターとして礼を言う」

「いえ、偶然なので気にしないでください」

「殺人鬼となっていたロンドにはギルドから懸賞金がかかっていた。ロンドを仕留めてくれた二人には懸賞金である百万レギンを支払う」

ランカースが視線を送ると、控えていたイルミがトレーの上に大量の金貨を載せてやってきた。

「偶然だけど懸賞金がかかっていたのなら、私たちがそれを貰うのは当然の権利ね」

「ああ、そうだな」

ドエムに頼んだ大剣がどれだけの値段になるかわからない以上、お金は少しでもある方がいい。

貰えるものは貰っておこうの精神だ。

ランカースの気が変わらない内に俺とエリシアは百万レギンをマジックバッグに収納した。

「最後に確認したいのだがルード君はロンドが所有していた呪いの剣を持っているんだな?」

「ええ、一応」

呪いの剣を回収したことは昨夜の事情聴取の時に話してある。

「見せてもらえるか?」

「いいですよ」

俺はマジックバッグから呪われた剣を取り出してみせた。

「……見事に呪われているな」

「呪われていますね」

「それを持っていてルード君は平気なんだな?」

「はい。ユニークスキルのお陰で狂化状態になるようなことはありません」

「そうみたいだな」

「これってギルドに返さないといけないルールとかありませんよね?」

「懸賞金をかけられた犯罪者の持ち物は、それを倒した者が所有権を得られるのがギルドの定めたルールだ。ただし、呪いの武具の場合はギルドが回収し、しかるべき場所で管理をするのだが、ルード

君の場合は問題ないな」

よかった。この呪いの剣はかなり使えそうだったので、回収されなくて助かった。

この剣を使うことができれば、俺の苦手とする魔法防御も何とかなりそうだからな。

「無いとは思うが、もしルード君がロンドと同じ状況に陥った時にギルドは容赦しないことを覚えていてほしい」

ユニークスキルがあるので狂化することはないと思うが、もしそうなればランカースは躊躇なく俺を仕留めるだろう。

ランカースから込められた殺気にはそれくらいの覚悟があった。

つまり、所持するならそれくらいの覚悟を持てという彼なりの忠告だろう。

俺は彼の視線から目を逸らすことなくしっかりと頷くのだった。