軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

魔素の力

「……もしかして、魔物のスキルで魔法を扱うには魔素の操作が必要なんじゃないかしら?」

しょんぼりと落ち込んでいると、エリシアが言った。

その至極真面目な表情からして先ほどのように俺をからかっているようなわけではない。

「魔力じゃなくて魔素なのか?」

「魔物のスキルによって得られた魔法なんだから、魔素を源にしているんじゃないかしら?」

魔物は生まれながらに魔力とは違う魔素を宿し、己の身体の強化や魔法などで魔素を使用する。

魔物から得られた魔法スキルが魔素を根源とするのも一理あるかもしれない。

「魔素ってどうやって使えばいいんだ?」

「私に魔素は無いからわからないわ。でも、魔物を食べているルードなら体内に魔素があってもおかしくないと思う」

そう言われれば、その通りだ。

最初にミノタウロスを喰らった時に入り込んできた力の奔流……あれを体内から引っ張り出すイメージで火魔法を発動してみる。

すると、本能的に理解できた。

どのように魔素を操り、どのように魔法として顕現させるかを。

本能に従ってそれらを実行すると、俺の目の前には魔法陣が出現して火槍が生成されていた。

それを前方の壁目掛けて射出すると、火槍は壁に突き刺ささった後に爆発し、大きく抉った。

「できたぞ!」

「そうみたいね」

「ありがとう! エリシアのお陰だ!」

エリシアの手を握ってブンブンと上下に振ると、彼女が苦笑する。

いい歳をした人間族の大人がはしゃいでいるせいで呆れているのかもしれない。

子供の頃から英雄譚を聞き、ずっと憧れていた力。

しかし、自分には才能がなく、ずっと使えないと思っていた。

それが急に使えるようになったら嬉しいと思うのは当然だ。

大人になっても嬉しいものは嬉しいんだ。

魔法が使えることに舞い上がった俺は、バフォメットの使っていた土魔法による礫も発動してみる。

他にもバフォメットが使っていた火槍だけでなく、一般的な魔法使いが使うような火球や火矢、火壁などの形状変化を試し、成功することができた。

【火魔法の理】と【土魔法の理】のお陰である程度の魔法技術は獲得できたようだ。

ただし、火魔法と土魔法以外の属性魔法は使えず、エリシアのような精密な制御技術や高出力の魔法は発動できなかった。

これらのスキルはあくまで使い方を本能で理解できるだけで、エリシアのような超絶技巧技まで使えるわけではないらしい。

まあ、スキルといえどそこまで都合よくはないか。

「どう? 魔素の消費は?」

「身体からちょっと魔素がなくなる感じはするが、すぐになくなる感じはしねえな。魔力と同じで時間が経過したら回復しそうだ」

「ということは、ルードの身体の中で魔素が馴染んでいるのね」

エリシアが興味深そうに顎に手を当てながら言う。

一時的な力ではなく、体内でしっかりと残留し蓄積しているということは、そういうことなのだろう。

「他にもルードの場合は魔物を食べたら、時間経過よりも早く魔素を回復することができそうね」

「確かにそうだな」

魔物を喰らうということは、魔物が宿している魔素をも喰らっているということだ。

食事をすることにより、より高い魔素回復効果を期待できるだろう。

そうなると。俺にとっては魔力を扱うよりも魔素を扱う方が効率のいい戦闘手段なのかもしれないな。

「なあ、魔素で魔法が発動できるってことは、魔素を利用すれば身体強化できたり、攻撃に活かせるんじゃねえか?」

人間族たちは体内にある魔力を全身に纏うことで肉体を強化したり、武器へ付与することで攻撃の威力を上げたり斬撃を飛ばしたりすることができる。

もしかしたら魔素でも同じことができるんじゃないだろうか。

「まあ、魔力と同じ原理だって考えればできそうね」

なんて会話をしていると、不意に通路の奥から新たなバフォメットが現れた。

「またバフォメットね」

先程倒したバフォメットの血の匂いや、俺の放った魔素に反応してやってきたのかもしれない。

「ここは俺にやらせてくれ。魔素の力を試してみたい」

バフォメットに魔法をぶつけてみたい気持ちもあるが、今はそれよりも魔素を使った近接戦闘に興味があった。

エリシアが後ろに下がったのを確認すると、俺は魔素を練り上げて身体と大剣に纏わせる。

バフォメットがこちらを睨みつけ魔法陣を展開した瞬間、俺は地面を蹴った。

すると、とんでもない推進力が得られ、視界がとんでもない速度で流れていく。

足元で爆発でも起きたのかなどと困惑するが、眼前には既にバフォメットの姿があった。

俺は慌てて大剣を振るった。

俺の振り下ろした一撃はバフォメットの肉体を縦に両断。

威力はそれだけにとどまらず、魔素による斬撃が通路を切り裂くように伸びていって最後に爆発を巻き起こした。

「と、とんでもない威力ね」

「あ、ああ」

呆然としているとエリシアがこちらに近寄ってきた。

「すごい出力だったけど、身体に異変はない?」

「ああ、大丈――」

大丈夫と答えようとしたところでガシャンッと何かが砕ける音がした。

音が発生した手元を見ると、俺の愛用していた大剣が砕け散っていた。

「膨大な魔素の力に耐えきれなかったのね。ここまで粉々になると修理するのも不可能だわ。元々の質も良くなかったみたいだいし、これを機会に買い替えた方がいいわね」

「そうだな。元々奈落で魔物から奪ったただの武器だし……」

レベルが上がってステータスが上昇したせいか大剣の負荷はかなりのものだった。

戦う魔物のレベルも上昇し、戦闘も激しくなったせいか刀身の痛みも出ていた。

そんな状態で魔素を纏わせた一撃をぶっ放せば刀身が崩壊するのも無理はない。

とはいえ、使い込んでいた武器が砕けてしまうと、それはそれでショックだった。

所詮は魔物を倒すための武器とはいえ、ずっと使っていればそれなりに愛着も湧く。

戦斧ほどではないが、コイツも奈落で苦楽を共にした武器の一つだ。そう思えば、一層と愛着が湧いてしまうわけで……。

「い、依頼も達成しているし、今日はこの辺にしておきましょう! 武器は冒険者の命ともいえるものだし、壊れたらショックを受けるわよね!」

しょんぼりとしている俺の心中を察してくれたのか、エリシアが暗さを払うように明るい声音で言う。

別にまだまだ探索はできるが、大剣が砕けたことが思いのほかショックでどうにもやる気が出ない。

この日はエリシアの優しさに甘えて、仕事を切り上げることにした。