軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

精霊魔法

パーティーを組むことになった俺たちは依頼を受けるために冒険者ギルドへ向かった。

ギルドの中に入ると、視線が一気に集まる。異様な視線に驚くが、視線を集めているのは俺じゃなく隣にいるエリシアだ。

これだけの美人であり滅多にお目にかかれない種族であるエルフだ。人々の視線が集まってしまうのも無理はない。

「依頼を見に行きましょう」

「そうだな」

エリシアは注目されるのには慣れっこなのだろう。

集まる視線を特に気にした様子もなく掲示板へと歩いていき、俺も後ろを付いていく。

掲示板には様々な依頼が貼り出されている。

清掃や、荷運び、配達、買い出しといった雑用依頼、街の外にある薬草や木の実といった素材採取や街道や森に出没する魔物の討伐と様々だ。

冒険者は依頼主からの多岐に渡る依頼をこなし、報酬を得て生活するわけだ。

「おいおい、エルフの姉ちゃん? お前、そんな男と一緒に組むってのか?」

「瘴気漁りと組むより俺たちと組んだ方がよっぽどいいぜ? こっちにこいよ」

掲示板を眺めていると、冒険者の男たちがそんな風に声をかけてくる。

俺を見下しているいつもの連中だ。

「……瘴気漁り?」

エリシアは男たちにまったく取り合う様子はなかったが、俺の呼び名が気になったようだ。

「俺の悪い二つ名みたいなものだ。瘴気迷宮の低階層でばかり活動していたからな」

「でも、ルードのユニークスキルを考えれば、あそこで活動するのは当然でしょ?」

「まあ、俺みたいに歳をくってるのに万年Eランクとくればバカにされるのも仕方がねえよ」

「ええ!? あれだけの実力があってEランクって嘘でしょ!?」

なんて言うと、エリシアが驚いた顔になる。

そういえば、エリシアに俺のランクを伝えていなかったっけ。それは悪いことをした。

「おい、話を聞いてんのかよ!?」

「エルフだからってお高く止まってるんじゃねえぞ!」

事情を説明しようとすると、ずっと無視されていた男たちは頭にきたのかエリシアの肩を無理矢理掴む。

「触らないで」

振り返りながらのエリシアの言葉に男たちは身をすくませて何も言えなくなってしまう。

彼女が殺気と魔力による圧を飛ばしているせいだ。

レベルが下がってしまっているとはいえ、全盛期はSランクだった魔法使い。

修羅場を潜り抜けた数は並外れたものではなく、今でも魔力の数値は突出している。

常日頃、ギルドで弱いものにちょっかいをかけることしかできない、くだらない男たちが敵う相手ではなかった。

「失せなさい」

「ひ、ひい!」

エリシアが殺気と魔力による圧を緩めると、男たちは情けない声を上げてギルドから出ていった。

エリシアが綺麗なだけの女性ではないとわかったのか、集まっていた好奇の視線は霧散した。

「で、Eランクっていうのは本当なのね?」

「ああ、強くなったのはつい最近だからな」

「だとしたらルードのランクを上げるのが先決ね。強くなるためにもランクは上げておいた方が都合はいいし」

「手伝ってくれるのか?」

「当然よ。私たちはパーティーだもの」

「お、おう。そうか。パーティーだもんな」

今まで臨時でパーティーを組んだことは何度かあったが、ロクなものではなかった。

そんな環境にいた俺からすれば、仲間のためを想うエリシアの言動が眩しく感じられた。

「ルードがランクアップのためにこなすべき依頼ってなにかしら?」

「討伐依頼だな。逆にいえば、それ以外の依頼は概ねこなしている」

雑用依頼、採取依頼、斥候依頼なんかは積極的にこなしていたために、ギルドに証明するべきものは冒険者としての単純な強さだろう。

「だったらグレイウルフの群れの討伐なんてどう?」

エリシアが掲示板から一つの依頼書を引っぺがす。

そこに書かれているのはグレイウルフ十体の討伐だ。

グレイウルフは単体での強さはそこまで大したことがないが、大抵が群れを形成して動いているためにEランクの冒険者が討伐するには難易度が高い。

しかし、俺のレベルもかなり上がっている上に、今は魔法使いという頼もしい仲間がいる。

予期せぬ群れに遭遇したとしてもエリシアの魔法で殲滅することができるだろう。

「わかった。それを受けよう」

「決まりね!」

イルミのいるカウンターで受注手続きを済ませると、俺たちは街の外に出ることにした。

バロナから南へと伸びている街道はジグザグとしながらも遠くまで伸びている。

街道付近には豊かな草原が広がっており、そこには灰色の体毛をした六本足の狼の魔物が群れで歩いていた。

「いたわね」

近くの森に棲息していたグレイウルフが繁殖して数が増えたことによって、普段はあまり出没することのない街道にまで出没し、商人や旅人が困っているようだ。

グレイウルフ

LV11

体力:35

筋力:28

頑強:22

魔力:13

精神:10

俊敏:42

スキル:【嗅覚】

【鑑定】をしてみるとレベルの平均はこんなものだった。

目ぼしいスキルがあるとすれば鼻がよく利くようになる【嗅覚】スキルだろう。

「近くに見える個体は五体だが、かなり奥にある木の傍にもグレイウルフの群れが見えるな」

「数は七体。戦闘をすれば、すぐに音を聞きつけて合流してくるわね」

そういえば、エリシアも【遠視】を持っていたな。

数百メートル先の光景ならば彼女も見えるのだろう。

「近くにいるグレイウルフは俺が倒す。合流しにくる奴等は任せてもいいか?」

「いいわよ」

苦笑するエリシアから視線を外すと、俺は背負っていた大剣を引き抜いてグレイウルフの群れへと飛び込んだ。

グレイウルフたちには俺が急に現れたように見えたのだろう。

驚きながらもすぐに後退して距離を離そうとするが、動きがかなり遅い。

大剣を横薙ぎにして後退しようとするグレイウルフの三頭を両断した。

二頭の仲間が崩れ落ちる間に体勢を整えたのか、残っていた二頭が僅かに時間をずらして挟み込むようにして飛びかかってきた。

レベル7の俺ならば為すすべもなかっただろうが、今の俺の身体能力ならば十分に見切って対処できる。

大剣をすぐに引き戻して左手を狙ってきたグレイウルフの首を峰で打つと、そのまま地面に突き立てるようにしてもう一頭のグレイウルフの頭蓋を貫いた。

「グオオンッ!」

五体のグレイウルフを討伐すると、遠くにいたグレイウルフたちが音を聞きつけて合流しにきたようだ。

予想通りの出来事なので特に慌てることもない。

戦闘が早く終わったので余裕を持って対処できるのだが、今の俺には頼もしい仲間がいる。

「増援は任せた」

「ええ! せっかくだし、私のユニークスキルを見せてあげるわね!」

エリシアが声を上げると、彼女の傍にどこからともなく翡翠色の光を纏った少女が現れた。

少女の周りには風が渦巻いており、可愛らしい見た目とは裏腹にかなりの力を秘めていることがわかる。

恐らく、あれが精霊なのだろう。

「シルフィード!」

猛然と駆けてくるグレイウルフをエリシアが指差すと、風の精霊はふわりと宙を舞って怒涛のような勢いで風刃を放った。

ひとつひとつの風刃が大きい上にそれが視界を埋め尽くすほどの数だ。グレイウルフは避けることもできずに体を切り裂かれた。

風の乱舞が終わると、そこには体をズタズタにされたグレイウルフたちが血の海に沈んでいた。

生き残っているものは一体としていなかった。

「やっぱり、全盛期ほどの威力は出ないわね」

俺からすればあり得ないほど威力なのだが、エリシアとしては大層ご不満らしい。

昔はステータスが今の三倍くらいあったと考えると、威力はこんなものじゃなかったのだろう。

そう考えると、Sランク冒険者というのは恐ろしいな。

「これが精霊魔法ってやつか?」

「ええ、これが私のユニークスキル。自然界に存在する精霊の力を借りて、魔法を行使することができるわ」

「へー、精霊っていうのはどこにでもいるものか?」

「その土地にもよるけど基本的にはどこにでもいるわ。特別なスキルや素養がないと見えないけど」

キョロキョロと見回す俺を見て、エリシアが苦笑する。

やはり一般人に精霊には見えないようだ。

稀にスキルを持たないものでも素養があったり、精霊に好かれやすい性質の者がいるらしい。

シルフィードを眺めていると俺の頭の上に着地する。

お? もしかして俺は精霊に好かれるタイプか? などと思っていたらシルフィードは俺の髪をめちゃくちゃに撫でたり、引っ張ったりし始めた。

さすがに鬱陶しいので手で払うと、シルフィードは楽しそうに笑ってちょっかいをかけてくる。

「なんだこいつ」

「シルフィードは悪戯好きだから、そういった反応を見せるとますます面白がるわよ」

エリシアの言う通りで俺が反応するほどに、するほどにシルフィードのちょっかいは悪化していく。

もはやどうにでもなれという気持ちで反抗を諦めると、シルフィードはちょこんと俺の頭に座った。

しかし、大人しくするつもりはないらしく、俺の髪を掴んだり、勝手に結んだりと自由にやっていた。もうどうにでもなれ。

「エリシアはどの属性の魔法でも使えるのか?」

「精霊との相性によるわ。私と一番相性がいいのは風の精霊ね」

エリシアが指で撫でると、風精霊はくすぐったそうにしながらも嬉しそうに笑う。

本当に仲がいいらしい。

「他にはどんな属性が使えるんだ?」

「水、氷、光、土が得意よ」

「闇や火は?」

「その二つは私とあまり相性が良くないみたいで、力を借りてもいい結果が起きないわね」

なんでも相性の悪い精霊になると莫大な魔力を対価として要求されたり、そもそも力を貸してくれないなんてこともあり得るらしい。すべての属性を使いこなせるわけでもないようだ。

「精霊魔法は魔力を消費するのか?」

「勿論、消費するわ。精霊から力を借りるには魔力を対価にする必要があるの」

やはり魔力消費無しでぶっ放せるような都合のいいものではないようだ。

あれだけの威力があるのだから当然か。

「俺は魔法にあまり詳しくねえんだが、普通の魔法を使うのとどう違うんだ?」

「精霊魔法の大きなメリットは二つあるわ。一つは少ない魔力で高出力の魔法を繰り出せること。もう一つは魔法よりも曖昧な事象を引き起こせることよ」

「一つ目はわかるが、二つ目の曖昧な事象っていうのはどういうことだ?」

「口で説明するよりも体験してもらった方がわかりやすいかもしれないわね。シルフィード、お願い」

エリシアが声をかけると、風精霊はこくりと頷いてこちらにやってくる。

風精霊は楽しそうに周囲を飛び回ると、風を起こしてふわりと俺の身体を持ち上げた。

俺の足があっという間に地上から離れ、上空へと持ち上げられていく。

「うおおおお、なんだこりゃ!?」

「シルフィードの風の力で私たちの身体を浮かせているのよ」

戸惑っていると、同じく精霊の力で空へと浮いてきたエリシアが説明してくれた。

「風で空に浮く!? そんなことができるのか!?」

「魔法じゃかなり難しいし、できても一時的で魔力効率が悪いからできても実用的じゃないわね。でも、精霊に頼めばこういった事もできちゃうわ」

精霊の力を借りて自由自在に空を飛んでみせるエリシア。

空を飛ぶ魔法使いなんて初めてみた。

なるほど。確かにこういった事象は一般的な魔法では不可能に違いない。

精霊魔法の理解が進んだところで俺は地上へと下ろしてもらう。が、シルフィードが最後に放り投げるように俺を捨てた。

「いてっ」

お尻を擦りながら睨みつけると、シルフィードはくすくすと笑って消えた。

「シルフィードに気に入られたわね」

「あれでか?」

「そうじゃなかったら私が頼んでも力を貸してくれないし、近寄らせてもくれないわ」

エリシアの基準ではそうらしいが、俺には玩具にされているような気しかしないな。

「あっちにもまだグレイウルフがいるみたいね」

「ならあっちも討伐しておくか」

依頼では十体の討伐が目標であるが、別に十体で留める必要はない。

繁殖して街道にまで出没しているのであれば、多く討伐しておくにこしたことはない。

俺とエリシアは街道にいるグレイウルフを次々と討伐していくのだった。