軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

瘴気漁りの冒険者

ここは大陸の東に位置するルディアス王国の辺境にある小さな都市バロナ。そこにある瘴気迷宮の六階層で俺は弱い魔物を狩りながら素材を採取してお金を稼いでいた。

この迷宮は瘴気で満ちている。すべての階層は紫がかった瘴気に覆われており、生物である以上瘴気をから逃れることはできない。

呼吸をするだけで瘴気状態となりステータスが低下する。それだけでなく吐き気、酩酊といった症状によりコンディションも悪化し、魔物との不利な戦闘は避けられない。

そんな中、どうして俺はこの迷宮で平然としていられるのかというと、俺には【状態異常無効化】というユニークスキルがあるからだ。

そのためステータスやコンディションの低下を受けないがために俺にとっては、この迷宮は美味しい日銭の稼ぎ場なのだ。

「……よしよし、今日もたくさんあるな」

紫がかった霧に覆われた小広間に薄ぼんやりとした翡翠の光。瘴気に侵された迷宮の中で唯一そこだけが正常な空気を放っているのは瘴気草という瘴気を浄化することができる草が生えているから

だ。

瘴気草があれば、この迷宮のように瘴気に覆われている環境でもステータスの低下を軽減し、コンディションの悪化を和らげてくれる。そのために悪環境を探索する冒険者にとって非常に人気の素材

だ。

冒険者ギルドで十束も売れば、六千レギンは硬い。

これでまた三日は屋根のある宿で温かい食事を摂ることができるだろう。

瘴気草を十五束ほど採取すると、俺は今日の採取を切り上げるべく通路を引き返す。

「チュチュッ!」

すると、通路の先から瘴気鼠が三体やってきた。

この迷宮の低階層ではありふれた低級の魔物だ。

しかし、低レベルである俺からすれば、非常に厄介な魔物である。

名前:ルード

種族:人間族

状態:通常

LV7

体力:22

筋力:18

頑強:16

魔力:9

精神:7

俊敏:15

ユニークスキル:【状態異常無効化】

スキル:【剣術】【体術】

属性魔法:【火属性】

これが俺のステータスだ。

ユニークスキルのお陰で六階層まで潜れているだけで、そもそもここの階層の適性レベルではない。

ここにやってくるにはレベルが最低でも十は必要で、遭遇する魔物のステータス値はすべて格上だ。

ありふれた低級の魔物といえど、油断できるはずがなかった。

ステータス値が相手の方が高い以上、逃げることはできない。やるしかない。

俺はすぐに意識を戦闘に切り替えると、剣を構えて瘴気鼠に相対する。

「ヂュッ!」

瘴気鼠の一体が身体を震わせて身に纏う瘴気を飛ばしてくる。

通常の人間なら瘴気状態になることを嫌がって防御、あるいは回避行動をとるだろう。

しかし、俺には瘴気を無効化するユニークスキルがあるために構わず瘴気に突っ込み、そのまま一体の瘴気鼠の頭を叩き切った。

「ヂュッ!?」

この迷宮に棲息する魔物ならまだしも、まさかただの冒険者が平然と瘴気に突っ込んでくるとは思っていなかったのだろう。残った瘴気鼠の二体が狼狽した様子を見せる。

すかさず俺は狼狽している瘴気鼠の喉を切り裂く。が、残っている瘴気鼠の体当たりによって身体が吹き飛ばされてしまう。

全長三十センチを越えており、ステータスが俺よりも上なので衝撃は途轍もない。

だからといってうずくまってしまえば瘴気鼠になぶられることは目に見えているので、横っ腹の鈍痛を堪えながらすぐに体勢を立て直した。

二体の仲間をやられて瞳に怒りを燃やしている瘴気鼠と、必死に剣を構えている冒険者。

幼い頃はドラゴンなどの伝説の魔物と剣を構える冒険者に憧れはしたものの、現実は低階層の鼠三匹に手間取る始末。

なんて泥臭くて格好悪いんだろう。

子供の頃の俺に言い聞かせたら、幻滅すること間違いない。

「火球!」

なんて自嘲気味なことを考えていると、不意にそんな声が響いた。

嫌な予感がした俺は、身を投げるようにしてその場から逃れた。

すると、さっきまで俺のいた場所を炎の球体が駆け抜けていき、直線状にいた瘴気鼠に直撃。

燃え盛る炎に包まれた瘴気鼠は断末魔の声を上げて、くったりと動かなくなった。

「うはぁ! 外れた!」

「ハハハハ! 外してやんの」

「だから、もうちょっと近づいてから撃てって言ったんだよ」

呆然としながら振り返ると、後ろの通路から下卑た笑い声を上げながらやってくる冒険者がいた。

冒険者ギルドで何度も見かけたことのある奴等だ。

確か名前はマグナス、ロンド、リグルドだ。

どうやらあいつらが横やりを入れてきたらしい。

「あー、悪いね。ルード君だっけ? 大丈夫? 苦戦しているように見えたから援護しようと思ってね」

火球を撃ってきた魔法使いのマグナスがわざとらしい笑みを浮かべて手を差し伸べてくる。

……俺を狙って撃った癖によく言う。

「気持ちは有り難いが、援護をするつもりなら一声かけても耐えると助かる」

「ええー? だから火球って言ったんだけどなぁ?」

手を借りることなく立ち上がって言うと、マグナスは不服そうな顔を見せる。

それは一声っていうより詠唱じゃねえか。

正面から文句を言ってやりたいところだが、俺が苦戦していたことは事実である上に、三人を相手に諍いを起こすのは得策ではなかった。

「おい! 見ろって! やっぱり瘴気草の群生地があるぜ!」

気持ちを落ち着かせるように深呼吸をすると、ロンドがはしゃぎ声を上げた。

群生地というのはさっきまで俺が瘴気草を採取していた小広間のことだ。

「おっ、本当だ! さすがは瘴気漁り!」

「無駄に瘴気迷宮の浅い階層で活動してないな!」

口々に上げた声を聞いて、俺は奴等がどうしてここにいたのか理解することができた。

「お前たち……まさか、俺の採取場を狙うために後をつけてきたな?」

「はぁ? 人聞きの悪いことを言うんじゃねえよ?」

「俺たちはただ瘴気迷宮に入って、冒険者として日銭を稼いでいた。そこでたまたま同業者であるルードと出会って助けてあげた。それだけだろう?」

「というか、助けてもらっておいて礼の一つもなく、さっきから文句つけたり、俺たちをハイエナ扱いするって人としてどうなの?」

ハッキリと指摘するとマグナス、ロンド、リグルドが剣呑な雰囲気を漂わせながら言ってくる。

瘴気草を採取しながらシレッと武器に手をかけている。武力行使も辞さないといった様子だ。

三人の胸ポケットには瘴気草が入っており、この迷宮の瘴気を軽減している。

俺みたいに完全に状態異常を無効化できているわけではないが、火球に込められた魔力からしてこいつらの方が明らかにレベルが高いのは明らかだ。敵うわけがない。

「疑うようなことを言ってしまってすまない。それとさっきも助けてくれてありがとう」

「おう、わかればいいんだよ」

「冒険者は助け合いだしな!」

「また何か困ったことがあったら言えよ?」

頭を下げて謝罪すると、三人は剣呑な空気を引っ込めて満足そうな笑みを浮かべた。

クズ共が……。

瘴気草を夢中になって採取している三人の背中を見て毒づき、俺はその日の採取活動を切り上げることにした。

瘴気迷宮から都市バロナに戻ってくると、俺は採取した瘴気草を換金するために冒険者ギルドに向かった。

ギルドの入り口に入ると、正面にある依頼発注、受注のカウンターではなく、左手にある討伐査定用のカウンターへ移動。

カウンターには俺と同じように採取した素材や討伐した魔物素材などを手にして並んでいる冒険者が並んでいる。その多くが四人組、三人組のパーティーを組んでいる。一人で並んでいるのは俺くらいのものだ。

そんな中、目の前に並んでいる女冒険者がこちらを振り向いた。

後ろに並んだ奴が知り合いかどうか確かめるために自然な動作。特にこれといった意味はない。

知り合いでなければ適当に会釈でもして視線を逸らすのが普通なのだが、その女はニヤリと意地の悪い笑みを浮かべながら口を開いた。

「なんか変な匂いしなーい?」

「ああ、【瘴気漁り】のせいだろ? さっきから瘴気臭くてしょうがねえぜ」

「マジあり得ないんだけどー」

瘴気漁り……瘴気迷宮ばかりに潜って採取を繰り返す俺に付いた通り名だ。

もちろん、それがいい意味ではないことはご覧の通りだろう。

レベルが低いせいもあるが、この通り名のせいで俺はまともにパーティーを組めないでいる。

瘴気迷宮に潜っていたからといって匂いがつくわけがないのだが、忌み嫌われている迷宮に長年潜っているとなると嫌われるのも仕方のないことか。

いやらしい笑みと皮肉の言葉をシャットアウトするように目を瞑った。

ギルドで瘴気草の買い取りを済ませた俺は、拠点にしている『満腹亭』という宿に戻った。

俺がこの宿を選んだ理由は、食事がとにかく安くてボリューミーだからだ。

味もそれなりのもので一般人からすれば、十分に美味い。

大飯食らいの冒険者でもここで千レギン分もの料理を頼めば大抵は満腹になるといえば、いかにボリュームのある料理を提供しているかわかるだろう。元々食べることが好きな俺は豪勢に注文して、

料理を食べていく。

「今日はいつにも増して食べますね!」

俺の食べっぷりを見て、給仕の娘が声をかけてくる。

「臨時収入が入ったからな。自分へのご褒美ってやつだ」

「なるほど。それならじゃんじゃん頼んでください!」

「ああ! エールを頼む!」

「はーい!」

なんて景気がよさそうに振舞ったが、瘴気草の買い取り額は七千レギン程度。

満腹亭での宿泊費は一日千五百レギン。装備のメンテナンスや道具の補充などを考えると、とても豪勢に頼めるわけではないが食べないとやっていられなかった。

瘴気迷宮に現れた三人組の冒険者のせいで、あの採取場はもはや俺だけの場所ではなくなった。あいつらの採取の仕方は非常に乱雑なもので次の採取のことはまるで考えていなかった。

恐らく、あの採取場が枯れてしまったら、また俺の後をつけて美味しい採取場を見つければいいなんて思っているのだろう。

「……ちくしょう、やってらんねえ」

憂さ晴らしをするように一気にエールを煽ってみるが、俺のユニークスキル状態異常無効化はお酒による酩酊すら完全に無効化するようで微塵も酔う様子はなかった。

杯を重ねても永遠に素面のままだ。

「酒に酔って現実から目を背けることすらできねえ」

ユニークスキルと言えば、聞こえはいいが実際はただの外れスキルだ。

状態異常を無効化してくれるだけで、それ以外では何の役にも立たない。

そもそも状態異常攻撃を仕掛けてくる魔物の総数が少なく、一般的な冒険をしていると出会うことすらないのが現状だ。

「……どうせ授かるならもっとマシなユニークスキルが良かったぜ」

ハッキリとした意識のまま呟かれた俺の言葉は、食堂の喧騒に溶けて消えていった。