軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

79:日色登場

「む? どなたですか?」

アホ毛の子供が突如現れたオーノウスに視線を向けて小首を傾げる。

「ほう、見たところ『魔人族』のようだが、俺を知らないか?」

「知らないですぞ!」

オーノウスは周囲を見回し、吹き飛ばされた『魔人族』を見ると、鋭い視線を子供にぶつける。

「アレはお主が?」

「そうですぞ! 何やら大声で叫んでいたので止めたのです!」

「…………」

オーノウスは子供を見て、こんな子供が仮にも『魔人族』の兵士を倒すとはと怪訝な表情を作る。

『魔人族』は総じて身体能力が高い。たかが子供の攻撃でどうにかなるとは思い難い。だが倒れている『魔人族』の横っ腹には、小さな拳の後がくっきりと残っている。

(一撃で……? この子供……できるな)

オーノウスは冷静に子供の戦闘能力を分析して、子供だからといって舐めると危険だと判断した。少なくともそちらで怯えた顔を見せている勇者たちよりは強者だ。

「一つ聞こう。大声を出したから止めたと言ったが、お主はそこにいる勇者の仲間か?」

「……はい? 勇者とは誰のことですかな?」

キョトンと首を傾けている。そんな子供の姿には嘘をついているとは判断できなかった。つまり子供は勇者とは関わりが無いということ。

「……ならばこの場から去れ。俺はそこの勇者たちに用があるのでな」

オーノウスが睨みつけると、勇者たちはビクッと身体を震わせる。

だがそんなオーノウスの言葉に口を尖らせて反抗したのは子供だった。

「そうはいかないのですぞ!」

返答に少し驚いたように目を開く。仲間ではないのに何故拒否するのか理由が分からない。

「……何故だ?」

すると子供は早口で言葉を投げかけてくる。

「ここで何かするつもりなのですな? また騒がしくするつもりなのですな?」

「……何を言っている?」

「駄目ですぞ! ぜ~ったい駄目ですぞ! そんなことをすれば……」

「……?」

「駄目です駄目です駄目です駄目です駄目ですぞぉぉぉぉぉっ! ぜ~ったいにそんなことは駄目ですぞぉぉぉぉぉぉっ!」

首をブンブン振りながら全力で否定してくる。

そしてピタっと止まったと思ったら、大きく息を吸って――。

「そんなことをすれば師匠が起きてしまうではないですかぁぁぁぁぁっ!」

耳をつんざくほどのとてつもない叫び声が周囲に響く。

オーノウスも思わず顔をしかめてしまう。

そしてその結果――――――――――――ポカッ!

「ぬわぁっ!」

突然子供の頭に枕らしきものが飛ばされてきた。

それに命中した子供は、そのまま勢いに押し潰されて地面に後頭部を打つ。

「ぬわぁぁぁっ! い、痛いぃぃぃ! 痛いですぞぉぉぉ!」

ゴロゴロと頭を押さえながら地面に転がり始める。

大志たちは子供の行動に目を奪われていたが、オーノウスだけは違うところを見ていた。

それは近くにある建物の二階にある一室。その窓から一人の人物が姿を現しているのを、その目で確認していた。

今子供に枕を投げつけたのは間違いなくその人物だと判断し警戒の視線を向けていたのだ。

そしてその人物は眉を大いにしかめながら不機嫌そうにこう言う。

「―――――お前が一番うるさい!」

そこには赤いローブを身に纏った『インプ族』の男がいた。

その日は、今朝まで本を読んでいたので寝不足だった。

だから丘村日色は、今日は一日寝通すと決めて、仲間たちにその旨を教えて部屋へと向かった。

そこは宿屋の一室であり、この【魔国・ハーオス】に来て、もうかなり世話になっている部屋だった。

かなり世話になっているとはいっても、この国に来てまだ一週間ほどになる。それまでは魔界を回り大いに満喫していた。

様々な『魔人族』の集落、山や海、危険区域に指定されているモンスターの巣窟など、それこそこの半年でいろいろ回った。

無論まだ隅々まで回ったわけではないが、旅仲間にこの【魔国】に用事ができたので向かうと言われてそのまま来た。

今思えば休み無しにひたすら動き回っていたように思える。それこそ旅仲間が急にモンスター狩りに目覚めたり、人助けを買って出たりと好き勝手していたので、それに振り回されていた日色は激務の毎日を送っていた。

しかし退屈だけはしなかった。美味い食べ物、珍しい書物などそのお蔭でたくさん出会うことになった。

それにモンスター狩りなどに付き合っている間に自身のレベルも、召喚された時と比べると目を疑うほどの成長を得ていた。

だから仲間に振り回されて鬱陶しく思っていても、それで自分に得るものが多くあったので完全に否定はせず付き合うことにしていたのだ。

そして今回もこうして【魔国・ハーオス】にやって来たのだが、せっかくだからと日色の目的だった《フォルトゥナ大図書館》の王族閲覧許可がいる《深度5》の書物などをこの目で見るために、許可を得るよう仲間に頼んであるのだ。

今回その仲間の言葉でここにやって来たのだから、当初の予定通り《深度5》に入れるようにしてもらわなければならない。

だがここ一週間、その仲間が音沙汰無しなので、結構苦労しているのかもしれない。

実はその問題は半ば解決に至っているのだが、戻ってこない仲間にはそれは伝わらない。まあ、戻って来てから話せばいいと思っているので気にはしていない。

そんな今日も、どうせ音沙汰無いのだろうと思いながらベッドで休んでいると、何やら外が騒がしい。

宿屋の中も慌ただしく人がバタバタと、まるで何かから逃げるように走る音がする。

いや、騒がしいというレベルでは無かった。

まさに轟音、建物が崩れる音や刃物同士が擦り合う音。

爆発音やら何やらで、日色は徐々に苛立ちを溜めていった。

(何なんだ今日は……祭りでもあるのか?)

いまだにベッドに横になりながら、心地良かった眠気が無残にも失われていく感覚に不機嫌度が高まっていく。

(アイツめ……何やってるんだ)

イライラしながらも、寝る前に仲間の一人に「絶対起こすな」と厳命しておいたことを思い出す。

言外には騒がしくしたらどうなるか分かってるな? という意味も含まれているのだが、それを理解しているのか仲間の一人はビシッと青ざめた様子で敬礼していた。

そいつは馬鹿だが言うことは聞く奴なので一応信頼はしていたのだが、どうやら奴の手に負えないほどの騒ぎになっているらしい。

何故なら微かに聞き覚えのある声がしているからである。

「コレェ! もう少し静かにできないのですか! 師匠が起きてしまうではないですか!」

アイツの声だった。どうやら騒ぎを鎮めに出ているようなので、後は奴に任せてこちらは静かに惰眠を貪ろうと再び瞼を落とす。

「あ~もう! これだけ騒がしくするとはぁ! 師匠の寝起きの悪さ知っているのですか! この前なんてちょっと目覚めが悪かったからと言って、ボクを魔法の練習台にしたのですぞぉ!」

ピクリと眉を動かして、少し声を張り過ぎだなアイツと言った感じで寝返りをうつ。

「もし師匠が起きて不機嫌だったら責任とってほしいですぞぉぉぉぉぉ!」

またもピクリと眉を動かす。叫び過ぎでこちらにもハッキリ声が聞こえている。正直うるさい。

しばらく声のトーンが小さくなったが、それでもすぐそこで話をしているのが聞こえる。もっと他でやれよと思いながらもまた寝返りをうつ。

「駄目です駄目です駄目です駄目です駄目ですぞぉぉぉぉぉっ! ぜ~ったいにそんなことは駄目ですぞぉぉぉぉぉぉっ!」

ピキ……。

今度こそ額に青筋を立てて、日色は目をゆっくりと開ける。

そして静かに起き上がり赤いローブを羽織る。

ベッドの上から枕を右手に掴むと、ドンドンドンドンと床を叩くような怒気を込めた足取りで窓へと向かう。

「そんなことをすれば師匠が起きてしまうではないですかぁぁぁぁぁっ!」

自分の目を完全に覚ましやがった敵に向かって、勢いよく枕をぶん投げる。

それが見事に命中し、敵はダメージに苦しみ地面に転がった。

そしてそんな馬鹿な敵に対し、不愉快面百パーセントでこう言う。

「お前が一番うるさい!」

的であるバカ弟子――ニッキの撃退に清々していた日色だったが……。

見れば、外は地獄絵図と化していた。

思わず呆気に取られたが、どうして今朝まで平和だった【魔国】がこんなことになっているのか思案する。

周囲を見て、様々な光景を目に映す。多くの『獣人族』、そして兵士と思われる『人間族』。その者たちと戦っている『魔人族』。

頭をかきながら小さく何度も頷く。

(なるほどな……)

そしてゆっくりと視線を下に向けると、そこには先程枕を投げつけて痛みにもがいている馬鹿と、それに対峙するように立っている獣人。見た目が完全に狼のような顔なので間違いないだろうと判断する。

(…………ん?)

そこで地面に座り込んでいる四人を視界に入れた。何やら『人間族』のようだが顔に血の気が無く、恐怖で彩られていた。

(あれ? アイツらどこかで見たこと…………ないな)

どこかで見た顔だと思ったが、記憶を探っても即座に解答が出てこなかったので、思い出すのもめんどくさくなり知らないと判断した。

(そんなことよりもこれは…………)

日色はいちいち階段を使って下に降りるのも面倒だったので、立てかけてあった刀を携帯し、そのまま窓から飛び降りた。

スタッと地面に降りると、いまだに頭を押さえて蹲っているニッキの近くにいき、ポカンと頭を小突く。

「のわっ! し、師匠!?」

子供はようやく日色の存在に気づき、慌てて立ち上がる。

「おいバカ弟子、今日は」

「あ、あああこ、こここれはですね師匠! いや、ボクも必死に止めたんですぞ! うるさくしないで頂きたいと! ど、どうかその頑張りだけは認めて頂きたく」

ポカンとまた小突く。

「のわっ! い、痛いですぞ師匠!」

涙目で上目使いに見上げてくるが、日色は仏頂面で言う。

「話を聞け」

「あ、は、はいですぞ!」

直立不動で口を一文字に結び日色からの言葉を待つ。

「今日は何日だ?」

「はい! 今日はグウィリスの十の日ですぞ!」

グウィリスというのはこちらの世界で四月という意味だ。四月十日ということだ。

それを聞いた日色は小さく「しまった……忘れてたな」と呟き少しだけ顔をしかめる。

「し、師匠?」

そんな日色の姿に疑問を感じたようでそっと聞いてくる。

「ん? ああ、ほら前に戦争が起こるかもしれないという話をしただろ?」

「あ、はい。この前師匠が奇妙な女性からお声をかけられた件ですね?」

「ああ」

「それが……あ、ま、まさか……」

「そのまさかだ」

ニッキの顔が見る見る引き攣っていく。

「今日が戦争らしい」

「何ですとぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!?」

「やかましい」

「のわっ!」

またもポカンと頭を叩いて黙らせる。

しかしニッキもそれに対抗するように言葉を返す。

「し、しかしですぞ師匠! そんな大事な日をお忘れなど普通は有り得ないですぞ!」

「黙れ。お前こそ教えたのに忘れていただろうが」

「う……そ、それは……」

日色の言う通りだったので、とても言い返せないらしい。

だがその時、そんな二人を大人しく見守っていたオーノウスが口を開く。

「少し聞いてもいいか?」

日色とニッキはチラリと彼に視線を送る。

「何だ?」

「お主たち、何者だ?」

「ひ、人に名前を尋ねる時はまず自分からが常識ですぞ!」

ビッと指差すニッキを見て、少し唖然とした彼はフッと息を漏らし、

「そうだな、それは失礼をした。ならこちらから名乗ろう。俺は《 魔王直属護衛隊(クルーエル) 》の《序列四位》。名をオーノウスと言う」

(ほう、コイツが《クルーエル》か……)

日色は観察するように彼を見つめる。《クルーエル》という存在は聞いたことがあるので知っている。

(コイツがあの女を護衛する奴か……なるほどな、確かに雰囲気あるな)

オーノウスが只者ではないということはその佇まいから伝わってくる。それは日色の今までの戦闘経験から培われた感覚が成せるものだった。

「む~師匠、くる~えるというのは何なのでしょう?」

首をコクンと傾けて質問してくる。

「お前はバカか? あ、いやバカ弟子だったか」

「む~っ! バカバカ酷いのですぞ~!」

「黙れ。奴も言ってただろうが。魔王を守る護衛隊だと」

「む? ということは師匠の仰っていた女性の?」

「みたいだな」

なるほどと納得顔で何度も頷くニッキが、オーノウスに正面を向けるとふんぞり返った。

「名乗られたからにはこちらも名乗るのが常識! そうですな師匠!」

「そんな常識は知らんな」

「なはっ!? そ、そんな師匠~」

「ええい! くっつくな鬱陶しい!」

突然涙目で抱きついてくるニッキを無理矢理剥がす。

「い、いいから名乗るなら名乗れバカ弟子!」

「むむ、そうでした! ごほん! フハハハハハ! よく聞くが良いですぞ! 我のなまごほっ!」

「お前はどこの魔王だ!」

頭をまたも殴られ窘められる子供。

「お前また本に影響されたな? いつも言っているが、本を読むのはいい、だが登場人物をいちいち真似るのはよせ。こっちが疲れる」

「は、はいですぞ……」

シュンとなって項垂れる。そんな二人を見て、さすがのオーノウスも頬をかいてしまっている。

「改めまして! ボクはこちらにおわす師匠の一番弟子! 名前はニッキですぞ! 親しみを込めてニッちゃんと呼んでもよいですぞ!」

むふ~と鼻を膨らまし自慢げに胸を張っている。

「そ、そうか。覚えておこう」

ようやく自己紹介が聞けたので少しホッとしたのか、肩を竦めるオーノウスだった。

「して、そっちは?」

「何故教える必要がある? そもそも名乗られたからと言って」

「ヒイロ・オカムラ師匠ですぞ!」

………………………………………………………………。

思わず場が固まる。せっかくの日色節があっさりと崩れてしまった。そしてそれを成した人物は、隣にいる自慢するように胸を張っているバカ弟子だった。

――ボコッ!

「にゃうっ!」

今度はかなり強めに拳骨を落としておいた。

「い、痛いっ! 痛いですぞ師匠!」

「このバカ弟子が、勝手に人の名を名乗るな」

「う~申し訳ありませんですぞ~」

「ま、まあとにかくこれで互いの面識が終わったということでいいではないか」

何故かその場を取り持つようにオーノウスが言葉を出す。恐らくポカポカと殴られているニッキが不憫だと思ったのだろう。

日色はさらに不機嫌面をして腕を組んでいたが、そんな中、

「丘村……?」

確かめるような呟き声が聞こえてきた。

「は?」

日色はその声が自分の背後から聞こえてきたのでそちらに向くと、先程視界に捉えた四人がいた。

「ヒイロ・オカムラ……? 丘村日色……? いや、そんなわけ……アイツは人間で……けど声が……」

呟き声は青山大志だったのだが、彼は自分の知っている名前と同姓同名だったので、目の前の人物がその人だと思ったようだ。

しかし姿が『魔人族』である。自分が思っている人物は人間で、自分たちと同じように召喚されてこの世界に来た。

だから『魔人族』のわけがないのだが、名前と声があまりにもその人物を想起させるので、なかなか払拭できないでいるらしい。明らかに困惑している。

そしてそんな日色も四人をしばらく見つめてハッとなった。

(四人……人間……あ、そうか!)

ようやく記憶の残滓から引っ張り出したような答えを見出す。

「お前ら、リア充四人組か」

「リ、リア充? じゃ、じゃあお前本当に丘村……丘村なのか!」

リア充という言葉はこちらの世界には無い。

だから大志は日色のその言葉に、日色が自分たちが知っている人物だと判断したみたいだ。

(そういやいたなぁ、こんな奴らも)

当の本人は遠い日の思い出を思い出すように目を細めている。

「え……丘村? アイツが?」

鈴宮千佳も信じられない思いで日色を疑わしそうに見ている。

「で、でも姿が……」

皆本朱里も同様の思いだ。

「け、けど確かに丘村っちの声やし、眼鏡だってしとる。それにヒイロ・オカムラなんて名前、そこら辺にぎょーさんあらへんと思うし」

そう言った赤森しのぶも含めて四人、目を大きく見開いたまま固まっている。

そんな四人を日色は冷ややかに見つめる。この状況で綺麗なままの鎧姿。そして絶望に彩られた表情。いまだに震えているその身体。

「……なるほどな。国の傀儡としてここまでやって来たはいいが、現実を知って地べたを這いずっているってわけか」

嘲笑交じりに言う。

「な、何だと!?」

叫んでいるつもりなのだろうが、ちっとも声に強さが乗っていない。まるでひ弱ないじめられっこが、不良どもに向かって何かを言う時のトーンのようだ。

「……ま、お前らなんてどうでもいい」

「なっ……」

日色が興味を失ったかのように背中を向けると、四人は固まったように動かなくなる。

「おい獣人……だよなお前? 『魔人族』なのに獣人がトップクラスにいるとは少し驚いたが」

「確かに、俺は獣人だ。しかし『魔人族』でもある」

「…………なるほどな。ドジメイドと同じってことか」

「怒地冥土? それは奇怪な場所のようだが、そこにも俺と同じ存在が?」

オーノウスは完全に誤解しているのだが、日色も何を言っているんだと思って眉を寄せる。

「まあ、そんなことより、あの女は今会談中か?」

「あの女……だと?」

「魔王だ魔王」

「…………お主、陛下のことを気安く語るとは何事だ?」

静かな物言いだが、明らかに不審さを滲ませる睨みをぶつけている。

「何事だと言われてもな。オレはアイツと契約しているだけだ」

「け、契約?」

「しかしな……まさか『獣人族』まで攻めてくるなんて言ってなかったぞ。あの女、適当なことを言いやがって」

軽く舌打ちしながらこめかみを指で押さえる。

「ちょ、ちょっと待て、お主は先程から何を言って」

その時、上空から数人の襲撃者が向かって来た。

「おらぁぁぁぁっ!」

見たところ彼らは獣人の兵士だった。

「『魔人族』、覚悟おぉぉぉぉぉっ!」

日色は上空を見上げ、鬱陶しさを隠しもせずにに言う。

「やれ、バカ弟子」

「はいですぞ!」

ニッキは元気よく返事をすると、腰を少し落として構えると、力強く大地を蹴り空へと跳ぶ。

「アチョォォォォォ!」

「邪魔だガキがぁぁぁっ!」

下から向かって来るニッキに対し、獣人の男は剣を振り下ろす。

だがニッキは億すことなく、右拳に魔力を集中させていく。すると拳が青い光で輝き始める。

「な、何だっ!?」

「一撃決殺っ! ――《 爆拳(ばくけん) 》っ!」

ニッキが突き出した拳が、男の振り下ろす剣と衝突する。普通なら誰もが拳が真っ二つになると思う。

しかし結果は――――バキィィン!

剣の方が折れてしまった。いや、砕けてしまった。

「なっ!?」

そしてニッキの拳はそのまま男の腹に命中した直後、小規模だが爆発を引き起こした。その爆風で、他の獣人たちも衝撃に煽られ態勢を崩す。

スタッと降りてきたニッキは「やりましたぞ」的な感じで日色に向けてキラキラと目を輝かせる。

「まだ他にもいるだろ?」

本当は褒めてもらいたかったのだが、その言葉が無かったことに肩を落とす。しかし日色の言う通り、爆発を直に受けた者以外は、まだピンピンとしている。

ちなみに爆発を受けた男はというと、

「か……かは……が……」

黒焦げになってはいるものの死んではいないようだ。無論戦闘は続行不能ではあるが。

「凄まじい一撃だ。恐らく魔力を拳に宿らせ魔力爆発を起こしているのだろうが、それをあんな小さな童が身に着けているとは……それに今のもまだ全力では無い」

オーノウスが冷静にニッキの分析をしていた。

そしてニッキがただの子供ではない痛感したような険しい表情を見せる。

他の獣人も思わぬ伏兵がいたと思ったみたいで、こちらを警戒していた。

ジリジリと日色の前方でこちらの様子を窺っている。

(こう周りがうるさいと話もできんな……仕方無い)

日色はカツカツと、ニッキの横を通り過ぎる。

「し、師匠?」

ニッキだけでなく、オーノウスも日色の行動に訝しむ。

「下がってろバカ弟子。ゴミ掃除はこうやるんだ」

そう言うと、指先に魔力を宿していく。

しかもそれが両手の人差し指だ。

そしてゆっくり両手を動かしていく。

『引力』と『獣人』。

青白い魔力で書かれた文字が空に映し出される。すると獣人たちも日色の行動に対し、さらに警戒態勢を強め、その場から離れようとするが、

「逃げても無駄だ。《文字魔法》発動」

日色の言葉が終わった瞬間、

「う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

そんなふうに叫びながら、日色の目の前にいる獣人たちが次々と姿を現す。いや、引っ張り出されてきている。まるで掃除機にでも吸い込まれるように、日色に向かって来ている。

そして日色はゆっくりと腰に下げてある刀を抜き、そして――。

――ブシュブシブシュブシュッ!

目にも止まらない速さで飛んでくる獣人たちに斬りつけた。

「「「「がっ……っ!?」」」」

飛んできたのは四人だったが、四人が四人とも白目を剥いたまま地面に転がっていた。

「うおぉぉぉぉっ! さ、さすがは師匠ですぞ! このニッキ、感服致しましたぁ!」

ニッキは手放しで喜んでいたが、それを見ていたオーノウス、そして勇者たちは空いた口が塞がらない様子。特に勇者たちはその驚嘆ぶりは凄いものだった。

「あ……あれが丘村?」

「う、嘘……」

「す、凄いです……」

「み、見えへんかった……」

四人がそれぞれ無意識に言葉を出していた。

「ふむ……『インプ族』の少年。今の動きだけでも我々と同等……一体彼は何者だ?」

オーノウスも日色の評価を下していたが、とても一介の戦士だとは思えないほどの強さを垣間見て驚愕していた。

日色はカチンと刀を鞘に納めると、もう一度オーノウスを見る。

「おい狼、さっきの続きだが、魔王は会談に行ってるんだな?」

「あ、ああそのことだが、何故お主が陛下のことを聞く?」

「だからさっきも言ったろ? 奴との契約だと」

「だから何の契約だと言うのだ?」

段々とめんどくさく感じてきて不機嫌になっていく日色。

「はぁ、何故お前に言わなきゃならんのだ? それより会談なのかそうでないのかさっさと言え」

「む……怪しい輩にそうそう素直に教えるわけにいくものではない」

二人は睨み合うが、その間に何故かニッキが割って入ってくる。

「コレェッ! 師匠がお聞きしたいと仰ってるのですから、さっさと」

――ポカン!

「はうわ!」

「お前が喋るとややこしいから黙ってろ」

「う~でも師匠ぉ~」

殴られた頭を擦りながら恨めしそうに見上げてくるが、そんなニッキを無視して続ける。

「教えるつもりはないんだな?」

「お主が何者か答えるまではな」

「………………ふぅ、仕方無いな。面倒だが直接聞くことにしよう」

「……は?」

オーノウスはコイツは何を言っているんだという表情をするが、日色はまたも指先に魔力を宿していく。