軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

72:託された父の想い

「バカが!」

日色だけはその光景に対し、いや、その光景を生み出した直本人に対して苛立ちを露わにしていた。

何故ならモンスターの核の目前で、十字に構えられた双刀の動きが止まっていたからだ。

見てみると、モンスターはただ立ち尽くしているだけ。モンスターが何かをして攻撃を止めたわけではない。攻撃が止まったのはその攻撃を放っていたカミュの意思そのものだった。

「くっ……」

双刀が小刻みに震えている。

いや、刀だけでなく、それを持っているカミュ自身が震えているのだ。前傾姿勢のまま、顔だけを少し上げ、モンスターに視線を送るのだが、そのカミュの顔は悲痛に歪んでいた。

「……でき……ないっ」

モンスターも突然のことに戸惑っているのか、いまだにそのままである。

「だって…………父ちゃんの……匂いがした……」

「何をやってる! さっさとトドメを刺せ!」

日色は上空から降りてきてカミュに向かって叫ぶ。

「俺……俺……」

しかしカミュは目から一滴の涙を零れさせるだけ。

「俺……できないよ……父ちゃん……」

その涙を見たモンスターはハッとなり、その瞬間、殺気が小さくなったように日色は感じた。だがそれもほんの一時に過ぎず、すぐに先程以上の怒りと殺気をモンスターが漲らせる。

そしていつの間にかまた再生した尻尾の毒針をカミュに刺そうと動かす。

「長ぁぁぁぁぁぁっ!」

寸でのところでカミュを抱きかかえるようにして横に跳ぶジンウ。しかし完全にはかわせなかったようで、毒針がジンウの背中を抉ってしまう。

「ぐぅがっ!」

「ジンウ!?」

そのまま二人は地面に向かって倒れ、カミュはジンウに庇われ下敷きのようになっている。

「ジイサン! 時間を稼げ!」

「畏まりました!」

シウバも現況のマズさを把握したのか、すかさず先程と同様のナイフを生み出し投擲する。だがモンスターはその場から大きく後ろへ跳び避ける。

(ちぃ、もう回復しやがったのか!)

日色が与えたダメージは、もう大分回復させたのか、動きが甦っている。

モンスターが日色たちを忌々しそうに見回すと、口を大きく開けて息を吸い込みそして――。

――キィィィィィィィィィィィィィィィィン!

凄まじい高音を放ってくる。耳鳴りのような不愉快感が襲ってきて、思わず顔をしかめてしまう。

「そ、そうか、これが!」

日色はモンスターの行動の意味に気づいたと同時に、モンスターの声に同調するように周囲から鳴き声が聞こえてきた。

そしてボコボコッとモンスターの左右の砂が浮き上がり、その中から新たなモンスターが出現した。

「やはり、これが例のモンスターを呼ぶ能力か!」

「そのようでございますね。どうやら遠くの方からもゾロゾロと来られたみたいでございますよ?」

シウバの言う通り、少し距離は離れているが遠目にモンスターらしき影があちらこちらに発見できた。

すると遠くにいるモンスターに襲い掛かっている者たちがいる……『アスラ族』だ。

この状況は一応予想しておいたこと。だから周囲からこちらに向かってモンスターの増援がくることは無いだろう。

(まあ、いざとなったら赤ロリが動くみたいなことも言ってたしな。外のモンスターは無視していい。問題はここにいる……三匹だ)

一匹はもちろん砂漠のモンスター。そして他の二匹、一匹はグレーゴーレムと呼ばれる巨体漢のモンスターであり、もう一匹はマッドマンと呼ばれる身体が泥状のモンスターだ。

どちらも『アスラ族』から情報だけは聞いていた。Sランクのモンスターである。

本当は砂漠のモンスターがこうして増援を呼ぶ前に決着をつけたかったが、こうなった以上は、別の方法を考えなければならない。

「ジイサン、少し任せていいか?」

「……どうされるおつもりで?」

「あのバカを叩き起こす」

額に青筋を浮かべながら不機嫌そうに言葉を放つ。

「ノフォフォフォフォ! それはそれは、そういうことでございましたら頑張らせて頂きましょう!」

シウバは視線を鋭くさせて、三匹のモンスターの前に立った。

それを見て日色はクルリと身体の向きを変えて足を動かす。

向かう先は――カミュがいる場所だ。

カミュはというと、毒針を受け苦しそうに呻き声を上げているジンウを見てオロオロしていた。ジンウの顔は青ざめ、背中に受けた傷は痛々しそうに赤い血が流れ出ている。

「ジンウ……俺……俺……っ」

明らかにジンウが怪我をしたのは自分のせいであり、苦しんでいるジンウに何もできない自分と、戦う意思を歪めてしまった自分の狭間で、パニック状態に陥っていた。

そこへ日色がやって来た。

カミュも日色なら何とかしてくれるかもしれないと思ってか、希望を込めた表情を見せる。

――バキッ!

だが気づいたらカミュは頬の痛みに顔を歪め、日の光で熱くなった砂が口の中に入っていた。自分が今、倒れているということを理解しただろう。しかも日色に殴られてだ。

ゆっくりと起き上がり、目を大きく開けたままの表情で日色を見つめてくる。何故殴られたか理解できていない表情だ。

そんな彼に日色は冷たく言い放つ。

「無様だなお前」

「……え?」

冷ややかな視線まで突き付け、腕を組みながらカミュを見下ろしていた。

「この状況は何だ?」

「……」

「覚悟、できてるんじゃなかったのか? それなのに何だその様は? 無様にもほどがあるだろうが」

「ヒ、ヒイロ……」

情け容赦なく吐き出される言葉に、カミュは何も言い返してこない。

「そこの髷野郎が苦しんでるのはお前のせいだ。砂漠のモンスターに増援を呼ばれて面倒な事になってるのもお前のせいだ。何より、オレがこんなにイラついてんのはお前のせいだ」

怒気を込めた日色の言葉が続く。

「確か、あの毒針は神経毒だったな。体の動きを奪う毒だ。だが受けた個所は心臓に近い。その内に毒が心臓の動きまで止めて、そいつは死ぬな」

「そ、そんな! 何とかならない! ジンウは俺のせいで!」

――バキッ!

また日色はカミュの頬を殴り飛ばした。

「ああそうだ。全部お前のせいだ。ついでに言うと、今他のモンスターと戦ってる『アスラ族』が、何かの間違いでモンスターの攻撃を受け死んでしまったとしよう。それもお前のせいだ」

「う……俺……俺ぇ……」

歯を噛み締めまた涙を流し出した。

「お前は一体何がしたいんだ?」

「……う……うぅ……」

「全て守ると言ったのは嘘だったのか?」

「嘘じゃ……ない……」

「…………お前は言ったな。あのモンスターから父親の匂いがしたと」

涙を流しながら日色の顔を見上げる。

「ならあのモンスターには、まだ微かにお前の父親の意識が残ってるのかもしれないな」

「……っ!?」

ハッと息を飲んでモンスターを見る。

その先には物凄い形相でシウバと戦っているモンスターの姿があった。とても父親がするような表情ではないだろう。だが確かに父親の存在を、あのモンスターから感じ取ったために躊躇したこともまた事実。

日色もある光景を目にしていた。

それはカミュが涙を流した瞬間、僅かながらモンスターの敵意が緩んだことだ。

アレはカミュの父親であるリグンドの意識がほんの少し表に現れたせいかもしれない。他ならぬ自分の息子であるカミュの悲しむ表情を見てだ。

「よく見てみろ」

日色はモンスターに視線を促す。

「あのモンスターが父親なら、お前はあんな姿の父親の前で、ただ泣くことしかできないのか?」

「…………父ちゃん」

「優しさを履き違えるな」

「…………」

「一族思い、家族思いのお前だ。あんな姿でも父親と思って殺せないんだろ?」

無言で俯く。それは肯定の意味にとれた。

「あのモンスターが父親なら尚更、お前自身の手で始末をつけるべきだろうが」

「俺の……手で?」

「父親を傷つけたくない。それは優しさなんかじゃない。ただの甘えだ。今の父親の姿を見て、お前ができること。父親のためにしてやれること。それは本当に泣くことだけか?」

「俺……は……」

「本当の優しさは、強さに変えてこそ意味がある。少なくともオレはそう思ってる」

「ヒイロ……」

実は昔に読んだ本に書いてあった一文でもあるのだが、それに少しだけ感銘を受けたのも確かだった。

互いに視線を合わせて日色はゆっくりと口を動かす。

「助けてやれ。他ならぬ、お前の手でな」

「…………」

「苦しみから本当に解放できるのは、息子であるお前だけだ。そのお前がこんなとこで蹲ってていいのか?」

カミュの瞳に力強さが戻って来た。

「それとも、ただの旅人で他人のオレが殺していいのか? お前の父親を? 別にオレは構わないが?」

「……ダメ」

「ん?」

「それだけは……ダメ」

「…………ならどうするんだ」

カミュは横たわっているジンウの肩に手をそっと置く。

「ジンウ……ごめん。でも……もう大丈夫だから」

すると先程まで目を閉じていたジンウがうっすらと瞼を重そうに開けて、微かに笑みを浮かべる。

「は……はい……リグンド様を……よろしく……お願いします」

「うん」

力強く頷くとその場でスッと立ち上がる。そして日色の方を向く。

「ジンウ……お願い」

「……さっさと終わらせてこい」

「うん!」

カミュはモンスターの元へと走り出した。そして日色はというと、視線をジンウの方に動かす。

「おい髷野郎、これは貸しだからな」

「……は?」

ジンウは日色の言ったことが理解できない様子だったが、突如彼の全身が温かな光に包まれる。

『完治』

日色が使った文字で、ジンウがそれまで負った傷が見る見る塞がっていく。しかも日色の魔力がジンウの身体を優しく包み込み、彼はまるで夢見心地のような表情で寝てしまっている。

軽く疲れを感じて日色は息を吐く。

ここまで結構なMPを消費した。懐からMP回復薬を出して口にした。一応補給をしておいた方が良いと判断して実行したのだ。

(よし、後はあのバカだけだな)

「じいちゃん……下がってて。後は……俺やる」

シウバの元に駆けつけたカミュの表情を見てシウバは「ほほう」と感嘆するように息を漏らす。

「どうやら、もうお任せして問題無いようでございますね」

「ん……心配かけた」

「ノフォフォフォフォ! ではわたくしは他の二匹を仕留めますので、本命はお任せして良いでございますね?」

シウバの提案にカミュはフルフルと首を振って

「ううん。全部……俺やる。だから少し……離れてて」

「ノフォ?」

シウバは首を傾けながらも、彼の言う通りにその場から少し後ろへ下がりカミュの背中を見るような位置で立つ。

カミュはジッと砂漠のモンスターを見つめる。

「ごめんね……俺……分かってなかった」

「グルルルル!」

鋭い目つきをさらに細めて、カミュにターゲットを絞ったように唸りを上げている。

「……そんな姿になって……一番辛いのは……父ちゃんなんだよね。だから……俺」

そう言いながら背中から一本だけ刀を取り、何を思ったか自分の腕に刃を当てる。

そして――ツー……。

そのまま刃を動かし、腕を傷つけていく。

無論ぱっくりと開いたソレからは赤い血が流れ出す。

ポタポタポタ……。

重力に従って血は足元の砂に落ちていく。刀を元の鞘に戻す。

日色とシウバは、彼の行動の意味が分からず見守っていると、足元の血に濡れた砂の部分が、徐々に広がっていく。

「俺の血は……感染する」

――ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!

地面が微かに地震のように揺れ出す。

そして赤く染まった砂の部分だけフワッと浮き出して、プカプカと宙に位置を止めた。大体自動車一台分くらいの量だった。

「今の俺じゃ……まだこの程度しか操れないけど……」

真っ赤になった砂は、カミュが上空に上げた右手の上でウネウネと動き出している。そしてそれがさらに上空へと舞い上がり、塊だった砂が細かく分かれ出す。

ちょうどビー玉程度の大きさに分裂した数えるのも苦労するほどの砂の塊たちは、まだプカプカと上空に浮かんでいる。

「……レッドアイドル。…………行くよ」

カミュの視線が鋭く細められる。

「モデル・ 雨(レイン) 」

――ヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュン!

小さな玉になった塊たちがその場から三匹のモンスターに向けて物凄い速さで向かって行く。それはまるで赤い雨のように見えた。

「ギィィィィィィィッ!?」

砂煙を上げながら、容赦なく砂の塊は弾丸のようにモンスターの身体を貫いていく。

日色はその光景を見て感心して「ほう」と、声を上げていた。

(確か血液は魔力そのもの。その血液を砂に流すことで、砂を思い通りに動かすことに成功してるってことか……やるな二刀流)

血を流すというリスクはあるが、その見返りとして自由自在にコントロールできる能力を得たみたいだ。

砂煙が晴れると、そこには体中が穴だらけで完全に絶命しているモンスターが二匹がいた。

そしてもう一匹、砂漠のモンスターはというと、尻尾でガードしていたらしく、その尻尾はボロボロになっているが、身体には傷一つ無かった。

「グルルルルルルル!」

「……やっぱ硬い」

カミュは呟くように言うと、右腕を上空に向ける。すると砂漠にめり込んだはずの赤い砂が、再び彼に集まっていく。

「でも……これで残り一人、ううん、一匹!」

「グラァァァァァァァァァァァッ!」

怒りのボルテージがマックス状態になったのか、その場からカミュに向けて突進してきた。砂を蹴り上げ、その推進力で砂が巻き上がっている。

「モデル・ 壁(ウォール) 」

カミュの目の前に赤い壁が瞬時に出来上がる。

――ドゴォッ!

そのまま突進したモンスターだが、

「その程度じゃ……壊せない」

カミュの言葉の通り、凄まじい破壊力を含んでいそうだったモンスターの突進だが、赤い壁はビクともしていなかった。

「モデル・ 拳(ナックル) 」

大きな拳の形になり、それがモンスター目掛けて殴りかかる。

「グルラァッ!?」

かなりの衝撃を受け、顔を歪ませながら吹き飛んでいくモンスター。砂山に突撃したモンスターは、フラフラになりながら立ち上がりギリギリと歯を噛み締めて殺意を漲らせている。

「……これでもダメ」

日色もその状況を見ていて、

(かなりの攻撃力だったはずだが、あれでも纏っている砂を破壊できないか……相当の密度ってことだな)

赤い砂も相当の硬度を宿していると予想できるが、それでもまだモンスターの鎧を剥ぐことができないでいる。

(さあ、どうする二刀流)

カミュを遠目から見守る。そのカミュは、再び赤い砂の形を変えていく。

その様子を見たモンスターも、同じように砂を使って来る。大きな砂の波がカミュを襲う。

「……無駄」

――ビュンビュンビュンビュン!

赤い砂が円を描きながら動き出す。

「モデル・ 竜巻(トルネ) 」

そのまま竜巻状になった砂が迫ってくる砂の波に向かって行く。

――ギギギギギギギギギギギギギギギィッ!

両者がぶつかりまるで刀の鍔迫り合いのようになっている。

そして――ブシャァァァァッ!

負けたのは波の方だった。再びただの砂に戻り霧散していく。それを見たカミュは悲しそうに眉を寄せる。

「……違う」

「グル?」

「違う。父ちゃんは……もっと凄い……もっと上手い……もっと強い」

キッと睨むようにモンスターに視線を向ける。

「お前は……父ちゃんだけど……父ちゃんじゃない!」

赤い砂が再びカミュの右手の上で形を変えていく。

「モデル・ 大槌(トール) 」

大きな大槌が、今度は二つ出来上がる。そして凄まじい速さでモンスターの元に向かい、一つが下から突き上げるように叩き上げる。

「グルァッ!?」

そのまま上空へと舞い上がったモンスターを待ち構えていたのは、二つ目の大槌だ。それが今度は地面に向けて振り下ろされる。

もちろん打たれたモンスターはそのまま落下していく。しかしその先にいたのは、またも大槌だ。今度も先程と同様に下から突き上げるように動く。

またも上空へと打ち上げられるが、その先にはまた大槌が地面へ向けて振り下ろされる。それが何度も繰り返される。

「グギッ! ガギッ! ルガッ!」

まるで卓球をしているかのように、球となったモンスターは激しく両者間を行き来している。だがそのせいで、

ピキ……ピキキ……パキ……。

モンスターの体にヒビが入り、徐々に砂が剥がされていっている。同時にモンスターから緑色の液体が散っていく。それはモンスターの血液だった。

また腕もあらぬ方向に折れ曲がり、尻尾も潰れてへしゃげている。血液が流れたということは、纏っていた砂は全部剥げたということだ。

最後に上空の大槌に打たれ、地面へと叩きつけられた。苦痛に顔を歪ませ、体を震わせながらも必死で立ち上がろうとする。

カミュは背中から二本の刀を抜き、大きく深呼吸する。

「……終わらせる……父ちゃん」

するとカミュの殺気を恐怖に感じたのか、モンスターは地面に潜って逃げようとする。

だがピシィィィ……ッ!

モンスターは両手で砂を掘り進めようとしているが、地面を見て硬直している。何故なら、砂漠であるはずの熱を含んだ土地が、今は何故か冷気を漂わせる氷に変化しているからである。

「潜らせるかよ」

カミュも驚いて日色を見つめると、日色はしゃがみ込み地面に何かを書いていた。

『氷結化』

初めて使った三文字の効果。それは一瞬で辺り一面の砂漠を、氷の土地へと早変わりさせた。その効果範囲は凄まじく、見る限り遠くで戦っている『アスラ族』の所まで氷結しているようだ。

そして誰もが事態の急変に戸惑っているが、実は一番戸惑っていたのは日色だった。

(……まさかこれほどの威力があるとはな。さすがに驚いたな)

さすがに砂漠全体というわけではないが、それでも一文字の時のような畳が四畳分だった時と比べても怖くなるほどの威力だった。ポーカーフェイスを保っているが、内心ではドキドキしていたのは日色だけの秘密だ。

「今だ! 終わらせろ二刀流!」

日色の言葉にカミュはハッとなり、再度全身に力を込める。

そしてその場からモンスターに向けて全速力で突進していった。

「グル!?」

慌てるように立ち上がり、環境の突然変化と、カミュの殺意を真正面から受け、混乱状態に陥り全身を硬直させている。

「はぁぁぁぁぁぁっ!」

――――ブシュゥゥゥゥゥゥッ!

「グラァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!?」

二本の刀が、モンスターの核である玉を突き抜けていた。カミュは歯を食いしばり強張った顔をしている。

父親の顔を模しているモンスターの口から血が流れるのを見て、そしてその命を貫いた感覚に思わず表情を暗くさせた。

双刀をゆっくり抜くと、そのままモンスターは腰を折り仰向けにドサッと倒れる。

「はあはあはあはあはあ……」

これでモンスターの恐怖から皆を救ったというのに、カミュの顔は喜びに彩られるのではなく、身体を震わせ俯きがちな浮かない表情をしている。

「グフッ!」

モンスターが口から大量の血液を吐く。

核が少しずつ動きを鎮めていく。それと同時に鋭く常に敵意が籠っていた赤い目が、徐々に紫色の光を宿す瞳へと変化していった。

「…………カ……ミュ……」

カミュはこれでもかと言わんばかりに目を見開く。そして信じられないといった感じで横たわっているモンスターを見つめる。

モンスターがおもむろに視線だけをカミュの方に動かす。

「……カミュ」

今度こそ間違い無かった。

その声は、そしてその瞳は、間違いなくカミュの知っているものだった。

「父……ちゃん……?」

ドスッと両手に持っていた刀を地面に落とす。膝をつきモンスターに駆け寄る。

「父ちゃん!」

「……カミュ……すまなかったな」

「ううん……ううん……ううん!」

何度も何度も頭を振って否定した。

その目からは大量の涙が流れ出ている。

「だが……よくやったぞカミュ」

「父ちゃん!」

その二人の近くに日色とシウバもやって来る。

そして二人は互いに目を合わせ驚きを表すが、そのまま静かに黙って見守る。

「すまなかったな……俺のせいで、お前にこんな辛いことをさせて……」

「ううん……ううん! だって俺は長だし……仲間を守る……父ちゃんと同じだよ!」

「ははは……そっか。…………デカくなったなカミュ」

「と、父ちゃん……」

「長に……なったんだな……はは、それでこそ、俺の息子だ……」

微かに微笑みを浮かべて、小刻みに震える左手を伸ばし、カミュの頭に置く。

「強く……なったんだな」

「ひぐ……ぐす……」

鼻を鳴らし涙を砂に落とす。

「ほとんど……意識は無かったが、感じていたぞ。お前の強さ」

「……ホント?」

「ああ、強くはなったが……それでも俺の域には……まだまだだ」

「……ごめん。もっと早く……父ちゃんを解放してあげれば良かった」

「…………はは、俺は幸せ者だな」

「父ちゃん?」

「早くに逝ったお前の母ちゃんと違って……俺はこうして成長したお前の姿をこの目で見ることができた」

カミュの母親は、彼を生んですぐに病気で他界している。

それからはリグンドが、彼を立派に育てると心に決めていたらしい。

しかし砂漠のモンスターの事件が起こり、結局は自分の手で育てられたのは、ほんの数年程度だけだった。それが彼にとって後悔すべきことでもあったのだろう。

しかしこうしてカミュが立派になった姿を見ることができて、どこかホッとしている表情をしている。

「アイツに……良い土産話ができたな」

アイツというのはもちろん死んだカミュの母親のことだ。リグンドは腕に力を込めてカミュの頭を撫でる。

「いいかカミュ……」

「……な、何?」

「俺をこんなにした元凶、あの男……《十字傷の男》には気を付けろ」

「《十字傷の男》……」

カミュは自分たちを襲ったデザートトータスの甲羅の上に乗っていた人物のことを思い出す。その人物は確かに頬には十字傷があった。

「奴は……何かを試してると言ってた。……何を、試してるのか分かんねえが、絶対碌なもんじゃねえはずだ。だが……この砂漠にはもう用は無いとも……言ってた」

しかしそれでも、また来る可能性だってあると言い、カミュに気を付けろと続けて言った。

「大丈夫……みんなは俺が……守る」

カミュの決意を込めた表情を見て、リグンドは嬉しそうに頬を緩める。

「はは、だがまだまだだ。まだ砂の扱いもグフッ!」

「父ちゃん!」

リグンドがまた血を吐いて苦しみ出した。息も荒くなり、何と足元から砂のように崩れていっている。

「父ちゃん! 足が!?」

「はあはあはあはあ……聞け……カミュ」

「父ちゃん!」

「いいか……ゴホゴホ! はあはあはあはあ……もっと強くなれ……俺を……越えろよ」

「父ぢゃん……うん……うん! うんうん! おで……づよぐ……だるがら……」

大量に涙と鼻水を流し、何を言っているのか分かり辛いが、リグンドは微笑んでいる。

「ばけない……誰にぼ……負げないがらっ! だがら……だがらぁ!」

もうリグンドの首辺りまで砂になり風に舞っていっている。

「見守ってるぜ……最愛の息子よ」

そしてリグンドは、その体全てが砂に帰って行った。

「だがらぁぁぁっ! 安心じてよぉぉぉぉぉっ!」

この瞬間、砂漠のモンスターとの戦いは、本当の意味で終わりを告げた。

悲しい結末にはなったが、それでもカミュが得たものは多かっただろう。

カミュは空に舞った砂を見上げながら、口元を強く引き締め中性的な顔立ちだが、その表情は明らかに男の顔になっていた。父から託されたものを背負い、一回り大きくなった者の顔だった。