軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

5:旅立ち

「あ~さっすがに疲れたぁ~」

街へ戻って来て途中に見つけたベンチで身体を休めていた。

あれからスライムだのゴブリンだのと、心を落ち着かせる暇も無く襲ってきた。

全身に返り血を浴びながらも、それらを倒したのだ。お蔭で慣れたは慣れたが、もうクタクタである。

(まあ、レベルはかなり上がったけどな)

これからギルドへ報告しに行くのだが、もう少しだけ休んでからにしよう。

返り血を浴びた自分をチラチラと見る者たちがいるが、そんなことが気にならないほどの疲れを感じていた。

(はぁ……そういや、この服の汚れ……魔法で取れるかもな)

そう思い、人気の無い場所に移動して服に『清』と書く。

そして発動すると汚れていた服が瞬く間に綺麗になっていく。

青白い光の粒子が体に降り注ぎ、宝石をばら撒いたかのようにキラキラと光っている。

(これは、体自身に書くと風呂要らずじゃないのか……?)

それも後で確かめようと思った。もしそうなら本当に便利な能力だと嬉々として喜ぶべきことだ。

ちなみに風呂という文化はあるものの、身分の低い平民などは、日本人が普通と思っている入浴とは違い、沸かしたお湯を体にかけたり、濡れタオルで拭くだけのものだ。

無論貴族など、屋敷住まいの者たちは、それこそ豪華とも呼ぶべき大きな風呂があり、毎日汗をそこで流しているらしい。

ギルドへ行くと受付嬢は少し驚いたふうに目を見開いていた。何故なら、クエスト条件のゴブリン十体討伐を、遥かに上回る数の討伐に成功していたからだ。その数二十二体。

二十二体分の《ゴブリンの歯》を証拠として提示すると、それを見て、

「よ、よくこれだけの数のゴブリンを討伐なさいましたね。しかもオカムラ様は登録して間もないと言うのに」

「そんなことはいいから、早く精算してくれるか?」

面倒な事になる前に用はすぐに済ませたい。

受付嬢も、こちらの言葉を受け謝罪しながらもしっかりと仕事をしてくれた。

「達成報酬は35000リギンですが、これだけの《ゴブリンの歯》を換金対象としますと、上乗せに10000リギン追加できますがどうなされますか?」

「ああ、してくれ」

「では少々お待ち下さい」

そう言ってカードを受け取りどこかへ行った。しばらくすると戻ってきてカードを返してくれる。

きっちりと金が貯蓄されてあった。消えるように念じるとカードは粒子状になって胸の中に吸い込まれていく。

これでしばらくは宿屋に泊まれるし、それにMP回復薬も相当数買える。

今回身に染みたのは、自分にとってMP回復薬は必需品だということだ。

ただでさえMP消費量が半端じゃない《文字魔法》を複数回使用するためにも、やはり回復薬は大量に手にしておくべきなのだ。

ちなみにHPと違って、MPは《文字魔法》では回復することはできなかった。さすがに無限チート的な使い方には制限がかかっているみたいだ。

(今回いろんな実験もしたし、そのせいでMP回復薬の重要性も理解できた。とにかく持てるだけ買い込んでおいた方がいいかもな)

さっそく雑貨屋へ行き戦闘に必要なものを買う。武器もまた新しく一番安い剣を購入した。それでも30000リギンした。

買い換えた理由は結構 刃毀(はこぼ) れがあったからだ。

まあ、あれだけモンスターを狩ればそうなる。

あとは防護服としてフード付きの赤いローブを購入した。

魔法耐性や意外と防御力に優れていたので購入したのだ。どこぞの騎士が着るような感じで少し派手なのは戸惑ってしまったが、ようは慣れだと思い我慢する。

(あ、そういや刃毀れしてても、魔法で何とかなるんじゃ……。例えば新品の時を思い出して『新』とか、『元』の文字でもイメージすりゃ多分……それに……)

いろいろ思いつくが、もう剣を買ってしまった後だった。

(まあ、ナイフだったし、今度からはそうするか)

最初は資金が足りなくてナイフを購入したが、金が貯まれば剣を購入しようと思っていたので、今度からは刃毀れしても魔法で試してから買い換えようと判断した。

そして実際に刃毀れして、それを直すために《文字魔法》を試したが、『新』の文字で本当に新品同様になった。自分の魔法の万能さはとどまることを知らないようだ。

それから一週間、朝から晩までクエストに勤しんだ。

金とレベルを稼ぐためだと思っていたが、やってみるとこれが案外面白い。

見たことも無い草花を発見したり、いろんなモンスターにも遭遇する。そしてモンスターをどうやって倒そうかと考える考察時間もかなり有意義だった。

決して戦闘狂ではないと思っていたが、これは自分の認識を改める必要があるのかもしれない。

強い相手をどうやって倒すか、これこそRPGの醍醐味であると感じ、つい気持ちが乗ってしまうのだ。

そしてギルドランクも上がり、Fランクの青枠からEランクの紫枠になった。金もレベルも相当溜まった。

受付嬢などは期待の新星などと言うが、確かに一週間で二十や三十のクエストをこなしまくる初心者などあまりいないだろう。

(これ以上ここで稼いでいては、国王の耳に入りめんどくさいことになる可能性が高いな)

懸念しているのは、それほど逞しいのなら勇者と一緒に、とか言われたら目も当てられないということ。

自由を束縛されるのだけは勘弁してほしい。せっかく面白くなってきた異世界生活を、義務で削りたくはない。

(そろそろ頃合いだな)

大きな袋の中をチェックしながらある決意をする。

(明日でこの国ともお別れだ)

そう、旅立ちの決意だった。

十分金も手に入った。レベルも上がり18になった。そして何より精神的にタフになってきたと思う。これなら旅の間も生活していけるだろうと判断した。

翌日、日色は街の外にある【トール街道】で地図を広げながら唸っていた。

これからどこに行くかということである。

一応候補はある。南に向けて進めば、【人間国・ヴィクトリアス】には劣るが、それなりに大きな街である【フレントア】がある。交易が盛んな街として有名らしい。

だがそこではなく、このまま西へ向かい【サージュ】に行こうと思う気持ちが強い。【サージュ】は国境近くの街であり、すぐ近くには『獣人族』が住む大陸があるのだ。

異世界に来たのだから、是非とも『 人狼(じんろう) 族』や『 猫人(ねこびと) 族』といった『獣人族』という存在に会ってみたいと思うのはごく自然なことだと思う。

しかし今は互いの国同士で緊張状態にある。易々と国境を渡れるとは思えない。

また冒険者をしていてこんな話も聞いた。

確かに国同士は互いに 牽制(けんせい) し合ってはいるが、冒険者には『獣人族』も多くいるし、『人間族』の冒険者と仕事をともにしていることもあると。

個人と国とでは、やはり意識に 齟齬(そご) が生じているのだと思った。いわゆる国の意が、種族の総意ではないということだ。手を取り合っている者たちもいるのである。

だが今の世の中、やはり他種族のことを 忌(い) み嫌う者も多い。特に戦を起こすような行動をしている『魔人族』については良い話は聞かない。それでも日色は思う。

自分の目で確かめなければ何とも言えないと。そもそも他人の評価など興味が無いのだ。自分で経験して考え、答えを出すことが、自分の信念であり誇りだと思っている。

ということで、結局は【サージュ】に行くことにした。国境越えも必要があれば何とかできるだろうと考え決断したのだ。

だが【サージュ】まではかなりの距離がある。結構な旅になるなと覚悟し足を動かしていった。途中には以前行ったことがある【クリエールの森】も存在する。

今では何の警戒もいらない森だが、そこを突き進む必要があるのだ。森に入り、襲ってくるモンスターを無傷で倒していく。

あっさりと森を抜けると、そこには【テンバス街道】が繋がっていた。ここを真っ直ぐ行くと【アメス】という小さな村がある。そこで一泊して、明日また進もうと考えていた。

【アメス】に辿り着くと、さっそく宿を探し歩いた。

幸いなことにほとんど旅行者が立ち寄らないのか宿は空いていた。使われているのは二部屋だけだ。

「一部屋頼む」

「え、あ、はい。あ、あの……冒険者の方……でしょうか?」

「そうだが?」

「そう……ですか」

「……?」

何やら歓迎されていない雰囲気を感じて首を傾けてしまう。この村に来るのは初めてだし、自分が何かをしたわけではない。

それなのに、宿主から不安気な態度で接されてしまっている。気にはなったが、とりあえず宿を取って村の中を一通り見て回ることにした。

しかしここで妙な事に気がついた。何やら先程から視線を感じるのだ。しかもあちこちから。

まるで招かれざる客が来たみたいな感じの雰囲気が漂っている。

宿を取る時も嫌な顔をされた。この村は余所者を歓迎しないのかもしれない。

「なあ、にいちゃん」

そんな矢先、誰かに背後から声を掛けられた。振り返ってみると、七歳くらいの男の子がいた。こちらを不審者を見るような目つきで睨んでいる。

その態度が気にくわなかったのでスルーすることにした。

「おい、ムシすんなよ!」

怒られてしまった。何故ガキを相手にしなければいけないのかと思い溜め息を漏らす。

「何だガキ」

「ガキっていうな! そっちこそヘンなあかいふくきやがって! イカクしてんのかよ!」

「…………牛かお前は」

別に 威嚇(いかく) のために赤を纏っているわけではない。ただ単に防御服として優れているから着ているのだ。

ここ最近ずっと赤いローブを着用しているので愛着が湧いてきているのも事実だが。下は黒の学ランなので何ともシュールな組み合わせだが全く気にしてはいない。

「にいちゃん、ボウケンシャだろ? こんなとこになにしにきたんだよ!」

「こんなとこ?」

「こら! こんなとこっていうなぁ!」

「お前が言ったんだろうが」

何故コイツはこんなにも食ってかかるような言い方をしてきているのか……。

考えても答えが出ないので、やはりめんどくさいと感じ無視して歩き出した。

「お、おいちょっとまてよ!」

無視無視。

「だからまてってば!」

スルースルー。

「だから、おい! おれのはなしをきけよ!」

空気空気。

「おい……なあ、おねがいだからさ……ムシしないでくれよぉ」

声が段々震えてきた。自分があまりにも相手にされないので悲しくなってきているようだ。

軽く溜め息を吐き、足を止める。

「何の用だ一体?」

ここで大泣きでもされたら村に居辛くなると判断し無視を諦めた。すると少年はパアッと顔を明るくさせる。だがすぐにまたキッと睨んでくる。

「も、もう! にいちゃんはイジワルだ! ボウケンシャはみんなそうだ!」

「オレはオレだ。他の奴らと 一括(ひとくく) りにするな、不愉快だ」

不機嫌そうに視線をぶつけると、少年はビクッとして 竦(すく) んでしまった。第三者から見れば、完全に子供を苛めているような図だ。

「……はぁ、それで本当に何の用だ? オレは村を見て回るのに忙しいんだが?」

「え? むらをみてまわるってなんでさ?」

「何でもいいだろ? ガキには関係無い」

「う……うぅ……」

またも涙目になったので、ついこめかみを押さえて仕方無く相手をする。

「はぁ、ただの暇潰しだ。オレはさっきこの村に来たばっかだ。旅の途中でな、今日はここで一泊する予定だ」

「なんだ? にいちゃんはむらにナンクセをつけにきたんじゃねえのか?」

「 難癖(なんくせ) だと? 何のことだ?」

少年が言うには、最近ある冒険者がこの村に立ち寄って雑貨屋や武器屋に押し入り、品物を強引に値切って好き放題にやったらしい。

「そいつらはふたりぐみでさ、やどにもイチャモンつけて、ただでとまってるみてえだし」

「何で拒否しないんだ? 何なら村人総出で追い出せばいいだろ?」

「それができないんだよ」

問いに答えてくれたのは少年ではなかった。

「あ、パニスのおっちゃん! とおまけのココ」

パニスと呼ばれた男は三十代の後半くらいに見えた。実際にはもっと若いのかもしれないが、表情が暗く陰気が漂っていて老けて見えている。

そしてその隣にいるのは、生意気な子供と同じ年頃の可愛らしい女の子だった。

「もう! どうしておまけなの!」

頬を膨らませて目を吊り上げている。

子供同士で口喧嘩をしているのをチラリと見てからパニスという男に視線を向ける。

「アンタは?」

「君は冒険者だね。私はパニス。しがない店を経営してる者だよ」

ということは二人組の冒険者の被害に遭った人物だということだ。

「コイツの話は本当なのか?」

「ああ、本当だよ。今も雑貨屋で品定め中さ」

「……追い出すことができないと言ったな? どういうことだ?」

「アイツら、どういうわけか村の権利書を持ち出してきたんだよ」

「は? 何故そんな奴らが権利書を持ってる? 普通は村長が保管するものじゃないのか?」

「そうだよ。だがいつの間にか村長の家に保管していた権利書が無くなっていてね……」

つまりその二人組が盗んだというわけだ。

「不用心だな。まさに自業自得だ」

「ハハ、返す言葉もありませんな」

またも新たな人物がこちらの声に反応を返した。

「君が先程やって来たという旅行者ですな? ワシはこの【アメス】の村長、ブライと申します」

「村長どうしてここに?」

パニスが聞く。

「なあに、お主と一緒だよ。冒険者が来たって知らせてくれたのでな。様子を見に来たんだ」

日色がこの村に到着して、すぐさま村長に報告されていたらしい。彼は突然現れた冒険者を自分の目で確認するためにやって来たようだ。

どうやら日色がただの冒険者のようでホッとしているみたいだ。

――バキィィッ!

突然木が割れる音が響く。

その場にいた者全員がハッとなり音の方向を見てみると、一軒の家からドアをぶち破り誰かが吹き飛ばされていた。