軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

46:グリー洞穴

「そうか、いよいよ『獣人族』が動いたか」

暗い表情で呟くように言うのは【人間国・ヴィクトリアス】の国王であるルドルフ・ヴァン・ストラウス・アルクレイアムだ。

歳のわりに老けて見えるのは、抱える国家問題でいつも頭を悩ませているからだろう。

彼は執務室で、大臣のデニス・ノーマンから世界の情勢報告を聞いていた。

その中に『獣人族』が『魔人族』に宣戦布告したという情報を聞いた。

予想はしてはいたが、こんなにも早く状況が動くとは思っていなかったのか、難しい顔のまま囁くように言う。

「しかしそうか……これから世界が荒れるな」

「この間に勇者を育てて、来たる戦いに向けて大いなる戦力へと急ぐ必要があります」

ルドルフの前に立つデニスは、先王からこの国に仕えている人物であり、 禿(は) げ上がった頭と窪んだ目つきが特徴で齢七十を越える。

「獣人が先に魔人を相手にするのは、魔人の方が強く、最大戦力で先に潰した方が良いと考えているからですかな? 我々はその後で十分ということですか」

「人間もずいぶん舐められたものだがな。こちらとしては時間稼ぎができてありがたい」

「願うならば、どちらも共倒れになってくれれば、その際に我らが上に立てるのですがね」

腹黒さもデニスは国随一である。

「難しい……だろうな。獣人がいかに戦おうと、魔人を根絶やしにできるとは思えん。それだけ魔人は恐ろしいし、何より強い」

「……特に《魔王直属護衛隊》――《クルーエル》ですね。アレをどうにかしなければ戦争には勝てません。まさに一騎当千というところでしょうか」

「いや、それはせいぜい【パシオン】の《三獣士》のことを言うのであろう。《 魔王直属護衛隊(クルーエル) 》はそれこそ凌駕しておる。対抗できるのは恐らく――」

「獣王……ですか?」

「ああ、彼ならば《魔王直属護衛隊》にもひけは取らんだろうな。しかし一人だ。一人ではできることも少ない」

戦争というのは一人だけ強い者がいても決して勝てるものではない。

「その分は戦略を立て、上手くやるのでは? 勝機のない戦いに臨むほど愚かな種族でもありませんし」

「だろうな。何か考えがあるのだろうが、それでも魔人の優位は動かんだろう」

ルドルフは腕を組み、疲れたような重い吐息を漏らす。

「……仮に獣人が勝った場合、次は我々……でしょうな」

「…………人間と獣人の間には埋められんほどの溝がある」

それは歴史が証明している。

かつて獣人の多くは、人間の家畜奴隷として扱われていたのだから。

そして逆に獣人は人間を攫い様々な人体実験などを行ったという事実も存在する。まさに負の歴史が積み重なって大きな溝を形成していると言える。

「魔人が勝った場合はどうなるのでしょうか?」

「そうだな。あの親書の真偽が確かめられる……ということかな」

「ああ、あの親書ですか。ここ最近、何度も何度も送られて参りましたが、その真意が判断できず今まで放置してきましたしな」

同盟を締結したいという親書の内容。

しかし過去に、それを逆手にとられ裏切られている人間側としては信用できるものではなかった。

「もしあの親書が本物なら、恐らく獣人を根絶やしにしようとはしない、ですか?」

「それも希望的観測だな」

本物なら平和を維持するために獣人を根絶せずに譲歩を誘い、同盟を提案すると考えられる。

「しかし偽物なら間違いなく殲滅……でしょうな」

「いや、本物でも偽物でも、そちらの可能性は高い。獣人と手を組みたいという魔人は少ないだろうからな。まあそれでも今の魔王とやらが、どのような人物か確かめられるという点では、この戦争傍観するに限るかもしれん」

「本当にこのままどちらも倒れてくれれば、その隙をつき皆殺しができるのですがね。ククク、その時の魔王と獣王の顔が絶望に染まるのを一度見てみたいものですな」

「悪趣味だぞデニス」

「はは、すみません」

楽しげに笑っていたデニスを注意してルドルフは椅子の背もたれに強く身を預けて遠くを見るような目をする。

「とりあえず今は結果待ちということだな。少々国がざわつくかもしれんが、対処の方は任せるぞ」

「はっ!」

恐らく国民の耳にも戦争の話は遠からず聞こえてくるだろう。

その時、民は不安になるだろうが、大臣に任せておけば大丈夫だとルドルフは考えているのかもしれない。余程彼を信用していると見える。

「そう言えば、現在勇者たちはどこにいる?」

「確か、ウェルとともにレベル上げへと各地を巡っております。聞くところによれば、かのバクストムドラゴンまで仕留めたとのこと」

「ほう、あのバクストムドラゴンをか。それほど強くなったのだろうな」

「もっと強くなってもらわねばなりますまい。我々の悲願のためにも」

「…………ああ、その通りだ」

ルドルフの瞳の奥に潜む闇が微かに胎動し始めていた。

日色一行は【リンテンブ】で一泊した後、すぐさま【獣王国・パシオン】へと向かった。

アノールドは早く戦争に関して詳しいことを知りたいと言う。やはり同じ獣人同士、絆が深いようで仲間を心配しているようだ。

「ここを真っ直ぐ行けば【パシオン】か?」

ライドピークの騎乗部分にゆったりと腰を落ち着かせている日色の問いに、アノールドが答える。

「いや、この先に【グリー 洞穴(どうけつ) 】がある。そこを通ればすぐなんだが……」

「……何かあるのか?」

「ああ、そこにはランクB以上のモンスターがウヨウヨいるし、ライドピークもつれてけねえ」

何でも洞穴の中は、極端に狭い場所が多々あり、とてもではないがライドピークと一緒には通過できないとのこと。

そもそもライドピークを貸してくれたアノールドの友人であるマックスには、ここでライドピークたちを返すと約束していたらしい。

「他に迂回できるような道は?」

「あるにはあるが、そっちは距離もあるし、出てくるモンスターも強え。リスクを考えたらまだ【グリー洞穴】の方が良いんだ」

「なるほどな。ならこのまま真っ直ぐでいいか」

「いいのか?」

「オレは別にどっちでも構わんが、早く行きたいんだろ?」

「あ、ああ」

「だから今回は折れてやる。感謝しろよ」

「相変わらず偉そうだなホントまったくよぉっ!」

これで日色たちの次の行き先は【グリー洞穴】に決まった。

それからしばらくライドピークを走らせていると、森の中に大きな洞窟の入口が見えてきた。

入口までやって来たが、穴は見上げるほど大きく広がっている。まるで巨大な怪物が大きく口を開けているみたいで不気味だ。

「おい、ホントにコイツらは入れないのか?」

外から見た限りでは余裕で連れて行けると思ったので日色は聞いてみた。

「ああ、中は結構入り組んでて、狭い場所が幾つもあるらしい。そこを通らなきゃ抜けられねえからな。名残惜しいが、ライドピークとはここでお別れだ」

そう言ってアノールドはライドピークの頭を撫でる。

「ここまでありがとな。マックスによろしく伝えてくれ」

ライドピークも少し残念そうにアノールドの頬に嘴を擦りつけて甘えている。

「おい…………コッチを何とかしろ」

アノールドが見た光景は、日色の顔を長い舌でペロペロペロペロと舐め回しているライドピークだった。

どうやら日色と別れるのが悲しくてそんな行動に出ているようだ。

「アハハ! ずいぶん好かれたじゃねえか!」

「ふざけるな鳥! 焼き鳥にするぞ!」

それでも構ってもらえていると思っているようで、日色を涎塗れにする。

「ええい、鬱陶しい!」

「クイクイッ!」

それでも離れがたいのか、ライドピークはイヤイヤというように頭を振っている。

「この子、ヒイロと一緒に行きたいって」

ここで便利なウィンカァ。彼女はモンスターと会話できるのだ。

「何かね、ヒイロのニオイがお日様みたいで好きなんだって」

「お日様みたいなニオイってどんなニオイだ……?」

日色は首を傾げながらライドピークを見つめると、ウィンカァの言葉を肯定するかのようにコクコクコクコクと高速で頷いていた。

だが連れて行くわけにはいかず、何とか説明して諦めてもらうことにする。ウィンカァも交えて、ようやく渋々ながら納得してくれた。

「まったく……ベタベタじゃないか」

不機嫌面で日色が睨むと、ライドピークがシュンとなる。

「まあまあ、それだけ主人思いってこった。大目に見てやんな、ヒイロ」

「…………確かにお前らのお蔭で、なかなか快適だった。これは餞別だ」

そうして文字を書き、三匹のライドピークの身体に書いて発動する。青白い波紋のようなものが文字を中心にして広がる。三匹は気持ち良さそうにブルブルと身体を震わせた。

「な、何したんだ、ヒイロ?」

「『快』という文字を使った。ここまで来た疲れも吹っ飛んだはずだ」

爽快になるようにという意味を込めて書いた。

気分が爽快になり、気持ち良く帰って行けるだろうと踏んでいたが、突然ライドピークたちが、我を忘れたように耳をつんざくような雄叫びを上げながら、物凄いスピードで来た道を引き返していった。

「ど、どうしたんだアイツら?」

「…………さあな」

どうやら効き目が強過ぎてテンションをマックス状態にまで向上させてしまったようだ。新幹線の如く突き進んでいく彼らを見て、あれなら無事に辿り着けるだろうと思った。

「それにしてもどういう風の吹き回しだ?」

「何の事だ?」

「いやな、いつもなら、お前が乗った一匹だけに褒美を与えると思ってたからなぁ」

ミュアが頷き、右に同じくみたいな仕草をする。いや、よく見ればウィンカァとハネマルも同じようだ。

アノールドたちは日色の性格を少しは把握している。

日色が今のように動くとしたら、機嫌が良い時か、自分だけに対しそれ相応のものを貰った時だ。

しかし特別機嫌が良いとは思えないので、何の気まぐれかと疑問に思ってしまったらしい。

「何を言ってる。下僕が世話になったんだ。主人であるオレが恩情を与えるのはごく自然だぞ?」

「はは~ん、なるほどなるほど。そうだよなぁ、俺たちはお前の下僕だし、お前はその頑張りを労って、三匹に《文字魔法》をプレゼントしたってことか。なるほどなるほど~。ところでな、そろそろ物を申してもいいか、特に下僕という言葉によぉ?」

「却下だ」

「ふんぬぅぅぅぅっ! 何度も言うが俺たちはお前の下僕じゃねえっ!」

「こちらも何度も言うが冗談だ」

「てめえは毎回毎回俺を怒らせてえのかよっ!」

「さあ行くぞ」

「って聞けよなぁっ!」

「ん……でもウイはヒイロの下僕……だよ?」

…………………………………………。

「おほん、さあて、行くか【グリー洞穴】!」

ウィンカァに抗弁することができずに、アノールドはスルーすることにしたようだ。確かにウィンカァは自分自身で、日色は自分の王だと明言している。

ミュアはやれやれと苦笑しつつもアノールドの後ろをついていく。その後に日色たちも追従していった。

洞穴の中はかなり薄暗い。しかもかなり広い洞窟だ。

鍾乳洞のようになっており、天井はまるで滴り落ちる水が凍結したかのような鋭い形態を見せている。地面の方もゴツゴツとしており、大小様々な窪みや突き出た岩などが確認できた。

アノールドを先頭に周囲に危険がないか確かめながら歩を進めていく。

静かな洞穴を縦一列になって歩いていると、ビチョンビチョンと、どこかから粘着系の液体が大地へ落ちる音が聞こえる。

それは隊列の左側から聞こえたので、そちらを見てみると、薄暗い影の中からナメクジが巨大化したようなモンスターが涎を垂らしながらこちらを見下ろしていた。

「いきなりかよ! しかもコイツは、ランクBのグリースラッガーだぞ!」

アノールドはミュアを庇うように前に立ち剣を構える。しかし誰よりも一歩前に出て戦闘準備をしていたのは日色だった。

「ナメクジ……か。試してやる」

目を細めてグリースラッガーを観察しながら日色はある文字を書いて、ちょうど相手の頭上へと向けて発動。

バチチと文字が青白く発光すると、突然文字自体が白い粉末状のキラキラしたものに変化。ナメクジの頭上から降り注ぐ。

元々鈍重だったナメクジだが、更に動きが遅くなっていく。徐々にだが身体まで小さくなっていき、手乗りサイズほどにまでなった。

「おお、やはりナメクジには塩が効くみたいだな」

日色が書いたのは『塩』。ナメクジに塩をかけると小さくなるというのは本当のことだったようだ。

(改めて思うが、ハッキリとしたイメージをしたら、塩でも生み出せるこの魔法は本当に何でもアリだな。まあ純粋な塩というよりも、塩の効果を持つ何かである可能性は非常に高いがな。塩自体も一分で消えるだろうし)

それが日色の魔法の制限でもある。直接形態を変化させたりする効果以外は、長くても一分の制限時間が存在する。

それでも自分の魔法の力の万能さに思わず唸ってしまう。本当に異世界に来て、この魔法が使えて良かったと心底感じる。

「もう、別に驚きゃしねえが、何したんだ?」

「なあに、ただ子供の時、試してみたいと思ったことを実演してみただけだ」

アノールドたちは揃ってキョトン状態に陥っていたが、それ以上日色が語るつもりはないのだと悟ったようで、そのまま歩を進めた。

しばらく歩いているとかなり狭い道になってきた。

(なるほどな。これじゃあの鳥は通れなかったな)

一人ずつでも身体が擦れてしまうほどの小さな道。壁に挟まれながらも辺りを警戒して進んでいく。その先は少し開けた場所になっており、小さな橋が架かっている場所に出る。

「この橋……渡るのか? というか渡れるのか?」

日色の疑問は尤もである。木でできている橋なのだが、所々が腐っており、ロープにも腐食が見られる。とても人を支えきれるとは思えなかった。

だがここを渡らなければ、向こう岸へ行けないみたいだ。

下は底の見えない暗闇が広がっている。大体向こう岸までの距離は五十メートル弱といったところ。

「どうするヒイロ? さすがにこの距離はジャンプではなぁ……?」

「何を言ってる? 『飛』の文字を使えば問題ない」

「あ、そういやそっかぁ!」

アノールドは手をポンと叩いて「おお!」となる。

「いや待てよ」

「ん? どうしたんだよ、ヒイロ?」

アノールドが聞き返してくるが、それには答えず考察に移る。

(確かにそれなら簡単に向こうに渡れるが、もし渡っている最中に何かあったらオレはともかく他の奴らは……)

もし下に罠的なものがあったり、モンスターが待ち構えていたりすると都合が悪い。日色なら新たに文字を駆使して対処できるだろうが、他の者は難しいことこの上ない。

(飛んでいるより、歩いている方が対処はし易い。まあ、何が起こっても放置する選択をするなら別だが……)

さすがにここで彼らを見捨てるのはどうだろう。一応自分の情報源であり今は必要だと判断している。ここで失うには惜しい人材たち。理屈ではそう。

「おいヒイロ、早く俺らにも魔法かけてくれよ!」

「……いや、それよりもだ」

洞窟内で日色は足音を響かせながらボロボロの橋に近づく。指先に魔力を集中させて『繋』と書く。

「よし、これで何があっても一分間は繋がってくれる。急ぐぞ!」

「え、あ、おお? お、おい!」

突然走り出した日色を見てギョッとなるアノールドたちだが、平然と橋を渡っていく日色を見て、

「嘘ぉぉ……!」

「お、おじさん……」

二人は明らかに怯えている様子。

「行くよ、ハネマル」

「アオンッ!」

日色に絶大な信頼を寄せているウィンカァには何の迷いもないようで、ハネマルとともに日色の後を追っていく。

「お、おじさん!」

「お、おう、こうなったら自棄だっ!」

不安に思いながらもアノールドはミュアの手を握り走る。ギシギシと、今にも崩れそうな橋に恐怖しながらも、アノールドは握る手に力を込めて走る。

「それにしたって、今度はどんな魔法を使ったんだか……」

間違いなく四人と一匹も乗り、しかもこうして走ったら落ちる確率百パーセントの橋が、不安気な音は出すが、一向に落ちる気配がない。明らかに不自然極まりない。

「つうか、できりゃ空を飛んでみたかった……」

「あはは、でもやっぱりヒイロさんはすごいよね」

どうやら別段仕掛けなどはなかったようで、一分以内に橋を渡り切ることに成功するも、アノールドとミュアの二人は、どっと疲れが押し寄せたように疲労感を表情に出していた。

何故ならもし橋が落ちていれば死んでいた可能性が高いからだ。自分の力を信じている日色には分からない二人の心痛である。

「お、お前さ……一体何したんだよ?」

「『繋』の文字で、一分間の間、何が起こっても橋が繋がるようにした」

「そ、そんなこともできるんだぁ」

疲れながらも、ミュアは感嘆の声を上げているし、ウィンカァは「おお~」とパチパチと手を叩いている。彼女たちとは違ってアノールドは半目で睨みつけてくるが。

「や~っぱ、どう考えても卑怯だその魔法! 俺も使いてえ!」

「知らん。それよりさっさと行くぞ」

サクッとアノールドの希望を斬った瞬間――日色は背後から物凄い衝撃を受けて地面に転がる。

感覚的に大きな岩でもぶつけられたような衝撃。

「ヒイロ!」

「ヒイロさん!」

二人は咄嗟に飛ばされた日色を見るが、すぐさま目の前にいる存在に目がいく。

それこそが日色を吹き飛ばした張本人だ。アノールドは目を見張って正体を見極める。

「ガ、ガンロック!?」

ガンロックと呼ばれるモンスターは、名前の通り岩石に手足と顔が備わった丸っこい生物。直径五十センチ程度の大きさだが、それが弾丸のような勢いで突進してくるので、その衝撃はとてつもない。

(痛ぅ…………やりやがったな……)

日色はズキズキと痛む背中を擦りながら、自分を吹き飛ばした元凶を睨みつけた。

一匹だと思っていたが、後ろから次々と現れる。合計――三体。

(確かランクB以上のモンスターしかいないんだったな……)

チラリとアノールドを見る日色。

(オッサンじゃちょっときついか……?)

本来なら岩石なので『爆』でも使って一気に仕留めたいところだが、ここが洞穴の中なので、その選択はできなかった。下手をすれば洞穴自体が崩れかねないからだ。

だがあの身体、恐らくただの剣ではほとんどダメージを与えられないだろう。特にいまだCランクのアノールドでは難しいかもしれない。そう考えた日色は叫ぶ。

「オッサン! 剣で倒すぞ!」

日色が出した結論は 剣だった。だが先程の推測を考えるなら、剣では倒すのは難しいはず。それでも剣と選択したのにはわけがある。

「オッサン! 目の前の奴からやれ!」

「け、けどコイツらは剣じゃ厳しいぜ!」

アノールドもガンロックの特性を知っているのか、剣では大したダメージが与えられないことを把握している。

「安心しろ! こうするからな!」

文字を書き、アノールドの目の前にいるガンロックに命中させる。発動。ガンロックに当たった文字がバチバチッと放電現象を起こす。しかしガンロックの外見上は変化なし。

「今だ!」

「よ、よく分からねえけどオラァ!」

だがガンロックは横に跳び回避する。

「逃がすかよぉ!」

そのまますかさず剣を斬り返して横一線に振ると、

スパァッとガンロックの身体が見事に真っ二つになった。

「え? ……は?」

アノールド自身も、あまりの手応えの無さに戸惑っている様子。

まるで脆い砂団子を切るような感覚だったはず。

「ほらもう一丁!」

日色は続けて文字を飛ばす。しかし今度はガンロックが警戒していたのか上に跳び上がる。

文字は地面に触れ発動。そのままガンロックがその上に落ちてきた。するとどういうわけか、ガンロックが地面に埋まってしまう。

アノールドは一瞬、「へ?」と呆気にとられるが、すぐにハッとなる。

「あっ! なるほどそういうことか!」

アノールドにもようやく、日色の書いた文字の効果が分かったようだ。

「お前、軟らかくさせる文字を使ったな?」

日色が書いた文字は『軟』だ。一体目のガンロックはそれを受け身体が軟らかくなり、剣で斬られることになった。

また今のは地面が軟らかくなり、そのせいでガンロックは自重で地面に埋まってしまったということである。

「オッサン、そっちの埋まってる奴は任せるぞ!」

そう言って日色はもう一体に集中する。アノールドが必死に抜け出そうとしているガンロックを見下ろす。

「フフン、動けないガンロック相手なら、俺も力を集中させて倒すことができるぜ!」

そう言って大剣を逆手に持ち、切っ先をガンロックの頭上に構える。

「《風の牙》!」

ブゥゥゥゥンッと風が刀身を覆って攻撃力を向上させる。

「もっとだ、もっと強く纏わねえと奴の身体は貫けねえ!」

幸い相手は埋まっていて身動きとれなくなっているので時間はある。十分に時間を使い、剣を強化していく。そしてそのまま跳び上がり、全体重を乗せてガンロックを攻撃。

「はあぁぁぁぁっ!」

バキィッと見事にガンロックの頭部に剣を貫き通すことができた。

「さて、最後の一体だが」

ガンロックは続けて仲間を倒されたことで、ジリジリと後ろへ下がっている。

しかしドンと何かにぶつかってガンロックは振り向く。

そこにいたのは《万勝骨姫》を持ったウィンカァだった。

「――《一ノ段・疾風》!」

神業にも見える鋭い槍捌き。

一瞬、光がガンロックに走ったかと思うと、ズズズと身体が上下に別れて絶命した。

(はは、さすがはアンテナ女ってとこか)

純粋な戦闘力でいえば、ウィンカァはこの中で最強。

レベルも桁が違い、ランクもS。その強さは今の動きの一端に触れても理解できる。

(どんな切れ味だよ……)

真っ二つにされたガンロックを見下ろす。切り口に無駄がなく、まるで豆腐の切断面のように綺麗な仕上がりだった。彼女にはいつも驚かされる。

いや、彼女の腕もそうだがあの槍の能力が凄まじい。あんな武器を造れる人物に一度お目にかかりたいものだ。

「ふぅ~焦ったぁ~」

アノールドは地面に腰を下ろしながら大きな息を吐き出す。

「いきなりお前、飛ばされるんだからよぉ。肝が冷えたぜ」

「ヒイロさん、その……大丈夫なんですか?」

ミュアが心配そうに聞いてくる。

「問題ない。それより思ったより魔力を消費した」

空中文字はMP消費が100なので、幾ら魔力が多い日色でもそう何度も使うわけにはいかない。

MP回復薬があるといっても、この先何があるか分からないのだ。温存するに越したことはない。

携帯しているMP回復薬である《青蜜飴》を服用した。普段の《蜜飴》は《白蜜飴》といって、低ランクの回復薬だが、《青蜜飴》はその上に位置する回復量を備えている。

「よっしゃ! さっさと抜けるとすっか!」

「うん、気をつけて進もうよ!」

「ん……暗いの少し飽きた」

「クゥ~ン」

三人と一匹のそれぞれ色が違う意気込みが面白い。特にウィンカァの理由は思わず笑ってしまう。いや、彼女の言う通り日色もまた太陽の下に早く出たい。

しばらく道なりに歩いていると、何度かモンスターが出るが、上手く隠れたりしてやり過ごしながら先を進んでいく。

細い道を突き進んでいくと、また開けた場所へと出た。だが嬉しいことにスロープのようになっている道の先には外の光が見えている。皆から 安堵(あんど) の吐息が漏れる。

「おっ! アレは出口だろ! は~さっさと街に行って熱い湯にでも浸かりたいよなぁ~」

アノールドの言うように、この中は結構蒸し暑くて服の中は汗びっしょりだったりする。風呂を希望するのは日色とて同じ。

スロープに近づこうとすると、パラパラパラと上から砂や小石が落ちてくる。

刹那、日色一行の前に寒気を感じさせるほどの事態が舞い込んだ。