軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

42:各国の動き

日色たちが【ドッガム】を出立した頃、【魔国・ハーオス】にある魔王城の一室。

そこは魔王であるイヴェアム・グラン・アーリー・イブニングの私室である。

イヴェアムはその端正な顔立ちを歪ませながらテラスから確認できる街並みを見下ろしていた。

考えるのは先に行われた魔国会議についてだ。イヴェアムは争いが嫌いである。故に話し合いで物事を解決に導くという選択をする少女だ。

しかし多くの魔人は、やはり人間と獣人に恨みを持っている。そのためイヴェアムの提案に不満を感じる者が正直に言って多い。

だがそれでも戦争が起これば人が傷つき死ぬ。それも恐ろしく簡単にあっさりとだ。戦争に大義などあってないようなものだ。

たった一つの真実。それは戦争が起これば人が死ぬということだけだ。だからこそ、イヴェアムは何度も【人間国・ヴィクトリアス】と【獣王国・パシオン】へ対話のための親書を送っている。

だが人間には無視され、獣人には拒絶の返事しか帰ってこない。

「何で誰も分かってくれないの……?」

その時、扉をノックする音がして、イヴェアムは振り向きながら「どうぞ」と声をかける。現れたのはイヴェアムの側近であるキリアだ。

雪のように真っ白な髪を揺らしながら、キリッとした表情でイヴェアムに近づきテラスへとやって来る。

「どうかしたかキリア?」

「いえ、最近お疲れのようなのでハーブティでもと」

見れば彼女の手には小さなトレイがあり、その上にはポットとカップが乗っていた。

「……キリアには分かるか?」

「はい。いくら気丈に振る舞われても陛下は陛下ですから」

「…………ハーブティ、頂こう」

そうしてテーブルにつき、慣れた手つきでカップにハーブティを注ぐキリアの手元をジッと見つめるイヴェアム。

イヴェアムはカップを受け取り、一口喉へと流し込んだ。

「……はぁ、美味しい」

「それは良かったです」

身体に熱が注がれていき、イヴェアムの頬も少し上気する。ホッと一息ついたイヴェアムがふと空を見上げる。

するとパタパタと一羽の小鳥が目に映る。チョコンとテーブルの上に乗ったその存在を見て、イヴェアムはハッとしてキリアに「紙を」と口にした。

キリアも迅速に動き、イヴェアムの私室にある棚の引き出しを開けて紙束から数枚拝借し、戻ってきてテーブルに白紙の紙を広げる。

緑色一色の小鳥が紙の上までチョコチョコ歩いてくると、その場で止まり、次の瞬間身体が溶け出す感じで形状を変化させていく。

小鳥の身体は液体状になって紙に流れていく。しばらくするとその紙には文字が形成されていた。

「相変わらずテッケイルの魔法は面白いな」

「そうですね。こうして情報をどこへでも運ぶことができますし、さすがはユニーク魔法といったところでしょうか」

イヴェアムは紙を手に取り内容を読んでいると、ふと笑みを溢した。

「どうされたのですか?」

「いや、ただテッケイルらしいことが書かれてあってな」

「どのようなことを?」

「何でも各地を旅していると、いろいろな出会いがあり、中にはとても気が合う者たちと仲良くすることもあるから楽しいと書かれてある」

「彼は気さくなタイプですからね。それにどのような相手にも分け隔てなく接することができますし」

「ああ、ここにもつい最近会った者たちで、面白そうな体験をしたと書かれてあるぞ」

「面白そうな?」

「何でも人間と獣人、はてはハーフがともに旅をしているパーティだったらしい。本当だったらかなり稀少なことだな」

「確かに、今の情勢でそのようなパーティがあるのだとしたら珍しい限りですね」

そしてしばらく読み進めて全ての字に目を通した後、イヴェアムは大きく溜め息を吐く。

イヴェアムはその紙を肩を落としながらキリアへと手渡す。そしてキリアも読んだ後、険しい眼差しを作る。

「……やはり人間は今回も傍観という立場を崩さないか」

「そのようですね」

「それにテッケイルは、これから獣人界で情報収集するようだな」

「恐らく近々獣人が動くという情報も耳にしているでしょう。その真偽を確かめるためにも彼には動いて頂かないといけませんね」

「そうだな……」

イヴェアムは立ち上がり再び空を見上げる。その表情は悲しげで、とても消え入りそうな 儚(はかな) さを宿していた。

「よっしゃあぁぁぁぁっ!」

勇者である青山大志の喜びの声がこだまする。

彼だけではなく、その場にはボロボロに疲弊しながらも、任務達成にホッと息を吐く鈴宮千佳、皆本朱里、赤森しのぶ、そして彼らの教育係である国軍第二部隊隊長のウェル・キンブルがいた。

今彼らは国王から依頼された討伐クエストをこなしていたのだ。

その内容は【バクストム鉱山】にてバクストムドラゴンを討伐するということ。

関所から帰った後にすぐ言いつけられたクエストだったが、関所での活躍も相まって、四人は乗りに乗った気分で二つ返事で了承した。

そして 艱難辛苦(かんなんしんく) の末、見事に打ち倒すことに成功したのだ。

これまで数々のクエストを経験してきて、レベルもチームワークも向上した彼らにとって、Aランクのモンスターも何とか倒せるまでになっていた。

ただ倒すことができたとはいえ、ドラゴンとの戦闘で張りつめていた緊張が一気に緩み、その場で大志以外が座り込んだ。

確かに皆が強くなったとは言っても、まともに攻撃を食らえば大ダメージは必至だった。

戦闘中に集中力が持続し、戦い続けることができたのも、今までの経験がそうさせたお蔭だ。

「危ない面もあったとはいえ、お見事でした勇者様がた!」

ウェルもそのイケメンフェイスを存分に喜びの表情に変えている。

「では討伐部位を取得して帰りましょう!」

ウェルの言葉に皆が返事をし、ドラゴンに近づこうとする。

だがその時、大志たちの上空を一つの影が覆った。

「何だ?」

大志が見上げてみると、その影は一目散にドラゴンの所へと向かっていく。

息絶えたドラゴンの背に立つ何者かがこちらを見下ろしてくる。その姿は奇妙なものだった。まるでそう、鳥と人間が融合したような鳥人間そのものだ。

大きな嘴に立派な翼に鷹のように鋭い眼差し。しかし人間のような四肢を有している。

その鳥人間に見覚えがあるのか、ウェルは顔を青ざめさせている。

「だ、誰だお前は!?」

大志が叫ぶと、鳥人間は腕を組みながら口を開く。

「この獲物は頂く」

低い男性の声で鳥人間が喋ると、焦げ茶色の大きな翼をバサッと広げる。

「おいちょっと待て、そいつは俺たちが倒したんだぞ!」

大志もせっかく苦労して倒した相手を横取りされたくないようで怒鳴るが、相手は表情を崩さずに鱗を力づくで剥がして大志の方に投げてきた。

それは討伐部位の《バクストムドラゴンの鱗》だ。これなら文句はないだろうといった視線を鳥人間が大志へと向ける。

その傍若無人な態度に、いつかのクラスメイトに対するような怒りが込み上げてきたのか、大志はビシッと指を突きつけた。

「ああもう! とにかく勝手に持っていくな! 理由を言えよ理由を!」

しかしすぐに大志の前に出て制止させたウェルがいた。

「いけません大志様!」

「な、何すんだよウェル!」

「いいんです! 部位も手に入ったことです。放っておきましょう」

ウェルたちのやり取りを鳥人間は一瞥すると、ドラゴンの大きな尻尾を右手で持つと翼を動かす。すると鳥人間の何倍も大きな身体を持つドラゴンの身体がフワッと宙に浮く。

「す、すごいです。あんなに大きいのに……」

朱里の言うように、彼は片手で尻尾を握っている。握力もさることながら、飛ぶ力もとてつもないと感じる。翼を動かす度にこちらにまで吹いてくる風は、台風さながら。

そしてそのまま鳥人間は空へと消えていった。

「……なあウェル、行っちまったけど、良かったのか?」

「い、いいんです。今あの者と争うわけにはいきませんから」

ウェルの額から流れる汗を見て、訝しみながらしのぶが聞く。

「もしかして、あの鳥さんってそんなに強いん?」

「……ええ、彼はバリドと言い、見て分かる通りの鳥人です」

「まあ、獣人っちゅうんは見とって分かったんやけどなぁ~」

「あのバリドって奴と何で争っちゃいけないんだよ? こっちは五人だぞ?」

大志の疑問は尤もだ。先程Aランクのバクストムドラゴンでさえ倒した。バリド一人くらい倒せると踏んだはず。しかしウェルは首を横に振る。

「いろいろ理由はあります。かれは獣人ですが、ただの獣人ではありません」

「どういうことだ?」

「【獣王国・パシオン】の国王に仕える《 三獣士(さんじゅうし) 》の一人です。もし戦えば、『獣人族』が黙っていません」

「そ、そんな幹部だったのかアイツ……?」

「はい、それに強さも恐らくは……我々以上です。ランクにすれば間違いなくSSランク以上でしょう。戦うには分が悪過ぎます。それに……」

「それに?」

ウェルが難しい表情をして言い難そうに口ごもる。そしてゆっくりと言葉にする。

「彼がモンスターを集めているということは…………戦争が始まります」

皆は思わず言葉を失ったかのように固まった。しばらくしてしのぶがようやく声を出す。

「せ、戦争て……ウチら攻められるんか?」

「最初、バリドを見た時はそう思いました。ですが、彼はこちらには興味を示しませんでした」

確かに一瞥しただけで去っていった。

「もし『人間族』と戦争をするなら、ここで我々を消しておくでしょう。これから戦う人間を見逃す理由がありませんから」

「ということは……」

「はい、相手は『魔人族』でしょう。これは思った以上に早いですね」

大志たちも聞かされていた。

近々、『獣人族』が『魔人族』と戦うだろうということは。

しかしまだ先だと国王も言っている。

だが現実は――――もうすぐ始まる。

「ウェ、ウェルの勘違いじゃ?」

大志が聞くがウェルが再び首を横に振る。

「いいえ、彼がモンスターを集める理由。何故だか分かりますか?」

今度は皆が首を横に振る。

「彼らはモンスターを操る術を持っています。しかもそれは死んでいなければなりません」

「どういうこと?」

「……ドクター・ユーヒット。獣人でありながら『人間族』、『獣人族』、『魔人族』を知り尽くしていると言われる研究者です。そして死んだモンスターをゾンビ化させ、使役する方法を編み出したと聞きます」

ゾンビ化という言葉に大志たちはゾ~っと冷たいものを感じたような顔を浮かべる。

「しかしゾンビ化は長くは持ちません。しかも新鮮な死体が必要だとも聞きます。その条件から推測して、彼がモンスターを集めている理由、それは……」

「戦争……か」

「はい。多くのモンスターを集め、戦力に加えるつもりでしょう」

「これは……思った以上に大事になってきたな。人間は大丈夫なのか?」

「…………恐らく傍観でしょうね」

「参加はしないってことか」

「ええ、同盟も結んでいないところに向かって行っても、下手をすれば両方から攻撃されますから」

「なるほどな」

大志だけでなく千佳たちも納得して頷く。

「それに、今はまだ勇者様がたは発展途上です。参加させて死なせるわけにはいきません」

死という言葉を聞いて四人の顔色が一瞬で青くなる。戦う覚悟はしたつもりだが、現実にその言葉が身に降りかかる状況を鮮明にイメージできてはいないのだ。

どことなく他人事のような感じだったに違いない。だが今戦争に参加すれば、間違いなく大志たちは殺されるとウェルは言う。

僅かに感じた死の重みが皆の喉を無意識に鳴らした。

「勇者様がたなら、どんな者にも負けない強さを手に入れられます。今は耐えて鍛えるべき場面です」

ウェルの言葉にそれぞれ顔を見回し頷き合う。

「分かったよウェル。俺たちものんびりしてられないってのが理解できた」

「はい、この戦争の間に誰も届かないくらいの力を手にしてやりましょう!」

「おう!」

四人は一様に意気込んでいる。

ウェルはバリドが去っていった空を見上げる。

(だが、どっちが勝つにしろ、これで世界が荒れるのはもう避けられないな)

これからの世界の有り方を思い、ウェルは自分ももっと強くなることを決意する。

「パパ!」

「父様、もしくは父上と呼べと言っておる」

「そんなことよりもアタシの話を聞いてよ!」

渋く重厚な声音を響かせている獅子のように厳格な顔立ちをした獣人がいる。

獰猛そうな赤い瞳がさらに威圧感を増長させている。

この人物こそ、【獣王国・パシオン】の国王、レオウード・キングである。

そしてレオウードをパパと呼ぶ娘こそ、彼の血を引く正統なる王女のククリアである。

立派な 鬣(たてがみ) と威圧感のある表情を持つ父とは違い、ククリアの髪色こそ父と同じ赤茶色ではあるが、ショートカットでサラサラとした美しい髪質だ。

少し鋭い目つきは父親譲りであるものの、どことなく幼く、皆からは愛嬌のある可愛い顔立ちと言われるのは、母であるブランサの血を引くお蔭なのだろう。

そんな彼女が今、大樹が幾重にも重なって作られた城である《 王樹(おうじゅ) 》の中で父を発見し問い詰めているのだ。

その内容とは――。

「ねえ! どうしてアタシが戦争に行っちゃダメなの!」

「……何度も言うが、お前はまだ未熟だ。《化装術》も使いこなせてはおらんだろう?」

「う……それはそうだけど……」

言葉に詰まり父から目線を逸らすククリア。図星だということだ。

「これから我々は戦いに赴くことになる。激しい戦いになるだろう。それこそ周囲に死がばらまかれるほどのな」

「で、でもアタシはこの国の王女よ! みんなが戦うのにアタシだけここで待ってろっての!」

「そうだ」

「パパ!」

「負ける気は毛頭ないが、それでも王族を全て絶やすわけにはいかん。だから……」

「連れて行くのは兄さんたちだけってこと?」

「そうだ」

「くっ……」

悔しそうに歯を噛み締める。言っていることが理解できるだけに反論が難しいのだ。

王族の血を引く者が全員戦いに赴いて、もし全員殺されてしまえば国がどうなるか。支えを全て失った国は崩壊の危機だ。

だからこそ、王族であるククリアを残し、二人いる兄たちを連れて行こうとしているのだ。国を思えばのことだそうだが、理解はできても納得はできないようだ。

「そ、そんなの納得できないわよ! ミミルだっているわ! あの子なら!」

「九歳の子に何を言っておるのだお前は?」

「うぅ……でもぉ」

ミミルというのはククリアの妹である。もちろん彼女も王族の血は引いている。しかし国を任せるには幼いのだ。またそれだけでなく、彼女にはある問題もあった。

「ワシの血を引いてはいるが、ミミルには難しい問題もあるだろう?」

「そ、それはそうだけど……あの子は頭もすっごく良いしアタシなんかよりも……」

レオウードは自分を卑下するククリアの肩にそっと手を置く。

「お前はもう十八になる。国のことをワシよりも思ってくれておる」

「パパ……」

「だからワシやお前の兄たちは安心して戦いに赴くことができるのだ」

「……」

「死ぬつもりなど無論ない。『魔人族』どもを全て滅ぼし、次は『人間族』。奴らに過去の清算をさせて、我々が天下を取る」

レオウードの力強い瞳がククリアを射抜く。

「でもアタシだって……」

ククリアの肩に温もりが伝わる。レオウードがそっと手を置いたのが分かる。

「お前はワシの娘だ。この『獣王』の娘だ。今は未熟でも、いずれお前は誰よりも強い獣人になれるとワシは信じておる」

「パパ……」

「だからワシらがいない間は、この国を頼んだぞ」

そう言いながら頷くと、彼女の返事を待たずにその場から去っていった。

残されたククリアは自分の力の無さを嘆く。

「アタシにもっと力があったら……兄さんたちのように強かったら……」

戦いたい。民たちのため、国のために、『獣人族』のために戦いたい。だがその力が無いのがもどかしい。去っていく父の背中を見て、「何て遠いんだろう」とククリアは呟いた。

《王樹》の中では会議が開かれていた。

円卓を囲い、国王であるレオウードに皆の視線が注がれている。

「皆の者、いよいよだ」

その言葉に誰の目にも強い光が見える。ようやくかといった雰囲気をその瞳に宿している。

「長い間、我々は苦汁を舐めさせられてきた。『魔人族』には好き勝手暴れられ、『人間族』には奴隷扱いされ、今もなお、苦しんでいる同志は山ほどいる」

レオウードの言に皆が一様に頷く。

「我々はようやく力を得た。魔法を持たず、種族的に劣っていると思われていた我々は《化装術》という最強の牙を手にできたっ! 今こそこの牙を振りかざし、奴らの勘違いを根こそぎ否定してやろうではないかっ! そして教えてやるのだっ! 獣人こそが天に立つ存在であるとっ!」

「おおっ!」

周りからは力強い声を感じさせてくれる。レオウードは頼もしいと思い笑みを浮かべる。

「まずは宣戦布告だ! 我々は不意打ちや裏切りなどをする『魔人族』どもとは違う。正々堂々と真正面から戦い、そして勝つ! それが我々獣人の誇りだっ!」

「おおっ!」

「宣戦布告をした後、まずは国境を越える必要がある。そこには当然魔人どもがいるだろうが――――――――――――――即座に狩れ」

皆からは獰猛な笑みが見える。やはり獣の血を引いているのだ。

野生の本能、戦いに臨む覇気は人間とは比較にならないほどの迫力がある。

「レッグルス、布告の手筈は整ってるな?」

「はい、父上の仰る通り進めています」

「うむ」

レッグルスはレオウードの長男――第一王子である。彼に似て、その実力、人望、雰囲気ともに優るとも劣らないと臣下の者は言う。

見た目もレオウードを少し穏和にさせたような顔立ちである。

「なら布告後、俺様の部隊が国境の魔人を始末してやるよ」

そう言うのは第二王子のレニオンである。彼はどちらかというと顔つきは母方の遺伝子を継いでいる。つまりはククリアに似ているということである。

「うむ、だが油断はするな。布告をする以上、奴らも国境を越えさせないように戦力を集めてくるはずだ」

「分かってるよ。それでも根こそぎ狩ってやるさ」

やはりレニオンも獣人である。獰猛な殺気が目の奥に息づいている。

「布告に当たり戦力増強が鍵となる。その点についてアイツらからの報告はどうなっておる?」

それに対してはレッグルスが答える。

「着々と彼らが集めてきてくれています。そういえば、先程一度帰還した者から気になる情報が届きました」

「ほう、聞こう」

「はい。何でも【ドーハスの橋】に近いところにある【ドッガム】で、危うく男手をすべて失うかもしれない事態が起きたそうです」

「何? それで? 無事だったのか?」

レオウードの表情が極端に険しくなる。

「はい。そこに立ち寄っていた旅の者に救われたとのことです」

「……旅の者?」

「ええ、つい最近関所を越えてきた獣人たちらしいです。ただ驚きなのが……」

「何だ?」

「彼らの中の一人が、ユニークモンスターを撃退できるほどの実力を持っているということです」

「ほほう、それは欲しいな」

レオウードの瞳が怪しく光り、その人物に対して興味が向く。

「ですが、すでに彼らは旅に出た後だったらしく、接触はできなかったようですが」

「なるほど、興味深い者たちだ。もし勧誘できれば戦力になったが仕方がないな。ところでそのユニークモンスターを倒した者はどんな風体をしているのか聞いたのか?」

「赤いローブを着た銀髪の少年だったらしいです」

「少年? 益々今後が楽しみだな。できれば一度手合せをしてみたいものだ」

「その者たちが安心して旅をし続けられるためにも、この戦いには負けるわけには参りません!」

レッグルスの言葉に触発されたようにレオウードがテーブルをバンッと叩き喝を入れる。

「そうだっ! これは戦争だっ! 無論勝って帰って来ることを一番に意識せよっ! しかし負けるわけにはいかぬ戦いでもあるっ! 故に、獣人の誇りを持って戦いに臨めっ! 根絶やしにしてやるのだっ!」

「おおっ!」

「ここから一週間後、我々は国境へと赴く。激しい戦いが待っているだろう。各々のけじめとして、家族にはしっかりと尽くすように!」

皆がその言葉に頷きを返す。

レオウードが鼓舞するように拳を突き上げながら声を張り上げる。

「よいか! ただ見つめるは勝利のみっ!」

「おおっ!」

「我が獣人の力を見せつけてやるのだっ!」

「おおっ!」

「同胞の無念を晴らしてやるのだっ!」

「おおっ!」

会議室の中は熱い気迫が充満して士気が十分に高まっている。

満足気に頷くレオウードは、獰猛な瞳を光らせ不敵な笑みを浮かべる。

「よぉしっ! では煮詰めようじゃないか。魔人を打ち倒す戦略をな!」