軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

32:獣人排斥集団

日色たちが珍妙な絵描きであるテニーと出会い一日が過ぎた。

あれからアノールドとミュアは、同じ獣人だということでかなり仲良くなっていた。

しかしどうも日色はテニーの行動に違和感を覚えたままだったので、いまいち信じ切ることができない。

ただウィンカァもハネマルも、テニーに関して害を感じていないようなので、一応警戒はしておくが下手に追及はしない。

今、ギルド内で一緒に朝食をとっていた日色たちだが、ギルドに来る冒険者たちが、口々にある噂をしていた。

それは関所の近くに凶暴なモンスターがやって来たらしいということ。よく聞くと、関所には、設置されている環境のせいか、多くのモンスターを発見することがあるらしい。

海から這い出てきた巨大なモンスターが、陸で一休みしているところを観測したとか、獣人界から飛んできた鳥のようなモンスターが関所の上で羽休めをしていたとか様々だ。

今回もそういった観測例があり、一応の警戒態勢を敷いているということだ。

そのほとんどは手を出さなければ何事もなく終結する。

「関所の警備も大変だよなぁ~」

他人事のようにパンを口に放り込みながら口を動かすアノールド。その時、彼は思いついたかのように日色に尋ねてくる。

「あ、そういやよヒイロ、お前関所をどう通り抜けるか考えたのか?」

「ああ、魔法を使えば楽勝だ」

「あ~はいはい、そうだろうなお前はよぉ」

若干嫌味を含めた言い方だったが、日色は気にせずに食事を続けている。

だがそんな二人のやり取りが気になったのか、テニーがアノールドに聞いた。

「魔法って、ヒイロくんは《通関証》を持ってないんスか?」

「そうなんだよ。まあ、ヒイロの魔法なら関所を渡るくらいできるだろうけどよぉ」

その時、テニーの目が細められたが気づいた者はいなかった。彼はすぐに元の眼光を宿し、日色に視線を向けた。

「へぇ、ヒイロくんの魔法、見てみたいッスね~」

「ただで見せるつもりはないぞ」

「アハハ、やっぱそうッスか~残念ッス~」

調子良く笑うテニーだが、日色は何となくその笑顔に胡散臭さを感じた。

それから他愛もない時間を過ごして、食事を終えた日色たちは、いよいよ関所へ向かおうかという話になった。

「テニーはこれからどうするんだ?」

「ん~そうッスね~。僕もまだ描きたい絵があるので、一緒には関所を通れないッスけど、せっかくッスからお見送りくらいはするッス」

ニカッと爽やかに笑うテニーに、アノールドは嬉しそうに「やっぱ獣人は絆だよな!」とバンバンと彼の背中を叩いている。

テニーは苦笑を浮かべながらアノールドの叩きをその身に受けていた。

するとその時、またもギルドへ入って来た冒険者たちがいた。

「おい、聞いたか? またあの連中が来たんだってよ」

「俺は見たよ。馬車が三台。それにあの白いローブ姿。ありゃ獣人排斥集団だな、多分」

そんな冒険者たちの言葉は、日色たち、特にアノールドとミュアの心を突き刺した。

アノールドは物凄い形相で、冒険者の一人に詰め寄り肩に手を置いて振り向かせる。

「お、おいちょっと!」

「うわ!? な、何だよお前!?」

「獣人排斥集団がいたって? どこに!?」

「え? いや、だから関所だよ。つうか誰お前?」

アノールドがガックリと肩を落とし、「ちきしょうめ……」と呟いている。

不審に思った冒険者はアノールドの手を払いのけて、不愉快そうにそそくさと離れていった。

「獣人排斥集団ッスか……彼ら、ちょくちょく来るらしいッスよ」

日色がテニーに「そうなのか」と聞き出す。

「はいッス。この関所は獣人界との国境ッス。つまり人間界にいる獣人が獣人界に帰る時に通る場所ッス」

「つまり、より多くの獣人を捕まえるにはうってつけってわけだな」

関所で張っておけば、獣人排斥派にとっては、蜜が塗られた木にワラワラと群がってくる虫たちのように簡単に捕縛することができるだろう。そして捕まえた獣人を有効利用して、人間の利益に、いや、獣人排斥集団の利益にしているのだ。

(まあ、当然考えられた結果でもあるが、オッサンは大分ショックを受けてるようだな)

せっかくあと少しで安全圏まで逃れられるという時に、連中が現れたことが衝撃だったのだろう。

「お前は何とも思わないのか?」

日色は我関せずといった感じでハネマルの頭を撫でているウィンカァに聞く。

「ん……邪魔するなら倒すだけ……だよ?」

その言葉はアノールドにも聞こえたのか、ピクリと肩を動かして、

「そ、そうだよな。今までも何とかなってきたんだ。それに……」

アノールドはミュアと顔を合わせる。ミュアも不安気にアノールドを見つめている。

「俺はもう一人じゃねえ。ミュアやウイも、ヒイロだっている」

「うん!」

アノールドの言葉に力をもらったのか、ミュアは大きく頷きを見せた。

「だが現状、通関が厳しいってことは変わらない」

「お、お前なぁヒイロ、せっかくやる気を出したのによぉ」

「とにかく、まずは様子を見る必要がある」

「……そうだな」

アノールドはパンッと気合を入れるように自分の両頬を両手で挟むように叩く。

「よし! 行くか!」

「うん、おじさん!」

「お~」

「アンッ!」

日色以外それぞれがやる気を見せる中、テニーがゆっくりと手を上げる。

「あ、あの、僕も行っていいッスか?」

「え? おいおい様子見だからって危険だぞ? お前も獣人なんだから、見つかったらただじゃすまねえ」

「大丈夫ッスよ! こう見えても修羅場は潜り抜けてきてるッスから!」

グーサインを出すテニー。確かに一人旅をしているぐらいだ。しかも獣人。それなりにこの世界で生きていく処世術を身に付けてはいるはず。

アノールドも「う~ん」と渋い顔をしながらも、

「分かった。けど危なくなったら俺たちをおいてでも逃げてくれよな」

「そうですテニーさん! ご自分の命を最優先に考えて下さいね!」

「ん……二人の言う通り」

「アノールドさん、ミュアちゃん、ウイちゃん…………良い人ッスねみんな」

その時、テニーの表情が申し訳なく日色の目には映った。

(やはりコイツには何かありそうだな。まあ…………悪い奴ではなさそうだが)

まだ完全には警戒を解かないが、それでもテニーには普通に考えて好感を持てるような人格が備わっていることは日色にも理解できた。

「よっしゃ! 決まったところでとりあえず行ってみっか!」

アノールドの言葉に皆が頷きを返し、日色たちは関所の様子を確認できる場所へと移動することにした。

――【ドーハスの橋】。

そこは人間界と獣人界を繋ぐ懸け橋の名前。

橋の入口では大きな塀が建造されてあり、その中心には見上げるほどの巨大な扉が存在している。

塀の両側には、【人間国・ヴィクトリアス】から派遣された兵士が守衛としてかなりの数が立ちはだかっている。

ここは国境であり、大事な人間界の玄関でもあることから、警備は常に慎重に務められているのだ。何か少しでも違和感があれば、逐一【ヴィクトリアス】のギルドへと報告される。

そこでギルドマスターが調査の必要があると判断した場合、国にも情報が行き、国軍を動かすか冒険者を使うかを判断する。国境の場合、警備している者たちは国軍なので、多くは国軍が動く。

明らかに関所とは無関係そうな案件なら冒険者たちに任せることになるのだが。

そしてそんな人間界側の大扉の前に、三台の馬車が到着する。

警備についている兵士たちも何事かといった様子で馬車に警戒を走らせている。その馬車から現れたのは白いローブを着込んだ者たち。

「あのローブ、獣人排斥集団か? ここへ何しにやって来た! まさかとは思うが獣人界へ入るつもりなのか!」

兵士が手に持った槍を強く握りしめながら、馬車から降りてくる白ローブたちに向かって早口で言った。

「一つ尋ねる。ここに赤ローブを着たガキと、獣人の男と子供が通らなかったか? それにあの『月光』もいたらしいが」

「……は? 何だそれは?」

「いいから答えろ。来たのか来ていないのか?」

白ローブの偉そうな物言いに、兵士は不愉快そうな顔をするが、それでも他の兵士とも顔を合わせ情報を確かめる。

「いや、そのような者たちの姿は見ていない」

「ククク、やはり先回りして良かったということだな。奴らがこちら方面に向かってるという情報は得ている。恐らく国境を越えるつもりなのだろう。ここでかの『月光』を殺すことができれば最高の手土産になる」

白ローブたちは楽しそうに笑みを浮かべている。

兵士たちも彼らに対してどう対応したらいいか迷っているようで困惑している。

「おい貴様ら、ここである連中を捕らえる。邪魔立てはするなよ?」

「な、何を言っている!? 一か月ほど前もお前たち獣人排斥集団には苦情を申し立てたはずだ!」

「…………」

「ここで獣人たちと戦い捕縛する。我々にとってはいい迷惑だ!」

「何だと? 貴様らは人間だろ? 薄汚い獣人を駆逐してやっているというのにその言い草は聞き捨てならんな」

「い、いくら獣人だといえども、国の命令でもない限り、罪もない獣人を捕らえるのは良しとされてはいない! そちらだってもう何度もそう通告を受けているはずだ! 何故それを無視するのだ!」

「黙れ一兵卒ふぜいが。ごちゃごちゃ言っていると、貴様らも駆逐するぞ?」

白ローブたちの殺意に満ちた視線を受け兵士たちは退く。しかしその背後からただならぬ雰囲気を感じたようで、関所を守っている他の兵士たちも向かってきていた。

「ほう、我々の邪魔をするというのか?」

「こ、ここの警備は我々国軍が任されている! 国に逆らうつもりか!」

まさに一触即発。獣人排斥集団と兵士たちが、互いの視線で火花を散らしていた。

関所の近くに鬱蒼と茂る林があり、その中には息を殺して関所を見つめる者たちがいた。

それは日色たちである。

「おい、何かもめてるみてえだぞ?」

アノールドがそこから見える現況に疑問を口に出した。それにはテニーが答えてくれた。

「多分獣人排斥集団が警備隊にケンカ売ってるんスよ」

「ケンカ?」

「はいッス。元々国軍は、ここでの獣人狩りを許容してはいないようなんスよ」

「だろうな。こんなところで獣人排斥集団と獣人が暴れれば騒ぎになり、下手をすれば凶暴なモンスターたちを引き寄せてしまう可能性だってある」

今まではこちらから手を出して刺激しなければ問題はなかったが、もしその騒ぎにモンスターが刺激を感じてしまえばとんでもない事態を引き起こすことになるかもしれない。

最悪の場合、関所が破壊されるということも有り得る。だから国軍は獣人排斥集団の存在を黙認してはいても、関所での活動は許可していないのだろう。

「特にユニークモンスターなんて現れた日には、ここの防衛力じゃしんどそうッスから」

日色はテニーの「ユニークモンスター」という言葉が気になったが、尋ねる前にアノールドが口を開いた。

「でもどうすりゃいいんだ? このままじゃ騒ぎになっちまって、関所が通行不可能になったら事だぜ!」

確かにもし警備隊と獣人排斥集団が本格的に衝突したら、関所を一時封鎖するだろう。関所周りの警備も増えてしまい、こっそりと通過することも難しくなる。それは困る。

ざらっと見た感じ、関所は石造りであり、高さ三十メートル以上はありそうな頑強な壁を形成している。その中心に扉があり、許可を受けた者はその扉から出入りするようだ。

他の場所から獣人界へ渡ろうにも、関所がある場所以外は断崖絶壁になっており、海を渡らなければ辿り着けないようになっている。

海の環境は、とても日色たちが突き進めるような難易度ではない。

まるで侵入者を阻むように渦巻く渦潮が複数あり、流れも速ければ波も高い。そして何よりも海に生息しているモンスターは、人間界のそれと比べてレベルの桁が違う。

高レベルの冒険者でも、一人では太刀打ちできないほどの強さを持つモンスターがウヨウヨいるのだ。しかも海の中、動きも制限される中で戦える相手ではない。

(やはり関所に穴を開けて通るのがベスト?)

どれだけ関所が分厚くても『穴』の文字を使えば通ることはできる。だが常に関所を見回っている兵士がいるので、隙を見つける必要がある。

(騒ぎに乗じてすかさず穴を開けて通る? いや、もしその騒ぎで関所の防衛に力を入れられたら厄介だ…………ちっ、獣人排斥集団め、面倒なことをしてくれる)

皆がどうすることが最善か考えている時、またもテニーが静かに手を上げた。皆の視線が彼に向く。

「アノールドさんたちはどうにか関所を越えたいけど、ここで連中に暴れられるのは困るんスよね? ……なるほど~」

テニーがフムフムと何度も頷きながら考え込むと、すぐにピンと人差し指を立てた。

「あの~、良い案があるんスけど、何なら乗ってみるッスか?」

「案? この状況でか?」

日色は疑わしそうに彼を見つめる。しかしテニーは笑みを崩さず、彼が持っているカバンの中からスケッチブックと一本の筆、さらに絵の具パッドのようなものを取り出した。

ちなみにスケッチブックといっても、板に紙が貼り付けてあるものだ。

「おいおいテニー、こんな時に絵を描くとか言わないよな?」

「え? そのつもりッスけど?」

「へ?」

冗談交じりに言ったアノールドだったが、テニーは真剣な表情だったので唖然となっている。

テニーは鼻歌混じりにパッドに黒と緑の液体を垂らす。

「な、何言ってんだよテニー?」

「まあまあ、見てて下さいッス」

するとテニーが慣れた手つきでスケッチブックに絵を描き始めた。

(む? 魔力……?)

日色は彼の持つ筆から魔力を感じて訝しむ。

アノールドたちは魔力を使ってテニーが描き上げていることに疑問を持っていないようだ。いや、もしかしたら気づいていないのかもしれない。

その間もサラサラとペンをテニーは動かしていき、あっという間に一匹の小鳥を描き上げた。

「これが何だってんだ?」

アノールドが難しい表情をしながら紙に描かれた鳥を見つめていると、驚いたことにその紙からピョコッと小鳥が浮き出てきたのだ。

「おわっ!?」

叫んだアノールドの頭の上に、その小鳥が自らはばたきチョコンと乗った。

「え? あ……え? な、何だよコレ!?」

「オッサン、静かにしろ。気づかれるだろ?」

「あ、悪い悪い」

日色の注意に素直に謝罪するアノールドだが、彼の驚きは理解できる。

その場に居た者全員が声にこそ出さなかったが仰天していたのは事実なのだ。

「アハハ、実はッスね。これは《魔法の筆》なんス」

「ま、魔法の……筆?」

アノールドが繰り返すと、テニーは微笑みながら首肯する。

「こうして絵を描くことで、実体化することができるんス。それにまだ特別な使い方もあるんスよ」

「と、特別な使い方?」

「はいッス。それを使って関所を通るんスよ」

「そ、そんなことができんのか?」

「まあ、僕の考えた通りに上手くいけばスムーズに事が運ぶッスよ。騒ぎも関所のまん前では起きないッスから」

テニー以外の者は互いに顔を見合わせ怪訝な表情を浮かべる。

そして代表してアノールドがテニーに聞いた。

「なあテニー、何でそこまでしてくれんだ? 俺とミュアが同じ獣人だからか?」

彼の言葉にしばらくキョトンとなったテニーだが、すぐに笑顔を見せて答えてくれた。

「それは簡単ッス。困っている人を助けるのは人として当然ッスから」

日色は彼の笑顔をジッと見つめる。そこには先程感じた違和感は一切なかった。心からのものだと何となく伝わってきた。

だが信じるにはまだ足りない。日色は厳しい表情のまま彼に問う。

「ならその方法を聞こうか」

「……いいッスよ。ヒイロくん」

そして彼から紡ぎ出される作戦。それを聞いた全員が驚愕の色に顔を染め上げた。