作品タイトル不明
265:フープシュート大会1
――翌日。
さらに“アウルム大祭”は賑わいを見せており、本日のメインイベントを観戦しようと、昨日行われた《イデアコック王決定戦》とひけを取らない動員数が、会場を満たし始めていた。
今日、ここで行われる《フープシュート大会》を一目見ようと、どんどん熱気が膨れ上がって来ている。
会場は《イデアコック王決定戦》で使用されたものと同じだが、昨日と違うのは、中央に描かれたコートと、その両脇に備え付けられている大きな輪っかだ。
「――――皆様っ! 本日はここ《アウルムスタジアム》にお集まり頂きまして、誠にありがとうございますっ! 昨日の《イデアコック王決定戦》の興奮も冷めやらぬまま、本日はまた最高のイベントが開催されようとしていますっ!」
昨日と同じくノリノリのシウバ。マイクパフォーマンスもお手の物で、クルクル器用に振り回しながらはっちゃけながら口を滑らかに動かし続けている。
「今日から二日かけて行われるのは、《フープシュート大会》でございます! 無論皆様には聞き覚えのない言葉でございましょう! それもそのはず! この大会を企画したのは、異世界からやってこられた英雄――ヒイロ様なのですから!」
「「「「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」」」」
シウバの声に呼応するかのように、観客たちから盛大な歓声が轟く。皆の中でほぼ日色という存在は神格化しているのだ。
「ではまず簡単にルール説明をわたくしの方からご説明させて頂きましょう! まずモニターをご覧くださいませ!」
上空に設置されているモニターに観客たちが視線を向ける。そこには会場に描かれているコートが縮小して描かれてあり、SDキャラの日色たちが、コート内に立っていた。
「勝負はこのコート内で行われます。コートの両端をご覧頂けますでしょうか。そこには大きなフープが設置されてあります。コートの中央には線が引かれ、そこを境界線として、左右に陣地が別れているのです。ここで二チームが鎬を削ります」
モニターには、中央の線を挟んで、右に日色チーム、左に獣人国チームが立っている。
「そしてこの二チームで、ボールを奪い合い、フープの中にそのボールを通せば得点を得られるということでございます! もうお分かりですね! そう! 制限時間内に、より多くの得点を取ったチームが勝利を得られるということなのですっ!」
なるほど、と誰もが頷きを見せている。どうやらルールは大体把握したようだ。
「さて、ここからは細かなルールですが、まず、一人がボールを保持できるのは十秒までです! 十秒過ぎてもまだ保持している場合は、相手チームのボールになります!」
モニターに映し出されるSDキャラの日色がボールを持つと、十秒のカウントダウンが始まる。そして“0”になると、審判らしきキャラが笛を吹いて試合を一時中断させた。
「またいくらボールを奪うつもりでも、相手を傷つけるような攻撃をした者は反則、ファウルポイントとして、相手に得点が加算され、酷いファウルの場合は、その者には退場してもらうことになります!」
シウバが観客たちの中に渋い顔をしている者を発見し、
「分かりやすいように、モニターにルール説明が映し出されておりますので、そちらをご覧くださいませ!」
1:互いにボールを奪い合い、フープの中にボールを入れて得点を掴む。
2:制限時間内により多くの点を獲得したチームの勝利。
3:メンバーは七人。そのうち一人はゴールを死守するキーパーとなる。
4:相手を傷つけるような武具は一切使用禁止。道具は一部のみ使用可能。
5:魔法や《化装術》などは相手を直接傷つけるもの以外なら使用可。
6:ボールを保持できる時間は十秒。過ぎれば相手ボールへ。
7:反則行為をすると、ファウルポイントとして相手得点になる。あまりに酷悪な反則は退場対象となる。
8:シュートは誰にでもできるが、チーム内に一人だけ黄金の鉢巻をする選手を選び、その者が得点した場合は、得点は倍となる。
9:技や魔法によっては、運営の判断で制限をかけることもある。
10:フープの得点は、得点板に映し出されており、一定時間内でランダムに変化する。フープにボールを入れた時に表示されていた得点を獲得することができる。
「とまあ、こんな具合にルールが定められております! あとは実際に試合を通して、お楽しみ頂ければと思います!」
シウバの説明があり、それにモニターにも表示されていることから、少し複雑なルールにもある程度理解してくれている観客たちが増えてきている。
「では、さっそく出場チームをご紹介したいと思います!」
会場にある左右の大きな扉が開け放たれ、そこから次々と各国の代表たちが姿を現す。
「まずは【人間国・ランカース】代表、ジュドム国王率いる――〝ジェントルブレイヴ〟チーム!」
ジュドムを筆頭に、その後ろから彼が選出した者たちが観客たちの前に出てくる。
「さらに【獣王国・パシオン】代表、レッグルス国王率いる――〝ストレングスレオン〟チーム!」
こちらもレッグルスを筆頭に、強そうな猛者たちが続く。
「そして【魔国・ハーオス】代表、イヴェアム国王率いる――〝トロイリーベ〟チーム!」
続いてイヴェアムを筆頭に『魔族』たちが悠然と歩を進めている。
「最後に! 我らが英雄ヒイロ・オカムラ率いる――〝イノセントムーン〟チームですっ!」
一際大きな歓声とともに、日色を先頭にしてチームが顔を見せる。
「以上四つのチームによるトーナメント方式で、二日に分けて優勝チームを決定したいと思います!」
四つのチームがそれぞれ列を作り、コートの近くに設置してある台の前で静かに待つ。すると大会主催者であるリリィンが台の上に立ち、参加者たちの顔を見回す。
「おほん! え~本来ならこういった場合、長々とこの場で話をするのが通例なのかもしれないが、そんな面倒なことはしない。皆も早く試合を観たくて待ち遠しいだろう。故に、ワタシからは一言だけ。――存分に大会を楽しんでくれ、以上!」
パチパチを参加者や観客たちから拍手が送られる。リリィンがシウバに早く進行しろといった感じで目配せすると、シウバはマイクを片手に大きく息を吸い、
「では皆様! モニターの方をご覧ください! トーナメントの対戦表をお見せしたいと思います!」
モニターに映し出されるトーナメント表。そこにランダムで四つのチーム名が表示されていく。
「まず第一回戦――〝ストレングスレオン〟VS〝トロイリーベ〟ですっ!」
必然的に残されたチームが互いに雌雄を決することになった。
「では十五分後、試合を開始したいと思いますので、対戦チーム以外の皆様は控室へとお戻りくださいませ!」
日色はモニターを見ながら、
「なるほどな。オレらの相手はジュドムたちか」
チラリとそのジュドムに視線を送ると、向こうも日色の視線に気づき目線を合わせてニッと笑みを浮かべた。まるでかかってこいよ的な意味を含んでいるように思える。
「あの野郎……。面白い、絶対に勝つ」
そう言って日色は自分のチームとともに控室へと戻っていった。
※
コートの脇に設置されたベンチでは、それぞれのチームが軽く身体を動かしてアップを開始していた。
「ニャハハ~、絶対勝って決勝でヒイロとやるニャ~!」
〝ストレングスレオン〟のクロウチ(シロップ)は、本来の 白豹(ロリ) タイプではなく、黒豹(成人)タイプになっていた。その方がリーチもあって有利だからだろう。
「クロ、油断は禁物。相手もさるもの」
「分かってるニャよ、プティス! けどプティスこそ、キーパーニャんだからしっかり頼むニャ」
「プティスならば大丈夫だろう。レッグルス様の采配だ。必ず上手くいく」
そう言うのはバリドである。
「――よし、集まってくれ皆!」
レッグルスの掛け声で、彼の前に獣人たちが集まる。
「もう一度スターティングメンバーを確認しておく。まず前衛は、クロウチ」
「ニャ!」
「それにレニオン!」
「任せな!」
「三人目はララシーク」
「はい」
「三人は攻撃の要だ。上手くボールを回してフープを狙ってくれ。それと、黄金の鉢巻を巻く者だが、レニオンに任せる」
「分かってるじゃねえか! オレが“コンジキ”でいいんだな」
黄金の鉢巻を巻く者を“コンジキ”と呼ぶのだ。名前から分かるかもしれないが、日色が決めた設定でもある。
「続けて後衛、守りはバリド」
「はっ!」
「続いてミュア」
「はい!」
「最後に俺だ。しかし状況によってメンバーや守備を変えていくことになるかもしれないから、補欠メンバーも準備はしておいてくれ」
ベンチに腰かけている補欠メンバー、アノールドやユーヒットたちが返事をする。
「そしてキーパーは、プティス。頼んだぞ、我らの守護神」
「全力でフープは死守します」
「よし! なら作戦の確認を始めるぞ!」
「「「「」おう!」」」
※
一方、少し離れたベンチにはイヴェアムたちが陣取っている。
「向こうは堅実なレッグルス王だから、恐らくは前衛と後衛がきっちり半々で別れると思うの。ならこっちは攻撃主体にして、前衛を四人、後衛を二人にしようと思うわ」
「ん~でも陛下ぁ~、守りが薄くなっちゃうわよぉ~」
シュブラーズが懸念を口にするが、
「そうね。けれど前半で多くの得点を獲得し、体力が少なくなる後半では守りを固める作戦を取ろうと思うの」
「ふむ。さすがは陛下。しっかりと考えておられる」
マリオネがウンウンと何度も頷いている。
「ありがとう。だからまずは前衛に、アクウィナス、マリオネ、オーノウス、ラッシュバルの四人で攻めに攻めてもらうわ」
四人が力強く頷く。
「後衛として、私とシュブラーズで戦況を確認しながら指示を出すわ」
「オッケ~よぉ~」
シュブラーズが微笑を浮かべながら小さく手で丸を作って了承する。
「次にキーパーだけれど、テッケイル、頼めるわね」
「了解ッスよ!」
「あなたの魔法なら、応用力が効くから立派に守護神を務められると思うわ」
「期待に応えてみるッスよ!」
「最後に“コンジキ”だけれど……」
「一度設定したら試合中は変えられないッスから、慎重に選ばないといけないッスね」
テッケイルの言う通り、“コンジキ”に選ばれるのは一人だけ。もしその者が退場でもしてしまったら、得点倍という恩恵は二度と手にできないのだ。
「そうね。でも最初から決めているわ。――オーノウス、いい?」
「いいのですか?」
「ええ、あなたの身体能力は、この中の誰よりも高いわ」
獣人の血を受け継いでいる『魔獣』なので、それもまた必然。
「体力もあるし、技も持ってる。だから頼むわね」
「承知しました、陛下」
「うん。さあ、勝ちに行きましょう!」
「「「「おう!」」」」」
※
けたたましいブザーが鳴り響き、シウバがコートの中央に立つ。今回彼は審判役を務める。実況と解説には……。
「どうもー! 今回実況役として選ばれたオリア・バートンです!」
観客席の一部に実況席が設置されてあり、そこにはパイナップルの葉のような髪型をした緑髪の女性が座っており、
「また解説役として、クゼルさんに来て頂きました!」
「どうも、クゼル・ジオです。よろしくお願いします」
「よろしくお願いします。クゼルさんは獣人ということですが、参加はなさらなかったんですねぇ~」
「はい。こういう活気のあるイベントに参加するにはもう私は歳を取り過ぎていますから。こういうのは若者だけにお任せ致します」
「ほうほう。とても更けているようにはまったく見えませんがいいでしょう! ちなみにクゼルさんが注目されている選手はおられますか?」
「そうですね。やはりそれぞれの“コンジキ”を担う選手、でしょうか」
「なるほど~。確かに倍の得点を得られる“コンジキ”は、重要な立場になりますからね」
「はい。皆さん、怪我がないように、精一杯楽しんでもらいたいですね」
「はい、ありがとうございました! おや、そろそろ試合開始の時刻が迫ってきた模様です!」
それぞれのチームがコート内に入っていく。同時に設置されているフープの得点板が、ランダムに数字が表示され始める。
5、3、0、10、1、4……。
「フープにボールを入れた瞬間に、表示されていた数字が得点になるんですね」
「その通りです、クゼルさん! ただ“0”という数字もありますので、その時は得点は0。悲しい結果になりますね!」
「ランダム表示ですから、見極めは不可能です。ただ数字が表記されている時間は5秒なので、その間にボールを入れれば、表記されている数字を得られます」
「楽しみですね~。より多くのシュートをしたチームが勝つとは限らないというのもまた面白いところですね!」
「はい。結果は得点ですから、たとえ少ないシュート数でも、高得点を取得しているなら十分勝機はありますから」
「おっと、そろそろホイッスルが鳴らされるようです!」
見れば首から笛を下げているシウバが、コートの中央に立ち、片手にボールを持っている。
「あのボールは特注品で、たとえ魔法や《化装術》で攻撃しても壊れないようにできているらしいです」
「開発には英雄ヒイロ様や各国の研究者が関わっているらしいですから、その強度は折り紙つきでしょうね~!」
シウバが試合の注意事項を、互いのキャプテンであるイヴェアムとレッグルスに言っている様子。
「さあ、どちらが勝つか。史上初の《フープシュート大会》が始まりますよぉ!」
互いのチームがポジションにつき、シウバを挟んで睨み合うように、互いの“コンジキ”であるオーノウスとレニオンが立っている。
そしてシウバが笛を鳴らし、ボールを空高く真っ直ぐに上げた。
試合開始だ――。
レニオンとオーノウスが同時にジャンプをして手を伸ばす。最初にボールをキャッチしたのはオーノウスだった。
レニオンは「ちっ!」と舌打ちをしつつも、すぐにオーノウスのマークにつく。
「……ほう、良い動きをする」
「へっ、舐めんなよ! 俺様はあのレオウードの息子だぜ!」
「ふっ、そうだったな」
「このまま十秒間、パスも出させてやらねえ!」
レニオンはボールから目を離さずに、オーノウスがパスすることができないように長い手で阻む。
「……パスか。――そのつもりなど一切ない!」
「何っ!?」
オーノウスのふくらはぎがボボンッと大きくなったと思ったら、凄まじい速度でその場から動きレニオンを振り切っていく。しかし――スパンッ!
「ぬぅ!?」
オーノウスが保持していたボールが何者かに払われ、ボールは高く上空へと上がってしまう。
見れば、オーノウスの足元から手のような形をした黒い影が伸び出ており、それがボールを弾いていたのだ。
「ニャハハ! もらったニャ!」
クロウチの《化装術》による仕業だった。
「ナイスだ、クロウチ!」
レニオンは保持者を失ったボールをキャッチすると、そのまま相手フープ目掛けて走り出した。
「このまま先取点を取らせてもらうぜっ! おらぁぁぁっ!」
驚くことに、まだフープからかなり距離のあるところからレニオンがボールを投げた。レーザービームのごとくボールは真っ直ぐフープへと直行する。
「――させないッスよ。《絵画魔法》――《空描き》!」
フープの前に立つテッケイルが、その手に持つ筆で空中に素早く絵を描く。描かれた絵は具現化して、ボールの前に立ち塞がる。
「名付けて、守護の塔――ってとこッスかね」
描かれた円柱状の塔にボールがぶつかり、そのまま弾かれてしまった。
しかし異物などを具現化できるのは五秒とルールが決まっているので、ずっとこの塔を顕現させておくことはできない。
「よくやったわ、テッケイル!」
イヴェアムが弾かれたボールをキャッチして、前衛のアクウィナスにボールをパスした。だがそんな彼の足元に影が伸び、先程のオーノウスのようにボールを奪おうと黒い手が伸びる。
「……無駄だ」
突如黒い腕が灰化して消失。
「ニャニャッ!?」
アクウィナスの《魔眼》が発動した。
「……俺には魔法や《化装術》は効かないぞ」
「ニャニャ~……さすがは『魔族』最強だニャ……」
見るだけで、いや、正確には対象を刺すと灰化できる極小の剣を無数に創り出しているのだが、今大会では無尽蔵にそれを使用されると面白くないということか、彼を中心にして半径五メートルの範囲でなら使用可とされている。
「油断するなクロウチ、パスコースを塞ぐんだ!」
「ニャ!?」
レッグルスからの注意も一歩遅く、アクウィナスはマリオネにボールをパスし、彼は受け取ると疾走し始めていた。
「ラッシュバル、フープまで走れ!」
「承知!」
マリオネに言われてラッシュバルはコートを突っ切り、フープの近くまで走る。
「ラッシュバル殿の行く手を遮るんだ! 彼を中心に攻めてくるぞ!」
レッグルスはそう言うが、マリオネはしてやったりといった感じで口角を上げていた。
「……そのような見え透いた策を取るわけがなかろう。忌々しいが貴様が決めろ、オーノウス!」
獣人にまだ思うところがあるマリオネは、オーノウスとはあまり仲が良くない。しかし彼からオーノウスへの頭上へとパスが通じる。
「マリオネ殿が作ってくれたチャンスを無駄にはできん!」
オーノウスの身体から赤いオーラが迸る。
「――《太赤纏》っ!」
《赤気》と呼ばれる、身体力と魔力を合成させたエネルギーが、彼の右足へと集束する。
「ぬおぉぉぉぉっ!」
オーバーヘッドキックで、ボールを蹴り出すと、先程のレニオンの比ではないほどの速度でフープへとボールが吸い込まれていく。
「プティスッ!」
レッグルスの叫びとほぼ同時に、キーパーのプティスが《化装術》で氷の壁を生み出しボールを阻もうとする――が、《赤気》を纏ったボールはとてつもない威力を備えており、氷を貫きそのままフープを通過してしまった。
ピピーッとホイッスルが鳴り、フープが光り輝く。得点ゲットの合図である。
得点板を見ると“3”という数字が表示さえてあった。
つまり先取点を取ったのは〝トロイリーベ〟となる。しかも得点したのは“コンジキ”のオーノウス。ということは……。
「うおぉぉぉぉっとぉぉぉっ! いきなりすっごいシュートが決まりましたぁ! しかもなななな何とぉっ! “コンジキ”であるオーノウス選手の得点です! 故に獲得得点は……二倍っ!」
実況のオリアの声が会場中に響く。
6 対 0
イヴェアム率いる〝トロイリーベ〟たちは、互いにガッツポーズをして先取点の喜びを表現している。
逆に先に点を取られた〝ストレングスレオン〟の面々は、悔しげに歯を食いしばった。しかしパンパンとレッグルスが手を叩く。
「皆、すまない! 俺が相手の思惑にまんまとハマってしまったせいだ! しかしまだまだ時間はある! 次はこちらが得点をゲットする番だぞ!」
彼の言葉にレニオンたちが頷きを返す。
ボールはコート中央まで持ってこられ、そこから得点された〝ストレングスレオン〟側からスタートされる。
ホイッスルが鳴ると同時に、ボールを持っているレニオンが相手コート内に突っ込んでいく。しかし彼の行く手を阻むのは先程ゴールをしたオーノウスだ。
「ちっ、またアンタかよ!」
「次も我らが得点を頂く!」
「そう簡単にやれっかよ! それに……」
「む?」
「次はこっちの番なんだからよ!」
レニオンの身体から風が吹き荒れ、そのまま風に乗るように上空へと上昇していく。
「何と!? しかしその程度で!」
オーノウスもまた跳び上がり、レニオンを追う。そして彼が持っているボールを奪おうと手を出していくが、
「ララシーク!」
レニオンからララシークへとパスが通る。
「ぬっ!? ここでパスだと!?」
「へへ、しばらく空の旅をしてようぜ、オーノウスさんよぉ」
レニオンとオーノウスを包み込むように竜巻が生まれる。無論傷つけてはならないので、負荷自体は含まれておらず、ただその場で浮かんだまま拘束されるだけ。
「くっ! まさかお主……!」
「アンタの足止めはバッチリだ」
レニオンは最初からそのつもりだったようだ。
ボールを受け取ったララシークは、クロウチとボールを回しながら相手コート内を自由に駆け回る。
「ララシーク様!」
「おう!」
クロウチからボールが投げられて、それを見事に読んでいたのか、マリオネがゲットする。
「これで連続得点は頂きだ!」
同時にアクウィナスとラッシュバルたち前衛も相手コートへと走る。
しかしクロウチとララシークは、何故か戻らずにそのままフープがある方へと突っ込む。
「……っ!? よく見てマリオネ! それはボールじゃないわ!」
イヴェアムの叫び。
「んなっ!? これは――っ!?」
マリオネが持っていたのはボールに似せて作られた黒い塊だった。
「ニャハハ~! 引っ掛かったニャ~!」
本物のボールは、クロウチが尻尾で掴んで隠していたのだ。
「行くニャッ! 《闇夜転化》っ!」
クロウチの身体が闇そのものに変化し始め――
「――《十愚の黒撃》っ!」
刹那に十人のクロウチが姿を現す。
後衛のイヴェアムとシュブラーズだが、さすがに攻撃陣が突破されてしまうと防御が薄い。しかも相手は十人。さらに素早いクロウチを止めるには、なかなかに難しく……。
「突破だニャ~!」
見事二人を振り抜き、フープ前へとやって来た。
「今度も止めるッスよ!」
最後の防御壁、テッケイルが再び立ちはだかる。
「受けてみるニャーッ!」
十人のクロウチが一斉にボールを投げる。とはいっても偽物のボールは、黒い塊で作ったものではあるが。
「全部止めるッス! 守護の塔ッスよ!」
次々と塊を弾いていく塔。
「さぁて、本物はどれッスか?」
テッケイルが視線を動かしボールを探すが……。
「…………ニャハ。 引っ掛かったニャ」
「……はい?」
「テッケイル、左だっ!」
上空から叫ぶオーノウス。しかし気づいた頃にはすでに遅かった。
ボールがフープを通過し、フープが光り輝いてしまった。
「な、何が……?」
テッケイルの視線の先にいたのは――ララシーク。
「……ま、まさか」
驚嘆しながら視線をクロウチへと移す。
「そうニャ。僕が持ってたのは全部偽物ニャ」
クロウチが《転化》し、十人に分身した直後、影をララシークに伸ばしてボールを渡していたのだ。
「かぁ~、やられたッスよ~。まさかクロウチさんが囮だったとは……」
「ニャハハ! これでさっきのお返しはできたニャ!」
しかも得点板は――“7”。
6 対 7
〝ストレングスレオン〟の一歩リードである。
※
会場の控室にて、日色は備え付けられているモニターを見ながら白熱する勝負に嘆息していた。
まさか初っ端からこれほど激しい攻防になるとは思っていなかったからだ。
「ほう、一方は攻撃型、もう一方はバランス型か。攻撃力では〝トロイリーベ〟に軍配が上がるが、〝ストレングスレオン〟も防御は固い……な」
傍に立っているリリィンがフフンと鼻を鳴らし楽しげに言葉を口にしている。
「どちらも凄いですぞ! うう~早くボクたちもやりたいですぞぉ!」
「ん……ウイも早く暴れたい」
ニッキとウィンカァも日色チームである〝イノセントムーン〟の仲間である。
「ねえ……ヒイロ……」
「……何だ、カミュ?」
『アスラ族』の長――カミュ。彼もまたチームメイトだ。
「どっちが……勝つと……思う?」
「さあな。前半戦はもうすぐ終わるが、互いにほぼ同じ得点だ。いつでも逆転できるし、実力は拮抗してる。体力も少なくなってくる後半で、どれだけ動いて得点できるかが勝負の分かれ目になってくるんじゃないか?」
正直にいえばどちらも勝ってほしいという矛盾は抱えている。ミュアにもイヴェアムにも頑張ってほしいからだ。
「……あ、アノールドが……出た」
カミュの言う通り、選手交代でララシークとアノールドを交代させている。ララシークは汗を拭きながら、酒瓶を傾けているが……。
(あのロリババア、試合中になんていうものを呑んでいやがる……)
さすがは呑兵衛である。こんな時でも補給はドリンクではなく酒らしい。
試合ではアノールドがクロウチと連携を取り、見事にボール運びを見せて再び得点した。
「ほう、オッサンもやるじゃないか」
風の《化装術》を上手く使ってボール運びをしている。
「これで〝ストレングスレオン〟が七点もリードしているが、依然としてすぐに逆転できる得点だな」
リリィンの言葉通り、たとえ二十点の差をつけても、一度で追いつかれる可能性は残されているのだから、一時も気を緩めることはできない。
「それよりも一応身体を温めておけよ、お前ら」
日色は仲間たちにそう言うと、彼女たちも返事をして頷く。
もうすぐ前半戦が終わる。残りは後半戦の二十分間。それが過ぎれば、いよいよ今度は自分たちの試合が始まるのだ。
「なあ、リリィン。オレらの相手は〝ジェントルブレイヴ〟――【人間国】だが、やはりジュドムが厄介だろうな」
「だろうな。アイツは衝撃を知り尽くした《衝撃王》だしな。多彩な技も持っている。この《フープシュート》でもそれはいかんなく発揮できるだろう」
「それにウィンカァの師匠も確か向こうにつくんだよな」
「ん……そうだよ。お師さん、とっても強い」
彼女の師匠――タチバナ。彼女の強さは戦争の時に十分見せてもらっている。
「ととさんも言ってた。身体能力は、獣人とそう変わらない……って」
「なるほどな。それは勝負するのが楽しみだ」
「まあ、このチームは、貴様がいる時点ですでに反則じみてはいるがな」
確かに日色の《文字魔法》は汎用力が高過ぎて、相手も対処することが難しいだろう。仮に『天下無双』の文字を使ってしまえば、誰も日色を止められなくなる。
「それはお前もだろ、リリィン。だからオレやお前には、ある程度の制限がかけられてあるし」
そうなのだ。リリィンの《幻夢魔法》にしても、相手を幻術にハメ続ければ勝負にもならないということで、かける時は相手に目を合わせた時だけという条件を設定した。
こうしておけば、コート中に魔力を充満させ全員に幻をかけるという荒業もできなくなる。
また日色に関していえば、使えるのは一文字魔法だけという制限がかけられてあるのだ。かなりの戦力削減だ。
ただそうでもしなければ、それこそ本当に一方的な試合になるので日色とリリィンは自らその枷を負うことに決めた。
(まあ、本来なら全力で力を出し切るのがスポーツだが、さすがにオレとリリィンの魔法は卑怯過ぎるからな)
あくまでも勝負を楽しみたいのだ。そしてその上で勝ちたい。スポーツは特にどちらが勝つか分からないから楽しいのである。
「お、前半戦終了か……」
シウバからホイッスルが響き、ブザーも同時に鳴る。
※
32 VS 28
リードを守って〝ストレングスレオン〟が優勢である。
予想以上に互角の戦いなので、それはもう会場は盛りに盛り上がっている状態だ。
「ふぅ、何とかリードのまま前半戦を終えられたな」
レッグルスが汗を拭きながら、安堵したように溜め息を吐く。
「しかしさすがは『魔族』といったところですね。身体能力はこちらの方が上だと思っていましたが、魔法でそれをカバーしてくる」
「バリドの言う通り。向こうの魔法のバリエーションが豊富です。特にアクウィナスさんの魔眼で、こちらの《化装術》が無効化されますから」
バリドの後を継いで、ミュアが考えを述べながらドリンクを口にする。
「しっかし疲れるわ~。おら、アノールド、もっと師匠を扇げ」
「分かってますって!」
ベンチに寝転がっているララシークの傍で、うちわを扇いでいるアノールドの図。
「ちっ、ララシークの言うように、二十分間フルに動くのはさすがに疲れるな。おい、クロウチ、お前は大丈夫なのか?」
「ニャハハ! まだまだ行けるニャよ、レニオン様!」
「クロは体力だけはある。……体力だけだけど」
「フニャー! その言い方は少しムカッとするニャーッ! プティスなんて、そんなに体力ニャいくせにィ~ッ!」
「キーパーだし、そんなに体力いらない」
「そ、それはそうかもしれニャいけど……」
すぐに言い負かされてしまうクロウチ。
「よし、後半戦もこの調子で行こう! それとユーヒット、そろそろ出てもらうよ」
「ニョホホホホ! 待っておりましたですよ! 日頃から酒ばかり煽ってヨレヨレになっている不肖の妹に成り変わり、この僕がコートに入りましょう!」
「う~あ~……頭痛え~」
「だから師匠、酒を呑むなって言ったでしょうに」
「おやおや、僕に反論もしないとは、これは本格的に老いが始まってますかね?」
「おいこらクソ兄、それ以上言ったらぶち殺すぞぉ……」
「ふむふむ。言葉にも覇気がない。たかが二十分で何とも情けないことか……」
「うるせえなぁ……ったく、おいアノールド、冷たいカクテルはないか!」
「そこはドリンクにしときましょうって!」
やはりダウンしがちでもララシークはララシークらしい。
※
一方〝トロイリーベ〟側ではイヴェアムが皆の前に立ち後半戦への意気込みを口にしていた。
「いいわ。まずまずの前半を終えられたわ。この調子で後半はもっと得点していきましょう」
「しかし陛下ぁ、前半も結構攻撃したけど、守りが固くて防がれる場面が多かったわよぉ」
シュブラーズが忠告すると、イヴェアムが頬を緩めながら、
「ええ。だけどこっちの攻撃で、向こうの攻撃陣も守りを集中して、結構な体力を使っているわ」
「だがそれはこちらもですぞ、陛下」
今度はマリオネが自慢の髭を整えながら喋る。特に攻撃の要になったオーノウスの消耗は激しい。
「そうね。けれどこちらは選手層が厚いもの。オーノウスにマリオネ、ラッシュバルは一旦下げて体力回復に努めて」
「そ、それではさすがに攻撃力が下がるのでは? 点では負けておるのですぞ?」
「マリオネの懸念は尤もよ。けど、さっきも言ったように、こちらは選手層が厚いの。代わりにイオニス、ジュリン、チューガイ、あなたたちに前衛を任せるわ」
魔軍の総隊長であるイオニスと、隊長格であるジュリン。マリオネの直臣であるチューガイが同時に「はっ!」と返答した。
「立派にお勤めを果たすの」
「オーノウス様! アタイの活躍、見ていてください!」
「マリオネ様に恥じない活躍をさせて頂きます!」
それぞれの意気込みを感じ、、イヴェアムは満足気に頷く。
「アクウィナスは一旦防御陣へと下がってもらうわ。これ以上得点されないように、あなたは攻撃よりも防御を優先させて」
「御意」
「シュブラーズも私と同じ防御の要よ。あなたの魔法で私とテッケイルの魔法の効果を強めて」
「分かったわぁ~」
「前衛の三人は、控えだからって縮こまらないでいいの。今度の主役はあなたたちよ。存分に力を発揮して、ボールをフープに叩き込んできて」
「「「はっ!」」」
そしてホイッスルが鳴る。
「――さあ、勝ちにいくわよっ!」
※
後半戦の開始――。
点差で負けている〝トロイリーベ〟側が、積極的に動きを見せている。特に前半とはガラリとメンバーが変わったこともあり、〝ストレングスレオン〟は、序盤は相手の様子を見守っている様子だ。
「いきなり三人も変更してきたんだ、大胆な作戦だが迂闊に行動して隙を見せたらダメだぞ!」
レッグルスの声が〝ストレングスレオン〟たちの警戒度を高めていく。
ボールを持っているのはイオニスであり、横並びにいるジュリンと一緒に敵陣へと攻め込んでいく。
「させないよ、イオちゃん!」
「……ミュア」
二人は友達同士。しかし今はボールを奪い合う敵だ。
イオニスがミュアを振り切ろうと、持ち合えのスピードで、ミュアの脇を通過しようとするが、前方に巨大な壁が出現する。
いや、壁ではない。ミュアの耳が《銀耳翼》となって巨大化してイオニスの行く手を遮っているのだ。
そのまま動けないように《銀耳翼》でイオニスを包み込もうとした直後、物凄い速度でジュリンがやってきて、イオニスからボールを受け取る。
「あっ、しまった!」
「やっりィ! このまま一気にアタイが得点してやるよ!」
ジュリンがミュアをかわし、その先にいるレッグルスと対峙する。ジュリンの足元からバチチッと放電現象が起きたと思ったら、ギュインッと急激にジュリンが加速した。
「速いっ!?」
レッグルスを翻弄し、彼を過ぎ去ると残り防御は一枚。最後の砦であるプティスだ。
「――もらったぜっ!」
持っているボールを帯電状態にさせてポロッと手から落とす。焦ってボールを落としてしまったのかと誰もが思ったが、地上に落ちる前に、
「いっけぇぇぇぇぇぇぇっ!」
ボールを蹴り上げフープ目掛けて直行させた。
「…………させない、から」
突如周囲に冷気が漂い、フープの手前のエリア一体が凍結し始めた。地面からニョキニョキと出現する小さな氷山が、フープを守るように聳え立つ。
ボールと氷山が衝突するが、帯電ボールの一点集中の攻撃が効いているのか、徐々に氷山に穴を開けて突き進んでいく。
「よしっ! そのまま貫けぇぇぇっ!」
「まだ終わってないから……」
クマのぬいぐるみを着用しているプティスの目がキラリと光ると、氷山の後ろに新たな氷山が二つ出来上がる。
「――《三重氷山》」
その名の通り、三つの氷山が顕現し、ボールは一つ目の氷山を突破したが、二つ目に捕まり弾かれてしまった。
「ああっ!?」
「ナイスだニャ~! プティスゥ~ッ!」
「あとは頼んだよ、クロ」
ボールをクロウチがいる場所に放り投げてパスをするプティス。クロウチはボールを持つと、相手目指して走り出す……が、
「ニャ……ッ!? う、動けニャいのニャ……ッ!?」
ピタリと不自然な格好で動きを止めたクロウチ。
「――ではボールは頂く」
そこへ現れたのは、チューガイだった。チューガイはパシッとクロウチのボールを叩き手に取る。
「ニャニャッ!? しまったニャ!? あーっ!? 芝生から何か伸びてるのニャーッ!?」
クロウチが驚いたのは、自身の足元から芝生が成長したかのように伸び出て、クロウチの足をガッシリと掴んで拘束していたこと。
「ふふ、チューガイの魔法は《伸縮魔法イラスティックマジック》よ。ある一定の距離内に限るけど、魔法で自由に伸縮させ、ある程度操作することができる力なんだから」
イヴェアムが誇らしげに独り言のように呟く。
ボールを奪ったチューガイはそのままボールを、イオニスへと回したが、またも前にミュアが立ちはだかる。
「ミュア……!」
「今度も止めるよ!」
「……今度は無理」
「え? あ、嘘!? 足が動かない」
クロウチのように、ミュアもまた自由を奪われてしまう。
「イオの魔法……忘れた?」
「ま、まさか《磁力魔法》を使って!?」
イオニスは、ミュアと地面に磁力を流し、地面とミュアが磁石のようにくっつくようにしたのだ。
「じゃあね」
「ああも~! 動けないぃ~っ!」
悔しげに叫ぶミュアの脇を通り過ぎ、今度は――レッグルス。しかしフッと、レッグルスの前にジュリンが現れる。
「くっ!? 見えない!」
ジュリンが壁役になったことで、小さいイオニスの姿が見えなくなってしまうレッグルス。
そのままイオニスはレッグルスを通り過ぎ、完全にフリー状態になる。しかし守護神であるプティスが待ち構えている。
「あなたの力じゃ、氷山は貫けない」
プティスの自信。だが的を射ている。
イオニスは確かに魔軍の総隊長という位置にいるが、腕力的な意味ではジュリンには及ばない。ジュリンですら破れなかった氷山を、イオニスが力ずくで突破することなどはできないのだ。
「……でも、イオにはイオのやり方があるの」
懐から取り出したのは数枚のコイン。それをフープへ向かって投擲する。
さらにボールを投げるが……。
「そんな威力じゃ、絶対破れない」
プティスが、氷山に弾かれるであろうボールに視線を注いでいると、驚くことにボールが独りでにカーブしたり上昇したりし始める。
「っ!?」
さらには本当に生きているかのように左右に行ったり来たりして、氷山を避けていく。
「これで、点はもらうの!」
イオニスが、フープの中心に向かってまたもコインを投げると、そのコインの後を追うようにボールがクネクネと動いてフープを通過してしまった。
「ぬおぉぉぉぉっとぉぉっ!? 後半戦、先に得点したのは、〝トロイリーベ〟ですっ! しし、しかもその得点は――“10”! 10点を獲得しましたっ!?」
実況のオリアの声が会場中に響き渡る。今大会初の10得点を獲得したイオニスに歓声が送られている。
「やったの! ブイ!」
イオニスはVサインをミュアに見せつける。
「あっちゃあ、やられちゃったね。さすがはイオちゃんだよぉ」
「これで逆転だよ、ミュア」
「で、でもまだ負けてないからね!」
イオニスがコクリと頷くと、イヴェアムのもとへ戻りハイタッチをする。
「ナイスだわ、イオニス!」
「頑張ったの」
「それにジュリンもチューガイも、なかなか良い連携だったわね!」
「あ、ありがとうございます!」
「もったいお言葉でございます」
ジュリンは照れ、チューガイは固く言葉を返した。
「いや~驚きましたね~。先程のボールの動きはどういうことなのでしょうか?」
「恐らく、イオニス選手の《磁力魔法》によるものでしょう」
オリアの質問にクゼルが解説で答えていく。
「ボールを投げる前に、彼女は懐からコインを数枚氷山を避けるように左右や上空へ投げました。そのコインには彼女の磁力を予め伝えさせておき、その磁力とボールを引き合わせて動きをコントロールした、ということでしょう。そして最後は氷山の隙間からコインをフープの方へ投げて、氷山を避けたボールを最後にフープへと誘導したのです」
「なるほどなるほどぉ~! あの一瞬でそこまでやれるとは、さすがは次代を担う魔軍の総隊長さんですね!」
「自らの力を知り尽くしているからこそできる戦法でしたね。また彼女は得点板にも注視していた模様です。十点が出た瞬間に最後のコインを投げ入れたことからも、最初から十点を取るつもりだったのでしょう」
「まさに天才! さあ、これで得点は32対38となり、おお! 〝トロイリーベ〟が逆転しちゃいましたね!」
「ええ、後半戦が始まったばかりですが、いきなり熱いものを見せてくれましたね」
クゼルも頬を緩めて、再び動き出した試合に注目し始める。
※
点を取られた〝ストレングスレオン〟だが、落胆をするどころか、相手の見事な戦法に感心していた。
「いや~、見事なチームワークだったなぁ」
「そうですね、レッグルス様。ただの控えではないということでしたね」
バリドもまたイオニスたちの奮闘ぶりに称賛を送っていた。
「ユーヒットの準備はできているのか?」
「まだ時間がかかるらしいです。それまでは我々で点を取っていきましょう」
バリドの視線の先には、キョロキョロと周囲を見回しながら歩き回っているユーヒットの姿がある。
パソコンのようなものを持ちながら、ユーヒットは時々しゃがみ込んだり空を仰いだりしていた。
ハッキリ言って試合に参加しているとは言い難いが、レッグルスたちには何か考えがあって、彼の好きにさせているのだ。
しかしその分、戦力が減ってしまい、苦しい闘いにはなるだろうが。
「ユーヒットの準備が完成するまで、点差が離されないように努めるぞ!」
レッグルスの激に皆が意気込みを示すように返事をして頷きを返した。
それから試合は進み、やはり戦力が減った〝ストレングスレオン〟は、守りが薄くなったこともあり、得点され始める。
攻撃も何とかレニオンたちが奮闘して点を獲得していくが、それでも〝トロイリーベ〟の優勢は揺るがず、点差も徐々に離れていく。
気が付けば、残り時間があと七分となり、互いの得点は――
36 対 63
結構な点差が開き、〝トロイリーベ〟勝利のムードに流れていた。
〝ストレングスレオン〟を応援する獣人たちもまた、必死に声を上げて勝利を願っているが、魔人たちは自分たちが応援する〝トロイリーベ〟が勝つだろうと思っているようで、笑顔を浮かべている者たちが豊富である。
「これは点差がいよいよ開き出しましたね、クゼルさん」
「はい。ですが〝ストレングスレオン〟の方々の目はまだ諦めていません。まるで何かを待っているかのようですね」
オリアは眉をひそめると、
「何かを待っている、ですか?」
「ええ、鍵を握っているのは、先程から試合に参加していないように見えるユーヒット選手でしょう」
「確かに、中には彼があまりにも自由奔放に行動しているので、交代させろという声もちらほら聞こえますね」
観客たちにとっては、ユーヒットがレッグルスの命に背いて自分勝手なことをしているように見えるのだろう。
「しかしあの行動をレッグルス王たちが注意していないということは、あれは勝つために必要な行為なのでしょう」
「……もう残り時間は僅かです。それにこの点差。まだ勝ち目があると?」
「少なくとも、まだ〝ストレングスレオン〟の方々はそう信じて全力を尽くしています」
「なるほど~、ではまだまだ楽しみは残されているということですね!」
そんなふうに実況と解説の声が周囲に響いている時、コート内では、クゼルの見解と同様にイヴェアムがユーヒットの動きに対し訝しんでいた。
「何か企んでいることは確かね。ならここでラストスパートよ!」
イヴェアムが審判のシウバに対しタイムアウトを取る。そしてメンバーチェンジ。
「ありがとう、イオニス、ジュリン、チューガイ、あとは彼らに任せて」
「はいなの」
「ふぅ、しんどかったぁ」
「お役に立てたのでしたら光栄です」
三人がそれぞれイヴェアムに一礼をしてから、コートから去って行く。代わりに、マリオネ、オーノウス、ラッシュバルが入ってきた。
「これでベストメンバーよ。きっちり休んでもらった以上、ここからはさらに超攻撃主体として攻めるわよ!」
「お任せを、陛下。魔人たるもの、守りに入っていてはいけませんからな!」
マリオネは首をゴキゴキを鳴らしやる気満々である。またオーノウスも、
「我が力すべてを使い、残り時間突っ走りましょう」
身体から《赤気》を溢れさせていく。すでに《太赤纏》の準備も整っているようだ。
「このラッシュバル――最後まで気を抜かず相手の息の根を止めてやりますぞ」
厳格な表情をさらに引き締め、相手コート側を睨みつけるラッシュバル。
「お願いね。これでこっちは掛け値なしの全力よ。何をしてきたところで、乗り越えてみせるわ! 行くわよっ!」
そんな中、自陣コート内で我関せずといった感じで動き回っていたユーヒットの口角がニヤリと上がる。
そしてその笑みを見たレッグルスが……。
「……! よし皆の者ぉっ! すべての準備が整った。全員――――前衛へ走れっ!」
普通ではありえない作戦の命令がレッグルスから放たれる。今まで防御に回っていたレッグルスやミュアも前衛へと上がっていく。
「!? どういうこと? 守りを……捨てたの?」
イヴェアムが困惑するのも無理はないだろう。何せフープの周りにいるのはプティスただ一人。もし前衛が突破されたら、ほとんどフリーになってしまうのだから。
「陛下、奴らの作戦は分かりませんが、点差ではこちらが勝っておるのです。このまま押し切りましょうぞ!」
「……そうね、マリオネ。でも私とシュブラーズは後衛を保つわ。皆、攻撃は任せるわね!」
「「「「おう!」」」」
ボールを持って迫ってくるレニオンに対し、存分に休んで体力を回復させたオーノウスが肉薄していく。
「またアンタか、狼将軍め!」
「フッ、言い得て妙だ。しかしそちらは体力が落ちているようだ!」
「くっ!」
レニオンは、汗が眼に入って閉じた一瞬の隙を突かれ、オーノウスにボールを奪われてしまう。
レニオンを抜いた先にはユーヒットが立っていた。
「ふむ! 何を企てておるか分からぬが、貴公に我が一撃を防ぐことができるかな! 最大―――《獣覚》っ!」
オーノウスの切り札ともいえる《獣覚》。見る見る巨大な狼のように体躯を変貌させていくオーノウス。膨大に溢れる《赤気》を右足に集束させ、筋肉もさらに盛り上がりを見せる。
「この一撃で戦意もろとも打ち崩す! はあぁぁぁぁぁっ!」
右足でボールを蹴り出すと、
「ヒィィィィィィィィッ!?」
ユーヒットの頭上を光のような勢いで過ぎ去っていき、《赤気》を纏ったボールは真っ直ぐフープへと直行する。
この威力であれば、さすがのプティスでも止められないだろうと思われた瞬間、
「―――ニョホホホホ」
怪しげな笑みをユーヒットが受かべたと同時に、フープの前に巨大な魔法陣が出現した。するとその魔法陣にボールが触れた直後――ピシュンッ!
まるで相殺したかのように魔法陣とともにボールが姿を消した。
その事態にほとんどの者が呆気に取られているが、不意に〝トロイリーベ〟のフープを守っているテッケイルが、頭上の空間に歪みのようなものを発見する。
「……? 何スか……?」
そう呟いたのも束の間、そこには魔法陣が顕現し、そこからボールが出現し、そのままフープへと飛んで行った。
フープが光り輝く。それはボールがフープを通過し、得点されたことを意味していた。
「な、なななな何とぉぉぉぉっ!? あまりの出来事によく分かりませんでしたが、ボールが一瞬にして転移したように見受けられましたが!?」
「そ、そのようですね。恐らくあの魔法陣は、転移魔法陣なのでしょう。それを発動させてたのは――ユーヒット選手ですね。あの瞬間、彼から魔力を感知しましたから。しかし一体どのようにして……?」
「クゼルさんでも分かりませんか?」
「ふむぅ……! もしかしてあのユーヒット選手が持っている機械に秘密があるのではないでしょうか?」
「な~るほどぉ~! 確かにユーヒット選手は、あの機械を操作しながら、コート中を歩き回っていました。あの転移魔法陣の謎は、もしかしたらあの機械に隠されているのかもしれませんね!」
観客の誰もが、クゼルたちの会話に耳を傾けている。少しでもユーヒットが起こした謎の現象を解明したいのだろう。
「くっ……貴公よ、一体何をしたのだ?」
「ニョホホホホホ! それは教えられませんです! これは切り札なのですからねぇ~!」
オーノウスは悔しげに歯を食いしばり、踵を返して自陣コートへと戻っていく。
「切り替えるのよ! 大丈夫! 今のは6得点! まだまだこちらが勝っているわ! 気を緩めないで!」
そう言うイヴェアムも、困惑気にユーヒットを見つめている。少しでも彼の動きから謎を解明しようと考えているのだろう。
次のボールは〝トロイリーベ〟から。マリオネが持ち、そのまま相手コート内へ向かい、立ち塞がるミュアをかわして、一気に相手フープへと近づく。
しかしミュアだけでなく、他の獣人たちは抜かれたことを気にせずに、あろうことか前方へ歩を進めていく。
「何っ!? バカにしおって! ならばこのまま私が得点をもらうっ!」
ボールを土属性の魔法でカチカチに固めた後、そのままフープへと投げつける。するとまたその先に魔法陣が出現し、ボールが魔法陣とともに姿を消す。
「クロウチさんっ! 行きやがりますよぉ!」
「任せろニャッ!」
ユーヒットの言葉を受けて、クロウチは身構える。
今度は、〝トロイリーベ〟側のコート内にいたクロウチの足元に魔法陣が出現。
ボールが上空へと押し上げられるように飛んでいく。それを空に跳び上がったクロウチが受け取り、そのままフープに向かって投げつける。
「今度は止めるッスよ!」
テッケイルが巨大な手を空中に描いて顕現させ、それを防御壁代わりにする―――が、その手前に魔法陣が浮かび、またボールとともに消失。
「またッスか!?」
次は先程と同じように、フープの前に魔法陣が現れ、ボールはフープを通過してしまった。
しかも得点は―――8点。
かなりの高得点だ。これで14点分を一気に縮めることに成功した。
50 対 63
すでに射程圏内に捉えていた。
あっという間の出来事だった。
残り時間が三分を切り、つい数分前までは誰もが〝トロイリーベ〟の勝利を疑っていなかったはずだというのに、今は完全に――
72 対 63
立場が逆転してしまっていた。
しかもユーヒットが活躍しだしてからというものの、イヴェアムたちは一得点もできずにいる。
この状況はさすがにまずいと考えたのか、イヴェアムは守りは捨てて攻撃中心で、とにかく相手のフープにボールを通過させることだけを優先させた。
しかしそれがいけなかった。
ユーヒットの謎の手法を解明もせず、攻撃を繰り出したものだから、またも転移魔法陣でボールを奪われてしまう。
ボールはクロウチの手の中。そして残り時間は残り三十秒。
「……っ! ま、まだ諦めちゃダメッ!」
ここで十点以上の得点を獲得すれば勝利を掴める。だからイヴェアムは持ち場を離れて、真っ直ぐボールを持っていたクロウチの足場を土魔法を使い崩し、相手が体勢を崩したところを風魔法でボールを奪い取った。
あと、二十秒。
イヴェアムはボールを手にし走る。フープの得点板を確認し、何とか“10”と刻まれている間にボールを投げ込むことを意識する……が、得点はランダム表示なので予想はできない。
しかも得点が表示されているのは五秒間。“10”という数字が表示されてから、五秒以内にボールをフープへと通過させなければならないのだ。
「くっ! なら“コンジキ”のオーノウスに任せた方がいいかも!」
彼が得点すれば、五点以上の得点で事足りる。何せ二倍の得点数なのだから。
しかしここで相手はしっかりとオーノウス対策として、彼に二枚の守備をつけていた。
レニオンとレッグルスの兄弟の壁。その気迫のディフェンスは、オーノウスといえど容易に突き破ることができずにいる。
彼らはこのまま時間を過ぎるのを待つことに徹しているようだ。
「ならやっぱり私が十得点を上げなきゃ!」
それしか勝つ方法はなかった。
アクウィナスたちもそれに気づいているようで、イヴェアムと一緒に相手コート内へ侵入していく。
しかしクロウチの《十愚の黒撃》によって生まれた十人分のクロウチが、完全に守備に回っており、アクウィナスやマリオネ、ラッシュバルの足止めをしている。
これでは彼らにボールを回すことができない。
「陛下ぁ! こっちよぉ~!」
「シュブラーズ!?」
そうだ。まだ彼女がいたのだ。いつの間にか、彼女も自陣コートから動き、イヴェアムを追っていた。
イヴェアムとシュブラーズでボールを回しながら突き進み、イヴェアムは得点板に注目する。
(早く! 早く十点が来て!)
願うはそれだけ。
そして願いが通じたのか、残り十秒になった時――“10”という数字がイヴェアムの視界に飛び込んできた。
「させねえよ、魔王ちゃんっ!」
そこに現れたのは、アノールドだ。両腕を大きく広げ、絶対にここは通さないという意志が伝わってくる。
「悪いわね、アノールド! あなたじゃ私は止められないわ!」
闇魔法を使い、右手から霧状に広がる黒い靄をアノールドへと放つ。
「んなっ!?」
アノールドの視界を覆い尽くす闇。イヴェアムの姿を完全に見失う。――しかし、何故かそこでアノールドは笑みを溢した。
「――へへ、行け――ミュア」
イヴェアムがアノールドを通過した直後に現れたのは、銀の粒子。咄嗟に足を止めることができずにイヴェアムは銀の粒子を身体に受けてしまう。
「しま……っ、こ、これは!?」
イヴェアムの瞳が驚愕に開かれる。前方にいたのは、《銀耳翼》を広げたミュアだった。
「ミュア――ッ!? くっ、シュブラーズ!」
ボールを彼女に渡そうと視線を動かすが、バリドが彼女を足止めしていた。
「ごめんね、イヴェアム」
銀の粒子――ミュアの力で、イヴェアムの全身の力が抜けていく。ボールを持っている手も緩み、そして――パンッ!
ミュアの手によってボールは――――弾かれてしまった。
同時に周囲にブザーが響き渡る。
それは、試合終了の合図……だった。
地面に落ちたボールに視線を落とすイヴェアム。そのボールをゆっくりと、ミュアが拾い上げると、イヴェアムに向かってニッコリと笑みを浮かべる。
「えへへ、今回はわたしの勝ちだね、イヴェアム!」
「っ! …………ふふ、そうね。まいったわ、ミュア」
ここに勝負が決した。
第一回《フープシュート大会》、第一回戦の勝者は――〝ストレングスレオン〟になった。