軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

230:ソロモンの古代迷宮

――【アシュタロト海】。

魔界の北海。危険度ランクでSSSと指定をされている生存確率が最も低い海域。

名だたる冒険者でも足を踏み入れることの無い場所であり、過去に優秀な冒険者パーティが海底に眠る宝を求めてやって来たが、一日も経たずに全滅したという実話も残されている。

まず第一に、そこに生息しているモンスターの質が類を見ないほど高い。ほぼすべてのモンスターのランクがSSランク以上であり、ユニークモンスターの数も多い。

また海といっても、他の海と比べて圧倒的に違うのは、氷に覆われた世界だということ。つまりは氷海なのである。

昼でも体感温度で優にマイナス五十度を下回るのが普通の環境地帯であり、何の装備もなく足を踏み入れようものなら、手痛いどころではない洗礼を受ける。

とてつもない環境の厳しさにより、呆気なく人は死を迎えてしまう恐ろしい場所なのだ。

別名《死の氷海》と呼ばれるところへ、日色たちは来ていた。さすがに初めて来るところなので、日色の転移を使って楽に来られるところではなく、仲間たちには『飛翔』の文字を使い、雲の上から飛びながらこの海へとやって来た。

下を飛んで移動するよりは、上を飛んで移動した方が環境的には優しい。それでも他の地域と比べても寒いのだが。防寒具も着用しているので問題はない。

「そろそろ下に降りましょう、ヒイロくん。恐らくこの下らへんが目的地だと思いますよ」

ペビンは背中に生えている六枚羽を動かして雲の下へと向かう。日色も、一緒に飛んでいるニッキたちに目配せしてからペビンを追う。

ちなみに日色の目の前には『探索』で作り上げた矢印が浮かんでいる。その矢印も下へと指示していた。

雲を突き抜けると、そこはまさに氷の世界だった。見たこともない大きな氷山や、辺り一面に広がった氷を見て感動すら覚える。

(まさに銀世界とも言える場所だなこれは……!)

見る分には美しいとさえ思ってしまうほどの光景。しかし確実に人とは相容れない存在だと感じさせてくる死の世界である。

(吐いた息も凍りそうだな。何て寒さだ)

身体の奥底から凍えるような環境。他の者を見ると、シウバは例のごとく平気そうではあるが、ニッキとウィンカァはガタガタと震えている様子が見て取れる。

シウバは精霊なので、こういった環境にも強いのだろう。一緒についてきたテンやヒメも無事そうである。種族的にチートな者たちだ。

日色は自分と二人に『温暖』の文字を書いてやる。

「うはぁ~あったかいですぞぉ~!」

「ん……ありがと、ヒイロ」

「ジイサンは必要ないんだろ?」

「執事ですから」

「……久々に聞いたぞ、そのセリフ」

「ノフォフォフォフォ! 最近キャラが薄くなってきているような気がしますので、ここらで濃くしておこうかと思いまして!」

何もしなくてもキャラが濃いとは思うが……。

ペビンの方にも注意を向けるが、彼も平気な顔をして飛んでいる。

下へと降りるとやはりと思ったが、ニッキが滑って転ぶ。

「にゅわっ!? あ、頭打ったですぞぉぉ~!」

ゴロゴロと頭を抱えて転がり始めた。本当にバカな弟子である。

「ここが【アシュタロト海】か……」

「ええ、まさに死の世界とも呼べる凄まじい環境ですよね」

「お前は以前にも来たことがあるんだろ?」

「はい。こう見えても環境には強いんですが、さすがにここには参りましたね。長時間いたいとは思わない場所です。それに問題は――さっそく来ましたかね」

ペビンの言葉終わり、下に張られてある氷が揺れ始める。突如、氷を割りながら何かが這い出てきた。

巨大生物。

鼻がドリルのようになっており、ツルツルの皮膚を持っているペンギンのような存在。

「皆さん、ご紹介しましょう。SSランクのモンスターであり、この海では比較的弱い立場にあるデスペンギンさんです」

まるで友達でも紹介するような物言いだが、明らかに無視できない物騒な名前を持ち、背筋の凍るような殺気を放ってくるモンスターだった。

そんなデスペンギンが、前触れもなくいきなり鼻のドリルを砲弾のように飛ばしてくる。皆で避けたはいいが、ドリルの攻撃力……というか貫通力が凄まじく、氷に穴を開けて海中へと沈んでいく。

直撃すれば身体に穴が開くどころではなく即死間違いなしだろう。何といってもドリルそのものが日色の身長の二倍ほどは確実にあるのだから。

「あ、言い忘れてましたが、ここのモンスターたちは皆さん魔法を扱えますのでお忘れなく」

ペビンの言葉に「はあ!?」と皆が口を開ける。するとデスペンギンの身体から電撃が迸り、日色たちに襲い掛かってきた。

「このっ、カミナリペンギンめっ!」

分厚いはずの氷を簡単に破壊しながら雷が迫ってくる。しかし前方にズズズズズゥ……と、黒い物体が広がりを見せると、雷がそこへと吸い込まれて消失する。

「ジイサン、ナイスだ!」

シウバの仕業である。彼の闇魔法によって、相手の攻撃を無効化させたのだ。

「ノフォフォフォフォ! 魔法を使う相手にはわたくし、少し強いですぞ?」

シウバがそのまま間を詰めてデスペンギンの懐へと入る。

「あなたに何の恨みもありませんが、襲ってこられるなら容赦は致しませんぞ!」

シウバが右手を広げると、

「プールボール……」

黒い球体が出現し、それをデスペンギンの身体の中へと吸い込ませた。刹那、デスペンギンの身体の中で大きくなり、ウニのように形を変えるプールボール。

デスペンギンの身体から細い針が無数に突き出て、相手はそのまま倒れて海の中へと消えてしまった。

「やるじゃないか、ジイサン」

「ノフォフォフォフォ! もっと褒めてくだされ! ノフォフォフォフォ!」

そう言われると褒めたくなくなると思い無視をする。矢印を見ると、この真下に例の迷宮があるらしいが……。

「さすがにこのまま潜れば凍結確定だしな」

寒中水泳を楽しめる温度ではない。もって数秒ほどだろう。まあ、日色とニッキ、そしてウィンカァについては『温暖』の文字効果が持続されているので、中に入っても死にはしない……が、呼吸は必要になってくる。

それに海中でもモンスターに襲われる危険性もあるのだ。

「まずコイツらに『呼吸可』の文字を使って――」

「あのヒイロくん、どうでもいいですが、早くした方が良いと思いますよ?」

「は?」

「あくまでも先程のデスペンギンは偵察部隊的な方なのでそろそろ……」

瞬間、氷の中から次々と見知らぬ巨大生物たちが出現し始める。

「なっ!?」

思わず固まってしまうほどの数。先程のデスペンギンよりも大きいデスペンギンや、さらに大きな白熊のような生物、カニとアザラシが合体したような奇妙な生物などなど、愕然とすべき戦闘力を持っていそうな者たちが現れた。

「こ、これはさすがに……」

シウバも笑みを引き攣らせている。

「お前な、こういうことはもっと早く言っておけ」

「すみません。何分久しぶりなので忘れてしまっていました」

さすがにこの数をいちいち相手にできない。体力や魔力も限りがあるのだから。それでなくとも、これから仲間たちに文字を施さねばならないのだ。

日色は自分に対しては、予め設置しておいた『呼吸可』の文字を発動させ、他の者に同じ文字を施していく。

「あ、僕にも温かくなるような文字をお願いしますね」

この状況で何ら慌てる素振りを見せないペビンに苛立ちを覚えるが、今はとにかく急いでここから下へと向かう必要がある。

だが黙って佇んでいるモンスターたちではなく、すぐさま攻撃を仕掛けてくる。

「ちっ! オレが文字を書いている間、アイツらの相手をしろ! ニッキ、来い」

「は、はいですぞ!」

彼女の身体に文字を施している間、他の者たちがモンスターたちの攻撃を防いでくれる。ただバカみたいに強力な攻撃ばかりだし、それが複数飛んでくるのだからさすがに三人では防ぎ切れず、日色もニッキを抱えて回避行動を取らなければならない。

「ええい! 鬱陶しい! これならどうだっ!」

素早く『大結界』の文字を使って、周りに球体状の結界を張る。下からの攻撃にも備えてだ。

「くそぉ、どんだけ魔力を使わせるんだよ」

まだ迷宮の入口にさえ辿り着けていないというのに。さすがは危険度ランクSSSに位置する地域である。

しかしさすがは三文字の文字効果。相手の攻撃を弾いてくれる。この間に皆に文字を施していく。

テンとヒメに関してはそれぞれの武器に宿らせることにした。そうすれば文字など使わなくても大丈夫だからだ。

「ヒイロくん、結界も徐々に軋み始めましたね?」

「分かってる、だから急いでるんだろ!」

いくら三文字だとしても、休む暇もなくSSランク以上のモンスターたちに寄る波状攻撃をいつまでも防げるわけがない。それほどまでに強力な者たちなのだ。

最後にペビンに『呼吸可』の文字を施し終えた。

「よしっ! さっさと潜るぞ!」

海の中へと飛び込む。

「おお~! づべばぶないでずぼ~!」

ニッキの口から泡とともに音が吐き出されるが、何を言っているのか分からない。多分冷たくないと言っているとは思うのだが。

しかしながら、海の中はまるで闇色が支配していて視界が悪い。この中で襲われたら一溜まりも無さそうである。

だから日色は、

『気配』と『隠遁』

の文字を施し、モンスターたちからの感知を防ぐことにした。無論仲間たちにも影響を施しておく。

(しかしいきなり魔法を使い過ぎだな)

日色は腰に下げている小袋から《赤蜜飴》を取り出して口内に放り込む。先のことも考えてあまり多用はできないが、魔力を回復させておかなければ突発的な事故などに対応が遅れることもある。

皆で海中を進んでいくと、目の前に壁のようなものが現れる。

(い、いや! これは壁なんかじゃないぞっ!?)

そう、何故なら巨大な眼があったから。地上で戦っていたモンスターたちが可愛くなるほどの巨躯。

(おいおい、全長どれぐらいある生物なんだよ!?)

百メートルや二百メートルではきかないほどの大きさ。まるで――島。そんな存在が悠々と海中で泳いでいるのだから呆気に取られても仕方ないだろう。

他の者も言葉を失ってただ見入ってしまっている。

(なるほどな。これは《文字魔法》無しじゃ到底攻略なんてできないな)

ペビンが敬遠するのも理解できると思った。

しばらく泳いでいると、ようやく海底が見えてきた。もうずいぶん泳いでいたので、ホッと息を吐く。

ペビンがある場所を指差す。皆の視線がそちらへ向かう。

そこには確かに謎の建造物が存在した。海の中にひっそりと佇む鳥居を見つける。その鳥居にある程度近づくと、急に浮遊感は失われ海底へと落下する。ギョッとなったが、体勢を整えて見事に着地した。

「水が……ない?」

「どうやら結界が張ってあるようですね。結界の中は完全に異空間になっているようです」

「だがここが例の場所なのか? 見たところ鳥居しかないが?」

「見てください。あの鳥居の中心の空間が歪んでいます」

ペビンの言う通り、鳥居の中の空間に歪みを発見する。

「僕もこの中は初めて来たので何とも言えませんが、あそこを通るとさらに別空間へ行けるのでしょう。恐らくはそこが……」

「《ソロモンの古代迷宮》ってことか?」

喉がゴクリと鳴る音が聞こえる。

「ここから先、何が起こるか分かりません。十分に注意して先へ進みましょう」

「言われなくてもそのつもりだ。お前ら、準備はいいな?」

「はいですぞ!」

「ん……いつでも」

「ノフォフォフォフォ! 執事はいつも準備万端でございます!」

皆も覚悟はできているようだ。とりあえずその前に、皆に『乾』の文字で服を乾かしてから日色たちは前を見据える。

「よし、それじゃ行くぞ、《ソロモンの古代迷宮》攻略を目指してな!」

【アシュタロト海】の海底。そこにあった結界に包まれた鳥居の中を潜った日色一行は、眼前に広がっている光景に唖然となり言葉を失っていた。

それはまさしく、アヴォロスがかつて日色たちを閉じ込めたような空間が広がっているのだが、その規模が問題だった。

立っているのは大地の上。地平線が見えるほどの広大さを有し、一瞬氷海の中にいるのだということを忘れさせられる場所。

上には澄み渡った大空が広がり、太陽までもがこちらを見下ろしている。またそこかしこに存在する扉。形や大きさ、装飾などが様々に異なった扉が、それこそ無数に空間を埋め尽くしている。

「これまた、アヴォロスさんが再現した《マクバラ》そっくりですね。あ~アッチが似せているんでしょうが」

ペビンも感嘆の息を漏らす。シウバもやれやれといった感じで言葉を出す。

「ですがこの数……ヒイロ様、どうされますか?」

「そんなもの魔法で目的のものを探せばいいだろ」

日色は指先に魔力を宿し『探索』の文字を使い、目的である《強欲の首輪》の居所を探す。しかし次の瞬間、文字を発動させる前に、『探索』の文字は静かに消え去ってしまった。

「どうされたのですかな、師匠?」

ニッキが声をかけてくるが、その問いに答える前に、日色は衝撃を受けて固まっていた。

(……発動できなかった……!?)

発動しようとしたら、まるでキャンセルされたように文字が消失したのだ。

「……もしかして魔法が使えないのですか?」

さすがに日色の魔法無しで攻略に挑むのは危険だと感じたのか、ペビンが尋ねてくる。日色は返答せずに別の文字を書いてみた。……書けた。書いた『飛』の文字を発動。フワリと身体を浮かせることができる。

もしかして一文字だけなのかと思い、さらに次は『転移』の文字を使い発動。これまた発動することができた。

「どういうことだ……?」

「いや、それはこちらのセリフなのですが、先程からヒイロくんは何をなさっているのですか?」

日色は彼らに『探索』の文字だけが発動できないことを説明した。

「ふむ、ということは、ここに眠るお宝を容易に探すことができないように結界が施されているということでしょうね」

「……オレのは絶対魔法だぞ?」

「ですが、ここを造ったのは、あのアダムスさんですし」

「っ!? ……ああいや、確かに前にマルキス・ブルーノートがそんなことを言ってたな」

《マクバラ》に閉じ込められた時は、彼女と一緒だった。その時に、古代迷宮を造ったのがアダムスだと教えられていたことを思い出す。

「つまりアダムスの力の方がオレより強いってことか」

「かもしれませんし、ここはそういう限定条件によって成立している結界内なのでしょうね」

「……どういうことだ?」

「そうですねぇ……、極端にいえばこの空間は幻術の中で、その中のルールに従わないとゲームに参加することができなくされているといったところでしょうか」

「意味が伝わりにくい。見てみろ、ウチのバカ弟子なんて一ミクロンも理解できてないぞ」

ニッキはポカ~ンと口を開けたまま呆けてしまっている。

「まあ、簡単にいえばズルができないようになっているということです。たとえ事象を曲げる力を持つ魔法を有していても、その効果を発揮できないようにされているみたいですね。あくまでもこの迷宮の中だけの条件ですから、アダムスさんの作ったルールの力が強く反映されているのでしょう」

――――――――――――そのとぉぉぉぉりっ!

いきなり聞こえた誰かの叫び声。

その時、どこからかカーニバルで鳴らされるような楽しげな音楽が鳴り響き、クラッカーの音とともに日色たちの目前に扉が出現した。

当然日色たちは身構える。扉がゆっくり開くと、中からは……。

「…………………………何も出てきませぬな?」

シウバが眉間にしわを寄せながら開いた扉を凝視している。しかし彼の言う通り、確かにただ扉が開いただけ。中から誰も、何も出てこない。

「一体どういうことなんだ? 何か分かるか、黄ザル?」

「いんや、ヒメはどうだ?」

「いいえ、気配は確かにこの扉からしただけよ。ニッキはどう?」

「う~ボクにはさっぱりですぞ~」

「ん……ウイも」

「ノフォフォ、恥ずかしながらわたくしにも」

「ウンウン、わっかんないよねぇ~!」

日色は仲間たちに聞いたが皆も不可思議に首を傾げるだけだ。

「さっきのファンファーレみたいな音は何だ?」

「ねえ師匠、今のって何かが登場する時の音っぽかったですぞ!」

「だよねだよね~! や~っぱ登場する時は、パンパカパーンって派手じゃないとね~」

「盛り上がりますからな!」

「おお~、君ってば小さいのに分かってるぅ~!」

「むむむ! 小さいは余計ですぞ~!」

……………………………………………………………………ん?

さっきからおかしな声が混ざっていないか……?

ニッキと和気藹々と会話しているのは……誰だろうか。当然皆の視線が、急に出現した謎の人物へと向く。ニッキもようやく闖入者に気づいたようで、

「ふおわっ! あ、あなたは誰ですぞ!」

「……え? 後ろに誰かいるの?」

「「「アンタだよっ!」」」

ボケをかまして誰もいない後ろを振り返った人物に、日色たちが突っ込む。

どこから現れたのか、いつの間にか日色たちの中にいた人物。その人物は、紅い髪に金色の瞳を持ち、人懐っこい笑顔を浮かべている女性である。

ただ彼女から発せられるオーラは、すでに只者ではなく、そこにいるだけで優しく包まれているような感覚がする。一言、とても大きい人物だ。気を抜けばすぐにでも跪きたくなるようなカリスマさえ感じさせてくる。

超絶美女。日色もこの世界に来て、いろいろな人物と邂逅してきたが、一度見ると目が離せなくなるような美貌の持ち主にあったのは初めてだった。

神の手により整えられた芸術のようなスタイル。男だけでなく、女すら魅了してしまうであろう雰囲気を有している存在である。

美に興味がなさそうなウィンカァですら瞬きを忘れて彼女に魅入ってしまっているのだから。

「ああ~生ばれでぎでよがっだぁ~……ありがだやありがだや」

何故か変態執事は鼻血と涙を一緒に滝の如く流している。だがここは無視でいいだろう。

とにかく彼女のことを問い質さねばならない。

「お前は…………誰だ?」

「ムッフフ~。ワタシのことを知らずにここに来ちゃったの~? ウ~ン、でもでもそっか。これもまた運命なのかもね、イエイ! よし、そんなことよりまずはみんなで踊ろう!」

彼女がパチンと指を鳴らした瞬間、彼女の服装がピエロのような派手な衣装に変わったかと思うと、陽気にダンスを踊り始めた。

「あっ、それとも肉食う? ほれほれ」

何も無いところから骨付き肉を出し、豪快に噛り付きながらも踊る。

「若者は肉を食えー! おおー!」

両手に骨付き肉を持ちながら、マラカスのように動かし踊り続ける女性。

「……な、何だ……このファンキーな女は……?」

敵なのか味方なのかすら判明できない。終始彼女のペースで事態が進んでしまっている。しばらく呆然自失状態で、彼女が躍っているのを見ていると、ふと彼女が踊りを止めた。

何故……? と思った日色だったが、彼女の視線の先には無表情のペビンが立っている。

そして互いに身体を向き合わせ、彼女の方から口を開く。

「こ~んなトコで会うなんてね~。ずいぶんとひっさしぶりじゃない、ペビン? アンタも肉食う? ほれほれ」

「いえいえ、ご遠慮させて頂きますよ。それにしても、まさか僕も再びあなたに会えるとは思いませんでしたよ―――――――――アダムスさん?」

長い沈黙の果て、思わず日色は目を丸くして、

「は、はあぁぁぁっ!?」

と、声を張り上げてしまった。

「ちょ、ちょっと待て糸目野郎!」

「ん? 何かありましたか?」

「何かあったかじゃないだろ! そ、そいつが……アダムス?」

「イエイイエイ!」

人懐っこく笑い、子供のように両手でピースサインを向けてくる女性。しかも姿がピエロのような派手な衣装を纏っている。どこからどう見ても、ただの変人にしか思えない。いや、このような場所にいること自体が不自然さ極まりないのだが……。

「皆さんが驚くのも無理はありませんね。僕だってほら、すっごく驚いていますし」

「……普段と変わらないように見えるが」

どう見てもペビンが驚いているようには見えない。目の奥も糸目のせいで見分けがつかないし。

「そうですか、まだまだ僕のことを分かってくれていないんですね、残念です」

「ヤ~イ、ざっまあみろぉ~、ペビンのまぬけ~」

「……相変わらずですね、アダムスさん。というよりも、アダムスさんの残留思念さんとお呼びした方が良いですか?」

「む? どういうことだ、糸目野郎?」

残留思念と気になることを彼が言ったので日色は尋ねた。

「ここにいるのは、まず間違いなくアダムスさんです。ですが本体ではありません。本体はすでに消滅していますから。このアダムスさんは、恐らくはこの迷宮に住まう残留思念といったところでしょう」

「ピンポンピンポ~ン! だいせ~か~い! 正解した君にはコレを上げよう!」

彼女が指を弾いた瞬間、ボボンッとペビンの頭の上にシルクハットが現れる。

「それはワタシが作った《ビックリハット》だよ~! ほらほら、魔力を込めてみてよ、ペビン」

「……はぁ、こうですか?」

ペビンがシルクハットに魔力を込めると、突然頭の部分がパカッと開き、中からビックリ箱の要領でバネ仕掛けのカラクリが飛び出てきた。目玉が一つで、舌をベロ~ンと出した人形がグリングリンと動き回っている。

「ふぎょわっ!?」

驚いたのはニッキだけだった。それを見てアダムスだけが腹を抱えてケタケタと笑っている。

「……一体何なんだコイツは……?」

「諦めた方がよろしいですよ、ヒイロくん。アダムスさんは昔からこういう人ですから。自分勝手というか、マイペースというか」

「それはお前もだろぉ~! ムハハハハッ!」

ビシッとペビンを指差してまたも高笑いをするアダムス。何が面白いのかサッパリだ。

「ええい、鬱陶しいから笑うの止めろ!」

日色が瞬時に『止』の文字を書こうとした瞬間、アダムスの眼が鋭く光り、地面から伸びた手のような物体が、日色の腕を掴み拘束した。

「なっ!?」

「ノンノン、ここはワタシの城だぜィ?」

「くっ!」

「けど……そっかぁ、君がシンクの跡継ぎ……ウウン、イヴの選んだ子なんだね」

笑みを崩し、少し苦みが混じったような表情を見せる。拘束されていた腕が消失して自由を得る。どうやらここでは彼女の支配力が強いらしい。

「……イヴってのはイヴァライデアのことか?」

「っ!? ……なるほどね、もう会ったんだ。けど君がここに来たってことは、世界はまだ平和になってはいないんだね。それに……何でそこの腹黒細目がいるのかも気になるし……」

「ずいぶんな言われようですねぇ。こう見えてもヒイロくんとは利害が一致しており、同盟を結んでる間柄なんですよ?」

「……昔っから、ペビンの考えてることは分かんなかったけど、もしかしてサタンを裏切るつもり?」

サタン? と日色は思ったが、ペビンがすぐに返答する。

「裏切るつもりも何も、最初から仲間とは思っていませんよ? 僕があちら側に立っていたのは、その方が面白いと思っただけですから」

「……ホントーに変わんないねぇ。ねえ君の名前は、黒髪くん?」

「…………ヒイロ・オカムラだ」

「そ、んじゃヒロヒロだね。ねえヒロヒロ」

「ちょっと待て、何だその気の抜けるあだ名は」

「可愛いでしょ?」

「どこがだ」

「ええ~、もう決めたんだし、君はヒロヒロだかんね!」

何という強引な奴だろうか。譲る精神の欠片も感じない。

「とにかくヒロヒロ、そいつには気を付けた方が良いよ」

アダムスがペビンを指差す。

「そいつは自分が面白いと思ったことしかやらないし、どう考えても同盟を結ぶ相手としちゃ危険過ぎるしさ」

「それを踏まえた上で、利用できると思ったから手を結んでいるだけだ」

「…………ふぅん。今回の“選ばれし子”は変わってるねぇ」

「でしょ? だからこそ、僕はヒイロくんと手を結ぶことにしたのですよ。彼ならば、僕をもっと楽しませてくれると思って」

「フラフラ蝙蝠野郎は黙ってなさい!」

「おやおや、これはなかなかに手厳しい発言ですね。まあ、否定はしませんが」

「ったく……、まあ、ペビンの腹黒さを承知した上での判断ならしょ~がないか」

「オレからも一ついいか?」

「ん~? いいよ、ヒロヒロ、人生の先輩としていろいろご教授してあげようではないか!」

本当にノリが良い奴である。

「アンタはホントに……アダムスなんだな?」

「ピンポ~ンだよ。【イデア】の神の親友にして、初代魔王――アダムス・リ・レイシス・レッドローズ。《赤バラの魔王》と呼ばれた美女だよ!」

自分で美女と言うとは驚きだが、確かに自分で言っても決して言い過ぎではないほどの美貌を兼ね備えているので反論することができない。

この美貌で世に住むどれだけの者たちを虜にしてきたのだろうか……。

「むむむ~、でもホントにおキレイですぞぉ……。ちょっとリリィン殿に似てるですが……」

それは日色も思っていた。まあ、名前からして明らかにリリィンが血族なのは明らかだが。

「ほへ? リリィン? …………誰?」

「あなたの子孫ですよ、アダムスさん」

ペビンが答える。するとアダムスが眼を丸くして驚きを現す。

「……も、もしかしてシャーリィの子供?」

「ええ」

「……まだ生きてるの?」

「ええ、ご存命ですよ。僕も一度戦ったことが――」

瞬間、アダムスがペビンの襟首を捻り上げ、ヤクザも顔が真っ青になるほどのいかつい殺気を迸らせて睨みつけている。

「オイこら細目、まさかその子を傷つけちゃいねえよなぁ? ああ?」

「い、嫌ですね、落ち着いてください。別に傷つけてはいませんよ。からかったりはしましたけど」

「ああ?」

「だ、大丈夫ですよ。そ、それに彼女はあなたの後継者ですよ? 力もしっかりと受け継いでいますし」

「…………そっか」

アダムスがペビンから手を放すと、ペビンは安堵したようにホッと肩を撫で下ろす。

「……シャーリィの子がワタシの力を……」

何か思うところがあるのか、嬉しいような寂しいような、複雑な表情を彼女が浮かべている。

「リリィン……か。一度会ってみたいけど……多分恨まれてんだろうなぁ」

「そうですな、リリィン殿はアダムス殿のことが嫌いぶっ!」

「正直に言い過ぎですぞ、ニッキ殿!」

ニッキの軽口に慌ててシウバが口を押さえて制止させる。

「ムハハ! いいっていいて。多分そうなるだろうなって思ってたしさ」

「ん? どういうことだ?」

何故そう思っていたのか、日色は尋ねてみる。

「ん~こう見えてもさ、ワタシって優秀だったしなぁ」

いや、彼女が残した実績を考えると優秀などという枠を跳び越えている。まさに雲の上の住人。誰も手が届かないほどの高みにいる存在として祀られている存在だ。

「だからさ、ワタシの後を継ぐような子が出てきたとして、その子が劣等感に苛まれるのは分かってたんだよねぇ」

苦笑しながらボリボリと頬をかいて喋るアダムス。

「多分さ、ワタシと同じ力を持って生まれたことで周りの期待とか凄かったと思うし」

それはリリィン本人も言っていた。

「けどさ、その子はワタシそのものじゃない。ワタシの血も薄まってるだろうし、ワタシみたいなことがヒョイヒョイってできるとも思えない。だから周りの期待の重圧には、酷く辛い思いをしたと思うしねぇ」

アダムスと同じものを求められるのは酷なことだろう。まさに神のようなアダムスの道を同じように歩けと言われて歩くことができる者はいない。

あくまでもアダムスはアダムスであり、リリィンはリリィンなのだ。しかし周りは勝手に期待して、アダムスより劣っているリリィンを劣化版と位置づける。

それが嫌になり、リリィンは国を離れたのだ。アダムスのことを良く思えないのも自然の流れだったのかもしれない。

「【イデア】における輪廻のシステムは、ワタシにはどうしようもないし、いずれワタシの後継者も生まれると思ってた。だからその子にはどうかその子の人生を……楽しい人生を送ってほしいと思ってたけど、やっぱりそんなことになっちゃってたかぁ」

「別にそう悲観することもないだろ」

「……え?」

「アイツは……リリィンは、確かにお前のことが嫌いだが、恨んでいるわけではないぞ」

「……そうなの?」

「アイツに聞いたことがある。お前を恨んでいるのかとな。その時、アイツが何て言ったと思う?」

『いつか必ず、あの女が届かなかった高みに立って、見下ろしてやる。故に恨んでる暇など無い!』

「アイツはオレにそう言ってた。確かに過去、アンタの後継者ということで辛い思いもしたらしいが、今では超えるべき壁として認識してるぞ。それに、アンタが成し得なかったあることを実現しようとしてるな」

「…………っ」

「リリィンを甘く見るなよ? アイツならアンタを超えられるとオレは思ってる」

アダムスが泣きそうに眉をひそめると、確かに見ることができた。嬉しそうに笑みを浮かべるアダムスの顔を。

「……さすがワタシの後継者……か。ウン、ありがとヒロヒロ。……でもそこまで信頼関係があるってことは…………もしかしてリリィンの恋人とか?」

「冗談言うな。オレはロリコンじゃない。ロリコンはここにいる変態だけだ」

「ノフォフォフォフォ! これは手厳しいィィッ! 手厳しいですぞっ! ノフォフォフォフォ!」

「およ? 『闇の精霊』? 変態さんなの?」

「そうだ。こう見えてリリィンに仕えてる執事だぞ」

「お嬢様も大人になれば、あなた様のようなお姿に……あ、失敬、鼻血が」

「……ウン、立派な変態さんだね!」

分かってくれたようで何よりだ。

「ウンウン、でもそっかぁ、君たちみたいな楽しそうな子たちが傍にいるなら、リリィンも大丈夫そうだね!」

どうやらアダムスも少しは心のわだかまりが無くなったようでスッキリした顔を見せている。

「ところでさ、君たちは何でここに? ワタシを探して……とかだったら嬉しいな~! キャハッ!」

本当にこんなキャピキャピした奴が本当に伝説のアダムスなのだろうかと疑わしく思えてくる。

「実はですね、ここにはあるものを探しに来たんですよ」

「あるもの? それってぇ……ワタシのラブリンコハート……とかぁ?」

どうしてもそっち方面に話を持っていきたいらしい。しかし相手はペビン、淡々と目的を告げていく。

「違います。我々が探しているのは《強欲の首輪》です」

「ほへ? な~んであんなものを…………ってなるほど、ヒロヒロのためだね」

すべてを悟ったように目を細めるアダムス。こんな身形をしていても頭は切れるらしい。

「つまり、シンクがワタシに託したアレを返してほしいってこと?」

「その通りです。是非こちらのヒイロくんに持たせてあげたいのです」

「……それでサタンを倒すために塔へ行くって?」

アダムスがジッと日色を見つめてくる。

「……ペビン、アンタが動いてるってことは、イヴの封印もヤバイってこと?」

「封印自体は問題ないと思いますが、イヴァライデアさんのお力が格段に弱まっています。先代の勇者がいた頃よりずっと」

「……あれからどれくらい経ってるの?」

「約六百年ほどでしょうか」

「そんなに……悔しいなぁ。イヴの傍にいてやることが、ワタシにはもうできないのがホントに悔しい……」

拳を振るわせるアダムス。やはりイヴァライデアと彼女は強い絆で結ばれていることがよく分かる。

「アハハ、急にごめんねぇ~。ちょ~っとセンチになっちゃった! よし、もう大丈夫だ! それで何だっけ、《強欲の首輪》を探してるんだっけ?」

変わり身振りが激しい人物である。まあ、空元気っぽいのは何となく伝わってくるが。

「ええ、アダムスさんの残留思念であるあなたなら、その居場所もご存知なのでは?」

「確かに、シンクに《強欲の首輪》を返してもらったのはホントだけどね」

「ん? ちょっと待て、返してもらったって……《強欲の首輪》ってまさか……」

「ウン、そうだよヒロヒロ。アレはワタシが作ったもの。多分地上のどこかにあったのをシンクが見つけて使ってたんじゃないかなぁ」

またも驚きである。いや、シンクがここへ《強欲の首輪》を隠したということは、そういう可能性も考えるべきだった。何しろ、ここはアダムスが造った迷宮なのだから。

「《強欲の首輪》なら、この迷宮のどこかにしまったはずだけどぉ……」

「……まさか忘れたのですか? 受け取った本人なのに?」

「だ、だってしょ~がないじゃ~ん! シンクから返してもらって片づけたのなんてすっごく昔なんだもん! 残留思念だって完璧じゃないんだよぉ!」

ペビンの突っ込みに激しく動揺するアダムス。まあでも確かに六百年も経てば、片づけた場所など覚えていなくても仕方ないとは思う。

「思い出せないのですか? どうしてもアレが必要なんですよ。神王様を倒すためには」

「それはワタシだって手伝ってあげたいけど、実際のところワタシにできることは少ないんだよぉ」

「それでも何となくこの場所に置いたとか無いのですか?」

「ウ~ン………………あっ!?」

「思い出しましたか?」

「多分! 1587番の扉の奥だと思うような気がしないでもない気分なんだけど自信がない」

「どっちなんだよ……」

日色が思わず口走ってしまうほどの適当さ。

「いや、666番だっけ? ちょっと待って、あそこはオルトロスちゃんがいる部屋だよね? あれ? 守ってたのはケルベロスちゃんだっけ? ウ~ン……1976番には《惚れ薬DX》があるのは覚えてるんだけどぉ」

「ノフォフォフォフォ! では皆様! 1976番に向かいましょうぞ!」

「いいからお前は黙ってろ!」

「はぐんしっ!?」

暴走し始めた変態の股間を蹴り上げて大人しくさせておく。

(それにしても、ケルベロスだのオルトロスだの、聞き逃せない言葉が平然と出てきやがる。思った以上にここはヤバイ場所なんじゃないか……?)

日色の知識では、どちらもSSSランクのモンスターである。それなのにペットを呼ぶような感覚で名前を出すアダムスに驚愕だ。

「ウ~ンウ~ン…………3001番……? そうだよっ! 3001番の扉だよ!」

「勘違いではないのですか?」

「あ~! せ~っかく思い出してあげたのに意地悪だよ、この腹黒細目!」

「あなたの適当さ加減には、過去にも痛い目を見ていますからね。こんな迷宮など造って、しかも詳細を把握できないほどの無限空間にしてどうするのですか?」

「へっへ~ん、すっげえだろぉ~!」

「別に褒めてないのですが……」

「男なら黙って限界ギリギリ超えてみろ精神だっ!」

「あなたは女ですし、限界を超えたらダメでしょうが」

あのペビンが突っ込み役に回っている不思議。やはりアダムスはとてつもない存在だと思い知らされる。

「はぁ、とにかくその3001番の扉へと案内してくださいませんか?」

「OKOK~!」

アダムスがパチンと指を鳴らすと、周りの景色が加速して流れていく。広大な空間を超高速で移動している感じ。数秒ほどそれが続き、景色が安定していく。

進んだ先も、やはり無数の扉がそこかしこにある。

「あの外枠が赤色の扉だよ~」

アダムスが指を差した扉は、彼女が言うように外枠が赤色で覆われてあり、黒と白のオセロ模様をした珍妙な見た目をしていた。

「この先に《強欲な首輪》があるんですね?」

「ウンウン、でも気を付けてね。ちゃ~んと番人もいるから」

「……はい? その番人とは?」

「お宝ちゃんを守ってくれるシステムの一つ。たった一つの命令だけを聞いて、遵守するためだけに行動する子たちだね」

「先程仰っていたケルベロスやオルトロスなどですか?」

「ウンウン。あ、ちなみにワタシの命令も聞かないからね~」

「おい、何でそんなもんを作る? バカなのか?」

「ぶぅ~! バカじゃないも~ん! 天才だも~ん!」

子供かと言いたいが、本当に何故そんな面倒なシステムを作ったのか気になったので尋ねてみた。

「え? だってさ、迷宮ってそんな感じの方が面白いでしょ?」

ダメだコイツ。普通の常識では計れない存在だったのを忘れていた。

「ワタシが造ったのに、ワタシにも思い通りにならない玩具。ゾクゾクするよね!」

「オレはそんなドM気質じゃない」

「なら、ワタシが目覚めさせてあげよっか?」

「離れろファンキー女、その無駄に育った脂肪の塊を押し付けてくるな」

「そ、そんなぁっ!」

ガックリと膝を突きショックを受けるアダムス。

「い、今までの男たちはこれだけで鼻血を出して失神するほど喜んでたのにィ……」

「オレはオレだ。お前の常識で計るな」

「ノフォフォフォフォ……ヒイロ様を侮ってはいけませんぞ、アダムス殿」

「お前は鼻血を拭いてから喋れ」

「これは失敬。ノフォ」

やはりシウバは置いてきた方が良かったかもしれない。

「さ、さすがは師匠ですぞ! あのアダムス殿にも負けておりません!」

「ん……ウイも鼻が高い。えっへん」

ニッキとウィンカァはとても自慢げである。

「ま、まあヒイロだしな。あれだけの美少女たちの猛攻を難なく受け流してるんだしよぉ」

「そうね、鈍感枯れ男だし、この結果は決まり切っていたわね」

テンとヒメが溜め息混じりに肩を落としている。

「いつまでも落ち込んでないで案内しろ、ファンキー女」

日色は容赦なく伝説の魔王に命令をする。

「いえ、ヒイロくん、その前に番人に関することを聞き出さないと」

「そういえばそうだったな、ほらさっさと言え」

「うぅ……ワタシこう見えても結構偉いはずなのにィ……何て子を選んだのよイヴのバカァ……」

日色たちはアダムスから、この迷宮のシステムについていろいろ教わった。ここには多種多様の扉が存在し、それぞれに番号が振られてあり、その先がどう繋がっているかは、アダムスでも把握し切れていないらしい。

例えば、5番の扉に入り進んでいくと、688番の扉へと繋がっていることだってあるとのこと。何も知らない者が入れば、確実に迷い脱出不可能になるという。

また扉の奥には、アダムスが過去に作った魔具などが隠されてあり、中には超レアで垂涎ものの能力を備えたものもある。

ただしレア度が高いほど、番人と呼ばれる存在が守っているのだ。その強さも様々で、特に《強欲の首輪》はレア度が高いせいか、番人の強さや、迷宮の攻略難易度も高いとのこと。

「ワタシは助言はできるけど戦力にはならないから頼っちゃダメだからね~」

「ということらしいので、役立たずのアダムスさんは放置してさっさと向かいましょう。時間も惜しいですから」

「ケンカ売ってるのかペビン! いいよ、買うよ! ヒロヒロがっ!」

「お前がしろよ」

「女の子に戦わせる気なの!? ヒロヒロ……恐ろしい子!」

もう本当に、コイツのノリは何とかならないかと本気で思い始めていた日色だった。