軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

191:真実の決着

戦災孤児だったコクロゥ、そしてその姉 ネレイは、当時の獣王レンドック・キングの右腕であり《三獣士》だったガレオス・ケーニッヒの養子になる。

コクロゥ五歳、ネレイ六歳の頃のことだった。

ガレオスには娘がいた。それが後にレオウードの妻となるブランサである。つまりコクロゥとネレイは、ブランサの義姉弟となった。

最初の頃、コクロゥとネレイは突如として変化した環境に戸惑っていたが、周囲の者たちの優しさに包まれて次第に心を開いていった。

その頃、レオウードはすでに十四歳だった。もう戦いも経験していて、実力も《三獣士》と比肩するほどのものに育っていた。

レオウードはひ弱で貧相なコクロゥを見て、どうにも戦士には程遠い人物だと思っているようだった。しかしコクロゥは内に秘めた強い意志と剣の才を持ち合わせていた。

またネレイも美しい娘だった。気立ても良く、六歳とは思えないほどの美貌と頭脳を持ち合わせていた。あのユーヒットが舌を巻くほどだった。

そしてコクロゥたちが【獣王国・パシオン】に来て十年が過ぎた。その十年で二人は逞しく育った。コクロゥはみるみる剣の腕を上げて国随一の使い手になり、《白い牙》と呼ばれて畏怖されていた。そしてネレイも、ユーヒットやララシークの隣に立って、獣人に役立つ研究を行えるようになっていた。

しかしある日、決定的な運命を迎える事件が起きた。

「流行り病だと?」

レンドックの耳に入ってきたのは街から駆けつけてきた衛兵だった。彼によれば今、国を流行り病が広がっているということ。そしてその病により死んだ者が出た。

「それはいかんな。ただちにユーヒットたちに調べさせろ。これ以上国に被害が出ないように止めるのだ!」

レンドックの命でユーヒットたちが病について調べ上げた。どうやら【パシオン】のみに広がっている病のようで、近隣の村などにはその兆候は見当たらなかった。

そしていろいろ調べていく中で、その病を《枯渇病》と名付けられた。

「病にかかってしまうとですね、日に日に体中の水分を失っていきやがります。死体を調べましたが、見るも無残な状態ですねぇ」

ユーヒットの言う通り、死体はどれもミイラのようになり、とても短期間でその状態になることが信じられなかった。

「水分を大量に摂取しても無駄か?」

「はい。ほんの少し進行を遅らせるくらいはできるようですが、抜本的な解決法にはなりやがりませんねぇ」

実際に大きな風呂瓶を作り、そこに水を張って患者を浸からせたりもしたが、ほとんど意味のない結果を得ただけだった。

「むぅ、何とか特効薬を見つけ出すのだ!」

苛立ちを含めたレンドックの言葉を受けてユーヒットはララシークやネレイとともに《枯渇病》を調べていった。

そしてある日、ユーヒットの研究が実を結び特効薬を作り出すことができた。

「よし! さっそく民たちに投与するのだ!」

ユーヒットたちは民たちに薬を投与し始め、見事流行り病の広がりを止めることができた。薬にはかなり稀少な薬草を使用しており、もう薬が底をつきかけていたが、何とか《枯渇病》にかかっていた者を治癒することができた。

だがその時、研究を続けていたネレイが倒れた。彼女もまた《枯渇病》にかかってしまったのだ。それを聞いたコクロゥは血相を変えて彼女のもとに走った。

「何? ネレイが倒れた? まさか《 枯渇病(こかつびょう) 》か?」

「はい。ですが安心して下さい。ちょうどあと一つだけ薬が残っていやがりますから、彼女は運が……」

良かったとユーヒットがレンドックに対して言おうとしたところ、慌てて兵士が駆けつけてきた。

「ブ、ブランサ様がお倒れになりましたっ!」

その言葉は《王樹》にいる全ての者に衝撃を与えた。その場に居たレオウードもまた驚天動地の思いを受けて固まってしまっている。そしてレンドックは頭を抱えながら、絞り出すように声を出す。

「…………残り一つと……言ったなユーヒット?」

「……残念ながら」

ユーヒットも普段の笑みを崩し真面目に答えている。それだけ事の大きさの深刻さを感じているのだ。

「薬を作るためにはある薬草が必要になります。しかしそのストックがもうありません」

「むぅ……いや、まだ二人は病にかかったばかりだ。今すぐ部隊を編成してその薬草を探しに行くのだ!」

「俺が行こう親父」

「……レオウード」

「彼女たちを助けたい!」

「そうか、なら……」

しかし運の悪いことは重なるのか、またも兵士が顔を青ざめさせて飛び込んできた。

「報告します! 国境を越えて『人間族』が攻め込んできましたっ!」

「な……何だと……っ!?」

再び頭を抱える事態が起こる。

「このような時に……人間どもめ……っ!?」

二人を助けるために薬草探しに兵を送りたい。しかし兵を割けば、人間の侵攻を止めることができないかもしれない。

だがレンドックは二人を救いたいのだ。自身の息子であるレオウードの妻として二人を考えていたのだ。レオウードもまた、二人のことを愛している。

本当はその中の一人を考えていたレンドックだが、レオウードの意志、ブランサとネレイの意志を聞き、尊重することにした。別段一夫多妻は珍しくはないからだ。

だからこそ二人を助けたいと願うが、そのために獣人界を危険に晒すわけにはいかない。この大陸に住む同胞は、レンドックを頼りにしているのだ。その思いを裏切るわけにはいかないのである。

「親父! 俺を薬草探しに向かわせてくれ!」

「……それはできん」

「何故だ!」

「お主は次期獣王だぞ。戦争の場から動くわけにはいくまい。兵士の士気にもかかわる」

「し、しかし親父!」

「もう黙れ! 少し考えるから大人しくしていろ!」

「……っ!」

一体どちらを優先すべきかレンドックが迷っていると、そこに名乗りを上げた人物がいた。

「私が薬草探しを承りましょう!」

「……ガレオス」

そう、ブランサとネレイの父であるガレオスだった。

「自分一人がいなくとも、ここにいる獣人たちが力を合わせれば人間どもを蹴散らすことは可能でしょう」

「むぅ……しかしな……」

「これは私の我が儘でもあります。どうか、我が娘たちを助けるために行かせて下さいレンドック王っ!」

ガレオスがプライドも捨てて土下座を見せる。その姿を見た者たちは一様に言葉を失っていた。

「……親父、俺からも頼む! ガレオス殿に許可を与えてやってくれっ!」

同時にレオウードも頭を下げる。彼もまた必死に彼女たちを救いたいのだ。レンドックは二人の態度を交互に見つめると静かに息を吐いた。

「…………分かった。だが必ず結果を出せ!」

「ありがたき幸せにございます。レオウード様も感謝致します!」

「いや、あなたが動いてくれて助かる。二人のこと、よろしく頼む!」

「はい! 必ずや結果を出してみせましょう!」

ガレオスは準備をして翌日に出立することになった。そして彼は翌日、旅立つ前に、ブランサたちの様子を一目見ていこうと思い彼女たちが隔離されている部屋へと向かって行った。

「……姉さん」

コクロゥは昨日から飲まず食わず休み無しでずっと看病していた。

「……ネレイはどうだ?」

「……父さん」

コクロゥは不安気な顔を背後から現れたガレオスに向けた。ガレオスはコクロゥの頭をクシャクシャと乱暴に撫でると、優しげな瞳を向け発言する。

「少し休め」

「けど……」

「お前が倒れちゃ、ネレイも悲しむぞ」

「……はい」

「それに今のお前は《三獣士》でもある。大丈夫だ、必ず間に合わせる。俺が薬草を探しに行くのだからな」

「……父さんが?」

コクロゥは目を見開きながらも、頬が少し緩む。何故なら彼の実力を大いに理解しているからだ。彼が動くのならば信頼できる。

「だから国を頼んだぞ。お前がいるから、俺は安心してここを離れることができる」

「…………分かったよ。だから絶対に薬草を頼んだよ!」

「ああ、任せておけ!」

ニカッとガレオスが白い歯を見せて笑う。コクロゥは頼もしく感じてホッとする思いだった。

ガレオスはネレイとブランサの顔をその大きな手で一撫でをすると、覚悟を決めたように顔を引き締め部屋から出ていった。

「父さん、姉さんを……いや、姉さんたちを助けてやってくれよ」

コクロゥは神にでも拝むようにガレオスの早々の帰還を祈った。

ガレオスが薬草探しに出て三日。いまだ音沙汰のないガレオスに、コクロゥの苛立ちと焦燥感は日に日に増していた。

そしてその焦燥感を振り払うかのように侵攻してきた人間たちを倒していた。途中、もう明らかに戦意のない相手に対しコクロゥは物凄い形相で斬りつけていた。

「はあはあはあ……」

戦場で返り血を浴びて真っ赤に染まるコクロゥを見て、ともに戦っていたレオウードが近づいてきた。

「…………ここはもういい。少し休めコクロゥ」

「…………はい」

コクロゥの表情は今すぐにでもネレイのもとへ駆けつけたいという思いが宿っていた。レオウードもコクロゥの気持ちが分かるようで、それ以上何も言わずに部下にも休むように指示を出した。

コクロゥは部下から手渡された布で身体を拭き、一つの岩に腰を下ろしていた。

「……姉さん…………親父まだか」

祈るのはネレイの無事。そして一刻も早くガレオスが帰って来ること。だがこうして祈っていても、ネレイは日々衰弱していき、そろそろ危険な領域に足を踏み入れていた。

コクロゥとレオウードたちは人間との戦いに勝ち、【獣王国・パシオン】へと帰国した。そしてコクロゥは真っ直ぐネレイのもとへ行き、看病をしてくれていたララシークにガレオスの消息について尋ねた。

「いや、まだだ。ガレオス殿が旅に出て三日。何の音沙汰もないってのはどういうことだ……」

「……ララシーク様、ま、まさかですけど……親父が失敗したとか……ないですよね?」

もしそうなら状況は絶望的だ。薬は一人分。しかし病気にかかっているのはネレイだけではない。コクロゥのもう一人の義姉であるブランサもそうだ。

だから迂闊に残りの薬草を使わずに温存しているのだ。もし、ガレオスが間に合わずに二人の容体が限界にきた時、誰か一人を皆で決めなければならないのだ。

「……大丈夫だ。ガレオス殿は必ず戻ってくる。そう信じろ」

しかしさらに二日、結局ガレオスは帰らずに二人の容体が急変した。もう一刻の猶予もなくなった。

彼女たちの肌は浅黒く変色し、まるで枯れ木のようにカサカサになっていき、もう声すらも自由には出せないようになっていた。美しかった彼女たちの顔は、見るだけで顔をしかめてしまうほど醜く変貌を遂げていた。

「い、嫌だ……姉さん!」

薬は一人分。コクロゥは脇目も振らず実姉であるネレイに投与するように懇願した。何故ならネレイの方が進行が早かったのだ。

「お願いします! 姉さんが! このままじゃ姉さんが死んでしまうっ!」

「落ち着けコクロゥ! 今手立てを必死で考えている!」

レンドックに泣きつくコクロゥだが、その願いは簡単に受け入れられてもらえるものではなかった。

「そ、そうだ……親父は? 親父は何してんだ? だって親父は薬草探しに出掛けたはずだ!」

我を忘れたようにレンドックに掴みかかり肩を揺らし始めるコクロゥ。

「止めろコクロゥ! 少し落ち着け!」

レオウードがそう言いながらコクロゥを引き剥がそうとするが、

「は、放せっ! 姉さんを助けてくれよっ! だって……だって姉さんがぐふっ!?」

「……すまない、コクロゥ」

絶望に囚われているコクロゥを見ていられずレオウードは、このままでは暴れ出して手が付けられないと思い、コクロゥの腹を殴り意識を奪った。そしてそのままコクロゥは牢屋に放り込まれた。少し落ち着かせようという算段だったのだろう。

「……う」

思いもよらない不意打ちを受けコクロゥは意識を飛ばし、気が付いたら牢屋の中。

「……姉さん……」

そんなコクロゥのもとへ、レオウードが一人でやって来た。

「レオ……様」

「すまなかったコクロゥ。だがあそこでお前が正気を失えばきっとネレイも悲しむ」

「……いえ、俺も興奮してました。あの、姉さんは?」

「無事だ。容体も安定している」

「そうですか……良かったぁ」

コクロゥにとってネレイの無事が先決だった。

「大丈夫だ。必ずネレイは助ける」

「……レオ様、姉さんのこと……愛していますか?」

「無論だ。ブランサ同様、二人は俺の妻になる者たちだ。愛していないわけがない」

コクロゥも真剣な眼差しを向けるレオウードの言葉で、久しく忘れていた笑みを浮かべることができた。

(そうだ……信じよう。レオ様が……レンドック様が……そして親父がきっと何とかしてくれる)

フッと気が緩み、それまでろくに寝ていなかったためか、急に強烈な睡魔がやってきて、コクロゥが意識を闇の中へと沈み込ませていった。

コクロゥは目が覚め、門番に確かめるとあれから丸二日が経ったとのこと。ずいぶん疲れていたのがよく分かる。

(姉さんに会いたい……)

そう思っていると、牢屋にレオウードがやって来た。

「レオ様!」

もしかしたらネレイが助かったのではと希望を抱きながら彼の顔を見つめるコクロゥ。しかし彼の口から発せられた言葉は、コクロゥの顔を絶望に染めた。

「すまない。ブランサしか救えなかった」

「……え? な、何を言ってるんですか…………レオ様?」

聞き間違いだと思った。コクロゥは笑顔を固めながら、そのままレオウードの悲痛に歪む表情を見つめた。

そして彼の口からもう一度「すまない」という言葉が聞こえた瞬間、慟哭を牢屋中に鳴り響かさせた。三日三晩、コクロゥは叫び続け、誰一人それを止められる者はいなかった。

(姉さんが死んだ……姉さんが死んだ……姉さんが死んだ……っ!?)

コクロゥは心のが引き裂かれる思いを感じ、頭の中にまるで熱湯でも注ぎ込まれたかのような熱さを覚えた。

そして牢屋から出されたコクロゥは、すぐさまネレイが安置されている部屋を突き止め向かった。そこで信じられないものを目にすることも知らずにだ。

「姉さん……ああ……姉さんっ!」

ネレイはとても穏やかとはいえない顔をしていた。《枯渇病》のせいだろう。健康だった肌の色もくすみ、美しかった彼女の顔も痩せこけて見るだけで涙が出てしまった。だが少し気になることもあった。

それは《枯渇病》で死んだにしては身体のミイラ化が中途半端な気がしたのだ。今まで多くの死体を見たが、《枯渇病》で死んだ者は、皆ミイラ化しており、下手をすれば誰か判別できないほどだった。

しかしネレイは、確かに病は進行してはいるが、まだネレイだと判断できる。つまりまだ病は途中だったように思えるのだ。そして

「……何だこの傷跡……?」

ネレイの胸の中心に刃を突き立てたような傷跡があった。刹那、コクロゥは雷に打たれたような衝撃が全身を走った。

「ま、まさか……そんな……!?」

考えたくはない。だがネレイは死に、ブランサが助かった現実。それがコクロゥに否応なくある考えに辿らせてしまった。

「姉さんは……ブランサが助かるために殺されたの?」

物言わない彼女に語りかけるコクロゥ。そしてガクッと膝をついたコクロゥは絶望に苛まれ震える身体を抑えられずにいた。

「汚い……何て汚いんだ……ははは……」

この時、コクロゥの心の中で何かが壊れる音がした。コクロゥの真っ白だった髪色が、白と黒の斑模様に変化していた。それはまるで、純粋なコクロゥの心が、闇に浸食されたようだった。

コクロゥはネレイの元から離れて玉座へと向かった。そこにはレンドックはもちろんのこと、レオウードや他の兵士たちもいた。皆はコクロゥの変わり様に息を飲んだが、コクロゥは気にせずに一言。

「姉さんを弔ってやりたい」

それだけ言うと、皆もそれに同意し厳かに弔いはされた。その日は雨だった。まるで誰かが泣いているかのように大雨が一日中降り続けた。

すると何の皮肉か、ネレイを弔った日にガレオスが帰ってきたのだ。コクロゥはその報を聞いて一気に胸の中が熱くなるのを感じていた。

また玉座に来たボロボロの彼の手に握られた薬草を見て、さらに怒りが増していく。

(遅い……何もかも遅い……)

心の中で膨れ上がっていく憎悪。

(まさかアイツもグルか? 姉さんが邪魔になったからわざと遅らせて……いや、きっとそうだ。そうに違いない)

気がつくとコクロゥは腰に携帯していた刀を抜いてガレオスへと突っ込んでいた。

「がふっ!?」

絶句―――。

コクロゥの行為に誰もが言葉を失って唖然としていた。それもそのはずだ。コクロゥの刀が、ガレオスの胸を貫いていたのだから。

ガレオスはその満身創痍の身体を震わせながら、信じられない面持ちでコクロゥをその手で掴もうとするが、パシッと汚いものを払うかのようにコクロゥはその手を弾いた。

そしてそのまま床に倒れるガレオスを冷ややかに見下ろすコクロゥに、レオウードが愕然としながら叫ぶ。

「な、何をしているんだコクロゥッ!」

だがコクロゥはどす黒いオーラを身体から放出させながらその場にいる者を無差別に襲い掛かった。

(全員消えろっ! こんなものっ! こんなものぉぉぉっ!)

兵士たちが成す術もなく、その凶刃に斬り倒されていく。その形相は修羅の如く。動きは雷鳴の如く。誰もコクロゥの行為を止められる者はいない。そしてその暗黒の牙がレンドックへと迫る。

しかしレオウードが止めようとコクロゥの前に立つが、

「どけぇぇぇぇぇっ!」

「っ!?」

ビリビリビリビリと大気を震わせる叫喚にレオウードは気圧されてしまう。しかしその隙は今のコクロゥに見せてはいけなかった。

コクロゥの電光石火の刀捌きにより、レオウードは身体を斬り刻まれ血しぶきを飛ばす。コクロゥはそのまま腹を蹴ってレンドックにぶつけると、

(そのまま一緒に串刺しになれっ!)

二人一緒に殺すべく刀を突き刺そうとする。しかしレンドックはレオウードを助けるために少し乱暴に吹き飛ばすことに成功する。

ズシャァッとコクロゥの刀を避け切れずにレンドックはその胸を貫かれた。周りの者がレンドックの名を叫ぶ。

そんな叫びの中、コクロゥは一言だけ涙を流しながら言った。

「……嘘ばっかりだ」

そしてそのまま《王樹》から素早く脱出し、雨の中、一人で闇の中へと消えていった。

真っ白な空間に包まれていたレオウードとマリオネは流れ込んできた記憶にそれぞれ思い思いの表情を浮かべていた。

レオウードは戦いの時とは違う険しい顔だ。まるで寝耳に水だという事実を見たような表情。

そしてマリオネは眉間にしわを寄せながら目を閉じたままだった。

すると白い空間が上方から崩れていき、元の世界へと戻っていく。そこから再び《鬼成り》の姿をしたコクロゥがレオウードたちを睨みつけていた。

「テメエらァ……この俺様の記憶を覗きやがったなァ……」

どうやらコクロゥもまたレオウードたちと同じものを見ていたようだ。そしてその大きな拳を地面へと悔しげに突き出す。

「……忘れたことはねェ。テメエらにされた姉さんへの裏切り。俺様は何があってもぜってェ忘れねェッ!」

「そ、それは違うのだコクロゥッ!」

レオウードが慌ててコクロゥに対し抗弁しようとしたが、コクロゥは聞く耳を持たないといった感じで物凄い形相のまま突っ込んでくる。

「くっ!?コクロゥ!?」

マリオネはそんな困惑を見せるレオウードに、

「獣王よ、いくら過去に何があろうとも、奴が今までしたことを許すわけにはいかん」

「……マリオネ」

「来るぞ」

「っ!」

「どうしても何かを言いたかったら奴を倒せ!」

マリオネの言葉にレオウードは戸惑いの光を宿していた瞳に力強い意志が甦ってくる。

「テメエらはここで散らしてやらァッ!」

コクロゥが大きく跳び上がると、両手を地面へとかざし、

「闇に消えやがれっ!」

その両手から闇色に染まった火球のような塊が無数に放たれる。二人は弾丸の撃ち出される球体を身を翻して回避していく。

ドドドドドドドドッと地面に大きな穴が次々と開いていく。地面に衝突した瞬間にその大きさと同じ質量の地面を消失させていく。

「当たるわけにはいかぬなっ!」

「獣王よ! 防戦一方では埒が明かぬ! こちらも最大限の力で向かい討つしかないぞ!」

「ならその隙をワシが作ろうっ!」

コクロゥのように大きく上空へ跳び上がったレオウード。レオウードはコクロゥを越えた位置に到達すると、身体から凄まじい炎が迸る。大きく火柱を上げるレオウードだが、その火柱が徐々に形態を変化させて、レオウードの周囲を球体状に覆っていく。

コクロゥもそれに気づいたようで自らの上方にいる小さな太陽と化したレオウードを睨みつける。

「レオウードォォォォッ!」

コクロゥは地面に闇を放つのを中断して、今度はレオウードに向けて放ちだした。しかし炎に当たった闇はボボウッと瞬時に焼失してしまう。

「忌々しい炎がァッ! これならどうだクソがァッ!」

コクロゥはドスンッと地面に下りると、両手を向かい合わせる。両手の間に小さな球体が生まれると、そのまま両手ごと頭上へと向ける。向けた瞬間にその球体は一気に膨張したように膨れ上がりレオウードが作り出している太陽とそっくりの球体が生み出された。

「その存在ごと消えてなくなれェェェッ! 《 最極(さいごく) の 闇玉(やみだま) 》ァァァァッ!」

コクロゥの投げるような仕草とともに放たれる《闇玉》。そして上空に浮かんでいるレオウードもまたさらに大きくなった太陽を地上へと落下させていく。

「行くぞコクロゥッ! 《真醒の焔玉》ァァァァッ!」

二つの巨大な塊がぶつかる。

衝突した瞬間、バチチチチチチィィィィィィッと耳をつんざくような音が轟く。どうやら力が互角のようで上空で互いの歩みを止めて凌ぎを削っている。

しかし徐々にだがコクロゥの《闇玉》がレオウードの太陽を侵食していく。

「……ククク」

その光景を見てコクロゥは自分の力の方が上だということを理解し頬を緩める。

「終わりだァァァァッ! レオウードォォォォッ!」

彼の叫びをきっかけに、一気に太陽を闇が呑み込んでいく。

「クハハハハハハ! 俺様の勝ちだァッ!」

しばらく笑っていたコクロゥだが、その優越感を浮かべた表情が――――――凍る。

それは地上に待機したままだったマリオネの姿だった。マリオネの前方にある大地から巨大な物体が出現している。見た目は岩でできたドラゴンそのものだ。

「今度はテメエかマリオネェェェッ!」

コクロゥは怒鳴り声を上げて、戦闘態勢を整えていたマリオネを射抜くような目つきで睨みつける。

「いや、マリオネだけではないっ!」

「――――何ィッ!?」

その声は間違いなくレオウードのものだった。いつの間にか彼は空を駆けていた。シシライガに乗ったレオウードがそのままマリオネが生み出したジ・アースと呼ばれるドラゴンの頭に乗る。

そしてシシライガがその身体を変化させてレオウードの右手に集束していく。

「……《終の牙》」

炎は赤から青へと変色し、静かな揺らめきを見せている。

「行くぞっ! 獣王っ!」

「おおっ!」

マリオネの言葉に返事をするレオウード。そしてジ・アースの瞳が怪しく光り輝いた瞬間、レオウードを頭の上に乗せたままコクロゥに向かって突撃していく。

「な、舐めるなァッ!」

コクロゥからさらにどす黒いオーラが現れ、次第に巨大刀を形作っていく。

「全てを断ち斬ってやらァァァァッ!」

コクロゥは両手で闇の刀を握り締め、彼もまた突撃していく。そして刀を振り上げ、全力を込めた一撃を持ってジ・アースごとレオウードを斬殺するために力一杯振り下ろした。

しかしここでコクロゥは選択を誤った。いや、認識を間違えたと言った方が良い。それはジ・アースは、マリオネの意志通りに動かせるということ。そしてマリオネは、レオウードと違って、バカ正直にその力を衝突させて力比べを行うようなタイプではないということ。

つまりジ・アースは、コクロゥの単調な攻撃をそのまま受けるのではなく、その身体を器用に動かして回避したのだ。

「――っ!?」

無論、先程のレオウードのように力比べをすると思っていたのだろう、コクロゥはあっさりと勝負をかわしたジ・アースの動きに言葉を失う。

そして見事に隙を見せることになったコクロゥ。

「……終幕だ、若造」

マリオネの呟きが風に乗る。

「うおォォォォォォォォォォォッ!」

ジ・アースに乗ったレオウードもまた青く光る右拳をコクロゥに向かって突き出す。そしてジ・アースも大きな口を開きながらコクロゥに突進していき、そのまま

「クソがァァァァァァァッ!?」

完全に体勢を崩されたままのコクロゥは反撃はできずに身体を食い破られた。そしてレオウードの《終の牙》を受けて、青い炎に包まれるコクロゥ。

その炎に包まれ、まるでろうそくのように身体を溶かしていく。やがて巨体だったその身体は失われ、元のコクロゥの大きさへと戻っていく。

「はあはあはあはあはあ………ぐぅ……っ!」

胸にポッカリと開いた穴を手で押さえながらドクドクと血を噴き出す。そして「がはっ!」と口からも鮮血を吐き出す。

しかし眼光の鋭さは衰えることを知らず、殺気もさらに膨れ上がっている。それでも身体は言うことを聞かないようで、ガクッと膝を折ってしまった。

「はあはあはあ……俺は……テメエらを……殺す……殺すんだァ……」

絞り出すように言うコクロゥに、レオウードとマリオネは一歩一歩近づいていく。

「……コクロゥ。覚悟はいいな?」

そう言い放ち剣を突き出すのはマリオネだ。マリオネにとっては妻と子の仇だ。ここで仇をとることには躊躇しないだろう。

「少し、待ってくれないかマリオネ」

そんなマリオネに背後から声をかけたのはレオウードだ。

「少しだけワシに時間をくれないか?」

レオウードが王という立場にありながら、マリオネに向かって頭を下げる。その態度にマリオネも彼の意志を尊重させたいと思ったのか、静かに一歩身を引いた。

そしてレオウードが、膝をついて睨みつけているコクロゥに近づく。

「コクロゥ、お主に言っておかねばならぬことがある」

「何をだ! まさか冥土の土産とか……言うんじゃ……はあはあはあ……ねェだろうなァ……」

強がりを言ってるみたいだが、相当のダメージを受けたせいか言葉に強みが感じられない。

「……よいか、お主は………………勘違いしておるのだ」

「……は? 何言って……やがる?」

「ワシらは誰一人ネレイを裏切ってなどおらん」

その言葉に益々殺意を膨らませギロリと目を剥いてくるコクロゥ。

「ふっざけんなァッ! お前が……お前らが姉さんを…………ブランサを助けるためにィッ!」

「それが違うのだ」

「っ!?」

そしてレオウードは語り出した。コクロゥに知られていなかった真実を―――。

コクロゥがレオウードにより牢屋へ入れられて数時間後、事態は急激に変化した。ブランサとネレイのうち、容体を急に悪化させたのはブランサだった。

病の進行速度はひとそれぞれであり、ほぼ同時に床に臥せた二人だったが、ブランサの方が深刻な状況を迎えるのが早かった。

一室にはブランサとネレイが二人並んで寝かされてある。そしてそこへレオウードがやって来た。

「ブランサ!」

レオウードもブランサが急に悪化したと聞いて駆けつけたのだ。見る見るうちに衰弱していくブランサを見て、レオウードはただただ何もできない無力感に苛まれ悲痛な表情を浮かべて、彼女の手を握ることしかできなかった。

「……レオウード……ご……ごめんね……」

「何を言うっ! お前は助かる! もうすぐガレオスが薬草を持って帰ってくる! それまで耐えるのだっ!」

「……うん……でも……もう……ダメみたいなの……」

「ブランサッ!」

レオウードが苦しそうに顔を歪ませる彼女の名を叫び、そして近くで立っているララシークに向かって尋ねる。

「ララ! 薬は一人分あるといったな!」

「は、はい」

「半分……そうだ、半分ずつネレイと分ければどうだ? 少しは病の進行を食い止めることができるのではないか!」

レオウードは自分がナイスな提案をしたと思ったみたいだが、ララシークは申し訳なさそうに頭を横に振った。

「いいえ、それでは効果は見込めません。初期症状の段階ならばあるいは少しくらい効果があったかもしれませんが、ここまで重度に陥ってしまったのならもう……」

それは実際に試したことがある方法だった。しかしある程度の病を進行させた後では、効果はまるでなかった。やはり丸ごと薬を服用する必要があるようだ。

レオウードが力無く項垂れているところを、隣で同じように寝ていたネレイが見つめていた。そしてすぐ隣にある台に視線を向ける。

そこにはネレイのためにと、コクロゥが用意した果物があり、皮を剥くためのナイフも備えてあった。

ジッと彼女はナイフを見つめながら少し目を閉じ、そしてまた開けると今度は息を乱して苦しんでいるブランサを見て、そのまま視線を流してレオウードを見つめる。

「…………レオ様……」

ネレイはゴクリと喉を鳴らすと、意を決したように上半身を起こした。

レオウードとララシークは同時に顔を伏せていたのでネレイが起き上がったことには気がつかなかった。

そして最初に気づいたのはブランサだった。

「……ネレイ…………何を……して……るの……?」

途切れ途切れになる彼女の声を聞いて、レオウードとララシークはハッとなり顔を上げる。そして視界に入ってきた光景に息を呑む。

いつの間にかベッドに座っているネレイ。本来なら起き上がっていい状態ではない。少しでも身体に無理をきかせたら、一気に病が進行するからだ。

しかしそんなことよりも驚いたのは彼女の両手に握られたナイフだった。しかもそのナイフが自らの胸へと押し付けられてあった。

「ネレイッ! お前何を!?」

レオウードが叫ぶが、時すでに遅し、レオウードの方にニッコリと微笑んだ彼女はそのまま身体を前のめりに倒し床へと倒れた。

そして落下の勢いで胸に突きつけられていたナイフは――――――彼女の胸に深々と突き刺さったのである。

「ネレェェェェェェイッ!」

レオウードは即座に駆けつけ身体を起こすが、すでに彼女の胸からは尋常ではない血が流れ出てくる。《枯渇病》で水分は大量に失われているのにもかかわらず、これほどの量の血液を出すなど文字通り自殺行為である。

「ララッ! 彼女をっ!」

レオウードはすぐさま彼女をベッドに寝かしつけるが、ドンドン青ざめていくネレイを見て愕然とする。

ララシークは治療道具を持ってきて治療を開始しようとするが、傷口を見て彼女の顔もまた青ざめる。

「こ、これは……」

まるで絶望でも見たかのように目を見開いている。

「ララッ! 早くなんとかしてくれっ!」

「は、はいっ!」

ララシークはレオウードの声に返事をすると、薬草をナイフの周囲に置くと、ゆっくりとナイフを抜いていく。しかし呻き声一つ漏らさないネレイ。

もう彼女は痛みすら感じていないのだとレオウードとララシークはその様子を見て判断できた。

ナイフを抜いた後は、すぐさま薬草で傷口を押さえて包帯を巻き始める。

「バカ者め! 何故このようなことをしたのだっ!」

レオウードも手伝い包帯を巻きながら叫ぶ。そして巻き終わった後、ネレイが静かに口を開く。

「……レオ様…………どうか……姉様を……幸せにしてあげて下さい」

「……っ!? お前まさか自分が死ねば薬をブランサに使えると思って……」

慈愛に溢れているような笑みを浮かべるネレイ。限界を迎えている病人ができるような笑顔ではなかった。

「そして……コクロゥと一緒に……国を……民を…………私たちみたいな孤児が出ない世の中を……」

「分かった! 分かったからもう何も喋るなっ!」

レオウードは彼女の手を両手で握り締める。もう温かみはほとんど失われていて、まるで本当の枯れ木のような感触だ。

「……レオ様…………私は……こう見えても……とても幸せでしたよ」

「ネレイ……」

「一度失った家族が……またできて…………そして…………大好きな人が傍にいた」

彼女の目から涙が一滴零れる。

「レオ様…………私はいつまでもあなたをお慕い申し上げています」

「俺もだ! お前は俺の妻になる女だ! このようなところで死ぬことは許さんぞっ!」

「ふふ……そのお言葉が聞きたかった……」

「ネレイ!」

段々と彼女の手から生気が失われていく。

「どうか……幸せになって……下さい……姉様もお願いです」

「……ネレイ……ダメよ……」

ブランサも寝ながら必死に声に出そうとするが、枯れていて掠れてしまっている。

「コクロゥ…………姉さんは……先にママとパパのところに行ってる……ね」

徐々に光が失われていく瞳を見て、レオウードが何度も何度も彼女の名を呼び意識を保たせようとする。しかし急速に輝きを失っていく彼女の瞳は、もう誰も止めることができない。

「レオ……様…………愛して……いま……す…………」

それからネレイは何も言わなくなった。

「……ネレイ? ネレイ? ネレイ! ネレェェェェェェェイッ!」

レオウードの叫びに呼応するかのようにブランサもララシークも涙を流した。

「……そして、ネレイのお蔭でブランサの命が助かった」

「嘘だっ! 出鱈目にもほどがあるっ! 何だそのとってつけたような話はっ!」

「…………嘘ではない」

「嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だァァァァァッ!」

コクロゥにとって、決して信じられないし、信じたくない真実だろう。

何故ならコクロゥは勘違いで自ら家族を傷つけ――――――殺してしまったのだから。

「姉さんは殺されたんだ……殺されたんだ……殺されたんだテメエらになァッ!」

「……そうだな」

「なっ!?」

「ネレイを救えなかった。その事実は変わらない。殺したと言われたら……そうなのだろう」

「……う……そんな……顔で俺を見るな……見るんじゃねェェェェェェッ! がはっ!?」

叫び過ぎたのか、コクロゥは盛大に吐血してそのまま前のめりに倒れてしまった。しかし誰も手を出さずレオウードでさえただ見下ろし続けていただけだ。

「……マリオネ、ワシの言いたいことは……終わった。あとはお主の好きにするがいい」

「…………」

マリオネは地に臥せているコクロゥを見つめる。彼の胸にポッカリと開いた穴からは、とめどなく赤い血が流れ出ている。徐々に小さくなっていくその命の炎がマリオネの目には見えていた。

マリオネは右手に握った剣の柄を力一杯握った後、ゆっくりと鞘に納めた。

「……マリオネ?」

「……私はそこのクズと違って、放置しても死ぬような輩にトドメを刺すような外道なことはせん」

「マリオネ……いいのか?」

「二度は言わん」

マリオネは背中をレオウードに見せ、首にかけてあるロケットを取り出す。そこにはこう刻まれてある。

『誕生日おめでとう。愛するあなた。リーアンより』

『おめでとうパパ! 大好きだよ! エルザより』

マリオネにとって、大切な者たちからもらった大切なプレゼントだった。愛おしそうにそのロケットを握り締めてマリオネは囁く。

「仇は……とったぞ」

哀愁を漂わせているマリオネの背中を一瞥したレオウードが、再びコクロゥへと視線を戻す。

「認めねェ……認めねェ……認めねェ……俺は……俺は……俺はァ……」

レオウードは必死に現実を直視しないコクロゥを哀れに思った。きっとあの時、コクロゥとレオウードの『精霊』同士が共鳴し合い、真実を見せてくれた。それにはレオウードしか知らない映像も、そしてコクロゥしか知らない映像もあった。

つまり、レオウードが経験した過去も、恐らくコクロゥの頭の中には流れていたはずだ。そして今話したことが真実だと確認できてもいるはずなのだ。

だが彼は認めない。認めたくないのだ。それは今までの人生を否定するものだから。突き詰めて言えば……。

「怖いのだな……コクロゥ」

「……な……何だとォ……?」

「自らが進んできた道が間違いだったと認めるのが怖いのだろう? そして後悔している」

「っ!?」

図星なのか反論しない。

「ワシも……後悔している。もっと早くにお主に真実を告げられたらと」

「…………」

「そうすれば、今もお主はワシの傍にあり、次期獣王を任せられただろう」

「そんな……もん……クソ喰らえだァ……」

「……そうか。ならばもう何も言わん。ここで終いだ」

「…………」

「お主のしたことは、たとえ食い違いがあったにせよ許されんことだ。あの世でネレイに怒られてこい」

「…………ちっ」

コクロゥの身体が小刻みに震えている。それは怒りなのか悲しみなのか、痛みで震えているのかは定かではない。ただあれほど強靭だった彼が酷くちっぽけな存在に見える。

しばらくの沈黙後、コクロゥから言葉が発せられた。

「……姉さんは」

「?」

「……姉さんは…………笑ってたんだな?」

「……ああ、女神のような笑顔だった」

「……そうか」

コクロゥの呼吸が段々と弱くなっていく。そして――。

「俺は………………俺は……」

コクロゥはそのまま息絶えた。彼が何を言いたかったのか分からないが、こうして過去の因縁が一つ終わった。