軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

15:ウシガニ討伐

山頂はアノールドの言うように大きな泉が広がっていた。

ちょうど火山の噴火口のような形をしている頂は、中心に大きな窪みがあり、そこに雨水が溜まり泉と化したようだ。

周りには多くの岩や石がゴロゴロしているが、思った以上に木や草も生えて、自然豊かな場所が形成されてあった。

泉を覗き込むと、美しいまでのその透明度に少し度肝を抜かれる。底までそれなりにあると思われるのだが、ハッキリと底が確認できている。

そしてそんな泉の中には多くの魚や甲殻類と思われる生物が生息していた。

円のようになっている山頂の大きさは大体目測で半径百メートル以上は確実にある。かなり大きな水溜まりといったところだろう。

「オッサン、どうやってウシガニを獲るんだ?」

見た感じそれらしいモンスターがいないので、恐らく泉の底か、もっと中心部分にいるのだろうと思い、どうやって獲るのか気になりアノールドに聞いた。

「ん~実はな、ウシガニは非常に臆病な性格でな。水面には滅多に浮上してこねえ」

「は? だったらどうするんだ? まさか潜って獲るのか?」

もしそうなら絶対アノールドに行かせようと心に決めた。だがアノールドは首を振る。

「ウシガニは擬態が上手え。プロの漁師でもねえ俺が潜ったところで見つけられるかは怪しい」

「ならどうするんだ?」

「そこでだ……お前だヒイロ!」

「…………は?」

突然指を差されたので呆気に取られる。

「お前が潜ってバカみたいに暴れまくる。そうすりゃ堪らず奴らも姿を見せるだろう! そしてそのままお前が捕らえる! どうだ、すんばらしい計画だろう! アハハハハハ!」

さも当然のように言うアノールドに対し、日色は額に青筋を浮かび上がらせると……、

「アハハ……ん? おいおいどうした? 俺の後ろに来て、ん?」

アノールドの背中を思いっきり蹴り飛ばした。

「おぅわぁぁぁぁっ!?」

――バッシャァァァァァン!

盛大な水音を立ててアノールドは顔面から泉へとダイブした。

「お、おじさん!?」

水面に顔を出したアノールドは、かなり水を飲んでしまったのか咳き込んでいる。

「ごほっ、げほっ、ごほっ!? ヒ、ヒイロてめえ、何しやがんだよ!」

冷ややかな視線で彼を見下ろしながら言葉を投げつけてやる。

「これは確か、オレへの依頼料だったよなオッサン?」

「え……あ、ま、まあそうだが……」

日色の言いたいことが分かったのか、バツの悪そうな表情になる。

「それなのに、獲物を獲るのはオレ? 働くのはオレだけ? そんな対価があると思うか?」

ゴゴゴゴゴゴと日色の背後から黒いオーラが見える。

「ヒイロ……怖い」

「あわわわわ!」

ウィンカァもミュアも、日色の姿を見て距離を取る。

「い、いやな、冗談だっての! だから――」

確かに日色も美味いものが食べられるのなら、魔法を使って捕らえるのも是非はないが、アノールドの態度が気にくわなかったのだ。

だから少し罰を与えるのも当然だと思い、彼を泉に突き飛ばしたのである。

「いいから早く探して来い」

「いや、だからさっきも言ったように、俺じゃ擬態を見破れねえかも……」

「気合で何とかしろ。暴れれば何とかなるんだろ?」

「そ、それは……」

「それとも何か? オレだけが獲ったものを、お前も食うつもりか? もう一度言う。これはオレへの依頼料だよな?」

「ぐ……ぬぅ……ああもう! 分かったわい! 大量に獲ってくっからちょっと待ってろっ!」

半ば自棄気味にそう叫ぶと、アノールドは泉の中心へと泳いで行った。

「が、頑張れぇ! おじさ~ん!」

「ファイト~」

ミュアとウィンカァの声援に見送られ泣く泣くアノールドは出陣して行った。

日色は時間が空いたので、自身の《ステータス》を確認することにした。ここに来る途中に、何度かモンスターと戦い、魔法も使用していたので、今の体力や魔力を確認しておいた方が良いと判断した。

ヒイロ・オカムラ

Lv 30

HP 387/545

MP 770/1200

EXP 20089

NEXT 3980

ATK 198(259)

DEF 150(165)

AGI 280(282)

HIT 149(157)

INT 249(253)

《魔法属性》 無

《魔法》 文字魔法(ワード・マジック) (一文字解放・空中文字解放・ 多(た) 重(じゅう) 書(が) き解放)

《称号》 巻き込まれた者・異世界人・文字使い・覚醒者・人斬り・想像する者・モンスター殺し・グルメ野郎・我が道を行く

(ま、この程度なら、ウシガニ相手でも戦えるな……ん?)

称号も若干増えているようだが、一つ気になるワードを見つけた。それは《多重書き解放》というワードだ。

(新しい能力……?)

調べるために指でクリックして説明を見る。

《多重書き解放》 消費MP 50

文字を重ねて書くことができる。本来なら一度発動させた持続効果時間のある文字は、その時間を過ぎなければ新しい文字は書けなかったが、その効果時間が切れるのを待つ必要無く書くことが可能。また同じ文字も連続して書くことが可能になり、文字によっては様々な相乗的効果を生む。ただし一度発動させた文字の効果は、任意でキャンセルは不可能。

(なるほどな。つまり今まで一度発動した文字の中には、書いたら一分待たなければ新しい文字を書けなかったが、それを待たずに連続して書けるってことか)

これは便利な能力が解放されたものだ。これからいろいろ試す必要が出てきた。

能力の解放が思ったより嬉しくて、思わず顔が綻ぶのは仕方の無いことだった。

「おじさん……大丈夫かな?」

ミュアは泉に消えていったアノールドを心配して泉の中心に視線を向けていた。

「まあ、ここのモンスターたちはレベルも初心者レベルだし、オッサンなら大丈夫だろ」

「う、うん……」

それでも納得がいかないのか不安気な表情は変わらない。そこでミュアの目に、一点をジ~ッと見つめているウィンカァの姿が映る。

こうしてずっと心配していても仕方無いと思ったミュアは、彼女が何をしているのか確認するために近くに向かう。

「何をしてるんですかウイさん?」

すると黙って地面を指差すウイ。そこには――。

「ひっ!」

ウネウネと動く昆虫がいた。外見は青虫だ。それを見て思わず背中に寒気が走りミュアは声を上げてしまった。

「な、ななな何で虫なんか見てるんですかウイさん!」

「ん……動きが面白い」

「…………そ……そう……ですか?」

先程から虫を凝視していたことを知ったミュアは、ウィンカァという人物は独特な雰囲気を持った人だなと思った。

(な、何か不思議な人だなぁ……)

ミュアがそう思っていると、彼女の頭上に生えているアンテナのような毛が何かに気づいたようにフルフルと動いた。そして彼女自身も、地面から顔を上げ泉を見据える。

無論その様子が気になったミュアが彼女にどうしたか聞く。するとゆっくりと指を泉に突きつけた。

「……来る」

「え? 来る? 来るって何が……っ!?」

ミュアが彼女の指先の方向へと視線を向けると、

「のわぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

そこには必死な形相で腕を動かしてミュアたちの方へと泳いでいるアノールドがいた。さらにその背後には――――――無数に 蠢(うごめ) く甲殻類の存在があった。

「ヒ、ヒイロォォォォォォッ!」

アノールドの叫びに日色も気づいて事態を把握していた。

「ほう、良い餌になったじゃないかオッサン」

背後に蠢いているのは、アノールドが言っていたウシガニだろう。確かに一匹一匹がとても大きい。人間一人分ほどの大きさはある。それに牛のように白黒模様の体をしている。

スッと立ち上がり軽く頬を緩める。あれがアノールドも絶賛するカニだ。そう思うとつい唾液が余分に分泌される。

アノールドはそれはもう見るに耐えないほど顔を歪めながらも、カニたちの餌食になってたまるかと全力で泳いでいる。

「ヒ、ヒイロさん!」

「下がってろチビ。ここからは狩りの時間だ」

「……手伝う」

ウィンカァが槍を持ち傍にやって来る。

「当然だ。食べたいのなら働け」

「ん……」

そしてアノールドが徐々にこちらへ近づいてくる。

「ぷはあぁぁぁぁっ! つ、つ、着いたぁぁぁぁぁぁっ!」

泉から這い出たアノールドは、息を激しく乱しながらも、フラフラの足取りで日色たちの傍にやって来る。

「ご苦労オッサン。一応確認しておくが、アレがウシガニなんだな?」

「はあはあはあはあ……あ……たし……しか……たい……」

何を言いたいのか分からない。彼は必死に何かを伝えようとはしているみたいだが、まるで過呼吸にでもなっているかのように上手く言葉を発せずにいる。

日色も彼が何かを伝えたいと思っていることを察して、眉をひそめながら視線を向ける。しかしその間にもウシガニたちはこちらに迫って来ている。

そして驚いたことに、元々群れで向かって来ていたウシガニたちが、さらに群れの中心へと一か所に集まっていく。

目の前で驚愕すべき事態が起こっていることに唖然となる。

中心に居たウシガニに触れたウシガニが、まるで吸収されたように存在を消した。

吸収したウシガニは、明らかに巨大化したのである。

(何だ……合体した?)

そう、それはまるで合体……融合だった。ウシガニたちは次々と一つになっていく。

「おい、どういうことだオッサン」

「はあはあはあはあ………………ふぅ~」

息を整えるためにアノールドは深呼吸を何度も繰り返す。そしてようやく落ち着いたのか人差し指を立ててビシッとウシガニに向ける。

「アイツらはな、確かに普段は一匹で行動するが、興奮したらああやって仲間を呼んで目の前の獲物を仕留めるんだ! しかもその時、アイツらはあんなふうに擬態しやがる!」

「擬態? アレが擬態だと?」

どう見ても融合にしか見えない。だがアノールドが言うにはウシガニは一匹一匹が重なり合わせて体を大きく見せる擬態を得意としているらしい。

本来ならああやって敵を威嚇して追っ払ったりするのが擬態の目的の一つなのだが、興奮状態に陥っているウシガニたちは、まるで力を合わせて敵である日色たちを倒そうとしているようだ。

「いや~、奴らがどこにいるか分かんなくてよ。ところ構わず暴れ回ってやったらこうなった!」

それはもう物凄く暴れたのだろう。これだけのウシガニの怒りを買うとは、水の中で爆発でも起こしたのかと考えた。

「なるほどな、まあ、仕留めるのは変わらないから別にいいか」

「ん……倒して食べる」

ウィンカァもやる気のようだ。一つになったウシガニは、立派な二階建ての一軒家よりも大きな生物へと変わっていた。

そのウシガニが、口から凄まじい水の奔流をレーザーのように放ってくる。しかもその数は複数だ。

「ミュア!」

アノールドはミュアを抱えてその場から離れる。

だが日色とウィンカァはその場から動かずに向かって来る水の光線を見つめている。結構な威力だった。

「お前は逃げなくていいのか?」

「……必要無い」

チラリとウィンカァの顔を見て、自然と目が見開いた。

先程までぼ~っとした、戦闘とはかけ離れた存在だと思っていたのだが、彼女の雰囲気がガラリと変化していた。

威圧感……と言えばいいのだろうか。それとも覇気? とにかく戦う者が持つ独特な力強いオーラを感じた。

(伊達にあんな槍は持ってないってことか)

彼女なら放置してもいいだろうと判断して、素早く指先に魔力を宿し動かしていく。そして向かって来る水に対し指を向ける。

書いた文字は『防』の文字。発動すると日色を覆うように青白い魔力の壁が生み出される。その壁に水が当たると、水は弾かれ周囲に散っていく。

そしてウィンカァはというと、《万勝骨姫》という名の槍の柄を持って振ると、短かった柄がカチャンカチャンと音を立てて伸び、最初に見た長槍に早変わりした。

さらにそれを頭の上でブンブンブンブンと回転させていく。凄まじい風切り音で、回転力の激しさを理解させられる。

回転させた《万勝骨姫》を飛んでくる水に向かって投げつけた。槍は水の勢いに負けることなく、むしろ増々回転を増して水を弾き飛ばしながらウシガニへと向かって行く。

その後を追うように彼女が槍に向かって飛ぶ。そしてパシッと回転する槍を手に取ったかと思うと、目にも止まらないくらいの速さで槍を振った。

「ギィィィィィィィィッ!?」

見事にウシガニの右側の足が全部斬り落とされる。無論擬態なので、その部分にいたカニたちが体を斬り裂かれ悲鳴を上げながらボタボタと下に落ちていく。

水鉄砲に何の恐れも抱かず突破した行動もそうだが、たった一振りで巨大化したウシガニを寸断する彼女の実力に、日色はもちろんアノールドたちも目をパチクリさせていた。

(驚きだな……まさかこんなマネができるなんて……!)

しかもその動きに全く無駄が無く。見る者の目を惹きつけるほどの雰囲気を持っている。日色でさえ、彼女の流麗な動きに目を奪われてしまっていた。

よくもまあ、そんなに小さな身体でそれだけの動きができるものだと感心していた。

「や、やるなぁ……ウイの奴!」

「う、うん……すごいよね!」

アノールドとミュアは瞬きも忘れて見入っている。ウィンカァはスタッと地面に降りて、落ちてきたウシガニたちを次々と斬り裂いていく。

《万勝骨姫》の持つ刃は、刃渡り四十センチ以上はあるだろう。ひし形をした形状になっており、刃毀れなどが一切見当たらない鋭く美しい刃を備えていた。

「けどあのヒイロの魔法、何だよアレ。属性魔法じゃねえよな? ユニーク魔法か?」

「えと……そう、なのかな?」

そういえば日色の魔法を直に見たのは初めてだ。指先で見たことのない文字みたいなものを書いていたが、アレがユニーク魔法なのだろうか。

「……ま、いっか。よし! 俺も狩ってくっからミュアはここで待ってろ」

「え? あ…………うん」

いつもの通りのスタイルなのだが、何故かミュアは胸にチクリと痛みが走った。アノールドは大剣を振り回しながらウシガニを倒していく。

日色もウィンカァも自分のできることをしている姿を見て、自分だけがこうして見守る格好なのがとても悔しく思えた。

特に同じ獣人の血を引き、自分とそう変わらない体格のウィンカァの強さを見て、その思いはより顕著になった。

(わたしだって強くなりたい……)

だが残念なことに、自分には戦う術が無かった。経験も無かった。まるで自分だけがこの中で除け者のような感じがしてしまうミュア。

さすがに日色もアノールドもミュアのことを邪魔だなどと思ってはいないと思う。

しかしいつまでもこの立場のまま甘えているのは駄目だ。拳を強く握り、三人の背中を見ている彼女は、いつか自分もこの中に入りたいと切なる思いを、その小さな胸の奥に宿した。