軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

146:身体力とは

ここは【魔国・ハーオス】にある魔王城の一室。

そこでは二人の少女が最近城の中で耳にした話の内容について顔を突き合わせていた。

その話とは【獣王国・パシオン】が襲われたということと、【ヴィクトリアス】が先代魔王に乗っ取られた二つ。

特に【パシオン】のシンボルである《始まりの樹・アラゴルン》を枯らせた賊について二人は難しい顔をそれぞれ浮かべていた。

一人は皆本朱里といって、この【イデア】という世界に勇者として召喚された四人のうちの一人。

その立ち振る舞いには気品があり、学校では大和撫子と呼ばれていた少女だ。

そしてもう一人は赤森しのぶといい、同じく召喚された勇者である。好奇心の塊のような性格であり人懐っこい面相が印象的な関西弁を喋る少女。

「ほんまなんかな……?」

そんな普段は明るい彼女の表情が、今では曇っている。

彼女たちはこの【魔国・ハーオス】に攻め入った際、自分たちの考えが甘かったことを知り、戦争の恐ろしさを直接味わうことになった。

その時、他の勇者である大志と千佳とは離れ離れになったが、二人は自分の過ちを認め魔王城に自ら出頭した。

そこで魔王イヴェアムは、彼女たちの覚悟を受け止め命を奪うようなことはしなかった。しかしこのまま放置することはできず軟禁という処置を施したのである。

とはいっても城の中なら、監視付きにはなるがそれなりに動くことができるし、衣食住が保障されているので二人はそれほど辛い思いはしていない。寛大過ぎる処置に感謝しかない。

「ほんまに……大志っちがそないなことを……」

彼女たちの表情を暗くさせている理由、それは大志の存在だった。無事だったという報せには二人とも正直に喜んだ。

しかし話を聞いたところその大志が、何故か【獣王国・パシオン】のシンボルであり獣人たちが大切にしている《始まりの樹・アラゴルン》を枯れさせたという。

朱里たちは大志がそのようなことをするような人物ではないと、その話をしてくれたシュブラーズに言ったが、情報を与えられ大志と同じ様相だと他ならぬ二人が判断した。

しかし二人はそれでも何かの間違いではないかと、こうして顔を突き合わせて話しているのだ。

「ですが……お聞きした顔立ちからは大志さんだと……」

「ん……それに目撃した人らが聞いてたって言うとったやんな……賊の一人が仲間の一人を勇者って呼んでるんを……」

「……はい」

それが一番の根拠だった。勇者、それはこの世界では四人しかおらず、男で勇者と呼ばれるのは大志だけしか二人は知らなかった。

「どういうわけなんやろ? 仮にほんまもんやとしても、何でそないなことを……?」

「分かりません。ですがその時、女の子はいなかったということです。つまり千佳さんは傍にいなかったということですよね?」

「そやな。それにや、もしほんまにそれが大志っちなんやとしたら、信じられへんかもしれんけど…………今大志っちは元魔王の部下ってことらしいで」

大志の仲間らしき人物がコクロゥという獣人だということも聞いている二人。そしてそのコクロゥが先代魔王アヴォロスの仲間だということも耳にしていた。

「……千佳さんは無事なのでしょうか?」

「……分からへん」

「大志さん……何故千佳さんと一緒ではないのでしょうか? 離れ離れになったのでしょうか? どうしてそんなことをしているのでしょうか……理由が分かりません」

朱里が悲しそうに目を伏せながら溢れてくる疑問を口にするが、しのぶは顎に手をやり考え込んでいた。そしてその口がゆっくりと動き出す。

「理由…………なあ朱里っち、先代魔王の性格は聞いた?」

「え? あ、はい。とてもその、残忍で卑劣な人だと……」

「さっき朱里っちが言ったやろ? 千佳っちと一緒やあらへんて」

「はい」

「もしやけど、大志っちがそないなことをせんとあかん状況に陥っとるんやったらどうや?」

「……どういうことですか?」

しのぶは人差し指を立てて朱里と目をジッと合わせる。

「つまりや、大志っちは無理矢理やらされてるっちゅうことや」

その言葉でハッと気づいたように朱里の目は開かれる。

「も、もしかして…………千佳さんが人質にされているということですか?」

「その可能性が高いっちゅう話や。あの大志っちが人の大切にしてるもんを何の理由も無く壊すなんてありえへんしな」

「そ、そうですよね……ですが」

朱里の陰りのある表情を不思議に思ったしのぶは問う。

「どないしたん?」

「い、いえ……」

「……?」

言い難そうに渋った様子を見せる朱里を見てしのぶは首を傾けてしまう。

「何か言いたいことあるんやったら言い」

「……はい。その……仮に千佳さんを人質にされているからといって、どうしてそんなことをしているのでしょうか?」

朱里の言ったことに衝撃を受けたのかしのぶは口をポカンと開けて固まっていた。

「…………えと朱里っち? し、仕方無いんとちゃうかな? だって人質に取られとったら言うこと聞かなあかんやんか」

「そうでしょうか?」

「……何言っとるん?」

「なら何故大志さんは、私たちに何かを残そうとしないのでしょうか?」

「……へ?」

「幾ら千佳さんを人質に取られていたとしても、何か手がかりを残すことはできたはずです。例えば日本語で書いた紙を誰かに渡したり、何とか私たちを探して協力してもらおうと動くことだってできたはずです!」

朱里が早口で捲し立てる迫力に、本来饒舌家であるしのぶでさえ圧倒されていた。

「朱里っち…………け、けどそれすらもできん状況かもしれへんし」

「聞いた話によれば、大志さんはしばらく一人で行動していたと言います。それくらいできたと思います!」

「…………怒ってんの朱里っち?」

「怒ってます! 当然です! 大志さんはどうせ自分のせいでこうなったんだから、自分が何とかすると決めているはずです! どうして私たちを頼ろうとしないのですか!」

「……朱里っち……」

「一人で決めて、その結果、獣人さんたちの大切なものを壊して、それに今は【ヴィクトリアス】の乗っ取りですか! どうしてあの人は間違いばかり起こすのですか!」

胸に詰まっているものを全て吐き出す感じで強く目を閉じ言葉を放つ朱里。そんな彼女の感情的な部分に触れて、しのぶも絶句してただ彼女を見つめている。

「どうして一人で……私たちは仲間なのに……っ」

すると朱里の目から涙が流れる。言葉を失っていたしのぶも、彼女の慟哭を聞いて大きく溜め息を吐く。

「……せやな、朱里っちの言う通りや。大志っちは多分、千佳っちのためにやけど、とんでもないことしてしまっとる。勇者やのに魔王の世界征服を手伝う立場におる。そんなんあかんわな」

苦笑を浮かべたしのぶは窓の方へと足を動かし、

「けどな、こんなとこに軟禁されとるウチらも、大志っちのことは言えへんやろ」

「それは……」

「何かな、このままやと大志っちと千佳っちが、ほんまに取り返しのつかへんことをしそうなんや。それが恐ろしゅうて……怖い」

「しのぶさん……」

朱里は目に溜まっている涙を指で拭うとしのぶに視線を向ける。しのぶはそのまま窓の外を眺めたままだ。澄み切った晴れ晴れとした空が広がっている。

「大志っちが間違ったことをしとるんやったら、それを止める……ちゃうな、救うのもウチらのやるべきこととちゃう?」

「……はい」

「シュブラーズさんから聞いた話やけど、朱里っち……」

「何ですか?」

「ウチらは今軟禁状態で動けへん」

「はい」

「せやけど、力を貸してくれるんやったら好きに動いてもええって言われとる」

シュブラーズから聞いた話だが、このまま二人をずっと閉じ込めておくのも忍びない。だからもし彼女たちが国のために尽力してくれるというのであれば外出許可も下りると聞いているのだ。

確かに彼女たちは勇者で、この国に攻め入って来たが、基本的に彼女たちは何もしていないといっても過言ではない。何かする前に捕らえられたというのが事実だが。

それでも彼女たちが直接『魔人族』を傷つけたりはしていない。ただ立場的な問題もありこうして自由に制限を設けさせているだけなのだ。

だから今、彼女たちに争う意思が無いということは魔王イヴェアムも承知していることなので、もしその力を国、いや世界を良くするために尽くしてくれるというのならという条件でここから出ることが可能だという。

「大志っちの話を聞いてずっと考えとったんやけど、このまま大人しくしとるわけにはいかへんやんか」

「はい」

「せやからウチは軍に入るつもりや」

「軍……ですか? 別に軍でなくともいいとシュブラーズさん仰ってましたよ?」

するとしのぶはチッチッチッと人差し指を振る。

「甘いで朱里っち。軍に入ればもし戦いが起きれば前線に出られる可能性が高いやろ?」

「まあ、そうでしょうね」

「シュブラーズさんが言うとったけど、先代魔王は世界にケンカ売っとる。もしかしたらこの国もそのケンカに巻き込まれるって」

「はい」

「そのケンカ、ほんまに大志っちが先代魔王のとこにおんねんやったら、出てくるんとちゃう?」

「あっ!?」

そうだ、戦争を起こそうとしている先代魔王アヴォロス陣営と戦うことになるのなら、軍にいた方が顔を突き合わせる可能性が高い。

そこで大志を捕まえて目を覚ましてやることだってできるかもしれない。あわよくば人質にされている千佳だって、救える方法も見つかる可能性もある。

下手に二人でこそこそ動くよりは、大きな国を持つこの国の軍に所属する方が、最新の世界情勢も手にできて、もしかしたら大志と千佳の情報を入手でき、戦争が起きる前に二人を助け出すことだってできるかもしれない。

「で、ですがそんなに上手くいくものでしょうか?」

「いかへんやろな」

「ええっ!?」

簡単に否定したしのぶに愕然とする朱里。

「そりゃそうやろ? 世の中思い通りに事が運べば、ウチらもこないなとこにおらへんし」

「あ……」

間違いのない正論を吐かれて朱里は言葉を失う。

「せやけど、二人だけで動くよりはその方が全然ええってのも確かや。それにや……」

しのぶはニカッと笑う。

「ウチ、ここにおる人たち嫌いやないねん。何つうか、【ヴィクトリアス】に居った時よりも暖かいっちゅうか何っちゅうか……」

「……そうですね。それに魔王さんも良い人ですし」

「あはは、ほんまやで! 国王のくせに、ちょくちょくここに足を運んできて、茶菓子ご馳走してくれるんやから、ほんま変わった王様やで」

「喋ってみると、普通の女の子なんですよね」

「うん、ウチらと何ら変わらへん。せやけど、必死で戦っとる。……ウチらも負けてられへん」

しのぶは力強い瞳を朱里にぶつけると、彼女もまた同様に見返す。

「強うなろうや朱里っち。そんで二人を救うんや」

「はい!」

二人の絆はさらに深まった。

しかし彼女たちはまだ知らない。

彼女たちと大志たちが再会する時、悲痛と苦渋に支配された絶望を味わうことを……。

「生命力とは何か、それは《ステータス》上ではHPであり、簡単に言や…………肉体の力そのものだということだ」

日色とカミュは、目の前で生命力について講義してくれているララシークの話を静かに聞いていた。

日色が用意した酒とツマミという賄賂を渡したお蔭で、こうして生命力コントロールについて話を聞くことができるようになった。

彼女も入手した代物に満足したようで、上機嫌に解説してくれている。

「そもそも人というのは二つの力によって成り立っているといっても過言じゃねえ。一つは精神力、言い換えれば魔力だ。そしてもう一つが生命力、まあ体力だな」

カツカツと左右に動きながらララシークは人差し指を立てて口を動かしている。

「体力は正式には 身体力(しんたいりょく) といって、精神力と身体力、その二つが人の持つ力だ。ここまではいいな?」

彼女の問いに日色は静かに頷く。

「うむ。生命力――すなわち身体力をコントロールするためには、まず己の中にある身体力を知る必要がある」

「……知る?」

「そう、何事も知識が大切ってことだ。ヒイロ、お前自分の身体力について分かってることを言ってみろ」

そう言われてみれば確かに魔力はいつも魔法で使用するので常に気を付けているし、魔力のことを学び扱うために訓練もしてきたが、身体力について大して知識を持っていないことに初めて気づいた。

レベルが上がれば自然と上がるのは体力も魔力も同様だが、魔力に意識は向けても体力に意識を向けたことはほとんど皆無だった。

するとそんな考えを見通したようにララシークはニヤッと笑う。

「知らねえだろ?」

「…………」

「だが無理もねえ。基本魔法使いは魔力には気を使うが体力にはとんと疎いしな」

その通りだ。無論ダメージを受けたら確認したり回復したりはするが必要以上に体力に対し考察することは無かった。

「けどな、体力だって魔力と同じ力なんだぜ? その使い方を知れば強力な業にだってなるのは道理じゃねえのか?」

本当に寝耳に水、いや目から鱗の解説だった。確かにこの世界では魔法が有名であり人間なら誰でも使うことができる。だから魔力を鍛えたり魔力について知ろうとする。

だがよく考えてみれば、魔力を上手く使うと魔法になるのであれば、体力だって上手く使えば強力な武器になるという理屈は理解できる。

「獣人は魔力があっても魔法は使えねえ。だから体力を使う武器を得ようと必死になり、手に入れたのが《化装術》だ」

「…………」

「だが獣人以外の者には《化装術》は使えねえ。それでも体力をコントロールできりゃ、いろんなことだってできる。魔法馬鹿な奴らには逆立ちしたって思いつきゃしねえだろうがな」

確かに『人間族』や『魔人族』の中には、いまだに魔法の方が《化装術》よりも優れていて素晴らしいものだと考えている者が多い。実際日色だってそう思っていた。

しかし彼女の言う通り、魔力を扱う技術があるのなら、体力を扱う技術だってあるはずなのだ。双方は表裏一体なのだから。

「まあ、身体力の場合、精神力と違って扱いが難しいってのもあるし、気づいてもやはり魔法の方が上だって決めつけてる奴らには、当然身体力には見向きもしねえだろうがな。たとえ扱うことができるって知ってもよ」

それだけ魔法は便利で扱いやすいということだ。わざわざ苦労して体力を扱う術を知らなくても確かに常人には必要の無い力なのだろう。

「けどヒイロ、お前は気づいた。なかなかやるじゃねえか。ナハハ!」

ずいぶん上から見下ろされている感じだが、日色は黙って耳を傾けている。ここで機嫌を損なうようなことを言って面倒事になるのはごめんだ。

「さて、せっかく『魔人族』の英雄様が、ワタシという天才に師事しようとしてるんだから、すこ~しは教授してやろう」

自分が選ばれたことが嬉しいのか鼻を膨らませて得意気に胸を張っている。

「まず魔力ってのが身体のどこから捻出できるのか知ってるよな?」

「ああ、血液だろ?」

「うむ、その通り。血液=魔力だ。なら体力は?」

「…………分からん」

「ナハハ! 素直な奴だな! アノールドなんかは必死で頭捻って、あげくに答えたのは脳みそだったぞ! ナハハ!」

だが日色は内心でホッとしていた。危うくアノールドと同じように脳みそと答えようかと迷っていたところだったのだ。

「そっちの奴は分かるか?」

ララシークは日色の隣に控えているカミュにも尋ねる。

カミュもまた正直にフルフルと頭を横に振る。

「ふむ、なら教えてやろう。身体力、それは――――――全てだ」

「……は?」

全て……? それはどういう意味なのだろうか?

言葉で言い表している意味は分かるが、あまりに単純な言葉過ぎて逆に理解が追いつかなかった。

「全て……とは?」

「ん? だから全てだ全て。頭から足の先っぽまで全ての肉体」

「……つまり身体全体から身体力が生まれていると?」

「その通りだ。この耳も、髪も、皮膚も、骨も、そして内臓も、全て体力の源になっている」

「なるほどな、理解した」

隣ではコクコクとカミュも頷いている。

「だからまずは知ること。身体力とは何なのか、どこから捻出するのか。普段は無意識に体力として認識しているが、そうしてまずは理解することが第一歩だ」

彼女の言う通り、魔法だってまず最初に日色が理解したのは魔力が何なのかということだった。

そしてその扱い方、それを知識として知って初めて使用することができた。

「知識は理。知識は力。知識が有るのと無いのとじゃ雲泥の差だ」

「なるほどな、さすがは長く生きてるだけあ……」

瞬間、日色の左頬を何かが通り抜けて行った。どうやらララシークが手術用メスを投げつけたようだ。

「女にそれは禁句だぞ?」

にこやかに笑みを浮かべながら言うが、背後から悍ましいオーラが見え隠れしている。怒らせるとマズイと感じて日色は彼女に歳のことは言わないでおこうと決意した。

「さてと、そんじゃとりあえず見せてやろうか。身体力をコントロールしたら何ができるかをな」

そう言って彼女は、自分の家にある地下室へと日色たちを招き入れていく。そこは彼女が研究用に作った場所であり、かなり広大な空間になっている。

以前もここに来たことがあり、ミュアが彼女の弟子入り志願に受けた試験でも使用した場所だった。

「そんじゃまず魔力をコントロールして魔力球でも出してみな」

そう言われ日色は手の平を上に向け意識を集中し始める。すると青白い魔力が日色の手の平から煙のように出現し、それが手の中心で集まり凝縮されていく。

そして見事に綺麗な球体状になった青い光ができあがった。

「うむ、一片の揺らぎもねえ完璧な球だな。さすがはあれほどの魔法を扱うことができるだけあるぜ」

ララシークもウサミミをピコピコと動かして感心するように言う。

「こういうのは訓練で何度もやってるからな。朝飯前だ」

「ふむふむ、んじゃ問題だ」

「ん?」

「身体力でそんな球体状のものを生み出せるか否か、さあどっちだ?」

想像もできない問題が出された。ハッキリ言って分からないというのが答えだ。しかし魔力と同義である体力なら、上手く扱えば同じようなものだってできるのではないかとも思った。

「……できるんじゃないか?」

だから可能だと思いそう答えた……が、ララシークはニヤリとして、

「ざんねぇぇぇ~ん!」

何だか馬鹿にしたような呆れ顔で言われたので日色はムカッと頬を引き攣らせた。

「確かにだ、魔力と同等の力を持ってるとは言ったかもしれねえが、できることが同じだとは限らねえぜ?」

「む……言われてみれば納得だな」

「だろ? んじゃ一体何ができるか、それを見せてやるよ」

そう言うとララシークはポケットに手を突っ込んだまま仁王立ちする。そしてそのポケットから右手を出すと人差し指を立てる。

ブゥゥン……。

人差し指の周りの空間が、まるで炎に暖められているように歪み始める。

「見えるか?」

「歪みがか?」

「違う。身体力がだ」

「…………いや、オレに見えてるのは空間がユラユラ揺れてる感じだけだ」

「俺も……」

カミュもジッと目を凝らして見つめてはいるが、同様の思いみたいだ。そこに何か力が集まっているのは何となく感じるのだが、見えるかと言われても、魔力のような青白い光みたいなものは見えない。

「ふぅ、良かった。これで見えるとか言われても困ったぜ」

「どういうことだ?」

「なあに、まずはこれを見な」

ララシークは指先で地面にそっと触れたかと思うと、そのまま押し込んでいった。地面がまるで抵抗という存在を忘れたように指は埋まっていく。

ここの地面はハッキリ言って硬い。無論全力で殴れば、今の日色だったら問題無く穴を開けられるし、指先でも同じことができるかもしれない。

だがそれは力と勢いを相当分に含ませてという前提条件が必要になる。しかしララシークは、まるで水にでも沈める感覚で指をめり込ませていった。

日色とカミュが呆気にとられていると、ララシークは地面から指を抜き日色の目を見つめる。

「今のが身体力を纏わせた力だ」

「…………もしかして身体力を使って指を強化したのか?」

「ナハハ! アノールドより賢いねお前は。その通りだ。とは言ってもここまで力を一点に凝縮できる奴はそうはいねえけどな。今のだって言ってみりゃ奥義みたいなもんだしな」

小さな穴が開いた地面を見ながらゴクリと喉を鳴らす。その力はまるで刃物以上の鋭さを備えている。

「もう分かったろ? 身体力を使えば、文字通り身体的能力を強化することができる。例えばだ、身体力を目に集中すれば純粋に視力が向上するし、耳や鼻も同様だ。仮に全身を身体力で覆えば防御力が高まる」

そこで《太赤纏》について思い出した。《赤気》を纏えば防御力が格段に上がるのも、そして攻撃力を上げることもできるのも、この身体力の恩恵があるのではないかと。

いや、恐らく間違いないだろう。魔力と体力を混ぜ合わせた力が《赤気》なのだから、その力を備えているのも当然だ。無論強さは別格だろうが。

「それにさっきお前らには見えないって話したろ?」

「あ、ああ」

「それも当然。見るためには身体力を扱い目に集中させることが必要になってくる」

「なるほどな、だから訓練もしていないのに見えたら困ると言ったのか」

「まあな、けど中には天然に扱える奴もいるけどな」

……それは恐らくオーノウスのことではなかろうか?

彼は身体力については語っていなかった。つまり知らない可能性がある。それなのに彼は《太赤纏》を扱えるということは、訓練も無しに天賦の才だけで身体力を扱えているということだ。

(ちっ……これだから天才は……)

あの説明もそうだが、天才というのはいろいろ理不尽な存在だなと内心で舌打ちをした。

「だが一つ問題はある」

「何だ?」

「こうして今みたいに身体力を単独で扱うと体力の消耗が激しいんだ。ハッキリ言ってかなり効率が悪い」

「ほう」

「だからワタシは単独で身体力を扱う術ではなくて、魔力も複合して扱う《化装術》を編み出した。これならば消耗は幾らか抑えることができたしな」

「実際どれほど消耗するんだ?」

「それはやってみりゃ分かる。ほれ、やってみな」

「いきなりやれってか……」

「知識は与えた。あとはそれを活かすだけだ」

確かにオーノウスよりも、格段に分かりやすい説明だったので助かってはいた。だがいきなりやれと言われても……

(仕方無い。とりあえずやってみるか……)

日色は目を閉じて全身の力を抜き自然体になった。