軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

118:執事は叱り、少年は受け入れる

「むむむむむぅ……」

獣人たちが去った後、一際機嫌の悪い人物が、一人の少年を見ながら唸っていた。

「よく我慢なされましたなお嬢様」

シウバに慰めの言葉をかけられたのはリリィンである。

彼女は日色のもとに集まった美少女たちが仲睦まじく話しているのを見て、ついその中に自分も飛び込んでいきたくなる衝動が走ったが我慢したのだ。

「し、仕方無かろう! 旧友との談笑を潰そうとするほど愚かではないわ」

「ノフォフォフォフォ! ご成長なされましたなお嬢様。そんなお嬢様が……お嬢様が……ああもう! シウバは感激でございまぁぁぁぁぁぁすっ!」

「この色ボケがぁぁぁぁっ!」

「だびひんっ!?」

まるでため込んだストレスを攻撃力に変えたような凄まじい力を右拳に込めてアッパーを繰り出し、シウバの顎を貫いて吹き飛ばした。

いつもならここでシャモエが叫びながらシウバの安否を心配するのだが、いつの間にか寝てしまったミカヅキのお守りでそれどころではなかったようだ。

「ったく、変態執事め」

そしてそのまま日色に向かって歩みを進めてると、その横からニッキがトコトコと同じ目標に向かってリリィンよりは早い速度で向かって行った。

「師匠! お話は終わったのですかな!」

「ああ」

「それとそっちの御仁を紹介してほしいですぞ!」

日色は面倒だと思ったのでシウバにその役目を押し付けると、嬉しそうに微笑みながら、シウバはニッキにカミュについて話している。

するとまた一人近づいてくる者がいる。乱暴に赤い髪を揺らしながら、口を尖らせた赤ロリだった。

「……何故そんな顔をしている?」

「フン、何でも無いわ!」

明らかに何でも無いことなさそうな雰囲気だが、追及すると藪蛇になりそうだったので止めておいた。

そしてリリィンが腕を組みながら視線だけをカミュに向ける。

「おいカミュと言ったか、シヴァンは元気か?」

「ん……大分元気」

シヴァンというのはリリィンの元旅仲間だった人物であり、カミュと同じ『アスラ族』である。

今は歳を重ねて老いてしまっているが、カミュの育ての親であり、『アスラ族』皆が信頼を置いている元長。

「……そうか」

素っ気なく彼女は息を吐くが、旧友の息災を知って少し頬が緩んでいるように見える。

「ところで貴様、集落を放っておいてもいいのか? 長だろ?」

気になっていることを彼女は聞いてくれたので耳を傾ける。

「ヒイロ……助けに行くって言ったら……みんな賛成してくれた」

「相変わらずお人好しな一族め」

「でも……間に合わなかった……」

余程決闘に参加できなかったことを悔やんでいるのか意気消沈している。そんな彼を見て、つい溜め息が漏れ出た。

「おい二刀流、確かにお前は間に合わなかったが、一応助けてくれただろ?」

「……え?」

「あの訳の分からん黒ローブの攻撃からだ」

「あ……うん」

「一応礼は言っておく。ありがとな」

「…………えへへ」

女の子が嫉妬するくらいの美少女ぶりな笑みを浮かべて照れるカミュ。

(確かにどう見ても女だな。アイツらが勘違いするのも分かるか……)

感心するように心の中で何度も頷く。

「それじゃ決闘も終わったから帰るのか?」

リリィンが問うてくる。

「……どうしよ?」

「いや、オレに聞かれてもな」

そっちの事情なのだから聞かれても答えを導き出せるわけがないのだ。

「今……集落はジンウに任せてる」

ジンウというのはカミュの片腕的存在だ。ハッキリ言って外見ではジンウの方が何倍も長に相応しい体躯をしている。

「ああ、あの髷野郎か」

日色は日本の武士のような見事な髷を結っているジンウをそう呼んでいるのだ。

「それに今……砂漠は安全」

「ほほう! ならばしばらく我らと行動をともになさってはいかがですかな?」

突然会話に入って来た頭から血を流している変態がいた。

「……ちっ、ホントにどうやったら死ぬのだコイツは……」

リリィンの一撃をまともにくらっても平気な人物なのだが、その状態でよくニッキも説明を受けてたなと感心した。

シウバはササッと懐から出したハンカチで血を拭うと、

「何かございましたらヒイロ様に集落までお送りしてもらえばよいのでございますよ」

「おい、勝手に決めるな」

「おや? 確かカミュ殿はヒイロ様の部下でございましたよね?」

「……それがどうした?」

「部下を大切に扱うのも上役としてのお務めだと存じます。それにカミュ殿は、ヒイロ様を案じてここまでやって来られ、そして見事にお助けなされた」

いちいち身振り手振りで大げさに喋るシウバにイライラを催す。言っていることが正論なだけに物凄く性質が悪い。

「そんな忠義の厚い可愛い部下をまさかこのままお見捨てになるヒイロ様では…………ございませんよね?」

ニコッと逃げ道など無い選択を突きつけてくる。いや、正直送るだけなら別段異論はない。それにカミュには感謝もしているし、それに見合う何かを与えたいとも思っている。

だがこの変態執事に言われるのは何だか腹が立つ。というか額に完全に拭き取れていない血の跡があり、それが何故かさらに苛立ちのボルテージを上げる。

「……はぁ、別に送らないとは言ってない」

このままシウバを相手にしても、どうせコメディな感じで返されるので無視が一番良い。

「すぐ帰るのか?」

仏頂面でカミュに尋ねる。

「……俺、邪魔?」

「別に邪魔じゃないが?」

「なら……もう少しいる。俺……ヒイロの傍にいたい」

ジッと訴えるように見つめてくる。

「なら好きにしろ。これから【ハーオス】に戻るが、詳しいことはそこのジイサンにでも聞いておけ」

「……了解」

そしてそのあとしばらくすると、見えない鎖で全身を絡め取られていたような気分が一掃した。どうやら《天下無双》の《反動》が消えたようだ。これでようやく普通に《文字魔法》が使える。

「おいバカ弟子」

「何ですかな!」

声をかけられたことが嬉しいのか、目を輝かせて顔を見上げてくるニッキ。

「《赤蜜飴》持ってるか?」

「少し待っていてくださいですぞ」

そう言いながら、腰にかけてある小さな道具袋に手を入れてゴソゴソと手を動かしている。

「むむむ……お、コレですかな!」

そう言って取り出したのは、

「……それは《毒玉》だ」

色で分かるだろうが。毒々しい紫色をしているじゃないか。ていうか何でそんなものを持っている。

「むむむ……よし、コレですぞ!」

「…………それはただの貝殻だ」

何処で拾ったのか、ヤドカリが身をひそめられるほどの大きさの貝殻を提示してきた。

「あのな、この前渡しておいただろうが。魔力が無くなった時に食べろって言っておいた赤い飴だ」

「おおっ! 思い出しましたぞ!」

再び袋の中に手を入れ、「コレですなっ!」と勢いよく取り出したのは……。

「…………それは《赤い種》だ」

「何ですとっ!? そ、そう言えばこれはこの前ミカヅキと一緒に見つけたリスが食べるかなと思ってシウバ殿に頼んで買ってもらったやつですぞぉ!」

やはり自分の弟子はバカだった。思わずこめかみを押さえてしまったが、めんどくさくなりニッキから袋を受け取り自ら探した。

三個ほど目的のものは見つかったが……。

「おい、オレは確か十個ほど渡したよな? 何故こんなにも減ってる?」

「…………?」

思い出せないのか小首を傾げている。

そして思い出したのかハッとなると、

「この前ミカヅキと一緒に追いかけっこしてて、こけた時にばらまいてしまいたくさんドブに落としてしまったのを思い出したですぞ!」

…………やはりバカだった。

「……はぁ、まあいい貰うぞ」

「どうぞどうぞですぞ」

口に含んで胃に流すと、気怠かった感じが少し和らいだ。これなら何があっても多少は対応できるなと判断した。

獣人界へ向かった時と同じように、『転移』の文字を使い【魔国・ハーオス】へと帰還した日色たちは、突然の歓声に皆が言葉を失ったかのように固まっている。

そこには多くの国民たちがひしめき合っており、皆が自分たちの帰りを待っていたことが丸分かりだった。

実際に勝利の報告は、すでに魔道具を使ってイヴェアムがアクウィナスに知らせていたようだ。そしてもうすぐ戻ることも伝えると、アクウィナスがそれを民たちに告げたらしい。

勝利の報告を聞いて居ても立っても居られなかった民たちは、城の前までその労いの意味と勝利への喜びを込めて待ち構えていたというわけだ。

それにしても何百人、いや何千人、もっといるのかもしれないが、これだけ人が集まるとそれはもう壮観だった。

人の海と言えばいいのか、どれだけ目を凝らしても地面が見当たらないくらい人で埋め尽くされていた。

最初はサプライズで戸惑っていたイヴェアムだったが、身形を整えると、皆の前に立ち手をサッと上げる。

「――――――――――我々は勝ったぞっ!」

「「「「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」」」」

これはもう鼓膜が痛いと思われるレベルだった。

集まった者たちが、何故か急に揃って足踏みをして勝利を鼓舞するようにリズムを刻み出し、歓声は増々大きくなっていく。マジで一刻も早くこの場から去りたい衝動にかられる。

しかしそれを顔をしかめることもなく嬉しそうな表情で声を浴びているイヴェアムを見て、大したものだなと思ってしまった。

そんな彼女がまた手を上げると、歓声が一時的に止む。

「皆っ! こうして我々の勝利を喜んでくれて嬉しく思う! 明日は宴を開こうっ! そこで盛大に勝利を噛み締めようではないかっ!」

またも鼓膜を盛大に震わせてくる。どうやら今日はこのまま休養して、明日盛大に祝うつもりのようだ。日色にとってもその方がありがたいと思った。

何だかんだ言って今日は本当に疲れたのだ。

日色たちは歓声を背に受けながら城へと入って行った。

城へと帰還した日色は、とにかくまずは風呂に入りたかった。これだけは譲れないとイヴェアムに告げると、すぐに用意してもらうことができたのである。

今回は久々に本当に疲れた一日だった。

心地好い湯に浸かりながら日色は改めて思う。

(獣王……強かったな……)

想像はしていたがやはり規格外だった。

自分に《文字魔法》が無かったら間違いなく勝てなかった。

それこそシシライガなど出されていた日には、瞬殺されていてもおかしくはないだろう。

皆には当然の如く勝てたという雰囲気を出してはいたが、やはり獣王、納得のいく強者だった。

(それにあの連中……)

思い出すのは最後に出てきたイヴェアムの兄と名乗る先代魔王アヴォロス。彼だけでなくその仲間に『覗』の効果が効かなかった。

(考えなかったわけじゃない……この先、きっと魔法が効かない相手が出てくる可能性を……)

獣王の召喚したシシライガにしてもそうだ。《魔法無効化》の能力を持った者に対して、魔法だけに頼った日色の戦法では、これから先無理が生じてくるかもしれない。

(魔法あってのオレ……か)

それでいいと思っていたが、もしその魔法が使えない状況に追い込まれた時、果たして自分は獣王のような強者と相対して勝てるのだろうか……。

(何か考えなきゃいけないってことか……)

リリィンの夢を応援すると決めたからには、その先に待つ障害は大きなものだということは理解している。

そしてその障害は、今回のように否応無く戦闘に発展することもあるだろう。

その中に魔法が効かない相手がいたら…………自分は満足に戦えるだろうか?

チャプンと音を立てて全身を湯の中に沈める。

(まだ死にたくはないんだよな……かといって対策を練ろうにも…………思いつかん)

湯から顔を出す。

そしてゆっくりと目を閉じて――――――――――額に青筋を立てる。

「何の用だ変態?」

視界の先には、腰にタオルも巻かず、真っ裸で仁王立ちする変態執事ことシウバが居た。

服の上からでは分からないが、かなり筋肉質な身体を持っている。年寄りとは思えないほどの肉体美だろう。腹筋などバッキバキなのだから。しかしそんなことはどうでもいい。

「おいこら、オレはゆっくりしたいから一人で入ると言っておいたが?」

「ノフォフォフォフォ! まあ良いではございませんか! わたくしも本日は仲介役などをこなしまして、少々肩が凝りまして」

わざとらしく肩を回しながら言うが、表情には陰りすらも疲れが発見できない。

「……はぁ、それで? 一体何の用だ?」

「ほ? 何のことですかな?」

「惚けるな。わざわざ二人きりになりたかった理由を聞いている」

「…………ノフォ、さすがはヒイロ様」

やはり図星だったかと呆れかえる。

本来こういう時は一歩引いて日色の言うことを全面的に聞く男が、風呂に入って来てまで二人きりの状態を作るということは、何かしらの意味が確実にある時だ。それは今までの旅からでも把握している。

「失礼致します」

そうしてかなり広大な湯船なのに、近くに腰を下ろしてきた。

「ほほ~やはり良いものですなぁ~」

気持ち良さげに声を出すが、こちらからしたら早く要件を言ってもらいたい。

「早く言え」

「……まずは、改めてお疲れ様でございましたヒイロ様」

それには何も返さず黙っている。

「今回、精霊と相対して、いろいろ思われたことがあるのではございませんか?」

「……っ!?」

そういえばシウバも精霊だったのだ。

自身は欠点のある精霊だと言ってはいるが、間違いなく今日戦ったシシライガと同種。

「お強かったですなぁ、シシライガ殿は」

「……知ってるのか?」

「存じ上げている……と申せばそうでございますが、存じ上げていないと申すこともできるのでございます」

「気持ちの悪い言い方をするな」

「ノフォフォフォフォ! これは手厳しいでございますね! ノフォフォフォフォ!」

まったく、何がそんなに面白いのか分からない。

「実はですね、あのシシライガ殿は真の姿ではございません」

「……何だと?」

つまりあの無茶苦茶な存在であるシシライガが、まだ本当の力を発揮していないということ。それはさすがに驚きを隠せなかった。

「本来、高位の精霊はわたくしのように人の姿をしています」

シウバの話に黙って耳を傾ける。

「精霊にも格というものがございまして、下位、中位、高位と、その存在の強さで分けられるのでございます。そしてシシライガ殿は間違いなく高位の精霊です。あのような獣の姿なのは、レオウード殿が存分にシシライガ殿のお力を発揮なさっておられなかったからに他なりません」

「…………あれでまだ未熟、か」

「ヒイロ様もお気づきの通り、精霊は《魔法無効化体質》を備えているものがほとんどなのでございます」

やはりそうかと得心する。シウバにしてもそうでないと説明がつかないというようなことも過去にあった。

「今回シシライガ殿は獣の姿でしたが、もし人の姿だったとしたら、その強さは桁がまた違います」

思わずゴクリと喉を鳴らしてしまった。

「ですから申し上げました。肝が冷えた場面がございましたと」

確かにシウバは戦い終わってから自分にそう告げていた。

「シシライガ殿が出てきた時、もし人型で現れたらと……」

「そんなに強いのか?」

「そうでございますね……ヒイロ様にとっては一番の……と言っても過言ではならないほどの天敵になりましょう」

「それはやはり《魔法無効化》か?」

「はい。それに魔法も使ってきます。その威力は『魔人族』よりも強いのでございます」

それほどまでに凄いのかと疑いたくなるが、精霊である彼が言うのなら本当なのだろう。

「それに厄介なのは《魔法無効化》や使用魔法だけではなく、彼らは恐ろしく知能が高く、また『視る種族』でもありますので、容易に心を読んでくるのでございます。もし今回、レオウード殿が、完全なシシライガ殿を召喚していたら、《天下無双》を使う前に恐らく……」

「やられていた……か?」

「はい」

日色は大きく溜め息を吐いて顎まで湯に浸かる。

確かに今回、危ない場面は山ほどあった。

どうにか運良く魔法を使って切り抜けられていたが、もし受けた一撃が予想だにしないほどの威力を備えていたらそこで終わっていた。

つまり…………相手を甘く見て遊び過ぎていたのだろうか?

考え込むように目を伏せているとシウバが普段は見せないほど厳しい顔つきで、

「それに、でございます……」

「ん?」

「今日、《マタル・デウス》という方々が来られましたが」

「ああ」

「……その中にわたくしと同じ精霊がおりました……人型の」

「…………そうか」

なるほど、だからシウバはこうして忠告するために二人きりになったのだ。

敵になるであろう《マタル・デウス》の中に人型の精霊がいる。同じ精霊だからこそ感じるものがあったのだろう。

つまり今日戦ったシシライガとは比べものにならないほど強い存在がいるということだ。あの時、下手にアヴォロスを挑発していたが、もしかするとその存在に殺されていたかもしれないのだ。

「ヒイロ様は、もう少しその子供っぽさを戒める必要があるのではございませんか?」

「む……」

あの時自分は《文字魔法》も一文字しか使えないほど弱体化していた。それなのに、相手の力量を正確に見極めずに、打てば響くように喧嘩腰で物を言っていた。

幸運にもその存在は日色に対して攻撃するようなことが無かったが、攻撃されていた可能性だって十二分にあったのだ。

そしてそんなことになっていたら、いかにカミュが手助けしてくれたからと言って、殺されたという事実も考えられる。そうでなくとも惨劇が広がったかもしれない。

つまり考え無しの行動にシウバは憤りを覚えているということだ。

なるほど、この男は今、日色に対して怒りをもって叱っているのである。これは初めてのことだった。

「…………悪かったな」

「……ふふふ、やはり素直な御仁でございますね、あなた様は」

「笑うな、蹴るぞ」

「ノフォフォフォフォ! いえいえ、出過ぎたような物言いをしてしまい申し訳ございません。ですが、これもひとえにヒイロ様の御身を気遣ってのことでございます」

「……分かってる」

だから素直に謝ったのだ。確かによくよく考えればアレは考え無しで行き過ぎた行動だった。幾らアヴォロスが気に食わなかったといえど、自重するべき場面だった。

「ヒイロ様はお嬢様に必要なお方。あのような場で散らすわけには参りません」

「見事な忠義だ。赤ロリも鼻が高いことだろうな」

若干皮肉めいた言い方をしてしまった。しかしシウバはさらりと気にすることもなく言葉を発していく。

「いえ、それだけではございません。あなた様がいなくなれば、お嬢様はもちろんのこと、多くの方が悲しみに包まれてしまいます。無論わたくしもです」

「…………」

「もっとご自分のお命を大事になさって頂きたい。あなた様はお強いですが、それでも死なぬわけではございません」

そこで初めてシウバが悲痛そうな表情が浮かぶ。

その顔を見ていられず、湯に視線を落とす。

「それにでございます。わたくしは今のこの生活が大変楽しいのでございます。それは誰一人欠けても成せぬことでございます。どうか、わたくしの楽しみをお奪いにならないでくださいませ」

少し冗談めかせて言う彼の表情は、先程と違って緩んでいた。完全に言い負かされてしまい、反論の余地など全く無かった。

「……ああ、肝に銘じておく」

「左様でございますか」

するとバシャァァァッと突然シウバは立ち上がり、

「それではこれからわたくしが、 漲(みなぎ) る 男魂(おとこだましい) をもってヒイロ様のお背中を、これでもかというくらいお流し……ってあれ? ヒイロ様?」

咄嗟に『転移』を使って脱衣所に向かったのは当然の仕様だった。