軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

114:勝者は拳を高く突き上げる

突然周囲の温度が下がったような気がする。

レオウードは日色が言った言葉を測りかねていた。

「次のステージ……だと?」

「ああ」

「ほほう、お前にもまだ何かあると?」

日色の身体を覆っていた青白い魔力がプツンと切れたように霧散した。

(何だ……?)

諦めたわけではないだろう。そのような表情ではない。それどころか彼の目を見ているだけで何故か背中に汗が滲み出てくる。

これは……恐怖なのか?

レオウードは無意識に額から冷や汗が流れ出ていることに気づく。

「正直に言えばだ。コレを使うまでもなく勝てると思ってた」

日色がジッとレオウードを見つめながら淡々とした様子で口を動かしている。

「けど、アンタも全力を出すんなら、コッチも何だか全力を出したい気分になった」

「…………」

「それに、コレを使わないと正直厳しいようだしな」

ハッタリだ、と言い聞かせようにも日色の醸し出す雰囲気が拒否させる。

「一つ言っておく。止めるなら今だぞ。オレが全力を出したら多分……一瞬で終わるからな」

そんな挑発をしてくる。

無論勝利だけを考えれば日色を即座に攻撃する方が賢いのだろう。

しかし理性とは裏腹に本能が叫ぶ。

全力で戦い合いたい、と。

もし本当に日色にそのような力があるのなら是非見てみたい。そしてその上で叩き潰してやりたいのだ。

(ククク……スマンな同志たちよ。今ワシは王よりも男として……武人としての選択を選ぶ!)

覚悟が決まったかのように鋭い視線を日色にぶつける。

「ならば見せてみろヒイロ! そんなものがあったとしても、ワシはさらにその上へ行って見せよう!」

すると日色が確かに口元を歪めて冷笑を浮かべてみせた。懐から小さな袋を出し、その中から先程服用した《赤蜜飴》を複数個取り出し口に放り入れたのである。

「魔力回復……か?」

「ああ、止めないとはやはりバカだな獣王」

「ガハハ! 言っただろ! 全力で来いと! それでもワシが上に立つ!」

「まだ数回しか使ってないが……殺してしまっても勘弁しろよ」

「む? 数回だと?」

「この力、あまり制御できないんでな」

スッと日色が右手の人差し指を立てた。

またそこから青白い魔力が流れ出るかと思いきや……。

「な、何だそれは……!?」

思わずレオウードは聞き返してしまった。

何故なら日色の指先から放たれていたのは、真っ赤に染まった光だったのだから。

「――これがオレの全力だ」

そう言って真っ赤に染まった光を煌めかせ、指を静かに動かしていく。その軌跡を辿るように空中には赤い光の道が出来上がっていく。

書き終わった文字は日色の頭上へと自動的に移動し、その文字から赤い光が溢れ出し日色の全身を包んでいく。まるで赤い衣を身に纏っているかのようだ。

『天下無双』

日色の頭上に輝く文字はそう刻まれている。

そして日色は、自身の変わり様に驚いて固まっているレオウードに対しおもむろに言葉を与えた。

「最終ラウンドを始めようか獣王」

突然膨らんだ殺気に反応したのか、レオウードを守ろうと反射的にシシライガが飛びかかって来た。

「悪いな。手加減はできないぞ」

言葉を放った直後、日色を覆っている赤い光が瞬時に、しかも自動的に動いて文字を形成した。

『剛力』『剛力』『剛力』『剛力』『剛力』

日色の周りに浮かぶ複数の『剛力』の文字。

さらに胸の前には――。

『韋駄天』

『韋駄天』は『加速』を越える速度で動くことのできる文字。ただその効果があまりにも高く、普段使用すると身体に負荷が掛かり過ぎるし、時間制限もあるのでおいそれとは使えない。しかし今この状態ではそんな問題は必要としなかった。

日色の滑らかな動きが幾つもの残像を作る。

――ドゴォッ!

向かって来たシシライガの牙を紙一重で避けると、カウンターであっさりとその大きな横っ面を殴り飛ばした。

シシライガは、まともに攻撃を受けてしまい、岩を削り飛ばしながら物凄い速さで吹き飛んでいく。

さすがのレオウードも何が起こったのか分からず唖然としている。

そんな中で日色は彼にこう言う。

「アンタは後だ。まずはあの猫をぶちのめす」

するとまたも瞬時に日色の周りに『転移』の文字が浮かび上がった。

瞬時にしてやって来たのは、シシライガが飛ばされてくるであろう場所だった。先回りして来たのだ。弾丸のようにこちらへと向かってくるのを視界に入れる。

――ドガッ!

今度は真上に蹴り上げる。

まるでピンボールのように何度も何度も転移し、先回りしては殴り飛ばし、また動いては殴り飛ばすを繰り返す。

『韋駄天』の効果で、日色は目にも止まらない速度を得ている。ちなみに『韋駄天』を使用している間は、副次効果として空中も走ることができるのだ。

相手は生物というわけではないので血などは出ないが、明らかにダメージを受けているようで徐々に弱まっていくのを感じる。

だがシシライガも吹き飛ばされながら必死に抵抗しようとして、飛んでくる力を利用し噛みつこうと大きな口を開けた。

「……まだ動けたのか」

前方から鋭い牙が迫り、その牙が見事に日色の右肩を捉えてしまった。

だが――ボボンッ!

突然煙のように霧散する日色。シシライガも突然のことに困惑している。

そして突如、シシライガの背後へと日色が現れた。

「――ただの分身だそれは」

シシライガが攻撃したのは『影分身』で瞬時に作った身代わりだった。それを本物と勘違いして攻撃してしまったのである。

「飛んで行け」

そして最後にレオウードの方へとシシライガを蹴り飛ばす。

「くっ!?」

レオウードはシシライガが飛ばされてきた衝撃から身を守るためにガードをしているが、そのシシライガは、地面に突き刺さりピクピクと痙攣を起こしほとんど虫の息状態だった。

「シシ……ライガ……?」

レオウードが信じられないといった面持ちで固まっていた。まるで悪夢でも見ているような気分かもしれない。

「言っただろ? 手加減はできない。一瞬で終わるってな」

ハッとなってレオウードがこちらに顔を向けてくる。

「ヒイロ……お前……一体何者なんだ?」

「悪いが説明するほど馬鹿じゃない。だが一つだけ言うとしたら、オレはただのユニークチートだ」

「…………っ!?」

レオウードの目前から消えたように移動すると、今度は彼の腹に蹴りを放つ。全く反応できなかった彼はほぼ無防備にその一撃を受ける。

「ぐほぉっ!?」

激烈な衝撃を腹に受けて吹き飛び、その先にあった大岩に叩きつけられたレオウード。今まで受けたことの無いような一撃だったのか、物凄い形相で口から盛大に血を吐く。

「ぐ……がっ……!?」

岩に貼り付けにされながらも、目前に瞬時にして現れた日色を睨みつけたレオウードだったが、何かに気づいたのかハッと目を開く。

日色の頭上に浮かんでいる文字だった『天下無双』の文字が一つ消えて『天下無』になっていたのだ。

その状況に気づいたのであろう。

「……ど、どうやらその力には制限時間があるようだな」

「さあな、好きに判断すればいい」

「……ガハハ、今の状態じゃ、長引かせるのも無理そうだ」

「諦めるか?」

「バカを抜かせっ!」

筋肉を肥大化させ大岩を破壊して自由を得る。そして日色と真正面に対面する。

「ククク、面白い、最高に面白い奴だヒイロォ!」

「同じことを何度言うつもりだ?」

「ガハハハハハハハハ!」

レオウードが呼吸を整えるように大きく息を吐くと、ギロリと睨みつけてきた。その目には明確な覚悟が備わっているのを感じた。まだまだ諦める様子は微塵も感じない。むしろ心の底からこの戦いを楽しんでいるようだ。

「次が正真正銘の全力だ。どうだ? 受けるかヒイロ?」

明らかな挑発。だが今の日色には断る理由が無い。

「ならその上を行くまでだ」

「ガハハハハハ! ならばこれで最後にしようっ!」

すると弱まりながらも空間からまたシシライガが現れる。

(……まだ消滅していなかったか)

そしてシシライガが炎の塊となってレオウードの右手に集束していく。どんどんと右手に吸収されるように消えていく炎。

そして全ての力が右手に集まった瞬間、右手だけが紅蓮に変色し炎に包まれていた。

拳の色が徐々に違う色へと染まっていく。

炎を纏っているので鮮やかな紅い色のはずだが、今彼の右拳に纏われた炎は透き通るような蒼だった。

(赤い炎よりも青い炎の方が高温だとは知っているが……なるほどな、アレが最後の技ってわけか)

部分的に《転化》した時と似てはいるが、明らかにその密度と感じる力強さは違った。比べものにならないくらいの力がそこに集約されているのが理解できる。

「これがワシの秘奥――《 終(つい) の牙》だ!」

掛け値なしの最後の一撃、というわけだろう。

「言っただろ? オレはその上を行くってな」

互いに後ろへ跳び、距離を取る。

睨み合っているだけで空気が震え大地が軋む。

(あの一撃は恐らく魔法無効化を宿してる。喰らったらこの状態でもやられる可能性があるな)

魔法を無効化するシシライガをその拳に宿したのだから当然だろう。

先に一撃を当てた方が勝つ。シンプルで分かりやすいものだった。

日色の周囲に今度は『剛力』ではなく、『金剛力』という文字が作られていく。赤いオーラがさらに輝きを増す。

レオウードの右拳を覆っている青い光が一気に膨れ上がっていく。ミシミシと極限まで力を溜め込んでいる音が鳴り響く。

「全力で行くぞ獣王っ!」

「来いヒイロォォォッ!」

互いに大地を蹴って突撃した。

――両者は近づいていく。

十メートル……五メートル……三メートル……一メートル……。

――――――ドゴォォォォォォォォォオオオオオオオオンッ!

その場を更地にするほどの凄まじい爆風が周囲を薙ぎ払う。

紅と蒼が目を閉じてしまうような眩い発光現象を起こし周りを一瞬で染め上げる。

その光景を目にしたすべての者たちが息を飲んで見守っていた。

そして――。

雲に覆われた空のように土煙が周辺を舞う中、突然そこからボフッと煙を突き破った何かが、花火のように物凄い勢いで空へと昇っていく。

それは――――――――――――――――――――――――レオウードだった。

白目を剥き、力を失ったかのように口は半開きになって、明らかに意識を闇に沈めている状態で空へと投げ出されていた。

爆風の衝撃はクレーターの外にいる者たちまで届いていた。

思わず足を踏ん張ったイヴェアムは、日色の変わり様もそうだが、今の衝突で結果がどうなったのか判断できず必死に日色の姿を探していた。

そこで煙の中からレオウードらしき人物が飛び出てくるのを視認する。

「あ、あれは……!」

「獣王……のようですな」

マリオネが答えてくれたことで、イヴェアムは自身の目が曇っていないことを知る。そして彼の状態は明らかに気絶しているようだった。

ということはと思い、煙の中に視線を泳がせる。

そしてそこからは、真っ赤な光に包まれた日色の姿があり、固く握られた拳を高々と突き上げていた。

沈黙が支配する中、上空から地面へと落ちてきたレオウードはピクリとも動かない。

この状況がもたらす結果は把握できているつもりだが、言葉が上手く出てこなくて、イヴェアムは思わず皆の顔を見回してしまった。

他の者も口を開けたまま同様にイヴェアムに視線を向けている。

まるで「喜んでいい?」と聞いているようだ。

だがぬか喜びはまだできない。

まだ勝利宣言を受けていないのだ。たとえそうであろうと確信していても、だ。

ゴクリと息を飲み、もう一度視線をレオウードの方へ向けると、その傍にはシウバが居て、安否を確かめているようだった。

そしてシウバが手を高々と上げて、日色の方へその手を向ける。

「――勝者っ! ヒイロ様ぁぁぁぁぁぁぁっ!」

直後、スイッチが入った。

兵士たちは持っていた武器を全部投げ捨てて大手を振って喜びの声を上げた。

「「「「「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」」」」」

大気が割れんばかりの歓声が耳をつんざく。

イヴェアムも皆のように声を張り上げて喜ぼうと思ったが、本当に勝ったのかまだ信じられなかった。

身体はその喜びに気づいて震えてはいるが、あまりに現実感の無い意識が声を大声を出させてはくれない。

「勝った……? ヒイロが……勝った?」

「そうですぞ陛下っ! 我々の勝利ですぞっ!」

「やったわよぉ陛下ぁっ!」

マリオネもシュブラーズも笑顔を向けてくる。

「勝ったの……? よ、喜んでもいいの……?」

二人だけでなく全員が頷いて答えてくれる。だが喜びの声よりも、胸が切なくなって涙が溢れ出た。

崩れ落ちるように膝をついて、

「ありがとう……ありがとう……ヒイロォ……」

そんなイヴェアムの声を聞いて、マリオネたちもホッとしたようで胸を撫で下ろす。

シュブラーズが、優しくイヴェアムの肩を抱く。

「もう泣いていいわよぉ陛下?」

「う……うぅ……良かったよぉ……」

シュブラーズのやわらかい身体に手を回して子供のように泣き声を上げた。

そんな中、オーノウスもまた嬉しそうに微笑むと、その視線をゆっくりと日色に向ける。

「アクウィナス……お主の目はやはり正しかったようだな」

彼を信じたアクウィナスは間違っていなかったのだ。確かに危ない場面も多々あったが、見事彼は『魔人族』に応えてくれたのである。

まさしく――英雄の姿だった。

「しかし……少年が使った赤い光……まさかな」

そう呟くと頭を軽く振り、彼もまた勝利の余韻に浸った。

「クハハハハハハハ! ほら見ろ! 言った通りであろう! ヒイロがあのような者に負けるわけがないのだ! クハハハハハハハハ!」

リリィンは上機嫌で高笑いしていた。

「さっすがは師匠ですぞぉ! うおぉぉぉっ! カッコ良過ぎなのですぞぉ!」

「わ~い! ご主人のしょ~り~!」

「よ、よよよ良かったですぅ!」

ニッキもミカヅキもシャモエもそれぞれの喜びを表現している。

「だがしかし、さすがは獣王とだけ言えるか。ヒイロにアレを使わせるとはな」

「で、でもでもぉ、ヒイロ様も危ない場面がありましたし仕方無いのでは?」

「いいや、アイツがもっとねちっこく卑怯に事を運べばもっと楽に勝てたはずだ! 恐らくあの獣王に当てられて熱い戦いにハマっただけだろうな」

「ふぇっ!? そ、そうなのですか?」

シャモエはリリィンの言葉の真偽が分からず尋ねる。

「当然だ! 獣王があの獣を出す前なら『幻術』でも使って混乱している間にトドメを刺すことだってできたはずだ。それにあの文字でなくとも、他の四文字だって使えば勝てた。わざわざあのモードになる理由は無かったと思うが……全くアイツも男だということだ!」

日色の扱う魔法はまさに万能。もっといやらしいやり方を駆使すれば、力押しの相手など楽に御することだってできたことをリリィンは知っていた。

「ふぇ……あ、あの……お嬢様はそんな男っぷりなヒイロ様はお嫌いなのですか?」

「はあ!? な、なななな何故そんなことを聞くのだ!」

「だ、だってき、気になったものですからぁ!」

するとリリィンは「むむぅ」と唸りながら、

「い、いや……別に嫌いではないが……いや、むしろああいう子供っぽいヒイロも何か母性をくすぐるというか……ん?」

シャモエはニヤニヤしながら顔を向けていたので、リリィンは顔を茹で上がったタコのようにしながら顔を背ける。

「と、とにかく勝ったのならそれでよいわ!」

「ふふふ~、お嬢様可愛いですぅ~」

「な、何がだっ! ええい、抱きつくでない!」

「嫌ですぅ!」

日色は元の姿に戻ると身体に物凄い脱力感と疲労感がドッと押し寄せてくるのを感じる。

(……ふぅ、四文字は久しぶりに使ったが、やはり疲れるな……)

《四文字解放》 消費MP 全体の30%

四文字を連ねて書くことができる。三文字の時と同様、その効果範囲、威力、汎用性ともに更に向上する。文字によって効果時間は違うが、この能力が解放されたことにより、《三文字解放》時に二文字での制限が緩和されたように、今回で三文字の制限が緩和される。内容は二文字の時と同じである。ただし今回、《設置文字》で設置できる文字のストックが更に二つ増えて、合計七個分の設置が可能になった。《四文字解放》は、一日に三度までしか使用できず、同等の効果を持つ文字は使用不可能。一度使った後は、MPを全回復させないと一文字しか使用できなくなる。また文字発動を途中で中断した時、《反動》として全てのステータスがレベル1の状態に戻り、魔法も使えなくなる。更にランダムで状態異常が起こる。種類は激痛、麻痺、睡眠、失明、混乱がある。状態異常、ステータス減少・魔法不能ともにランダム時間で元に戻る。

(それに今回使った『天下無双』はまた毛色が違うしな)

実のところ『天下無双』というのは四文字の中でも特別な効果を備えていて、《四文字解放》を手に入れた時に、自然と頭の中に浮かんできたものだった。

まず『天下無双』の文字を書くには、生気と魔力を混ぜ合わせた《 赤気(しゃっき) 》と呼ばれるエネルギーを生成する必要があり、これは上手く混ぜ合わせることができれば赤い光を生み出せるようになるのだ。

普段は魔力だけ使っているので青白いのだが、『天下無双』だけは、この《赤気》でしか書くことができない。

使用すると《天下無双モード》に入り、字を書かなくても思い描いただけで赤い光が形を変えて文字に変化して効果を発動させることができる特性がある。

しかも赤い光が鎧のように全身を守り、身体能力も上昇、特に物理・魔法耐性が恐ろしく向上する。

ただしこのモードは五分ほどが限界であり、時間が過ぎていくと頭に浮かんでいる天下無双の文字が一文字ずつ消えていく。そして全部消えたらモード終了である。

また終了時はHPMPともに、全体の10%まで落ち、一時間は一文字しか使えない。

その上、モード中に無茶な動きをし過ぎてしまうと、元に戻った時に激しい筋肉痛や関節痛に悩まされることがある。

しかも魔法では治らないときたものだ。自然治癒するのを待つしかない。

今回も『剛力』を一気に使用したので、体中かなりの筋肉痛が襲っている。

それに最後のあの一瞬、決着が着いたあの時に『剛力』のみならず『金剛力』を使用し、さらに相手の動きを把握する『洞察』に『韋駄天』まで使って身体能力を極限まで高めたツケは大きかった。

そのお蔭でレオウードの動きをハッキリと目で捉えることができて拳をかいくぐり、先に攻撃を当てられたので良かったことは良かったのだが、やはり終わった後のこのリスクはきつい。

空から落ちてきたレオウードを見て、彼の腹が微かに上下しているので死んではいないことを確認すると、少しホッとした。

正直手加減をするほど余裕は無かった。渾身の力で殴りつけたせいで、下手をすれば相手を殺してしまったのではと思ったが、どうやら死には届いていなかったようだ。

(幾ら敵だとはいえ、殺せばアイツらが面倒だからな)

そう思いながら、レオウードのもとに駆けつけてきているミュアやミミルたちを見る。どうやら『獣人族』全員がやって来たようだ。

「――――――――――父上っ!」

真っ先にそう声をかけたのは第一王子レッグルスだった。

先の戦いで大きなダメージを受けたにも拘らず、誰よりも早く駆けつけている。

彼はレオウードに駆け寄ると、まずは息をしているかどうか確かめると安堵した。

「兄貴! 親父は無事か!」

第二王子レニオンも心配そうに尋ねてきた。

レッグルスは笑みを浮かべて頷きを返すと、後から来た者たちの顔にも安心した色が見えた。

「パパッ!」

「お父様っ!」

ククリアとミミルも泣きそうな表情で駆け寄る。

「ねえレッグ兄、パパから血が止まらないわ!」

「あ、ああ! 治療班! すぐに見てくれ!」

レッグルスに言われて獣人の中から大きな箱を持った者たちがレオウードに近づき、手早く彼の容体を確認するが、その顔色は青ざめている。

その様子からレオウードが非常にマズイ状態だと言うことを察したのか、

「た、助かるよな?」

レッグルスは願望を込めた言い方をする。

「……全力は尽くします。しかし度重なる連戦での《化装術》の乱用で、肉体に相当の疲労が蓄積されており、骨や内臓にもかなりのダメージを受けているようです。それにこの出血量は……」

「そ、そんな……」

ククリアは身体を震わせ恐怖が全身を支配していくのを感じているのか、真っ青な顔で絶句している。

「ふざけんなっ! 何とかしろよっ! てめえらはそれが仕事だろうがっ!」

「よせレニオン! 彼らは全力を尽くしてくれると言っているんだ!」

「けど兄貴っ!」

「……ララシーク殿!」

レッグルスは頼みのララシークに助けを求めるように顔を向けるが、彼女の顔も暗い。一目見てレオウードの状態を把握したのだろう。レッグルスも彼女の様子を見て悔しそうに歯を鳴らす。

そんな中、ミミルが涙を流しレオウードに縋りつく。

「お父様……お父様……嫌です……嫌ですぅ……っ」

そんなミミルの姿を見て、言い争っていたレッグルスたちも押し黙ってしまう。

絶望が皆に襲い掛かる中、そこへ近づいてくる一つの足音。

「……ヒイロさん」

傍にいたミュアの呟きにより皆がそちらに視線を向ける。

「てっめえ、よくも親父をっ!」

「だからやめろレニオンッ! 彼は正々堂々と父と戦ったんだ! 責める理由はないだろっ!」

レッグルスは激昂して掴みかかろうとするレニオンを羽交い絞めして止める。そんなレニオンたちを無視して日色はレオウードの近くに来ると彼を見下ろす。

「……ヒイロ……様ぁ……」

涙を流しながらミミルが日色を見上げてくる。

日色は軽く溜め息を漏らすと、

「そこをどいてろ青リボン」

「ヒ……ヒイロ様……」

「信じろ」

ミミルは名残惜しそうにレオウードの身体から離れる。

(今は一文字しか使えないから……仕方無いな)

《天下無双モード》のリスクとして、一時間は一文字しか使えない。しかし致命傷に近いレオウードの身体を治すには、少し手を加える必要があった。

額、胸、左腕、右腕、左足、右足に『治』の文字を書いていく。

―――――発動。

その場にいるだけで温かく感じる青白い光がレオウードを包んでいく。

そしてレオウードの顔色が徐々に良くなっていくのを見たミミルたちに笑みが零れ始める。

「こんなこともできるなんて……それに何て温かい光……」

先程まで愕然としていたククリアだが、穏やかで優しい光に心が満たされていくような安心感を覚えたような表情を見せる。

そしてそれは他の者たちも同じなのか、それを成している日色を信じられないといった目を向けている。

特に医療班の者たちは開いた口が塞がらないのか、言葉もなく目前の光景をただ見つめているだけだった。

「……ふぅ、まあこれで死ぬことはないだろう。さすがにこの状況で死なれたら寝覚めが悪いからな」

「ヒイロ様……」

「だがこれは貸しだからな」

憮然とした態度でそう言い踵を返すと、

「行くぞジイサン」

「畏まりました」

近くにいたシウバは恭しく頭を下げると、静かに日色の後をついていく。

そんな日色を見て、ミミルはバッと立ち上がる。

「あ、ありがとうございますヒイロ様ぁ!」

何も反応は返さない日色だが、ミミルは嬉しそうに微笑むと頭を下げた。

「お疲れ様でございましたヒイロ様」

歩きながらシウバが労いの言葉を言ってきた。

「ホントに疲れた。熱い風呂に浸かってぐっすり寝たい気分だ」

「ノフォフォフォフォ! ですが此度の戦い、少々肝が冷えましたが」

「何故だ?」

「どうしてあの力を使われたのでございますか?」

「…………」

「ヒイロ様なら、他の文字を使っても勝利を得られたと推測しますが」

窺うようにいつもの飄々とした笑みを浮かべるシウバ。

「……まあ、単なる気まぐれだな」

「ほほう、気まぐれでございますか?」

「ああ」

ぶっきらぼうに答えると、シウバはフッと笑い

「では、そのように理解致しましょう」

そのままクレーターの外へと向かおうとすると、向こうから『魔人族』の連中がこぞってやって来ていた。

どうやらわざわざ戻る必要など無かったようだ。