作品タイトル不明
番外編『ジェイドの道具屋繁盛記』 その76
先導する三人の神父の後をついていき、俺たちは聖教国の街を後にした。
そこからはひたすら移動となり、前を進む神父たちは馬に乗っている一方で、俺たちは徒歩での移動を強いられている。
速度はジョギングくらいのため、俺はついていくのが苦ではないのだが、他の冒険者たちは三時間ほど進んだあたりから脱落し始めていった。
軽い試験も兼ねているのか、それとも元々大した戦力として数えていないのか。ついて来られなかった者には一切触れず、結局六時間ほど移動した。
「遠すぎんだろ! ペースも遅いしよ!」
「ペースは仕方ないんじゃないか? このペースでも三分の一くらいは脱落したみたいだしな」
「情けねぇ連中だな! 俺に文句言ってた奴は……まだいんのかよ!」
集会場に入った時に文句を言ってきた坊主頭の冒険者を見つけると、エイルは面白くなさそうにそう言った。
とはいえ、汗だくになっているし、かなりギリギリの状態に見える。
もちろん坊主頭の冒険者だけでなく、俺とエイル以外は全員満身創痍といった様子だ。
やはり、低級冒険者ばかりが集められていたようだな。
「――止まれ。よし、着いたぞ。前にいる者たちから合図があったら、お前たちにも戦ってもらうよ。今のうちに準備を済ませておくんだぞ」
「はぁ? 休憩もなしにいきなり戦わせるのかよ!」
「だから、今のうちに休んでおけと言っているだろう。これぐらいの移動で弱音を吐くとは、戦果には期待できないね」
「テメェらは馬に乗っていたからだろうが!」
「そうだそうだ! ふざけんじゃねぇ!」
冒険者たちは神父たちに暴言を飛ばしているが、今は無駄な体力を使う必要はない。
エイルも神父に文句を言いに行こうとしていたため、無理やり止めて座らせた。
「おい、なんだよ! 俺にも文句を言わせろ!」
「その時間がもったいない。今のうちに軽い作戦を決めておこう。アンデッドの総数も不明だしな」
前方に見える、山と山に挟まれたような道の先から、戦っているような音が聞こえる。
気配は探れていないが、音の感じから大人数での戦いが繰り広げられているのは分かる。
戦闘に参加したら会話もろくにできなくなるだろうし、今のうちに軽い作戦だけでも立てておきたい。
「作戦なんかいるか? 適当に戦っても、俺とジェイドなら余裕だろ!」
「余裕かもしれないが、はぐれたりしたら面倒だからな。一応、簡単なルールだけ決めよう」
「分かった! 何でもいいけど、ジェイドが考えてくれ!」
ということで丸投げされたため、俺が簡単なルールを決めた。
エイルが複雑な決め事を理解できないだろうし、決めたルールは三つだけ。
一、基本的にはエイルが前衛で、俺がサポート。
二、五体倒したら、必ずお互いの位置を確認すること。
三、俺の指示には絶対に従うこと。
三つ目のルールだけは不満そうにしていたが、よほどのことがない限り指示は出さない、という約束を取り付けた。
俺も多少は前衛で戦いたい気持ちもあったが、まあ大人数戦ではこの陣形が一番機能するだろう。
そんな感じで軽いルールを取り決めたところで、前から戻ってくる神父の姿が見えた。
先導していた神父とは別の人物であり、この先に送り込んでは聖教国へ戻り、別の冒険者を連れてくる――それを繰り返しているのだと思う。
「合図が来たぞ。お前たち、ようやく出番だ」
「まだ全然休めてねぇよ! 戦えるか!」
「戦えないのは構わないが、その場合はこのまま帰ってもらうことになるけど大丈夫かね? もちろん報酬はなしだよ」
「……くそ! ふざけやがって!」
エイルに噛み付いていた坊主頭の冒険者が、神父に対しても積極的に噛み付いていたものの、意見が通らないと悟ったようだ。
ここまでやってきて無報酬は呑めないだろうし、ほぼ強制的に戦うことが決められている状態だ。
最初から気に食わなかったが、本当にゴミとしか見ていないような態度に辟易してくる。
俺も態度の悪い冒険者は好きではないが、それでもさすがに同情してしまうな。
「本当に頭にくる態度だぜ! 俺が全部蹴散らして、報酬を分捕ってやる!」
「一応、他の冒険者も守る立ち回りを取ろう。エイルは絡まれたから嫌だろうが、目の前で死なれるのは寝覚めが悪い」
「俺たちが先頭で戦えば守れるだろ! 他の冒険者のサポートはジェイドとエンペラでやってくれ」
「いや、エンペラはやらないだろ」
実際に、聖教国を出てからずっと鞄の中で寝ているからな。
馬車の中ではずっとエイルと口論していたし、疲れて寝てしまったのだろう。
戦闘が始まったら、さすがに起きるとは思うが……。
エンペラが他の冒険者を助けるような動きを取るとも思えない。
「せいぜい役に立ってから死にたまえよ。それでは進軍」
今度は馬に乗った神父たちが最後方に回り、俺たちを押し出すような形で山と山の小さな道へと進んでいく。
進むにつれて戦闘音が激しく聞こえ始め……山と山の間の道を抜けると、平原と荒野の中間のような開けた場所で、大勢の人間とアンデッドが戦っているのが視界に飛び込んできた。
アンデッドの数はざっと見て六百から七百体。
対する人間は百人ほどで、超劣勢の状態だ。
何なら戦闘というよりは、肉壁となってアンデッドを抑え込んでいるような状態であり、無惨に転がっている死体の数も含め、地獄にしか見えない。
神を信仰しているであろう聖教国への不信感が、俺の中でより強まったのだった。