作品タイトル不明
番外編『ジェイドの道具屋繁盛記』 その61
スタナとの楽しい休日を終え、今日からはまた切り替えて調達を行わないといけない。
まだフワフワとした気分だが、先週休業してしまったし、気合いを入れ直さないとな。
「エンペラ、今日から本格的に働いてもらうぞ」
「……嫌だと言ったらここに残れるのか?」
「残れない。強制だが、早ければ明後日には戻ってこられる」
「はぁー。明後日までは働かなくてはいけないのか」
「働くって言っても、基本的には鞄の中で寝ているだけだぞ。過ごしやすいように改造だってしていただろ?」
エンペラはスタナに頼んで、俺の鞄を居心地の良いように改造してもらっていた。
これからはエンペラの空間魔法に調達したものを入れていく予定だし、別に鞄を改造するのはいいんだが……俺の許可を取らずに改造したからな。
「スタナが進んでやってくれたんだ。スタナだけは良い奴だな」
「まぁその点に関しては異論ない」
エンペラもスタナには懐いている。
エレーネにも好き勝手やらせてはいるが、構われ過ぎている節があるからな。
スタナに一番懐いている様子だ。
ちなみに一番嫌われているのはエイル……ではなくレスリー。
エイルと違って、特に何かしたとかもないんだが、生理的に受け付けないらしい。
あまりに酷すぎる理由ではあるが、レスリーだから俺も笑ってしまった。
「それで、調達ってどこに行くのか決まっているのか?」
「ああ。今回は食材となる魔物を狩りに行こうと思っている」
「近いのか?」
「今のところはスコール大森林に行こうと思っているから、移動だけで結構かかるな」
「遠いところは嫌だ」
文句を言っているが、行くと決めたら絶対に行く。
とはいえ、まだ最終決定ではない。
『モイスアワー』で購入した魔物の食材に感化され、今回は食材となる魔物を狩ることに決めたのだが、情報収集をするためにこれから『モイスアワー』に立ち寄るつもり。
そこで有力な情報を手に入れることができたら、今回の行き先が変わる可能性が大いにある。
スコール大森林は、俺としても積極的に行きたい場所ではないからな。
エンペラの文句を聞き流しながら準備を整えた俺は、予定通り『モイスアワー』に向かうことにした。
「なんだ、このお店」
「一昨日、食べた料理に使った食材を購入した店だ。魔物の食材を使ったんだが、想像以上に質が良かったからな。どこで仕入れているのかを聞きに来た」
「そんな簡単に教えてくれるのか?」
「教えてくれない可能性の方が高いだろうが、可能性が低いからといって行動しなければ何も生まれない」
俺はそう返答してから、店の扉をノックした。
今はまだ営業開始の一時間前であり、俺のやっている行動は迷惑行為そのもの。
ただ、営業時間内だと話を聞くことができないほど賑わっているため、営業時間前を狙うしかなかった。
まぁこちらの出発時間の兼ね合いも大きいが。
「すまないな。まだ営業時間前だ」
「商品を購入しに来たわけではないんだ。話を聞きたくて尋ねたんだが、少し時間をもらうことはできるか?」
そう伝えた瞬間、酷く嫌そうな表情をした店主らしき男性。
前回訪れた時はいなかった人であり、一目見たら忘れないであろう容姿をしている。
髪はボサッとしており、目の下には大きなクマ。
身長は俺よりも頭一つ分低いように見えたが、極端すぎる猫背のせいであり、まっすぐに伸ばしたら俺よりも身長は高いようにも思える。
「……少しだけなら構わない。何が聞きたいんだ?」
「『モイスアワー』は、どこの場所で食材を仕入れているのか教えてほしいんだ」
変な駆け引きはせず、単刀直入に尋ねた。
店主は俺を変人を見るような目でしばらく凝視してから、ゆっくりと口を開いた。
「お前は馬鹿なのか? 教えるわけがないだろ」
「やっぱり駄目じゃないか」
「エンペラは黙ってろ。……なら、誰に頼んでいるのかはどうだ?」
「それも無理だ」
「そうか。……分かった。なら、取引をしてほしい。店主が求めている食材を取ってくるから、その食材を手に入れることができたら教えてくれ」
「俺が欲しい食材? 無理難題になるけどいいのか?」
「もちろん。それぐらいの価値はあると思っている」
疑うような視線を向けられたままだが、デメリットはないと判断したのか、俺の持ちかけた取引に乗ってきてくれた。
「……分かった。もしエルダーワイバーンのタンを持ってくることができたら、この店で売られている魔物の仕入れ先を教える」
「エルダーワイバーン? 初めて聞く名前の魔物だな。どこに生息しているのかは分かっているのか?」
「グラニール山が狩りの周回コースになっているというのは聞いたことがあるが、目撃情報も少ないから詳しいことは分からない。未知だからこそ、俺も求めているからな」
「なるほど。とにかくエルダーワイバーンのタンを持ってくることができれば、教えてくれるんだな」
「ああ、持ってくることができたら――だがな。先に言っておくが、他の魔物で代用しようとしても無駄だぞ。それをやった時点で購入すら禁止にする」
「そんなことはしない。それじゃ手に入れることができたら、また来させてもらう」
俺はそう告げてから、『モイスアワー』を後にした。
もちろんのごとく、情報は教えてもらえなかったものの、非常に有意義な時間を過ごすことはできた。
「やはり駄目だったな。無駄足になると忠告したのに」
「無駄足なんかじゃないぞ。エルダーワイバーンのタンを持っていけば、情報を教えてくれるとのことだったし、エルダーワイバーンの情報を手に入れることができたからな。スコール大森林に向かう予定だったが変更する。今回、狙うのはエルダーワイバーン」
エンペラにそう告げ、俺たちはヨークウィッチを後にして、ひとまずグラニール山を目指すことにした。
グラニール山は一番最初の調達でやってきた場所であり、久しぶりの来訪。
ついでに朔月花を探すことも視野に入れつつ、グラニール山へと向かったのだった。