軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第36話 犯罪者組織

女にコップ一杯の水を飲ませ、俺は体に付着したロングコートの男の血を洗い流した。

少し時間を置いて水を飲ませたことで、短髪の女は大分落ち着きを取り戻した様子。

この感じなら色々と話を聞くことができそうだな。

「話を聞きたいんだが大丈夫か?」

「はい。話せることなら全て話します」

「それなら良かった。なら、まずは……ここは一体どんな場所なんだ?」

俺がそう尋ねると、女は酷く驚いた表情を見せた。

「ここがどこかも知らずに侵入したんですか?」

「ああ。さっきも言ったが、悲鳴が聞こえたから来ただけだ。本当は戻ってくる前に立ち去ろうと思っていたんだが、見つかってしまうとは運が悪かった」

「それは誰の運が悪かっ——いえ、なんでもありません。ここは『都影』という組織のアジトです。さっきあなたが殺した人物は、この街『ヨークウィッチ』の支部長です」

トカゲって組織名なのか。

なるほど。それで死んでいた人物の首元にトカゲのタトゥーが入っていたんだな。

それと……この街の名前を今初めて知ったかもしれない。

なんだかんだ知るタイミングを逃していたが、まさかこんなタイミングで知ることになるとは思ってもいなかった。

「道理で強いと思っていたが、組織の支部長だったとはな。というか、支部長ってことは『都影』って言うのはデカい組織なのか?」

「私は末端の中の末端の人間なので詳しくは分からないですが、王国に十数の支部を持つ大きな組織だと聞いています。王都に本部があって、表舞台で活躍している人も多く繋がっているとかの話は噂で聞きました」

これは予想していたよりも大きな組織に手を出してしまったかもしれない。

帝国では『都影』なんて組織は聞いたこともなかったけど、王国で幅を利かせている犯罪者集団ってところだろう。

「ということは、この街にもまだ『都影』の構成員がいるってことか?」

「いるとは思いますが、数は少ないと思います。死体を見たから分かると思いますが、支部長は最近機嫌が悪く……この一ヶ月の間に十数人もの部下を殺していました。そのせいで逃げるように去る構成員も多く、そのこともあって更に支部長の機嫌が悪くなるという悪循環に陥っていたんです」

死の臭いを強く感じたし、大量の人間を殺っているとは思ったが……部下を手にかけていたとはな。

ロングコートの男は、見た目に反せずとんでもない奴だったようだ。

「お前は逃げようとは思わなかったのか? それだけ荒ぶっていたなら殺される可能性だってあっただろ」

「私には妹がいるので、どれだけ危険だろうと逃げる選択肢はなかったんです。まともな仕事では稼ぎが足らないですし、そもそも雇ってももらえないので」

「なるほど。逃げるに逃げられない環境だったって訳か」

「何かすいません。情報を話さなくてはいけないのに、変に重苦しい空気にしてしまって」

「俺から尋ねたんだから気にしなくていい。話を戻させてもらうが、この街に構成員が少ないということは『都影』の脅威はないという認識で大丈夫か?」

そんな俺の質問に対し、首を捻って少し考え込んだ女。

下っ端と自分で言っていたし、流石にそこまでのことは分からないのだろうか。

「詳しいことは分からないですけど、支部長が死んだことによって数少ない構成員はゼロになると思います。ただ本部からの調査は来ると思いますし、脅威がなくなると言われたら……なんとも言えません」

「なるほど。“しばらく”は脅威がないってことだな。『都影』の構成員はゼロになると言ったけど、お前はどうするんだ? 辞めるに辞められない事情だった訳だし、支部長を殺した俺に対して復讐でもするのか?」

「あの支部長を一方的に殺したあなたに、私が復讐するなんて不可能なのは分かっています。恥ずかしながら、怖すぎて少し漏れてしまいましたし。……それに恨んでいませんよ。遅かれ早かれ、仕事のできなかった私は支部長に殺されていたと思いますので」

思っていたよりも割り切った様子だな。

まぁ生きていればなんとかなるし、最悪冒険者という道もある。

「それよりも、あなたは私を殺さないんですか? 全てを見ていた訳ですし、私の口封じをしないと危険が及ぶ可能性がありますよね?」

「今のところするつもりはない。ただ、俺の情報は絶対に口外しないでくれ。この約束を俺と交わすのが見逃す条件だ。この約束を破ったらどうなるかは……皆まで言わなくても一番理解しているはずだからな」

俺が少し脅しをかけると、少し穏やかだった空気が一転し張り詰めた。

女の額からは汗が吹き出し、地下室に居た時のような動揺を見せ始める。

「や、約束は必ず守ります。ぜ、絶対に口外はしません」

「それは助かる。それじゃ、俺は誰かが来る前に失礼させてもらう。……お前も逃げるのか?」

「は、はい。組織からは逃げるつもりですが、ヨークウィッチからは出るつもりはありません。さっきも言った通り、私には妹がいますので」

「そうか。街から出ないのであれば、名前を聞いてもいいか? 情報も貰いにまた尋ねさせてもらう。嫌ではないよな?」

「は、はい。見逃してもらった身なので、いつでも情報を聞きにきてください。私の名前はテイトと言います。住んでいる場所は――」

「住んでいる場所は言わなくていい。どうせ色々と移動するだろうし、俺が勝手に見つける」

「この広い街で見つけるって無……いえ、余計なお世話ですね」

俺は『都影』の下っ端——いや、元下っ端のテイトに別れを告げ、人目を気にしながらバーを後にした。

人助けのつもりが殺しをやることになるとは思っていなかったし、相手が大きな組織の支部長だったのも運が悪かった。

ただ、下っ端といえど裏に精通しているテイトと知り合えたのは良かったし、悪いことばかりではないと思う。

テイトのところは近い内にまた訪ねるとして……腹が減り過ぎているから飯を食いに行くとしようか。