作品タイトル不明
番外編『ジェイドの道具屋繁盛記』 その42
翌日の早朝。
隣の部屋で爆睡していた二人を叩き起こし、すぐにアルガルの滝にある洞窟へ向かうことにした。
ブルーザーの街からは徒歩で二時間ほどの距離にあり、詳しい場所は地図に示されている。
もう一つの南の洞窟とは方向がまったく違うため、できればこちらで手がかりが見つかってほしいところだ。
「ふぁーあ。昨日は久しぶりによく眠れました! 料理もできるとは思っていましたが、予想以上に美味しくて、お腹がパンパンになるまで食べてしまいましたよ!」
「俺もそのせいで一気に眠気が来たからな。ジェイドにできないことってあるのか?」
「そりゃあるだろ。コミュニケーションは苦手だしな」
サバイバル能力を鍛えたおかげで、料理もある程度はできる。
他の能力も水準以上のものを持っているという自負はあるが、コミュニケーション能力だけは劣っていると、自分でも思う。
一応クロという上司のような存在はいたが、基本的に長い間、一人で過ごしてきた。
敬語もろくに使えないし、レスリーのように誰とでもすぐに仲良くなるという芸当はできない。
多分だが、一生できるようにはならないだろう。
これは完全に、長年暗殺者として生きてきた弊害の一つ。
まあ、暗殺の中には懐に入り込んでから仕留める方法もあるらしいが、俺は力任せでやってきたので、まったくの無縁だ。
「あー。確かに、コミュニケーションは苦手そうだな」
「えー? そうですか? 僕たちとは普通に会話できていますし、苦手っていうイメージはないですけど!」
「それはアルフィが取っつきやすいおかげだな。セルジも仲良くなればフランクに接してくれたし、二人のコミュニケーション能力が高いから、俺の不器用さが気にならないだけだ」
「俺もジェイドとさほど変わらないぞ。アルフィは天性のものがあると思うが」
「えー! そうですかー!? うへへ。二人して僕を褒めても、何も出ませんよ?」
アルフィは嬉しそうに頭をかきながら、表情を緩ませている。
こういったところが取っつきやすい理由であり、セルジが「天性のものがある」と言うのもよく分かる。
レスリーやトレバーも似た雰囲気を持っており、なんというか……人前でも負けることができる人に共通するものだと思う。
俺は負けたら死ぬという世界で生きてきたせいか、いまだに人前で弱さを見せることができない。
なんとなくだが、それが人との間に壁を作ってしまっているのだと思う。
「素直に、羨ましいと思う」
「俺もだ。アルフィのように馬鹿にはなれない」
「よーし! なんだか元気が出てきました! 僕もジェイドさんとセルジさんの良いところ、言ってあげます!」
そんな会話を交わしながら、川沿いを二時間弱歩いた。
やがて、水が流れ落ちる音がはっきりと聞こえてきた。
間違いなくアルガルの滝の音。目的地が近い証拠だ。
全員の足取りが自然と速くなる。
「ジェイドさん、見えてきました! 大きな滝です!」
「水の音から薄々気づいてはいたが、予想以上に大きな滝だな。あの滝の下に行かなくちゃいけないのか」
目の前に現れたのは、予想の三倍ほどもある大きな滝。
水しぶきのせいで体感気温が3℃ほど低く感じるほど、水の流れは勢いを増している。
それに伴い、滝壺の水流も非常に激しくなっており、泳げない者なら一瞬で溺れてしまうだろう。
俺は泳ぎも得意だが、アルフィとセルジを同行させるのは少し心配だ。
ここまで来てもらって悪いが、安全のためにも待機してもらうのがいい気がする。
「本当に洞窟なんてあるんですかね? なかったら最悪ですよ!」
「とりあえず俺が先に潜って見てくる。滝の下に洞窟があるのか、水の勢い的に入れるかを確認してくるから、アルフィとセルジはここで待っていてくれ」
「ジェイド、大丈夫か? いくら強いって言っても、溺れたらひとたまりもないだろ」
「泳ぎも得意だから大丈夫だ。それじゃ、サクッと見てくる」
俺は軽く体を伸ばしてから、川に飛び込んだ。
水面付近は流れが下向きなので、なるべく川底を這うように泳いでいく。
汚い川かと思っていたが、水流が強いおかげで意外と綺麗だ。
泡で視界は白く濁っているが、これなら少し水を飲んでも変な病気にはかからなさそうだ。
細かいことまで気を配りつつ、川底を捜索すること数分。
一番水流の強い先に……三人分くらいの大きさの穴が見えた。
俺はその穴を目がけて泳ぎ、滑り込むように突っ込んだ。
穴に入るまでの水の勢いは強かったが、中に入ると水流は一気に弱まった。
その穴は斜め上に向かって続いており、そのまま上へと泳いでいくと、水面が見えてきた。
顔を出してから、魔法で辺りを照らす。
「本当に洞窟があったんだな。結構広そうだし、人が頻繁に立ち入っている形跡もない」
ポツリと呟きながら、状況を確認する。
空気の抜け道もあるようで、かすかだが酸素も存在している。
お宝の匂いがぷんぷんする。ここは三人で探索したいところだ。
とにかく一度アルフィとセルジのもとへ戻り、状況を報告しよう。
俺は大きく息を吸い込み、元来た道を戻って、洞窟を一旦あとにした。