軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

番外編『ジェイドの道具屋繁盛記』 その13

大量の高級肉を購入したこともあり、俺はすぐに法国に戻って来た。

帰る際にブラッシュからは色々と文句を言われたが、フライレイクファルコンの肉を持っているということをチラつかせたら、傲慢な態度を取り続けていたブラッシュの態度は一変。

すぐに法国へ戻ることにも協力的になってくれ、早くもフライレイクファルコンの肉の力というのを感じた瞬間だった。

そして、ここからは俺の立ち回り次第であり、このフライレイクファルコンとアルデンギウスの肉を生かすも殺すも俺の腕一つで決まる。

馬車の中でどう売り出すかを思案している間に、長い旅路を終えて無事に法国に辿り着いた。

まずは荷台に積んである肉の状態を確認。

氷を大量に買ったこともあり、腐っていないどころか新鮮さも保たれている。

素晴らしい血抜きの技術と、今の時期が暑い夏場じゃなかったことにも感謝しつつ、早速店の中に運び込もう。

「あ、あの……それで私にどれくらい分けてくれるのかしら? 途中で切り上げて、戻ってきたのだから……一ブロックくらいは譲ってくれるわよね? それに王国も案内したし、あなたには親切に対応したもの」

手をこまねきながら、フライレイクファルコンの肉を要求してきたブラッシュ。

途中までの態度は気に食わなかったが、実際に王国に行けたのはブラッシュのお陰だし、多少なりとも感謝はしている。

……ただ、人生を賭けて購入したフライレイクファルコンの肉を、そう易々と渡すことはできない。

このブラッシュも最大限まで生かし、俺の店が軌道に乗るまで利用させてもらう。

「分かりました。帰りを早めてくれたお礼として、少し分けてあげます」

「ふぉっふぉっ! さあ、早くちょうだい!」

期待の眼差しで見ているブラッシュに対し、俺はフライレイクファルコンの肉を一切れ分だけ切って渡した。

肉片と呼べるくらいのその大きさに、目をぱちくりとさせながら固まっているブラッシュ。

「…………へ? ま、まさか……これっぽっちだけとは言わないわよね?」

「これだけです。希少な食材なのですから当たり前ですよ。ただ、今後も私に協力してくれるというなら話は別ですが……どうしますか?」

「あ、あなた! ず、随分と生意気になったわね! 私に舐めた真似をして、この国でやっていけると思っているのかしら!?」

「ええ。それだけフライレイクファルコンの肉の力は凄いと思っていますので。協力をしないと言うのであれば、もうお帰りください。報酬はそれだけですので」

「ふんっ! 絶対に後悔させてあげるわよ!」

ブラッシュはぷりぷりと怒りながら、フライレイクファルコンの肉片を大事そうに持って去って行った。

面と向かって啖呵を切ったは良いものの、内心ヒヤヒヤしている。

……が、九割九分大丈夫なはず。

それに、あの大食漢のブラッシュが肉片だけで我慢できるとは思えないし、本当に美味しい肉だったら向こうから頭を下げに来るだろう。

肉片はあくまで餌であり、向こうから協力を申し出させるのが理想であり目的。

ブラッシュが戻って来るまでの間に――俺は肉を運び出してしまうとしよう。

全ての肉を店の中に入れてから、俺は告知のためのチラシ作りを始めていた。

時間がかかればかかるほど肉の鮮度は落ちてしまうため、ここからはスピードが何より重要。

シンプルなデザインに、フライレイクファルコンが入荷したことが一目で伝わる文言。

手抜き感は否めないが、これで十分だろう。

チラシが一枚完成したタイミングで、店の扉がノックされた。

予想よりも遅かったが……俺の読みが正しければ、訪ねてきたのはブラッシュだろう。

「……どうしましたか? 私を後悔させる方法でも思いつきましたか?」

「――さっきは大口を叩いて申し訳ない! 何でも協力するから、フライレイクファルコンの肉を少しでいいから分けてちょうだい!」

扉を開けるなり、土下座をかましてきたブラッシュ。

プライドの塊のような男に、短時間で土下座までさせるフライレイクファルコンの肉はやはり凄い。

「協力をしてくれるというなら……分かりました。先程のことには目を瞑りましょう。ブラッシュさんにやってもらいたいのは、法国内で安価で質の高い食材を卸してくれるお店を紹介してほしいのです」

「食材を卸してくれる店を紹介すれば、フライレイクファルコンの肉をくれるのね!?」

「ええ。本当に良いお店でしたら、先程の五倍の量をお渡しします」

「五倍!? ちょっと待っててちょうだい! すぐに話をつけてくるわ!」

目が完全に欲で満ちたブラッシュはそう言い残すと、足早にどこかへ行ってしまった。

とりあえず、これでこの先も店をやっていくための地盤が作れる。

フライレイクファルコンとアルデンギウスの肉は、あくまで一時の集客と店の知名度を上げるためでしか使えない。

定期的に仕入れられるなら話は別だが、『シャ・ノワール』次第になってしまうし、もし『シャ・ノワール』が定期的に仕入れられるのだとしても、俺が今回のように大量に買える保証はない。

となれば、フライレイクファルコンの肉以外も良い食材を揃えていることを伝え、完売した後も店がやっていけるようにすることが大切。

もし俺の店が軌道に乗ったら、『シャ・ノワール』をバンバン宣伝し、あの酒場で噂話をしていた二人の冒険者にもお礼に行きたい。

そんな夢を思い浮かべながら――俺は引き続き、開店のための準備に取りかかったのだった。