軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

番外編『ジェイドの道具屋繁盛記』 その12

翌朝。

絶対に寝坊だけはしないようにだけ気を付け、俺は噂に聞いた『シャ・ノワール』へとやってきた。

まだ日が昇っていないため辺りは暗く、あくびをしながらやってきたのだが……目にしたのは朝方のピンク通りにしては異様な光景。

俺と同じように眠そうにしながら、既に並んでいる人達がいたのだ。

まだ五人ではあるが、この時間帯から五人も並んでいるのはハッキリ言って異常。

営業時間が分からないことに加え、俺は法国からやってきたということもあり、絶対に逃せないからこの時間にやってきたが……少しでも遅れていたらアウトだったと思うと、一気に眠気も吹き飛ぶ。

まだ半信半疑の気持ちで最後尾に並んだが、ここが『シャ・ノワール』待ちの列かどうか分からないため、俺の前に並んでいた男に尋ねることにした。

「すみません。一つお伺いしたいのですが、この列は『シャ・ノワール』待ちの列で合っていますか?」

「んあ? ああ、そうだぜ! なんだ、あんちゃん。『シャ・ノワール』には初めて来たのか?」

「はい。昨日、偶然酒場でこの店の噂を聞きまして、初めてやってきたんです」

「昨日知って、この時間に来るとは随分と冴えてんな! 今週は先週よりも確実に激戦だから、この時間に来て大正解だぜ!」

大柄な男性は早朝とは思えない声量でそう言ってきた。

口ぶりからして、やはりここから更に混むのだろう。

「そうなんですね。ちなみにですが、先週よりも激戦ってどういうことですか? それと、このお店の営業時間って何時からなのでしょうか?」

「んあ? その辺の基礎知識もなしで来たのか!? この店は毎週商品が変わるんだわ! 先週は薬草系の植物。そして、今週は食用の魔物が売られるらしい! んで、営業時間は十時からだ!」

「十時から!? 十時からで、既にこんなに並んでいるんですか?」

「そりゃそうよ。ほら、見てみろ! また新しく並び始めたぞ」

後ろを見てみると、俺の後に来た人が新たに並び始めた。

これで俺含めて既に七人も並んでいる状態。

店の規模は見るからに大きくなく、多分だが七人以上はいっぺんに入ることはできないと思う。

絶対に逃せない状況でも、開店時間が十時と知っていたらこの時間には来ていなかったし、本当に危なかったな。

「ここまでの人気店だとは思いませんでした。そんなに良い商品が売られるんですか? それとも、格安の商品とかですか?」

「良い商品が安価で売られているって感じだな! だが、安価といっても良い商品だから、値段自体はそれなりにする。商品の内容については店が開くまでは分からないから、オープン当日から通ってる俺でも見当がつかん!」

「随分と尖りまくってるお店ですね。何だかワクワクしてきました」

「まぁ期待して良いと思うぜ! ……で、あんちゃんは一体どこから来たんだ?」

そこからは世間話となり、親切に教えてくれた大柄の男性と開店まで談笑した。

意外と面白い話が聞け、なんでもここに並んでいる半数以上が似たような業種らしい。

この大柄の男性もヨークウィッチで道具屋を営んでいるらしく、何かあれば協力しようという話にもなった。

待ち時間も有意義に過ごすことができ、既に結構満足していたのだが……本命はここから。

もうすぐ開店時間であり、最後尾はこの位置からでは見えず、相当伸びていることが分かる。

期待感しかないが、期待し過ぎるのもよくないと思い、一度気持ちを落ち着かせていると……。

「少し早いですが、準備が整いましたので前からお入りください! 一度に六人まででお願い致します!」

お店の中から出てきたのは、綺麗な女性の店員さん。

先頭から入っていき、六人目ということで丁度俺まで入ることができた。

中は、外観からは想像できないほど綺麗な内装。

ただ、やはり広くはなく、六人が限界の大きさだ。

これだけの集客力があるならば、大きな店舗を用意すればいいのにと思ってしまうが、前にいた大柄の男性曰く、まだオープンして間もないみたいだからな。

いずれ大きな店舗になっていくのだろう。

そんなことを考えつつ、何が売られているのかを見ることにした。

棚などが全て壁際に追いやられており、真ん中には特注で作ったであろう氷の敷き詰められた大きな箱。

その箱の中に入っているのは――フライレイクファルコンの肉。

食に疎い俺でも知っている幻の魔物。

前にいた客はみな大口を開けて固まっており、その反応を見るだけでやはりとんでもない食材ということが分かる。

ただ、値段は驚きの100グラム金貨5枚。

あまり食にこだわりのない俺からしたら高いとしか思えないけど、同業者であろう前の客たちが惜しみなく購入していることを考えると、もしかしたら破格の値段なのかもしれない。

更に、端にはアルデンギウスなる魔物の肉が置かれており、そちらは100グラム金貨1枚とフライレイクファルコンと比べたら安価。

何をどれくらい買うかを悩んでいる内に、刻一刻と俺の順番が回ってくる。

少量になってしまうのがフレイレイクファルコンで、大量に仕入れるならアルデンギウス。

ただ、フレイレイクファルコンは俺でも知っているが、アルデンギウスは俺が知らない魔物。

……くっそ。ブラッシュに無駄金を使っていなければ、両方とも買えたのに。

――いや、ここで有り金全部使えるかどうかが、俺の運命の別れ目かもしれない。

この店を偶然知り得て、営業時間を知らなかったからこそ早めに並ぶことができ、今ここに立つことができている。

保険として、俺は店を担保に借金をしてからインサール王国にやってきた。

この金は文字通り保険のためであり、一切使わないつもりでいたけど……ここが使いどころとしか思えない。

覚悟を決めた俺は、フライレイクファルコンとアルデンギウスの肉を有り金全てはたいて購入することに決めた。

幻の肉だが、言ってしまえばたかが肉。

この判断が破滅への一歩かもしれないけど、俺の直感を信じる。

前にいた大柄の男も大量に購入していたが、それ以上に購入した俺に対して驚きの声が上がった。

店の外からは大量購入に対しての若干のバッシングの声も聞こえてきたが、購入制限がない以上は関係ない。

可愛い店員さんが購入した肉を箱に詰めてくれ、俺はフレイレイクファルコンとアルデンギウスの肉が入った箱を三箱抱え、『シャ・ノワール』を後にした。

願うのは、この肉が本物のフライレイクファルコンであること。

そして、逆転の一手になってくれること。

借金した金も全てつぎ込んだ一世一代の賭けを行ったこともあり、箱を持つ手がぶるぶると震えているが……目だけは真っすぐ向け、俺は宿へと戻ったのだった。