軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第323話 元暗殺者のセカンドライフ

【シャ・ノワール】の新店を任されることが決まってから、あっという間に一ヶ月が経過した。

俺が引き受けると伝えた翌日には、レスリーの例の酒飲み友達からあの店舗を購入し、全てを俺に任せてくれた。

そして、この一ヶ月間はレスリーのいる一号店を手伝いながら、時間を見つけてはピンク通りの新店の掃除と準備を行う日々。

レスリーにヴェラ、ニア、それからグレンにノラ、ブレントも手が空いたときに駆けつけてくれ、更にはトレバーやテイト、スタナも開店のための準備を一緒に行ってくれた。

一ヶ月前に初めてこの建物を見たときは、元が店かどうなのかも分からないほど古びていたが、今では全てが一新されて『お店』と呼べるものになっている。

一切のお金をかけないと決めた以上、商品棚等の家具なんかも手作りしようと俺は考えていたのだが……俺が店を出すと聞きつけたエイルが色々と物を送ってくれた。

全て冒険者ギルドで使わなくなったものと言っていたが、マイケルの話によればエイルが自分の財布から買ってくれたものもいくつかあるらしい。

お金をかけないというコンセプトからは少しズレてしまうが、流石に好意を無下にするつもりはないため、送ってもらったものは遠慮なく使わせてもらう予定。

近況としてはこんな感じであり、とにかくみんなの助けがあって、この一ヶ月間で【シャ・ノワール】の新店を形にすることができた。

ヨークウィッチに戻ってきた時も泣いてしまうぐらい思ってはいたが、改めて俺は色々な人に助けられているのだと実感することができた。

「おーい、ジェイド! 中にいるのか?」

俺が綺麗になった店内を見ながら感慨にふけていると、外からレスリーの大きな声が聞こえてきた。

目頭に溜まっていた涙を拭き取ってから、俺は扉を開けてレスリーを中に迎え入れる。

「いるぞ。丁度帰ろうとしていたところだが、こんな時間にどうしたんだ?」

「もう店は完成って感じだろ? いつ営業を開始するのかを……酒を飲みながら聞こうと思ってな!」

レスリーの手には酒瓶があり、どうやら飲む気満々でやってきたらしい。

この一ヶ月は本当にずっとバタバタしていたし、話をするがてら久しぶりに酒に付き合うのもいいか。

「いいね。酒を飲みながら話そうか。営業が開始されたら店では飲めないしな」

「やっぱりジェイドは話が分かるな! ヴェラは一切付き合ってくれなかったからよ! ほれ、早速乾杯しようや!」

「ああ。乾杯しよう」

レスリーが持参したグラスにウイスキーを注ぎ、乾杯してから一気に呷る。

やっぱり酒は苦いだけって感想だが、こうしてレスリーと飲み交わすのは気持ちが良い。

「かはーッ! 仕事終わりにジェイドと飲む酒は格別だな! ……んでよ、さっきの話に戻るけど、営業はいつからにするんだ?」

「店自体は完成しているが、肝心の商品がゼロだからな。正直、営業はまだ先になると思う」

「確かにまだすっからかんだもんな! 何なら、俺の店にある在庫を持ってこようか? そうすりゃ明日にでも営業できるだろ?」

「いいや、それはやめておく。ギルド長のエイルからは譲り受けてしまったが、売り物に関しては前にも言った通り俺が調達したものしか売らない。質にもこだわるつもりだし、そこはオーナーのレスリーだろうと譲る気はない」

俺がそうキッパリと断ると、レスリーは嬉しそうに笑いながら酒を一気に飲んだ。

「がっはっは! やっぱりジェイドは商才があるぜ! 俺なら絶対に浮かれてすぐに店を開けちまうからな! 実際に俺の方がソワソワしているしよ」

「今はまだこだわりが強いだけ……だけどな。ただ、レスリーからの恩に報いるために絶対に成功させる」

「俺のために……か。そりゃ本当に嬉しい言葉だな! 俺はジェイドと出会えて幸せ者だ!」

「それはこっちのセリフだ。この街に来て、そしてレスリーと出会えて良かった」

良い年をしたおっさん二人が、軽く涙を浮かべながら恥ずかしい言葉を言い合う。

ヴェラがいたら確実に馬鹿にされているだろうが、今は何も考えずに感謝を伝えたい。

「生まれてから一番美味い酒だ! こうしてジェイドと出会えたのは、全部スタナさんのお陰なんだよなぁ。……スタナさんとは上手くやっているのか?」

「ああ、上手くやれていると思う。時間があれば会っているしな」

「ほー、羨ましいこった。店の方は手伝ってくれたりするのか?」

「営業するのは週二日を予定しているから、治療院が休みの時は手伝ってくれるらしい」

「――チッ! 俺から聞いといてアレだが、聞いていてイライラしてくる! あーあー、俺にも店を手伝ってくれる女性が欲しいな!」

「いっつもそこに行きつくな。心配しなあでもいつかはいい人が現れるだろ」

「適当なことを言うな! 俺はもうじじいだぞ! いつかっていつなんだよ!」

「それは知らん」

いつもの僻みを適当にあしらいつつ、酒をどんどんと飲んでいく。

レスリーも酒を飲むペースが早くなっており、未開封だったのにもう瓶の半分がなくなりかけている。

「俺の運命の人の話は置いておいて、週二日営業でやっていけるのか? 自ら調達しなくちゃならないから営業日数は少ないと思っていたが……正直想像以上だぞ!」

「希少性も生まれるし、俺は丁度良いと思っているけどな。まぁそこら辺は上手く調整するつもりでいる」

「まぁ俺が心配しないでもジェイドなら上手くやるか! にしても、調達に四~五日使って、営業は二日だけか。どんな商品が並ぶのか俺ですらワクワクするな!」

「そこは期待してくれて構わない。エイルとマイケルに手伝ってもらえるから、希少なアイテムを並べられるはず」

「バックにギルド長がいるのは強すぎる! こりゃ営業日は毎度見に来なきゃ行けねぇな!」

「ああ、来てくれ。ついでに品出しも手伝って欲しい」

「そりゃ手伝うぜ! あーあ……早く営業しねぇかな! 今から本気で待ち遠しい!」

隣で開店を一番楽しみにしてくれているレスリーを見て、俺は頷きながら小さく笑った。

もう何度目か分からない『絶対に成功させる』という気持ちを心に刻み――レスリーとの酒盛りを楽しんだのだった。

――□□□

いよいよ全てが俺に一任された『シャ・ノワール』新店の開店日。

店舗の準備を整えてから、更に約一ヶ月かけて商品の調達を行った。

エイルとマイケルから情報をもらい、基本的には一人で調達を行ったが……トレバーとテイト、それからエイルと一緒に商品になるものをかき集めた。

その甲斐もあって、狭い店舗ながら商品がしっかりと埋め尽くされている。

今回は開店記念ということでこれだけの商品を並べたが、基本的には五日から四日間の間で手に入れたアイテムを並べるだけの予定で、レスリーの本店やヴェラの二号店とは違った、大衆向けではない営業スタイルを取るつもり。

利益よりも名を売り、『シャ・ノワール』を名店にするために俺は奮闘する。

「ジェイドさん! もうかなりの数のお客さんが並んでくれていますよ! ふふ、いよいよですね」

「がっはっは! 商品もバッチリだし、スタナさんが店員として働いているとなれば常連だってきっとつく!」

「邪な考えの常連はいらないんだけどな。スタナをそういう目で見られるのは嫌だし」

「最初が肝心ですしお客さんは選べません! それに私目当てのお客さんなんかつきませんよ!」

スタナはそう楽観的に捉えているが、治療院ですらスタナ目当てで通う人もいるみたいだしな。

俺の横で大笑いしているレスリーも、そのスタナ目当ての一人だった訳だし。

「そういうこった! どんな客だろうと来てくれるだけありがてぇ! とりあえず今後の営業時間の張り紙も店内に貼り付けまくったから、ここがどんな店なのかも一発で分かってくれるはずだぜ!」

「そうです、そうです! それより――もう開店時間ですよ! ジェイドさん、もうお客さんを呼び込んでも大丈夫ですか?」

「ふぅー……。ああ、呼び込んでほしい」

俺は大きく深呼吸をしてからスタナにそう告げると、笑顔で外へと向かった。

いよいよ俺の新たな生活の第一歩が始まる。

緊張とワクワクが入り交じっており、戦闘前では一度も震えたことがなかったのに……体が震えてきた。

そのことに気がついていたのか、レスリーは力強く俺の背中を叩いてくれた。

「ジェイド、目一杯楽しめ! どう転んだって明るい未来しか待っていないんだからな!」

「……ああ、そうだな。楽しませてもらう」

その一言で体の震えは消え、俺はレスリーと笑顔で拳を合わせた。

支えてくれているみんなの力を借りてオープンまで来られただけで俺は幸せもの。

ここから先はレスリーの言う通り、どう転んでも明るい未来しかない。

そう気持ちの整理がついたタイミングで――記念すべき一人目のお客さんが来店した。

俺は自分にできる最大限の笑みを浮かべ、お客さんに声を掛ける。

「いらっしゃいませ。ようこそ『シャ・ノワール』へ」

―――完。