軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第311話 握手

冒険者ギルドに着き、いつものように応接室から中に入る。

気配を察知した限りでは、ギルド長室にエイルとマイケルがいるはずだ。

特に忍び足とかもしていないのだが、ギルド職員に見つかることなくギルド長室に辿り着いた俺は、ノックをしてから中に入った。

「んあっ? 返事をしてないのに開けるなんて誰ーーってジェイドか!?」

「……お、おおっ! 間違いなく本物です! 戻ってきていたんですか!」

「エイルとマイケル。久しぶりーーって程でもないか。 ああ、昨日戻ってきたんだ」

俺の姿を見た二人は驚いた声を上げ、エイルに至っては机に身を乗り出している。

行く先々でこうして驚かれ、喜びの表情を見せてくれているのを見ると……本当にヨークウィッチに戻ってこられて良かったと思う。

……ただ、そんなに長い期間出ていた訳ではないんだけどな。

これは俺の感覚の問題なのか、それともみんなが心配性なのか。

まぁ心配されるということはありがたいことなんだが。

「連絡ぐらい寄越せ! このバカたれが!」

「悪かった。そんなに長い期間離れていたつもりはなかったから、連絡を軽視していたんだが……心配をかけてしまったみたいだな」

「君のことだから戦闘面での心配はしていなかったが、病気とかもあるからね。私とギルド長は事情を知っていたのだから、連絡をしてほしかったよ」

マイケルにそう言われると、やはり連絡を疎かにしたのは改めて悪かったと思う。

まぁ戻れる保証もなかったからな……。

いや、だとしても連絡はするべきだったか。

「本当に悪かった。それと心配してくれてありがとう」

「まぁ色々と言ってしまいましたが、元気だったのらなら良かったですよ。ギルド長なんて毎日心配……」

「してねぇ! 俺は単純に遊び相手が一人減るのがアレだっただけだ!!」

「アレって何だ?」

「アレはアレだ! って、何でもいいだろうが!」

顔を真っ赤にさせて怒鳴り散らしているエイル。

ヴェラ同様、相当心配してくれていたみたいで嬉しいな。

「とりあえず……エイル。出発前の約束を覚えているか?」

「……ん、んー? しゅ、出発前の約束? そんなのしたっけか?」

「俺が戻ってきたら握手するって言っただろ? ほら。戻ってきたんだから握手しよう」

「そ、そんな約束したか? お、覚えていないなー」

絶対に覚えている反応だが、恥ずかしさからかすっとぼけている。

出発前は見逃したが……今回は絶対に握手してもらう。

「約束は約束だ。握手したいなら戻ってこいって言ったのはエイルだろ?」

「で、でも、やるとは考えてやらんこともないって言っていたはずだ!」

「やっぱ覚えていたんだな。ほら、握手しよう」

「ギルド長、さすがに見苦しいですよ」

「ぐ、ぐぬぬ……。わーったよ! 握手すりゃいいんだろ! 俺なんかと握手してどうなんねぇだろ!」

余程恥ずかしいようで、耳まで真っ赤にさせながら椅子から立ち上がったエイルは手を差し出してきた。

男勝りな性格だが、こういうところは無駄に照れるんだよな。

「心配してくれてありがとう。無事に戻って来られた」

「お、おう! ……って、も、もういいだろ!」

エイルは俺の手を振りほどくと、椅子に戻ってそっぽを向いた。

確かに改めて握手するのは少し恥ずかしかったが、エイルの反応のせいでもある。

「ふふふ、良いものを見させてもらいましたね。まさかギルド長がそんなに恥ずかしがり屋だとは思っていませんでしたよ」

「ま、マイケル……! 後で絶対にゲンコツ食らわす!!」

「後ではなく、今なら甘んじて受け入れますよ。ふふふ、鬼のギルド長と言えど動けないみたいですね」

「ーーこ、ごろす!」

恥ずかしさなのか、それとも怒りなのか分からないが……。

顔を真っ赤にさせているエイルは、おちょくっていたマイケルに飛びかかると、思い切りゲンコツを食らわせた。

頭がかち割れるのではと思う一撃に、マイケルは頭を押さえて悶絶している。

ただまぁ……一切同情はできないな。

「くっそ、マイケルが俺を怒らせたせいで顔があちぃ!」

「今回は珍しく全面的にマイケルが悪かったな」

「……うぐ、ぐ。動け、ないと予測していたのですが……」

「動けない訳ないだろ! この馬鹿たれが!」

一連の流れがおかしく、俺は二人を見ながら笑ってしまう。

『シャ・ノワール』やスタナとの会話もそうだったが、本当に心の底から楽しい。

心の底からに幸せだと感じられている。

「げ、ゲンコツを食らってしまいましたが……ジェイドさんが笑ってくれたなら良かったです」

「何も良くねぇ! 次おちょくったら頭を拳で割るからな!」

「も、もうしません……」

この一連のやり取りのせいでまだ何の報告も出来ていないが、とにかく楽しく幸せな一時。

少しヨークウィッチから離れたことで、何気ないやり取りが幸せなのだと、昨日からもう何度目かわからないが再確認した。