軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第266話 不明

このヴィクトルの態度を見る限り、何かを仕掛けてきたのは間違いないが、俺の体には何の変化も起こっていない。

暗殺者時代に精神系の攻撃は何度か受けたことがあるが、その時と比べてもあまりにも変化がないのだ。

いまいちよく分からないが、不発に終わってのであればこれ以上好都合なことはない。

「何か仕掛けてきたみたいだが残念だったな。俺には何も効いていない」

「あ、ありえない! 効かないなんてことは絶対に――」

俺はごちゃごちゃとうるさいヴィクトルの顔面に、もう一発強烈な蹴りをお見舞いする。

正直最初の一発で十分すぎる威力だったと思うが、あまりにも平気そうにしていたからな。

渾身の蹴りをもう一度食らい、地面を転がりながら呻き声をあげている。

まだ気絶していないところを見るに、思っていた以上にタフなようだ。

うつ伏せの状態のヴィクトルを軽く蹴り上げて仰向けにさせ、今度は馬乗りになって拳を振り上げる。

気絶はしていないが、二発目の蹴りで完全に心が折れたようで、目に大粒の涙を浮かべながら命乞いの言葉を呟き出した。

「しゅいませんでひた。ころひゃないでくだひゃい」

「さっきまで随分と威勢が良かったのにな。負けると分かった途端、悪人は皆しおらしくなる」

「ごめんなひゃい。本当にごめんなひゃい」

歯が折れ、口も大きく腫れあがっているからか、呂律が上手く回っていない。

もう数発ぶん殴ってもいいかとも思ったが、これ以上痛めつけたら死んでしまう可能性もある。

殺したとなれば二人の手柄がなくなるどころか、評価を大きく落とす結果になってしまう。

アルフィを殺そうとした訳だし、ヴィクトルが死のうが一向に構わないのだが……情報を吐き出させるという役割もある訳だし、生きたまま連行するのが得策だろう。

――いや、やっぱり最後にもう一発だけぶん殴ろう。

余裕そうな態度で何かを仕掛けてきたことが癪に障った俺は、最後に一発顔面に拳を叩き込んでからヴィクトルを無理やり立たせる。

「詰所までついてこい。アルフィには土下座してもらうからな」

ぐしゃぐしゃの顔面から大粒の涙を溢しているヴィクトルを、引っ張る形で詰所へと連行する。

傍目から見たらボコボコにされて泣いている兵士と、その兵士をボコボコにしたであろう人間という構図であり、周囲の注目を浴びながらも何とか詰所まで戻ってこれた。

中にアルフィの姿はなかったが、セルジが立って待ってくれている。

ヴィクトルを突き出すよりも前に、アルフィの安否を聞かないとな。

「セルジ、ヴィクトルを連れてきた……が、まずはアルフィが無事なのかどうか教えてくれ」

「ちゃんと捕まえてくれたのか! そっちをジェイドに任せて正解だったな」

「そんなことはいいから無事かどうか答えろ」

「腹を刺された訳だし無事ではないけど、すぐに近くの治療院に連れていったし命の危険はねぇよ。意外にも丈夫な奴だし、思っている以上にピンピンしている」

「……そうか。それなら良かった」

「何なら、ジェイドにやられた二人の兵士の方が重傷だな。首が完全にやられちゃっていて、数週間は安静にしないといけないらしぞ」

「そっちも生きていたなら一安心だ」

割と本気でぶん殴った二人の兵士も死んではいなかったか。

顎にクリーンヒットはさせず顎先を掠め取るように殴ったが、死んでもおかしくない威力で殴った。

手加減できる状況じゃなく死んでしまってもおかしくないと思っていただけに、生きていてたと聞いてホッとしている。

「――と、こっちの報告はこんなもんだ。それよりも連れているヴィクトルについて聞かせてくれ。逃げた時とあまりにも状況と顔が変わっていて本気で驚いた。……死んではないんだよな?」

「ああ、殺してはいない。アルフィがやられた分をしっかりとやり返しただけだ」

「やり返したって……。腹を軽く刺されただけで、こんな顔面になるほど酷い傷じゃないんだけどな。刺されたのも鎧の上からだったし」

結構力を入れられて腹を突き刺されたように見えたが、確かに鎧を身に着けていたし、俺が思っているよりも軽傷の可能性が出てきた。

だとしても、下手すれば死んでいた可能性はあった訳で、俺はやりすぎたとは一切思わないがな。

「それは結果論だな。俺も殺してはいないしやりすぎたとは一切思っていない。それでヴィクトルをどうするんだ?」

「しっかりと拘束した後に兵士長に受け渡すつもりだ。地下通路や北側エリアの方はどうなっているんだろうな」

「廃れた家具屋の前までは行ったが、中を確認していないから分からない。攻め込むまで気づかれていないなら成功しているとは思うが……俺が様子を見てこようか?」

「正直お願いしたいところではあるが、そこまで任せられねぇな。ヴィクトルを捕らえてくれただけで本気でありがたいし、そっちは兵士長や他の兵士が上手くやっていると信じるぜ」

俺も大丈夫だとは思うが、獣人は皆が皆手強そうだったのが気掛かり。

特にアジトにいたリーダーのリングは相当な強さを持っていそうだったし、リングが出張ってきたら逆に潰されてもおかしくない。

ただ、これ以上俺が出しゃばるのも違うため、大人しくしているとしよう。

「そういうことなら俺は先に戻らせてもらう。アルフィの見舞いにはすぐに行く」

「ああ。後の処理は俺に任せてゆっくり休んでくれ。見舞いに来た時に、俺からどうなったのかの報告をさせてもらう」

「分かった。それじゃ……」

俺は去り際にヴィクトルの無理やり地面に寝かせ、耳元でそっと囁く。

「これ以上変なことをしたら、死ぬ方がマシと思えるぐらいに嬲って嬲って嬲り殺すからな」

「――ひぃっ!」

俺がいなくなってからも変な気を起こさないように脅しをかけてから、後の処理はセルジに任せて俺は詰所を後にした。

予想外のことは起こったが、アルフィが無事なら成功と言っていいだろう。

今日は休ませてもらい、明日の朝にアルフィの見舞いに行くとしようか。