軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第189話 頭にない人物

三日ぶりの仕事を懐かしむようにこなし、無事に閉店まで問題なく営業することができた。

ブレントが発案した方法が上手く機能しており、大分接客もやりやすくなっていたのを感じる。

あとはこのままの人気を維持しつつ、どんどんと新しい魔道具を生み出せていければいいのだが……。

そのためには、まず職人たちとの確認作業が必要。

今お願いしている職人たちが手一杯な様なら、制作を行ってくれる新しい職人を探したい。

『シャ・ノワール』の名前が大きくなったし、探そうと思えば簡単に探せそうな気もするからな。

ただ、今依頼している職人たちがいけると言ってくれたなら、そのまま新しい制作をお願いしたいと思っている。

その辺のことも含めて、色々と話をすり合わせていかないといけない。

業務が終わったことだし、すぐにでも職人たちの下へ向かいたいところだが、今日は他にやるべきことがある。

朝にエイルと分け合って手に入れた、メタルトータスの鉱石をダンに渡すこと。

それと防具制作の依頼をしている『アルマ』に出向き、店主のキーガンに制作状況がどうなっているかの確認も行いたい。

期間的には制作が終わっていてもおかしくないし、今日を逃すとズルズルと確認するのが遅くなってしまう気がしている。

やるべきことが多いが、まずは『ダンテツ』に行くとしよう。

破格の値段で譲ってもらったウーツ鋼の短剣の感想も伝えたいところ。

『シャ・ノワール』を後にした俺は、急いで『ダンテツ』へと向かう。

ギルド通りを越えた辺鄙な場所にある、小さくて汚い家のような店。

お店の扉には『CLOSE』の札が掛けられていたが、ドアを数回ノックしてから中に入る。

鍵はかけられておらず、何事もなく中に入ることができた。

既に閉店しているからか、いつものような汗が滲むような熱気は一切感じない。

少し薄暗い店内を見渡していると、一人の足音が近づいてくるのが分かった。

俺はダンだと思って待ち構えていたのだが、姿を見せたのは頭には一切なかった若い女性。

「すいません。今日はもう閉店してしまっているんです。買い物がしたいのでしたら、また明日にでも来ていただけますか?」

予想だにしていなかった人物の登場で頭が真っ白になり、言葉を一瞬失いかけたが――色々な質問を投げかけたい気持ちを抑え、真っ当に返事をする。

「俺は買い物に来た訳じゃないんだ。店主のダンと知り合いで用があってきたんだが、ダンはまだこの店にいるか?」

「あー。ダンさんのお知り合いの方だったんですか! まだ奥の部屋にいますよ。呼んできますので名前をお伺いしてもよろしいですか?」

「ジェイドと言う。伝えてもらえれば分かるはずだ」

「ジェイドさんですね。分かりました。すぐに呼んできます」

若い女性はそう言うと、再び店の奥へと消えていった。

それから数十秒後。

今度は一歩一歩踏み込むような足音が近づいてくるのが聞こえ、この足音がダンだということがすぐに分かった。

普通の思考なら足音でダンかどうかの判別はつけられただろうが、まさか『ダンテツ』に女性店主がいるなんてとは思いもしていなかったからな。

「おう。本当にジェイドじゃねぇか」

「閉店後に来て悪かった。それでいきなり質問する形になるが、さっきの女性は誰なんだ?」

「新しく店員を雇っただけだ。ジェイドのお陰で最近は店が忙しくて、一人で回せなくなっちまったんだよ」

俺のせいで店が忙しい?

悪いが、俺は『ダンテツ』に何かした覚えは一切ない。

ウーツ鋼の短剣を使っていることで宣伝になった――とかはありえないよな。

この店を紹介したのはトレバーとテイトだけだし、二人が大々的に宣伝をしたとかならあり得る。

「すまないが一切身に覚えがないな。俺のお陰っていうのは勘違いじゃないか?」

「勘違いな訳あるか! 実際にこれまでの五倍ぐらいの客が毎日来ているんだからな」

「ただ人気になっただけに思えるが、それがなんで俺のお陰になるんだ?」

「『シャ・ノワール』で知ったって客が大半だからだ。『シャ・ノワール』ってジェイドが働いている店だろ?」

そこまで言われてようやく思い出した。

随分と前にだが、『シャ・ノワール』のビラを貼らせてもらう代わりに、『ダンテツ』のビラも『シャ・ノワール』に貼っていた。

今も剥がしていないため、『シャ・ノワール』が人気になったお陰でビラがより多くの人の目に止まり、『ダンテツ』にも人が流れてきたってことだろう。

『シャ・ノワール』は値段の安さも売りにしていることから、冒険者の客もかなり多いしな。

「随分と前だったから忘れていたけど思い出した。『ダンテツ』のビラを『シャ・ノワール』に貼っていたんだった。もしかして迷惑だったか?」

「めちゃくちゃ儲かってるのに迷惑なわけあるか。ただ、急に忙しくなりすぎたってのはあるな。嬉しい悲鳴って奴だわ」

ダンは親指を立てて笑顔でそう言った。

頭の片隅からも消えていたことだが、こうしてお世話になった店にも還元できたというのは本当に嬉しい。

改めて、魔道具が爆発的に売れてくれて良かったと実感することができた。