軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第102話 交渉

前回壊した窓は修理されており、また新しい窓に変えられている。

流石にまた壊すのは気が引けたため、何度かノックをしてマイケルを呼んではみたものの……マイケルが姿を現す気配がない。

確実にギルド内にはマイケルはいるため、ここは仕方がないが窓を壊させてもらおう。

正面から入ったとて、冒険者に絡まれたらまた照明を壊すことになるかもしれないし、照明と窓だったら確実に窓の方が安く済む。

俺も嫌な思いをしなくて済むし、ギルドも安く済むならばwin-winの関係だ。

――そんなわけの分からない言い訳をしながら、俺は手慣れた手つきで窓を叩き割り、応接室へと侵入した。

えー、マイケルの居場所はというと……どうやら副ギルド長室にいるようだ。

マイケルは分かりやすく気配を断っているため、居場所をすぐに見つけることができた。

前回のことを考えると堂々と歩いていても何も言われないだろうが、念のため隠密行動を取りながら副ギルド長室を目指す。

大半のギルド職員が仕事に集中していたということもあり、誰にも見つかることなく副ギルド長室まで辿り着いた。

四回ノックしてから、マイケルの返事を待たずに中へと入った。

「返事を待たずに入るとは――って、ジェイドじゃないか。もしかしてまた侵入してきたのかね?」

「ああ。いつも通り、応接室の窓から入らせてもらった」

「はぁー。窓を直して、しかも強化ガラスに代えたと言うのに壊してしまったのかね。こんなことなら、鍵は開けたままの方がよさそうだよ」

ぶつぶつと文句を言いながら、壊れた窓ガラスの費用の計算をし始めた。

少しだけ申し訳ない気持ちになるが、俺がマイケルに売った恩は計り知れないため、特に気にせず本題へと入る。

「計算しているところ悪いが、本題に入らせてもらうぞ。『フレイムセンチピード』の素材ってギルドには入ってこないのか?」

「フレイムセンチピード? 森にいるあの熱を持つ虫の魔物ことかね?」

「そうだ。足が無数にあるあの魔物のことだ」

そう。俺が探していたのは、フレイムセンチピードと呼ばれる魔物の素材。

虫なのに火炎袋を持っているのが特徴で、火を吐くことはないのだが触れたら火傷するくらいの高温の牙を持ち合わせている。

そして肉食且つ非常に獰猛な性格をしており、自分よりも何倍も大きい生物であろうと積極的に攻撃を行うのが特徴。

もちろん人間に対しても、感知した段階で襲い掛かってくる。

「非常に危険だし、被害も多いから討伐依頼はたくさん出してはいるが、素材の買取は一切行っていないね。見た目が気持ち悪すぎるせいで、どこも素材として使おうと思わないよ」

確かにかなりキツい見た目をしている。

細長い触覚に鋭い牙。節が無数にある長い胴体に、びっしりと生えている無数の足に嫌悪を催す人は多いと思う。

素材の買取を一切と行っていないと聞き、駄目だったかと一瞬思ったが……。

討伐依頼がたくさん出ているのであれば、素材を安価で購入できるのはという発想にすぐ辿り着いた。

「もし頼んだら、冒険者ギルドで素材の買取を行ってくれたりするのか? もしかしたら大量に必要になる可能性がある」

「フレイムセンチピードを大量に購入したいって本当に変わっているね。君には何度も助けられているし、もちろん融通は利かせるよ」

「その答えが聞けたなら良かった。とりあえず今日は帰らせてもらう。近い内にまた顔を出すから、その時に依頼するかどうかの報告をする」

「ということは、まだ動かなくていいのだね」

「ああ。まだ必要になるかどうか定かではないからな」

まずはフレイムセンチピードが、魔道具の素材として使えるかを確かめるのが先。

市場には出ていなかったため、これから西の森へ行ってサクッと狩ってこようと思っている。

そして明日、レスリーの知り合いの職人に渡し、素材としての適性を調べてもらう。

職人が魔道具の素材として使えると判断したら、マイケルに正式に依頼を出すつもりだ。

「分かった。すぐに動けるようにしておこう」

「それは助かる。それじゃまた後日——」

「あー……ちょっと待ってくれ」

用件を伝え終えた俺はフレイムセンチピードを狩るため、すぐに西の森へ行こうとしたのだが……マイケルが呼び止めてきた。

何やらもごもごとしており、また何か厄介な事でも起こったのかと疑ってしまう。

「なんだ? マイケルも俺に用事があるなら言ってくれ。……『都影』の件か?」

「いや、『都影』の件ではない。もちろん『都影』については色々と調べていて、近い内に君には相談をさせてもらうつもりだが、今呼び止めたのは別件なのだ」

『都影』ではないとなると、他に思い当たるのは――ギルド長だけ。

俺が締め落としたのを最後に、何も聞いていないからな。

「なら、ギルド長のことか?」

「…………ああ、そうだ。実は君に敗れてから、ギルド長の仕事を全うせずに修行を行っているのだよ。冒険者ギルドにも一切顔を見せることなく、ずっと北の山に籠もっているのだ」

「それで俺に何を頼みたいんだ? 再戦して、わざと負けてくれとかは絶対に受けられないぞ」

「そんなことは頼むつもりはない。いつでもいいから、様子を見て来てほしいのだよ」

「え? あのギルド長とはできれば顔を合わせたくない。マイケルが行ってくればいいんじゃないか?」

「私はギルドの仕事に追われていて動くことができない。ギルド長の仕事まで私がこなしているからね」

非常に疲れた表情を見せ、嘆くようにそう呟いたマイケル。

副ギルド長の仕事に加え、穴を開けているギルド長の仕事までこなしているとなれば、確かに様子を見に行く時間などないのか。

「他のギルド職員に行かせるとかもできないのか?」

「それも無理なのだよ。北の山は難度の高い魔物の巣窟でね、最低でもゴールドランクの冒険者でないと立ち入り自体を禁じているのだ」

そうなってくると、普通のギルド職員では入ることすらできないという訳か。

色々と面倒くさそうだが、フレイムセンチピードの件もあるし頼み事を聞いてあげるのが筋。

山籠りの原因を作ったのも俺な訳でもあるからな。

……はぁー。どこまでもギルド長とは相性が悪い気がする。

「分かった。来週でもいいのだったら引き受けよう」

「本当かね!? 冒険者にも依頼できない案件だったから、君が引き受けてくれるなら助かるよ。本当に感謝する」

「それなら来週の早朝にまた顔を見せる。その時にフレイムセンチピードの件を伝えるのと、ギルド長が戻っていなかったら様子を見てこよう」

「ありがとう。フレイムセンチピードの件は全力を尽くさせてもらうよ」

今度こそマイケルと別れ、俺は冒険者ギルドを後にした。

厄介な依頼を引き受けてしまったが、危険と言われる北の山に行くのは少し楽しみではある。

一番はギルド長が来週までに戻ってきてくれていることだが、戻っていなかったとしても北の山へ向かうのを楽しむとしよう。