軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

竜王国に帰還

「竜王国だ。帰ってきたー」

眼前に広がる大海原。

日の光に照らされきらきらと輝く海面。潮の匂いを運んでくる海風が肌を撫でる。

天気良好。風も良好な港には多くの船が乗り入れしている。

随分と懐かしく感じる光景に、瑠璃の気分は否が応でも上がっていく。

『ルリ、身を乗り出すな、危ない』

「はーい」

瑠璃ならば例え落ちたとしても魔法で自力で空を飛べるのだが、ここは大人しくジェイドの背に座り直した。

獣王国から飛んできた瑠璃達一行は寄り道はせず、真っ直ぐに城を目指す。

そのまま城の最も高い第一区の、竜体のジェイド達が降りても余裕の広さがあるテラスへと降り立った。

「はあ、到着ー」

ジェイドから飛び降りた瑠璃は、別に自分で飛んでいたわけではなくジェイドに乗っていただけなのだが、疲れたように息を吐き伸びをした。

ジェイド達竜族も次々に竜体から人の姿へと変化し、長かった旅路の終わりを実感し表情が緩んでいる。

「ルリ、私は執務室へ行くがどうする?」

「私はユークレースさんに帰ってきたこと伝えに行ってきます。ひー様も紹介したいし」

「そうか。ついでに城の中も見てくると良い。綺麗に直っているからな」

「はい」

ジェイドはフィンを連れて執務室の方向へと向かっていく。

「ひー様、ユークレースさんの所に行くよー」

「誰だそれは」

「この国の宰相さん。この城に住むなら顔見せておかないと。今後何やらかすか分からないんだから」

ひー様のことだ何かしらの騒ぎを起こすことは必至。

その後始末と迷惑は必然と宰相のユークレースに掛かってくる。

挨拶をしておくに越したことはないだろう。

城内を歩き回るにしても顔を覚えてもらう必要がある。

それに城で暮らすなら部屋も用意してもらわなくてはならない。

面倒くさいのか、仏頂面で鼻を鳴らすが素直に付いてくるひー様とコタロウ達を連れてユークレースの部屋へと向かう。

「おぉ、ちゃんと直ってる」

ジェイドの言う通り半壊になっていた城内は直されているようで、新しく作り替えたので寧ろ以前より綺麗になっていた。

よくもまあ、あの惨状から直せたものだと感心する。

直った城内を見ながらやって来たユークレースの部屋。

ノックをしようと手を上げたその時、部屋の外まで響く怒声が漏れ聞こえてきた。

「なーにやってるのよ!そろいもそろって取り逃がすなんて」

「申し訳ありません!」

怒鳴っている主はどうやらユークレースのようだ。誰かを叱っている最中らしい。

扉の外にもユークレースの苛立ちが伝わってくるようだ。

入りづらい空気をひしひしと感じつつ、恐る恐るコンコンとノックをすると、「何!?」と苛立った返事が返ってきた。

そーっと扉を開け顔を覗かせる。

「あら、ルリじゃない。帰ってきたの?」

「はい。今大丈夫ですか?」

「ええ、いいわよ」

そう言って瑠璃を迎え入れたユークレースは表情を一変させ側に立っていた兵をぎろりと睨む。

「出せる船は出してととっと捕まえなさい。このままじゃ海軍の名が泣くわよ!」

「は、はい、直ちに!」

ユークレースに怒鳴られた哀れな兵は慌てて部屋を出て行った。

それを見送った瑠璃がユークレースに視線を向けると……。

「美しいっ!」

ひー様がきらきらとした眼差しでユークレースの手を握っていた。

「こんな美しい人は滅多にお目に掛かれない」

「あら、そう?」

ひー様の向ける賛辞に最初は虚を突かれたような顔をしたが、すぐに満更ではなさそうに頬を染めるユークレース。

「やはり竜王国に来たのは正解だった。こんな美しい人に出会えるとは。素晴らしく私の好みだ」

美人のユークレースを前にごきげんなひー様だが、残念なお知らせがある。

「……ひー様、残念だけどこう見えてユークレースさんは男……」

「失礼ね、心は乙女よ!」

すかさずユークレースが訂正を入れたが、男であることに変わりはない。

美女好きのひー様の対象外であるはずだ。

しかし……。

「ふっ、舐めるな小娘。男か女かなど精霊である私には些末なこと。美しければそれで良い」

「え、いいの?」

確かにユークレースは女性より女性らしく綺麗だ。真実を知って涙する男達がいるほどに。

だがそれはちょっと節操がなさ過ぎではないかと思ったが、女性であれば年齢問わず言い寄るひー様には今更かもしれない。

「ユークレースというのか、美しい人。見た目だけでなく名まで美しい」

「あら、お上手」

「ひー様、それセレスティンさんにも言ってなかった?」

結局誰でも良いのか、この女好きの精霊は。

先ほど兵に怒鳴り散らしていた人物と同じとは思えないほど気分良さそうにしているユークレースは、今更ながら目の前の人物が誰なのか気になり始めたようだ。

ひー様を上から下に眺める。

「ところでルリ、この方はどなたなの?」

「ああ、女好きの火の最高位精霊です」

未だひー様に手を握られたまま、ユークレースは目を見張った。

「最高位精霊!?

あなたまた増えたの?どれだけ増えるのよ、ルリがどこか行く度増えてない?」

「何ででしょうね」

瑠璃にもさっぱりだ。これで十二精霊の内、ほぼ半分の五精霊が集まったことになる。

意図したことではないのに何故こうなったのか。

一国にこれだけ最高位精霊が集まるのも異例のことだろう。

「それに今度は人の姿なのね」

コタロウもリンもカイも動物の姿なので違和感を覚えるのは仕方がないのかもしれない。

「一応ペンギンにはなれますよ。亜人の体を使ってるようなので」

「あの姿は好かぬ」

だったらどうしてその姿を使っているのかと疑問が浮かんだが、ペンギンの姿が気に入らないだけで人間の方の姿はそれなりに気に入っているのだろう。

そうでなければとっくに体を変えているはずだ。

「でも竜族には好評だと思うよ。

後でペンギンの姿で城内歩いてみたら?

老若男女所構わず熱い視線を向けられると思うから」

「確かに竜族には好かれるでしょうね」

小動物に餓えている竜族にはきっとアイドルになれるだろう。

ユークレースも否定はしない。

「それより何かあったんですか?

ユークレースさんの声外まで響いてましたよ」

「ああ、今ちょっとした問題が起こってるのよ。

ここ数日海賊の被害報告が多発していてね。

海軍を動員したんだけれど後一歩の所で逃げられてるのよ。

ルリも海に出ることがあったら気を付けておいてね。

まあ、水の最高位精霊が側にいてルリに何かできるとは思えないけど」

「ですね。海の上でリンに喧嘩売るなんて自殺志願と同じようなものですから。

今のところ海に出る予定はないですけど気を付けておきます」

当分海に出る予定はないし、竜王国の海軍は他国と比べても優秀だ。すぐに海賊も捕まってしまうだろう。

「これからひー様もここで暮らすようなので、部屋とか用意してもらえますか?」

「ええ、分かった。指示しておくわ。場所は第一区で良いわね」

貴賓室があるのは第二区だが、何をやらかすか分からないひー様は目の届くところにおいていた方が良いだろう。

獣王国の二の舞になって、第二区がひー様のハーレム御殿になっては目も当てられない。

瑠璃は頷く。

「じゃあ、よろしくお願いしますね。

ひー様、行くよー」

「私はまだここにいる」

よほどユークレースがお気に召したようだ。

まだここにいてユークレースとの親交を深めたいらしい。

ユークレースもひー様から少し話を聞きたいそうだ。

最高位精霊と話をする機会など早々あるものではない。

瑠璃には良く分からないが、宰相として聞いておきたいこともあるようだ。

神光教の件でもひー様が一番神光教の動きを知っていた。

そちらの件でも話すことはあるのだろう。

ひー様を置いて瑠璃達は部屋を後にした。

ジェイドの執務室に向け廊下を歩いていると、城で働く竜族の人々とすれ違う。

「愛し子様、おかえりなさい」

「おかえりなさい」

「うん、ただいま~」

瑠璃を目にすると気安く声を掛けてくる彼らに、帰ってきたのだと実感する。

この気安さは獣王国にはないものだ。

あちらでは恭しく軽く声を掛けてくることなどなく、声を掛ける方も粗相がないようにとどこか緊張しているというのが伝わってきて、瑠璃自身もどこか気を張ってしまうところがあった。

しかし竜王国の城ではそれがない。この竜族の気楽さが安心できる。

やはり瑠璃は竜王国の空気の方が合っているようだ。

丁寧すぎる対応が悪いわけではないのだが、もっと気楽に過ごしたい。

なので竜族の砕けた態度は歓迎ではあるのだが……。

「愛し子様我らに癒しを!」

「はっ?」

瑠璃の目の前に立ちはだかった数人の竜族。

男性もいれば女性の姿もある。

「愛し子様が留守のせいで我らは禁断症状です」

「一日一回はあのもふもふを眺めなければ」

「試しに野良猫を触ろうとしたのですが、やはり逃げられて」

と、どうも彼らは瑠璃に猫の姿を要求しているようで、普段から猫の姿の瑠璃を愛でている者達代表らしい。

よくよく周囲を見回してみれば期待に満ちた眼差しが方々から突き刺さる。

その種族故に小動物から嫌われる体質の竜族。その反面、ジェイドを筆頭に小動物好きが多かったりする。

そんな彼らは猫の姿で城内を闊歩する瑠璃の姿に癒されていたのだが、獣王国に旅立っていたので、その間もふもふ欠乏症に陥っていたらしい。

「猫に、猫の姿になって下さい!」

「俺達が近付いても逃げない小動物がいないんです!」

「遠目じゃなくてもっと近くで可愛いものを見たい!」

「いや、まあ、良いけど」

あまりに必死の彼ら。仕事はどうしたと思ったがそこまで望んでいるならと瑠璃は腕輪を取り出し腕にはめて猫の姿になった。

「な、撫でても良いですか?」

『うん、まあ。でも力込めないでね』

瑠璃が承知すると、嬉しそうに破顔する。

竜族の自分の持つ握力の強さはよく分かっているのか、慎重に瑠璃の頭を撫でうっとりとする。

「ああ、このもふもふやっぱり良い」

「おい、次は俺、俺」

「その次は私よ」

いつの間にか瑠璃を愛でるための列ができていた。

気安い方が良いとは思ったが、遠慮がなさ過ぎるのは問題かもしれない。

完全に彼らは瑠璃を愛し子ではなく愛玩動物と認識している。

しかしあまりに喜んでいるのでぐりぐりと頭を撫でられるのを甘んじて受け入れる。

本当になんでこんなにもふもふ好きなのに恐がられるのか……。

いや、恐がられるからこそ余計に近付きたくなるのかもしれない。

瑠璃を撫で、ほくほくした顔で各々仕事に戻っていった竜族の人達。

そこにはげんなりとした瑠璃が残された。

そんなルリの頭を撫でる精霊達。

『ルリは人気者だねー』

『もふもふー』

『おつかれー』

『はあ、やっと終わった……』

その姿のままジェイドの執務室へと向かう。

いつものように執務室の中にコタロウ達は入ってこず、瑠璃だけが入る。

コタロウも神光教が捕まったことで若干警戒を緩めたようだ。

前はぴりぴりとした様子で瑠璃の側にはありんこ一匹近付けないといった気合が感じられたが、今は少し余裕が出てきたようだ。

まあ、まだ瑠璃には結界を張り続けていることに変わりはないが。

帰ってきて早々だというのに、不在時に溜まったのだろう書類に目を通しているジェイドの膝の上にぴょんと飛び乗る。

ジェイドもそれを当然と受け入れ、ぽんぽんと頭を叩かれると、膝の上に丸くなった。

以前は日常の一コマであったそんな光景も、随分と久しぶりのように思う。

やっと平穏な日常が戻ってきたような気がする。