軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

死人の村

村人全員が原因不明で全滅した後に、全員生き返ったという噂の村へと向かう。

アマルナからと、報告を受けていたというアルマンから聞いたので場所は分かっている。

村はウラーン山周辺の村の中で特に山に近い場所にある。

神聖化されているウラーン山に近ければ近いほどめったに人が来ないので、他との交流も少ない。

そんな村で起こった村人全滅の知らせ。

それがアルマンの下に来たのは、数カ月も経ってからだった。

しかも数年に一度しか訪れない商人が訪れたために発見されたということを考えると、まだ発見は早かったと言える。

生き残りはいなかったという商人の証言と、病気がまだ村に蔓延している可能性。知らせを受けたアルマンは感染の危険を鑑み、特に兵へ調査はさせずその村への立入を禁止した。

それで終わったかに思えたのだが、数年経って村人が生きているという噂。

正直、村人が死んだということ自体が噓だったのでは思える。

山の麓にぽつんとある集落の外に下り立った。

周囲はしんと静まり返り、誰かが住んでいるとは思えないほど人の気配も声も感じない。

とりあえず集落の中に入り調査してみようと瑠璃が村の中へと足を進めたその時だった。

薄い膜を通り抜けたような奇妙な感覚に驚き、足をもつれさせ転けてしまった。

「うわっ、痛っ」

咄嗟に手を付いたおかげで顔面から地面に激突するのは免れたが、代わりに手のひらと膝を擦りむいてしまった。

じんわりと血が滲む。

「おいおい、何やってんだ」

「だって、今なにか……」

何もないところで転んでしまった瑠璃に、ヨシュアは呆れた顔をしながら一歩を踏み出した。

しかし、瑠璃の元へ行く直前で足を止めると、宙を見つめ眉をひそめる。

ペタペタと、まるでそこに壁があるかのように触るパントマイムのように宙に手をやる。

そんなヨシュアの奇行にユアンも不思議そうだ。

「何してるんだ?」

「……結界だ。ここに結界がある」

その言葉を確認するようにヨシュアが触っている辺りを目を細めて見つめるユアンは、一拍の後「本当だ」と呟く。

一見すると見えない。しかし意識をこらして見れば、外界を遮断するように魔力の壁が確かに存在した。

いたたっと、言いながら手と足についた砂を払い立ち上がる瑠璃に、コタロウとリン、精霊達が飛んでくる。

『ルリ大丈夫ー?』

『痛いー?』

「うん、平気。それより結界?」

「ああ。それもただの結界じゃないな」

ヨシュアは今度はそこにあるらしい結界を越えて村の中からその結界に触れる。

「外からは入れるが、内からは出られない。そんな結界が村全体に張られてる」

結界と聞いて瑠璃は納得する。

あの薄い膜を通る感覚には覚えがあった。

チェルシーのいる家の周囲にも張られている結界だ。

あれは外からの侵入を防ぐものだが、これは内から出られないようになっているらしい。

「じゃあ出られないの!?」

「いや、張った奴より魔力が高ければちゃんと出られるさ」

それを証明するように、ヨシュアは見えない結界の内と外を行ったり来たりする。

ヨシュアに出られるのなら、ジェイドに匹敵するほどの魔力を持つ瑠璃なら余裕で出られるだろう。

瑠璃はほっとする。

「けど、出られない奴が出てきても困るし壊しとくか」

少し勢いを付けたヨシュアが、結界に蹴りを入れると、ぱりんという音と共に呆気なく結界が消失した。

「これでいい」

「でも、なんで結界なんて。外からの侵入を防ぐためのものならまだしも、出られないものなんて」

「ああ、まるで何かを閉じ込めてるようだな」

「閉じ込めるって何を?」

「普通に考えればここには村人しかいないんだし、村人ってことになるが……」

何故そんなことをする必要があるのかという疑問が浮かぶ。

「とりあえず村の中の捜索だな。

村人から話を聞くのが一番だろ」

少しの不安を感じつつ、全員で村の中へと入る。

念のため瑠璃とセレスティンを中心に、守るように進んでいく。

真っ昼間だというのに村は怖くなるほど静かで、なんだか背筋がざわざわとするような不安が湧き上がってくる。

村はそんなに大きくはなく、すぐに村の中心部へと辿り着いた。

これだけ大勢で立ち入ってきたのだ、誰かがいるなら気付いているはず。

それなのに誰も顔を見せない。

「すみませーん!誰かいませんかー!」

瑠璃の声が静かな村の中で響く。

直後、近くの家からガタンと音がし、兵達が警戒を露わにする。

じっとそちらに集中していると、反対側の家の方から一人男性が無言で出てきたので一瞬どきりとする。

「あっ、人だ。すみませーん、ちょっといいですか?」

やはり村人は生きているようだ。

話が聞けるだろうと、相手に警戒されないよう声を明るくしながら瑠璃が声を掛ける。

だが、どうも様子がおかしい。

めったに商人も来ないところなので、王都のように物が手に入らず、服も新品のような綺麗な物は着れないのは予想できる。

だが、それにしたって目の前の男性の服はぼろぼろだった。

男性自身も薄汚く、いったいどれだけ体を洗っていないのだろうか。

それに酷く痩せていた。

まるでその日の食べ物にも困る貧困者のように、手も足も骨と皮だけのガリガリだ。

くぼんだ目に生気はなく、虚ろな眼差しでこちらへと歩いてくるその足取りはおぼつかない。

ここに来るまでに見たどの村の人とも大きく違うその様子に、瑠璃はいい知れない不安を感じながらも村人だろう男性に声を掛けた。

「あの、大丈夫ですか?どこか具合でも悪いんですか?」

そう声を掛ける瑠璃に、ぎょろりとした目を向けた男性が突如牙を剥いた。

「うがあぁぁぁ!」

「えっ」

「ルリ!」

奇声を発し襲い掛かってくる男性を、瑠璃はポカンと見つめる。

素早くユアンが間に入り、ヨシュアが男性を殴り付ける。

殴られた男性は吹っ飛ばされ地面に転がった。

咄嗟だったのでヨシュアも手加減ができず、内心でやばいと焦る。

竜の力で力一杯殴られたのだ。死んではいないだろうがしばらく動くなどできない、そのはずだった。

しかし、竜族に殴られたとは思えないほどダメージを感じさせず、すぐに起き上がってきた男性に、ヨシュアも驚きを隠せない。

男性は近くにいるヨシュアには目もくれず、瑠璃へと狙いを定め向かってくる。

今度はユアンが蹴りを食らわせるが、またもや立ち上がる。

そんな男性へと気を取られていると、先ほど物音のした家から数人の人が出てきたのを皮切りに、周囲の家からぞろぞろと何人もの人が出てきた。

この村の住人なのだろうか。

彼らもまた虚ろな眼差しで生気を感じさせない。

そしてまるで言葉を知らない獣のようにうめき声を上げ襲い掛かってきた。

何故か近くにいるヨシュアや他の者には目もくれず瑠璃のみに向かって。

「うぐあぁぁ」

「なんで私ぃ!?」

「やべっ、おい、ルリを守れ!」

ヨシュアの声に、慌てて竜族の兵が瑠璃を守りに走る。

すっかり周囲を囲まれてしまった瑠璃達。

兵達はできるだけ瑠璃とセレスティンを真ん中に寄せる。

これまでは殺さないよう素手で対応していたが、どんなに殴っても蹴っても起き上がってくる彼らに、ヨシュア達も手加減をしている余裕もなくなってきた。

そしてとうとう獣王国の兵が剣を抜いた。

「うががあぁぁ」

襲い掛かってくる人の胸に、白銀に光る剣を深々と突き刺した。

「ひっ」

正当防衛とは言え、人を刺す光景に目をぎゅっとつぶる。

胸を一突きされたのだ。普通ならばそのまま絶命してもおかしくない。

しかし、剣を胸から生やしたまま、まるでそんなことはお構いなしに奇声を上げ暴れる。

「な、なんだこいつ!?」

「こっちもだ」

他にも兵達が致命傷と言える攻撃を与えたはずだというのに、倒れても倒れても起き上がってくる。

死など彼らには存在しないかのように。

「何これぇぇ!人間!?ゾンビ!?」

殺しても起き上がってくる人に、コタロウ達にしっかり守られている瑠璃も平静ではいられない。

隣にいるセレスティンも、青ざめている。

「愛し子様方お下がり下さい!」

ザンッと兵の一人が首を刈り取った。

「これならどうだ」

さすがに首と胴体が離れれば動きが止まると考えたのだろう。

胴体はその場に倒れ、飛んだ首がごろごろと瑠璃とセレスティンの足元に転がってきた。

それだけでも十分悲鳴を上げるに足りるが、動くはずのない生首と目が合った。

そしてにやりと笑ったのだ。

さらに首のない胴体がびくびくと動き出し、まるで自身の首を探すように瑠璃達の方へとゆっくり這いずってきた。

「きゃあぁぁぁ!」

「うぎゃあぁぁぁ!」

これには堪らず声を枯らしてもおかしくないほどの悲鳴を上げた。

ちなみに、女性らしい悲鳴を上げたのがセレスティンで、男らしい雄叫びを上げたのが瑠璃である。

「こっち来る~!」

「きゃあぁぁ」

ヨシュア達は自分達で手一杯。

瑠璃達自身で何とかしなくてはいけない状況だ。

首なし胴体にてんやわんやの瑠璃とセレスティンをよそに、周囲の精霊達は……。

『わぁ、首がないのに動いたよー』

『凄いねぇ。なにこいつ』

『ゾンビだよ。僕映画見たことある』

映画と言ったのは瑠璃と共にこちらの世界に来た、向こうの世界を知っている精霊だろう。

そこにカイも加わり『うおお、すげぇ』と言っているが、怖がる瑠璃達とは反対に、どことなく楽しそうに聞こえるのは気のせいか。

すると、首なし胴体の下の地面がぼこりと陥没し、胴体は落ちていった。

地面はどんどん大きく深く広がっていき、人が這い上がって来られないほどの大きな穴を作った。

こんなことをできるのは地の精霊であるカイだろう。

『おーい、お前ら、倒せないならこの中落としていけ』

「カイ、えらい!」

死なない人と格闘していた兵達はカイの言葉にはっとし、次々に穴へ落としていく。

蹴落とし、投げ落とし、突き飛ばし。そうやって数を減らしていく。

コタロウも瑠璃の側にいながら、風の力を使って吹き飛ばして落としていく。

死ぬことはないが戦闘力はあまりないらしく、どんどんと落としていき、這い上がろうとうごめく村人達の姿がある。

穴が深すぎて土を掻くだけで登っては来られないようだ。

全員を落としたところで皆ほっと息を吐く。