軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

二日目

獣王国二日目、朝の目覚めは沢山の人の気配で目が覚めた。

周囲を見回すと、ベッドのわきに静かに佇む数人の女性の姿。

いつからいたのか音もなくじっとこちらを見据える女性達にたじろぐ。

思わずびくりと体が震え、一瞬で寝ぼけた頭も覚醒した。

「な、何!?」

飛び上がるように体を起こせば、ベッドわきに立っていた数人の後方に、瑠璃に付けられた沢山の世話係が部屋にいつの間にか入ってきており、瑠璃の目覚めを今か今かと待っていたようだ。

「おはようございます、愛し子様」

一人がにっこりと微笑み挨拶をすると、それに追従するように他の者達が「おはようございます、愛し子様」と、声を揃える。

何やら、朝から頭痛を感じる瑠璃の前に、水の入った桶が差し出された。

何の意味があるのかと、不思議そうに桶を差し出してきた女性を見上げる。

「こちらは獣王国で湧き出る温泉水でございます。

こちらで顔をお洗い下さい。きっとお肌もつるつるになりますよ」

お肌つるつるという言葉に、それまで感じていた頭痛も吹っ飛ぶ。

普段は顔も歯も浄化の魔法ですましてしまうのだが、つるつるになるのなら温泉水を使わない手はない。

獣王国では洗顔にも魔法は使わず温泉を利用しているのかもしれない。

よくよく見てみれば、ここにいる女性達はお肌が綺麗な気がする。

普段から温泉を使っているからなのかも知れないと思うと、俄然期待は高まる。

桶の水をすくい顔を洗うと、すかさず他の女性が瑠璃に顔を拭くための布を渡してくる。

それが終わると、おもむろに寝間着を脱がしにかかる女性達。

これには瑠璃も目を剥いたが、拒絶する間もなく脱がされ、服を着せられる。

最初はセレスティンが着ているような獣王国の衣装と思われる露出度の高い服を着せられそうになったが、そこは死守して竜王国から持ってきた半袖のワンピースを着ることになった。

だが、それすら手伝いをされながら着て、今度は髪をとかしてもらったりと、何とも至れり尽くせりだ。

何だか自分がどこぞのお姫様にでもなったような気がしてくる。

いや、実際は愛し子なのだから王族並みの待遇は当然なのだろう。

セレスティンには沢山の世話係が付いているようだし。

だが、これまでこのような対応をされたことのない瑠璃には戸惑いが大きい。

果たしてこれが愛し子としての普通の対応なのか、竜王国の対応の方が一般的なのか瑠璃には比べる相手が少なくて分からない。

アゼルダはどうだっただろうかと思い出すが、そもそもアゼルダとは彼女の暴走を止めに行く時に顔を合わせるぐらい。

彼女がどんな生活をしていたかまでは知らないので比べようがない。

「お食事の用意もできておりますよ」

部屋の一角。

テーブルと椅子を使う竜王国と違い、この獣王国は床に絨毯を敷き、その上に座って食べるスタイルのようだ。

それ故、床には細かい模様の綺麗な絨毯が敷かれており、その上に食事が並んでいた。

正座文化のある国で育った瑠璃には床に座って取る食事も忌避感はなく、言われるままに食事の前に座るが、竜王国との文化の違いを強く感じる。

瑠璃の身支度をしている間に運んできたのか、食べ物からはまだ湯気が昇っている。

それもとても瑠璃一人とは思えない、ここにいる全員が食べても問題のない量と種類がずらりと並んでいる。

絨毯の上に座ってみるが、コタロウとリンとカイ以外座ってこないのを見るに、やはり瑠璃一人分の量のようだ。

いや、コタロウ達も食べるかもしれないという予想なのかもしれない。げんにカイは食べる気満々だ。

だとしてもこの量はいささか多すぎる。

瑠璃とカイの二人で食べたがかなりの量残ってしまった。

それにヨシュアが言っていたようにスパイスのきいた食事は朝からは少ししつこい。

これが毎日だとさすがにつらいかもしれない。

あっさり目の食べ物を選びながら食べていった。

そうしてお腹も満足して一息ついていると、世話係の一人から提案をされた。

「愛し子様は我が国の温泉を大層楽しみにしていらしたとか。これから温泉に入りに行きませんか?」

「ぜひー!」

当初の目的、温泉に入れると聞いて即答した。

向かったのは王族が使う、この城の中で最も豪華で広い温泉だという所。

城内には王族用や妃用、城で働く者用と沢山の浴室があるようだ。

中でも王族用や妃用のは種類も豊富で、内装の違う物がいくつかあるようだ。

王族用は王族以外に愛し子も利用して良いということで、遠慮なく使わせてもらう。

瑠璃の他に世話係や瑠璃の護衛のためにやって来たヨシュアやユアン達竜族の兵も合流して移動するため、かなりの大移動となった。

ヨシュア達男性は中まで入れないので入り口で別れる。

そこで問題となったのはコタロウ達。

女性的な話し方をするリンは同性と認識しても大丈夫だろうか。

しかしユークレースのような場合もある。

そして、男っぽい話し方をするコタロウとカイは異性と判断すべきか……。非常に迷う。

とりあえず聞いてみた。

「コタロウ達どうする?一緒に行く?ここで待ってる?」

『我はルリと行く』

『行くに決まってるじゃない』

『俺も温泉入りてー』

と、付いて行く気満々のようだ。

「付いてくるのは良いけど、コタロウ達って性別はどっちなの?男?女?」

これで男という答えが返ってきたなら、申し訳ないがここでヨシュア達と待っててもらうしかない。

すると、カイから『どっちでもねぇぞー』という答えが返ってきた。

その曖昧な答えに首を傾げると、リンがパタパタと飛んでくる。

『精霊に男とか女とかいう性別の概念はないわ。男でもないし女でもないから、気にする必要はないのよ』

「そうなんだ」

それならばいいだろうと、コタロウ達を連れ入っていく。

温泉独特の匂いが広がる浴場はとても広く、ゆったりとつかれそうだ。

ゆっくりと足の先をお湯につけてみるとほどよい熱さで、そのまま肩まで浸かる。

「はあ、気持ちいい~」

続いてコタロウとリンも中に入ってきて、カイはどぼんと激しい水しぶきを上げながらお湯に飛び込んだ。

皆気持ち良さそうだ。

「愛し子様、お湯加減はいかがですか?」

「ちょうど良いです、言うことなし。幸せ~」

「お気に召して頂けたようで安心致しました」

久しぶりの温泉はやはり気持ちいい。

このお湯に浸かった時のほっとした気持ちは何とも言えない。

お湯に浸からない竜王国の人々は絶対に損している。

ぜひとも竜王国に温泉を作って、この気持ちよさを共有し、共感してもらいたい。

きっと竜王国の人々も一度知ったら離れられなくなるに違いない。

「竜王国にも欲しーい。

帰ったら絶対作ろうね」

温泉に浸かって良さを理解したらしいリンとカイから『さんせーい』という声が上がる。

コタロウも反対ではないようだ。気持ちよさに目を細めて首まで浸かっているところをみると、コタロウも温泉はお気に召したらしい。

コタロウとリンは静かに浸かり、カイはプールと勘違いしたようにそこらを泳ぎ回ったりと、各々楽しんでいるようだ。

しばらくして体が温まってきた頃、世話係の女性から声が掛かる。

「愛し子様、準備が整いましたので、そろそろお湯からお上がりになりませんか?」

先ほどから動き回り何やら用意をしていた女性達の様子は目に入ってきてはいた。

どうやら何かの準備ができたらしい。

あまり長く入っていてものぼせるので、提案されるままお湯から上がると、簡易のベッドのようなものが用意されていた。

「こちらに横になっていただけますか?」

言われるままにうつ伏せに寝そべる。

「では失礼致します」

そう言って、瑠璃の背にとろりとした良い香りのするオイルがかけられ、マッサージが始まった。

プロのエステティシャンなのではと思うほど上手い。

気分は高級スパに来たかのよう。

「なんか、贅沢……」

あまりの気持ちよさにうっとりとしていると、その様子を見ていた好奇心旺盛なカイがとことことやって来る。

『なあなあ、それ俺もやりたい!』

「まあ、そうですか。ではこちらに」

カイも横になると、瑠璃と同じオイルが体にかけられ、伸ばすようにマッサージをしてもらう。

『おおー』

カイもその気持ちよさに感嘆の声を上げる。

「獣王国来て良かった」

竜王国では体験できない代物だ。

ぜひとも竜王国にも広めたい。