軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

獣王と愛し子

「あー、どうしよう。憂鬱だー」

自分以外の愛し子に会えるのを何気に楽しみにしていたのだが、相手が自分に敵意を持っているのかもしれないと聞かされた瑠璃。

しかも恋敵。

獣王国の愛し子がどんな人物か瑠璃には分からなかったが、できるならそんな相手と会いたくない。

『安心しろ、ルリ。獣王国の愛し子がルリに何かしてきたら我がやっつける』

『私も-。二度とルリに手を出そうなんて思わないように教育してあげるわ』

『おっ、じゃあ俺も手伝ってやるよ』

コタロウ、リン、カイと、それぞれが瑠璃を励ます。

コタロウとリンは瑠璃を案じてだが、カイの場合は面白そうだからという理由だろう。

「有り難いけど余計に大事になりそうな気がする……」

何かと過激な発言の多い精霊故に、瑠璃は大いに不安になった。

それ位なら会わないようにしていた方がお互いのためだろうと、瑠璃は可能な限り獣王国の愛し子から逃げることを決意する。

そのまま庭園にでも行こうかと第一区の中を歩いていると、その途中のテラスで話をしている男女の二人組が目に入ってきた。

「誰だろ」

第一区に入れる者はある程度決まっている。

側仕えや警備の兵の者なら人数が多いので顔は覚え切れていないが、そこにいる二人の服装は兵のものではない。

女性はこの辺りでは見ない薄い生地の、まるで踊り子のような服をしている。

そして男性は身なりの良い服で、瑠璃は不思議に思った。

恐らくだが、男性はかなり高位の者だろうと瑠璃には見えた。

そもそも第一区に入れる兵や側仕え以外の服を着ている者と言えば高位の文官だ。

ジェイドに仕える高位の者なら数は少なく、普段ジェイドの執務室に入り浸っている瑠璃なら顔ぐらいは見たことがありそうなものだが、瑠璃には全く見覚えがない。

しかし、女性をよく見ればその二人が誰か容易に理解できた。

女性の周りには幾人もの精霊が浮かんでいる。

そう、まるで瑠璃のように。

「もしかしてあれが獣王国の愛し子かな?」

二人に視線を向けていると、視線に気付いた男性の方と視線が合ってしまい、瑠璃はどきりとする。

勿論それは恋愛的な意味ではなく、目が合ってしまったと後悔するようなどきどきだ。

男性はずんずんと瑠璃に近付いてくる。

男性が近付いてくるにつれ、瑠璃の視線が段々と上に上がっていく。

「でかい……」

思わずそんな言葉が出てきた。

竜族も背の高い者が多い種族であり、ジェイドも瑠璃と比べ随分と高いが、目の前の男性はそれ以上に大きい。

体格も良く、服の上からでも分かる筋肉質な体格は、尚更男性を大きく見せている。

目に見えない威圧感を感じ、思わず後退る瑠璃。

「精霊を引き連れている所を見ると、お前が竜王国の愛し子か?」

「は、はい……」

少し怯えながら瑠璃が答えると、男性は口角を上げる。

「やっぱりか。……っと自己紹介がまだだったな、俺は獣王アルマンだ」

瑠璃が警戒している事に気付いたのだろう。

アルマンは思い出したように自己紹介をした。

「私は瑠璃です。

……獣王様っていうと、あのお妃が十九人いるっていうあの……」

寧ろ瑠璃には獣王といえばその印象しかない。

「どういう覚え方してるんだよ。

いや、間違っちゃいないんだが……」

一夫一婦制の国で育ち、なお且つ番い一人を生涯に渡り愛する竜族に囲まれた瑠璃の眼差しが、若干軽蔑の色を持ってアルマンを見上げる。

アルマンも何となくその眼差しに気付きばつが悪そうにする。

「まあいい。

同盟国だからこれから会うこともあるだろう、よろしく頼む」

「はい、こちらこそ」

アルマンが差し出した手を取り握手をする。

次に振り返り一緒にいた女性を紹介する。

「こっちが獣王国の愛し子のセレスティンだ。

同じ愛し子同士仲良くしてくれ」

「よろしく」

セレスティンが言葉少なに、告げる。

会わないようにしようと決意したばかりの相手の登場。

知らず知らずのうちに背筋がぴんとなる。

まるで恋敵を見極めるかのような眼差しは、瑠璃の気のせいでなければ厳しいように見え、居心地が悪く感じる。

しかし眼差しは厳しく感じるものの、敵意は向けられなかったので、ほっとする瑠璃。

「初めまして、瑠璃です」

「セレスティンよ」

愛想が良いとは言い難い表情のセレスティンだが、もっと喧嘩腰で来ると思っていた瑠璃は気にしない。

セレスティンとも握手を交わすと、セレスティンは瑠璃から視線を外し、瑠璃の側にいるコタロウ達に視線を移した。

「あっ、この子達はコタロウとリンとカイで、肉体を持っている精霊です」

魔獣と勘違いしないよう精霊だと教えておく。

するとセレスティンは、コタロウ達に向かい片膝をつき跪いた。

その行いに瑠璃は目を丸くする。

「セレスティンと申します。

世界の管理者たる精霊の中で最も高位であるあなた様方にお会いできて光栄に思います」

そう言って頭を伏せるセレスティン。

それを困惑したように見つめる瑠璃。

そこに陽気なカイの言葉が落ちる。

『堅っ苦しいの嫌いだからそういうのいらないって。気楽にしてくれ』

「はい」

カイに言われて立ち上がったセレスティン。

未だ困惑した瑠璃にアルマンが声を掛ける。

「驚かせたか。獣王国は他国に比べ精霊信仰が深い国だ。

その中でもセレスティンの一族は特に信仰深くてな。

精霊とは信仰の対象。どの種族より尊敬と敬愛の情が厚いんだよ」

「そうなんですか」

精霊信仰のあるこの世界で育っていない瑠璃にとっては、コタロウ達は友人のような存在だ。

だがセレスティンにとっての精霊という存在は違うのだろう。

信仰の対象として見ているのならば、セレスティンの行動も頷ける。

同じ愛し子でも精霊への考え方は様々だ。

「ルリさん」

「はいっ」

突然セレスティンに名を呼ばれてびくりとする。

じっと瑠璃を見据えるセレスティンに瑠璃は気圧されないように負けじとセレスティンを見つめる。

喧嘩は嫌だが、瑠璃とてジェイドが好きな気持ちは負けていない。

ジェイドを好きなことで必要な喧嘩だというなら受けて立つ気はある。

何となく目を逸らしたら負けという気持ちが浮かび、視線を固定する。

「賊が捕まるまでしばらくお世話になるわ」

「あっ……はい……」

感情にまかせ罵詈雑言でも浴びせられるのかと思いきや、予想と違った反応に面食らう。

応戦しようと少し意気込んでいたのに、不完全燃焼を起こしたような気分だ。

そうして特に衝突もなく、セレスティンとの初めての会話は終了した。

***

瑠璃が去っていった後のテラスでは、アルマンとセレスティンが残されていた。

「今回は随分と大人しかったな。

今までの女達みたいに食って掛かるかとひやひやしたぜ。

やっぱり愛し子相手だから遠慮したのか?」

これまでにジェイドに言い寄る女は少なからずいたのだが、それらを全て蹴散らしてきたのは他ならぬセレスティンだ。

今回はジェイド自身が選んだ番いということで、癇癪でも起こすかとアルマンはひやひやしていたのだが、存外セレスティンは冷静だった。

排除しようと動くこともしていない。

話を振られたセレスティンは不機嫌そうな顔だ。

「当たり前です。

彼女はジェイド様自らが選ばれた番いですもの。

そんな彼女に、これまでの女達のように攻撃なんてしてしまったら、私がジェイド様に軽蔑されるではありませんか!」

「あー、まあその可能性は高いな」

竜族の番いに手を出すのは愛し子に手を出すのと同じぐらいに危険な行いだ。

番いを攻撃されればジェイドはセレスティンを許すことはないだろう。

つまりセレスティンは番いに選ばれる前だったら相手が愛し子であろうと排除に動いていたともとれる。

アルマンは既に瑠璃が番であること、セレスティンがちゃんと状況を確認できる者であったことを良かったと思った。

ジェイドの事になると一生懸命になるセレスティンだが、行動を起こした後、その事によりジェイドがどんな反応を起こすか、それをきちんと考えられないほど愚かではなかった。

「分かっていて彼女に何かはできません。

ジェイド様は節操なしなアルマン様とは違うのですから!」

「おい、ジェイドを褒めるふりして俺をけなしてるだろ。

俺にだってジェイドみたいに妻への愛情はある!」

アルマンは抗議の声を上げるが、セレスティンからは冷めた眼差しが向けられる。

「アルマン様は素晴らしい王ではあると思いますけど、女性関係に関しては信用しておりません。

女同士が寵を争っていてもにやにや笑って見ているような方なのですから。

もしジェイド様の立場でも酒の肴に傍観しているだけに決まっています」

「えぇー、だって可愛いじゃねえか。

俺の寵を争って必死になってる女達って」

「私には理解できません」

セレスティンの一族もまた、一人の夫に一人の妻しか持たない種族なので、十九人も妻を持つアルマンの気持ちは理解できない。

「取りあえずここにいる間に彼女がジェイド様に相応しい人物か見極めてやります!」

決意表明をするセレスティンに、アルマンは頼むから面倒は起こさないでくれと心の中で思った。

***

セレスティンとアルマンと別れた瑠璃が、庭園でコタロウのふかふかとした体をベッドに休んでいると。

「ルリ!」

声のした方を振り返ると、ジェイドが走ってくるのが見え、立ち上がる。

「あっ、ジェイド様」

ユークレースからでも帰ってきたのを聞いたのだろう。

一目散に瑠璃を目指してやってくる。

「ルリ、会いたかった」

そう言って苦しいほどにぎゅっと抱き締めるジェイドに、瑠璃はくすくすと笑う。

「数日会わなかっただけじゃないですか」

まるで何ヶ月も会わなかったのではと思わせるジェイドにおかしくなってくる。

わずかに体を離し、見えたジェイドの顔はむっとしていた。

「何だ、ルリは私と会えなくて寂しくなかったのか?

私は一日たりともルリと離れていたくないというのに」

「いえ、私もジェイド様と会えなくて凄く寂しかったです」

ジェイドの機嫌が下降していくのを感じ瑠璃が慌てて否定すると、当然だとばかりに満足そうな顔になる。

そして再び強く抱き締められる。

瑠璃の存在を確認するかのように強く。

わずかな息苦しさを感じ身じろぎをすると腕の力が弱められ、瑠璃はほっとしつつジェイドに身を任せた。

少ししてカイを紹介しなければいけないことを思い出した瑠璃は、ジェイドから離れようとしたのだが、瑠璃が離れることを拒否するように腕は解かれない。

「ジェイド様、ちょっと離して下さい」

「嫌だ。まだ足りない」

「そうじゃなくって、カイを紹介したいんです」

「カイ?」

そこでようやく緩まった腕から抜け出してカイを探すと、コタロウの尻尾を枕にお腹を出して爆睡しているカイを発見した。

いくら最高位精霊だとしても無防備すぎないか?と思いつつ、瑠璃はカイの元に行き、カイの体をゆさゆさと揺さぶる。

「ほら、カイ起きて」

「精霊か?」

半信半疑といった様子でジェイドが問い掛ける。

「そうです。初代竜王様と契約していた地の精霊です」

それを聞いたジェイドは目を見張った。

「リディアと契約している私が気になって見に来たらしいんですけどね。

何だかそのまま契約することになってしまって……」

「……精霊と契約するのは本来中々できることではないのだが、ルリを見ていると簡単のように感じてしまうな」

「皆押し売りのように契約していきますからね」

瑠璃は契約した時のことに思いをはせた。

何も知らず、不便だからと名を付けたコタロウは置いといて、リンも突然現れたかと思えば名を付けろとせがみ、リディアとカイに関しては瑠璃の了承もなく勝手に契約されていた。

まさに押し売り。

まあ、特に契約したからといって何かが変わったわけではないので、特に嫌だと思ったことがないのは幸いだ。

むしろペットが増えて目の保養になる。

カイの目つきの悪さは少し気になるが、慣れれば可愛いものである。

以前のコタロウの体も見慣れれば可愛かった。

『う~』

漸く目を覚ましたカイ。

まだ眠そうにしているが、ゆっくりと起き上がった。

「カイ、ほらジェイド様よ。今の竜王様」

目をしょぼしょぼさせながらカイはジェイドを見上げる。

『お前が今の竜王か?俺はカイだ、よろしく』

「竜王をしているジェイドだ。お会いできて光栄に思う」

『おう』

簡単な挨拶をすませた後、カイは大きなあくびと伸びをする。

その仕草は可愛いのだが、如何せん目つきが悪い。

カイもどうしてまたそんな目つきの悪い体にしたのか疑問である。

『そうそう、今ここに他の愛し子も来てるんだろ?

精霊の気配がいっぱいある』

「うん、獣王国の愛し子の他にセルランダって国の愛し子も来てるみたい。

ですよね、ジェイド様」

「……ああ、今は第二区にいる」

若干の間が少し気になった瑠璃。

『よおし、一度見に行ってみようぜ!』

「私は無理よ。どんな人か気になるけど、セルランダの愛し子とは会っちゃ駄目らしいから」

『なんだ、つまんねえな。

仕方ない、俺らだけで行くか』

そう言ったカイは、コタロウの上にピョンと跳び乗った。

驚いたのはコタロウだ。

『むっ、我も行くのか?』

『当然!どんな奴か気になるだろ?

もし面白い奴だったら、ルリとの契約止めてそいつと契約しても良いしな』

『相変わらず地のは自由よね』

呆れたような言い方だが、リンも付いていくのかコタロウの頭の上から下りようとはしない。

『それ、行くぞー』

そうして、コタロウに乗ってどこかへ行ってしまった。

残っていた精霊達も互いに顔を見合わせた後、気になったのかコタロウ達の後に付いていった。

「……行っちゃいましたね」

「そうだな」

騒がしい精霊達がいなくなり、その場にわずかな沈黙が落ちる。

これからどうしようかとジェイドを見上げると、ジェイドの顔が近付いてきてちゅっと軽く頬に唇が寄せられた。

目を丸くする瑠璃。

何かを告げる前に引き寄せられ、更に額に瞼にまた頬にと軽い口付けを落としていく。

くすぐったそうにする瑠璃を、最後はぎゅうっと瑠璃を抱き締め、ジェイドは小さくため息を吐いた。

「はあ、瑠璃は可愛いな……」

「何ですか急に」

「猫の姿も可愛いし、癒される。

あの国の愛し子とは大違いだ」

「あの愛し子?」

瑠璃に浮かんだのはセレスティンとまだ見ぬセルランダ国の愛し子のこと。

「セルランダの愛し子だ。

少々……いや、少々ではないか、我が儘が過ぎるのでな。

どうも気に入られてしまったらしくて、逃げるのに苦労した」

「ジェイド様……。獣王国の愛し子にも好かれてるのに。

愛し子に気に入られやすいんじゃないですか?」

「それをどこで聞いたんだ」

「ユークレースさんです。それで気をつけろと言われたんです。特に何も言われませんでしたけどね」

「会ったのか!?」

ジェイドは驚いた声を上げ体を離し瑠璃の顔をのぞき込む。

「はい、ここに来る前に」

「何かされなかったか!?」

「いいえ、挨拶をしただけです」

警戒していた瑠璃自身が恥ずかしくなるほど、何事もなかった。

「そうか、それなら良かった。

まあセレスティンも竜族の番いに手を出すほど愚かではないだろう。

それでも何かあったら言ってくれ」

「言うのはいいんですけど、ジェイド様に何かできるんですか?

だって相手は愛し子ですよね?」

「うっ…………」

愛し子同士の喧嘩になってしまった場合、いくら竜族であろうと止めるのは無理なのではないかと瑠璃は思った。

瑠璃も愛し子同士が喧嘩になった場合、精霊がどんな行動を取るのか分からなかったが、少なくともジェイドが口を挟める状況ではないような気がした。

特にジェイドを貶めるつもりで言ったわけではないのだが、役立たず扱いされたその言葉は突き刺さったようで落ち込んでしまった。

「いや、セレスティンは話の分かる者だから、きちんと話をすれば大丈夫だ」

「恋敵に対して怒り狂ってる相手に、とうの男が庇ったらよけいに火に油を注ぐと思うんですけど」

瑠璃も経験したわけではないが、ドラマではよくあるパターンだ。

ドラマならばいいが、それを経験するのは遠慮したい。

追い打ちを掛ける瑠璃の言葉にジェイドはそれ以上言葉が出なかった。

「えっと、大丈夫ですよ。

もしそうなったら自分で何とかしますから。

それにジェイド様が好きで戦いになるんだったら、私も負けてられません。

出会った時間は彼女より短いかもしれませんけど、私だってジェイド様の事が好きですから……」

恥ずかしそうに瑠璃が呟くと、ジェイドは目を見張った。

そして嬉しそうに破顔すると、今度は深く唇を合わせた。