軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

閑話

セルランダ国の愛し子アゼルダが生まれたのは裕福でもないが貧乏というわけでもない極々平凡な農家の夫婦の元。

両親は人間で精霊を見る力がなく、アゼルダが機嫌良くしている時、その視線の先に精霊がいることには気付いていなかった。

町の中にも精霊を見る者もいなかった。

王都ならば他国から来た亜人も往き来していたりするので、彼女の存在に気付いた者もいたかもしれないが、彼女が生まれた町は王都から離れた辺境の地であった為に、普通の子供と変わりなく育てられた。

そんな日常が変わったのはアゼルダがようやくハイハイができ始めた頃。

両親が事故に遭いアゼルダを残して逝ってしまったのだ。

他に身寄りもなかったアゼルダは孤児院に預けられた。

そのまま誰にも愛し子であることに気付かれぬまま数年の時は過ぎ、王都から孤児院の視察にやって来た役人が孤児院周辺にいる精霊がやけに多いことに気が付いた。

そして精霊と楽しそうにお喋りをしているアゼルダの姿を見つけ、ようやく愛し子と気付かれた。

アゼルダはそのまま王都へと連れていかれると、それまでの生活は一変した。

質素倹約を実践していた孤児院とは違い、城での暮らしは贅沢三昧。

パンとスープだけだった食事は目移りしてしまうほどの種類と量に。

年上の子のお下がりだった服は、絹のドレスへと。

数人の子供と共同で使っていた部屋は、孤児院にいた全員が寝そべっても余りある広さに変わった。

当初は戸惑いしかなかったが、子供の柔軟さ故かすぐに慣れていった。

ある日使用人の一人に怒られた。

それは甘やかす周囲の反応に慣れすぎ、我が儘が過ぎるようになってきたことに不安を感じた年嵩の女性だった。

アゼルダの今後を心配してのことだったが、アゼルダには伝わらず逆に激昂した。

それでもそんな反応は想定内であったので、彼女は根気強く教育していこうと考えていた。

しかし癇癪を起こしたアゼルダの感情に敏感に反応した精霊が彼女を攻撃。

命に関わる怪我はしなかったが、愛し子の怒りに触れたと彼女は城から去る事となった。

彼女と同じように城を追い出されること、また、愛し子がこの国から出て行くと言い出すことを恐れて、顔色を窺うように誰一人アゼルダの言葉を否定する者はいなくなった。

そのせいで我が儘に磨きがかかったアゼルダ。しかし、愛し子の中ではアゼルダのようになることは珍しくはなかった。

生まれた時から精霊の恩恵を受け、周囲もそれによりちやほやとするのだから当然だろう。

賊が浸入してセルランダ国にいるのが嫌だと竜王国へとやって来たアゼルダは、来てからというものセルランダ国との多くの違いに驚いていた。

見目麗しい者を取り揃えられた自分の取り巻きよりも遙かに美しい、宰相をはじめとした竜族の者達。

部屋が気に食わないと注文を付けたものの、ベッドのシーツにしてもカーテンにしてもセルランダ国よりも質の良いものが揃えられている。

クローゼットの中を確認し、アゼルダの為に用意されたドレスや装飾品は、アゼルダがセルランダ国から持ってきた物とは明らかに質が違う。

そのことにアゼルダは怒りが湧いてきた。

「ねえちょっと!どうしてセルランダ国とこれほど質が違うの!?

セルランダ国は愛し子である私を騙して、質の悪い物をあたかも良い物のように言って私に与えていたわけなの!?」

怒りをぶつけられたセルランダ国からやってきた侍女は、慌てて否定する。

「と、とんでもございません!愛し子様には間違いなく我が国の最高品質の物をお使い頂いておりました。

ただ、この竜王国は四大大国と呼ばれる大国故、我が国とは国力が違いますので……」

「何、ここの方がお金持ちってこと?」

「はい」

こんなことならもっと早くセルランダから出て竜王国の愛し子になれば良かったと、アゼルダは後悔していた。

「お金持ちならこのまま竜王国にいようかしら」

「愛し子様!」

悲鳴のような叫びを発し青ざめる侍女。

「だって、賊の出る貧乏な国より賊の出ないお金持ちな国の方が良いに決まってるじゃない」

「愛し子様」

一人の男性が一歩前に出る。

彼はアゼルダが連れてきた取り巻きの中で最も爵位が高い侯爵家の次男だ。

例に漏れず見目の良い彼が前に出ると、アゼルダは不快そうに眉をしかめる。

「何よ、あなたも不服だとでも言うの?」

侯爵家次男の男性はにこりと笑みを浮かべ「とんでもない」と首をゆるく横に振る。

「愛し子様のなさることに異を唱えられる者などこの世には存在しません。

ですが、私はセルランダ国の者。愛し子様が竜王国にいることを望まれるのであれば、私をはじめとした者達はもう愛し子様のお側に侍ることができなくなります」

悲しげに目を伏せる男性を前に、アゼルダはそれがどうしたとばかりにふんっと鼻を鳴らす。

「あら、セルランダだとか関係ないわ。あなた達もここに残れば良いじゃない」

「いえ、我々はセルランダ国の者ですのでいつまでも竜王国に滞在するわけには参りません」

「私の決定に異を唱える者はいないのでしょう?ここにいられるように私から王に進言してあげる」

「い、愛し子様……」

聞いていた侍女達はどうアゼルダの意志を変えさせるかと頭を悩ませる。

その中の一人がおずおずと口を開く。

「ですが愛し子様、竜王国には既に愛し子が存在しているとお聞きします。その……竜王国は愛し子様を受け入れぬやもしれませんが……」

「だったらその竜王国の愛し子をセルランダ国に連れていけば良いじゃない。

そうよ、私ってば頭良い!」

侍女達は困惑したように互いに視線を合わせる。

「それは良い考えかもしれませんね。どちらにせよ国としては愛し子がいらっしゃることに変わりはないのですから」

その中で取り巻きの内の一人が、さして反対するでもなくアゼルダの言葉を肯定したことで、侍女達は信じられないといった表情を浮かべる。

「そうよね!同じ愛し子なら私でも良いはずよ。そうと決まれば話をしてくるわ」

「それはお待ち下さい」

今にも出て行きそうなアゼルダを侯爵家次男の男性が止めに入る。

「どうしてよ?」

「本当にこの竜王国が愛し子様の安住の地になり得るのか見極めてからでもおかしくないかと。どこにどんな問題があるか、今見ただけでは分かりませんから」

「それもそうね。なら少し様子を見ましょうか」

「御意」

少し時間稼ぎはできたようで、侍女達はほっと安堵するのだった。