軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

お家購入

食事も終わり、食堂の人達とまた来ると約束して食堂を後にした瑠璃と、ユアン、ヨシュアの三人。

王都まで竜体になれば数分で着く距離だが、腹ごなしに街道を徒歩で歩いて王都まで帰る。

一時間と少しで王都の門に着くと、そこにはジェイドの側にいるはずのフィンの姿があった。

途端にユアンの顔に満面の笑みが浮かぶ。

きっと犬の亜人であったならちぎれんばかりに尻尾を振っていたことだろう。

「兄さん!」

「何でフィンさんが?ヨシュア何か聞いてる?」

「いや、何かあったかな?」

疑問を感じながらフィンの所まで歩いていく。

「ユアン、ちゃんと役目を果たしていたか?」

「勿論です!俺がいる限り不審人物をルリに近づけたりしません」

「それは頼もしいな」

フィンは兄の優しい顔で笑い、ユアンは誉められそれは嬉しそうな顔をした。

最初はユアンが瑠璃に対して喧嘩腰だった時はどうしたものかとフィンは困った。

ユアンは大事な弟でもあり、優秀な部下でもある。

だが愛し子と上手くやっていけないのであれば王都から離れた地方に飛ばすべきではないか。そんな話が王や側近達との間で出ていた。

そんな心配をよそに、今ではジェイドが嫉妬してしまうほど気が合うようで、良かったと安堵すると同時に少し複雑な気持ちになったりする。

「それで、どうして兄さんがここに?」

「ああ、ルリの護衛だ」

瑠璃は不思議に思う。

護衛ならば既にヨシュアとユアンがいるし、護衛というなら最初からついて来ているはずだ。

「家を購入した後、ルリにはかつらを外して王都を散策してもらいたい。後、精霊達も一緒に連れ歩いてくれて構わない」

「そんなことをしたら大騒ぎになりますよ?」

王都より遙かに規模の小さいチェルシーと共に行った町ですら、最初は大騒ぎだった。

この王都で愛し子が練り歩けばどんな騒ぎになるかは目に見えている。

「だから、私が護衛にきた。他にも王都中に警護の者が散っているから安心していい」

「そこまでするなら、すぐに城に帰りますけど………」

自分一人のためにそれだけの人員を動かすのは気が引ける。

いくら愛し子と言われようと向こうの世界で瑠璃は一般人だったのだ。

元々守られ慣れていない。

「いや、ルリには王都を散策して欲しいんだ」

「どうしてですか?」

「竜王国の威信の為だな。

獣王国と霊王国の愛し子は頻繁に街を歩き回っていたりするんだが、それなのに竜王国の愛し子が姿を見せないというのは、守る力がないのではと侮られる。

それに本当に愛し子がいるのかと邪推する者が少なからずいるから、いい加減黙らせたい」

「それって帝国の無能な貴族だろう?

奴らプライドだけは山のように高いからな。四国同盟の内、自分の所だけ愛し子がいないから僻んでんだよ。

守る力がない云々も、そいつらが嫌味言ってきたんだろ」

帝国の貴族と幾度か話したことのあるヨシュアが予想を口にする。

それが当たっていたようで、フィンは困ったような顔をする。

「ふーん。まあ、良いですけど」

政治的な事は瑠璃では良く分からなかったが、力になれるならば協力を惜しむつもりはない。

「じゃあ、王都散策前にまずは家を探しに行こう」

探しに行くと言っても既に選択肢は決まっている。

愛し子の家族を下手な場所に住まわせる訳には行かないと、竜族の家が沢山集まる地区の家を二軒ほど紹介された。

竜王国という名の通り竜族の者の多くが国に携わる仕事をしており、多くの兵士がそこら中にいる。

そうでなくとも戦闘力の高い竜族だ、そんな場所で犯罪を犯す愚か者は少なく、時折泥酔した酔っぱらいが騒ぐぐらいで、王都の中で最も治安が良い場所なのだ。

そこで紹介された物件の一つは城に近い家、もう一つはクラウスの家に近い家だ。

どちらも両親と祖父の三人で住むには大きすぎる、THE金持ちな家だった。

家事が壊滅な母のことを思い、ここの大きな家の掃除を父一人でさせるのは流石に可哀想に思った。

うーんと悩んでいると、ユアンが「何に悩んでいるんだ?」と問い掛けてきた。

「いや、三人で住むには大きすぎるかなって。

掃除も大変だし、家の維持が……」

「その心配は必要ない。

家を管理する使用人と護衛を城から派遣するから」

「えっ!?」

当然だといったフィンの言葉に瑠璃は驚き、直ぐにお断りする。

「そこまでしてもらうのは悪いです。

もう少し小さい家ならわざわざ派遣してもらわなくとも自分達で生活出来ますから」

「いや、これは国として必要な措置だ。

ルリの母と祖父は愛し子である可能性があるのだろう?」

「ええ、精霊達の話を聞く限りですけど」

母は瑠璃が精霊の姿が見えるようになるまで手を貸さないようにとお願いしていた。

行動が感情に直結する精霊は利益がない限り人のお願いを聞きはしない。

しかし人とは違う感覚で生きる精霊に利益を提示するのは難しく、そうなると基本、お願いをして聞き入れるのは魔力を好んだ愛し子にだけだ。

向こうの世界に行ったリンやコタロウの話からも、多くの精霊が母と祖父の周りにいたと聞いているので、愛し子であることに間違いないのだろう。

「愛し子ならば国の保護対象だ。

本来ならば城で暮らしてもらいたいと思っているのだが、ルリの話からすると窮屈な生活は好きではないらしい。

ならせめて護衛や生活に不自由のないよう使用人を置かせてもらいたいというのが、国の願いだ」

瑠璃にしてみれば、親が来るのだから瑠璃が面倒を見なければと思っていたのだが、どうやらそこからして竜王国上層部との感覚が違っていたようだ。

「そういうことなら分かりました。

母や祖父の性格からしてお城での生活は絶対にしなさそうなので、お願いします」

「そんなに城での生活は嫌なのか?

基本的に愛し子の行動を制限するつもりはないんだけどな」

衣食住込みの至れり尽くせりの生活が、何故そこまで嫌がるのか分からない様子のヨシュアは不思議そうにする。

「何というか……自由奔放なのよね、母と祖父は。

最初はお城の生活に喜びそうだけど、すぐに飽きて町で暮らすって言い出しかねないのよ。

行動を制限するつもりはないって言っても、やっぱり周囲の人は危険だったり愛し子として相応しくない行動と思ったら止めるでしょう?」

瑠璃は自分が食堂で働きたいと言った時にユークレースが止めたこと。

働いていると知ってジェイド達が辞めさせようとしたことを思い出しながらそう言った。

「まあ、そうだな」

「それを窮屈に感じてすぐに飛び出す姿が目に浮かぶのよ。

まあ、私もジェイド様とのことがなかったら、一通り学んで早々にチェルシーさんの家に帰ってただろうから、じっとしてろなんて言えないし。そもそも聞きやしないと思うし」

話も聞かず暴走する母と祖父。それを抑えようとすることもできずに胃を押さえる父の姿が目に浮かぶ。

窮屈な生活が嫌なのは瑠璃もなのだが、瑠璃に関しては猫の姿でちょくちょくチェルシーのいる森に帰っていたりするので、そこまで窮屈さを感じていない。

「それなら最初から外で暮らしていた方がフィンさん達的にも良いと思いますけど……」

瑠璃は窺うようにフィンに視線を向ける。

愛し子なら当然そこに精霊がくっついているわけで……。

突然暴走されるより最初から暴走前提で動いていた方が後々の対応がスムーズに済むはず。

「分かった。

家は用意しておいて、一応城で暮らしてもらえるかの交渉もしてみようと思うが、いいか?」

「はい、そこは任せます」

話がまとまった所で、結果瑠璃は知り合いが近くの方がいいだろうと、クラウスの家に近い物件を選んだ。

家の引き渡しはすぐに行われ、フィンから家の鍵を渡された。

大きな家なので以前にユークレースに買い取ってもらった古いお金を売ったお金で足りるか心配だったが、余裕で足りるようだった。

それだけ文化財としても素材としても価値があるものだったようで、思わず空間にあった古い貨幣の量を考えて怖くなってしまった。

代金はユークレースがその換金する金から差し引くようなので、瑠璃はそのまま家の中に入り暮らせるように準備をする。

使えるように掃除をするのだが、そこは魔法のある世界。

箒や雑巾は使わず、風の魔法でゴミを集め火の魔法で燃やし、窓や水場は水の魔法で洗い流す。

『おっ掃除、おっ掃除~』

『僕が集めて~』

『私が燃やして~』

『最後はお水でぴっかぴかね!』

瑠璃の呼び掛けにより集まった精霊達により、いくつもの部屋がある大きな家はあっという間に綺麗になった。

最後にあらかじめ選んでいた家具を空間から出し配置して完了だ。

ものの一時間余りで片付き、魔法の便利さ……というより精霊達の有能さを実感した。

「皆ありがとうね」

『どう致しましてー』

手伝ってくれた精霊達にお礼を言い、瑠璃は精霊達に魔力を与えると、嬉しそうにわらわらと瑠璃に寄ってくる。

これはいつも手伝ってくれる精霊達にお返しが何かできないかとリンとコタロウに相談したところ教えてもらったことだ。

精霊魔法を使う時には対価として魔力を差し出すが、精霊達が自己の意思で動いた時にはそれが必要ない。

もっとも、以前に瑠璃がお風呂を作った時のように想像を反映したり複雑な魔法だったりした場合は、一度瑠璃を通すので魔力が必要になる。

だが、今回のように精霊が自身で力を使うのは、あくまで精霊達の好意なのだ。

その好意に対して御礼をしたいが、肉体を持つリンやコタロウ、リディアと違い、肉体を持たない精霊達にお菓子をあげるというわけにはいかない。

なら魔力をあげればいいのだと聞いたのだ。

精霊魔法を使えば使用者の魔力は本来ほとんどその魔法に消費される。

ほんのわずかなお零れが精霊に与えられるだけで、ほとんど精霊の利益にはならないのだが、そのわずかな魔力が人でいう嗜好品みたいなものなのだそうだ。

だからこそ精霊は魔力の質が合う者には手を貸し、嫌いな魔力を持つ者には手を貸さない。

人が嫌いな物をわざわざお金を出してまでして買わないのと一緒だ。

そう考えれば、ユアンの魔力は精霊的に不味いということになる。

逆に、側にいると心地良いと感じるほど魔力の質が好まれる瑠璃の魔力は精霊達にとってご馳走ということだ。

嗜好品といっても人のように食べるとは少し違うが、精霊達は幸せそうな顔をしているので、瑠璃は御礼を喜んでもらえたようなので満足げな顔をする。

そしてかつらを外し、精霊達を引き連れ瑠璃達は王都の中心部へと向かった。