軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

番外編 アイドクレーズの生活

竜王国の食料庫とも呼ばれる広大な農地が広がるアイドクレーズ。

年中何かしら収穫出来る作物があり、年を通して人手不足の領地だ。

その為、出稼ぎに来た他国の労働者や、孤児、シングルマザー達の働き口となっている。

訳ありの住み込み者が多くいるこの領地に、あさひとその元同級生、裕美、広大、斗真、孝雄は連れて来られた。

領主所有の農地にて住み込みで働くあさひ達は、まず最初に領主へと挨拶した。

気のせいか、とげとげしさを含んだ言葉で迎え入れられ、元同級生達四人は恐縮し通しで聞きに徹していた。

その中でやはりというか、あさひだけがその空気に気付いていなかった。

「あの、どれ位働けば解放してもらえますか!?」

領主の簡単な説明を終えた後、そんな場違いな質問があさひから飛び出し、裕美達はぎょっとした。

当の本人は真剣そのものだが、他四人の焦りは尋常ではなかった。

「解放だと?」

「あ、あさひさん!」

まるで領主が不当にあさひ達を捕らえているかのような言い草。

いやあさひにとってはそうなのだろう。

目の前に居る領主の笑っているのに笑っていない笑みが深まったのを目にした裕美が、あさひを止める為にあさひの袖を引く。

裕美達はここに連れて来られた理由をきちんと理解していた。

何ら罪の無い瑠璃を罪人として、死ぬ可能性の高かった森に捨てるよう画策した事。

旗頭としてナダーシャの上層部と共に戦争を引き起こし、両国を混乱させた事。

これはその罰と監視でもあるが、それ以上に身寄りの無い異世界人のあさひ達が一人ででも生活出来るようにとの温情でもある。

が、それがどうにもあさひには歪んで届いてしまったようで、強制労働でもさせられると考えているようだ。

この中でリーダー的な役割の斗真があさひの前に出て領主へ頭を下げる。

「申し訳ありません。

彼女はまだ状況を理解していないだけなのです。

竜王様や領主様が俺達に心を砕いて下さった事は感謝しております」

同意するように三人はうんうんと頷く。

「そうか。君達はきちんと話の出来る者のようで安心した。

ならばその者には君達からきちんと言い聞かせなさい。

本来ならばここより労働環境の悪い場所へ送るべきとの声もあったのだが、君達の境遇と愛し子様の同郷という事で免れたのだ。

ゆめゆめ忘れないように」

それは文句があるならもっと過酷な場所へ送るぞとの忠告に取れた。

領主にとって、魅了の力の影響による故意ではない行いだとしても、愛し子を殺そうとしたことは到底許容出来る事では無かった。

それ故どうしても言葉がきつくなってしまう。

「はい」

あさひ以外の四人は怯えを含ませながらしっかりと頷いた。

そうして始まったアイドクレーズでの生活。

斗真達男は基本的に重労働に回され、あさひと裕美は男性よりも楽な作業に回された。

とは言ってもこの世界に向こうの世界のように機械があるわけでは無い。

土を耕すのも種を蒔くのも肥料や水を撒くのも人の手。

魔法が使える者は魔法で行っているが、領主所有の農地だけでも広大で、魔力にも限りがあり全てを魔法でというわけにはいかない。

これが魔力の多い瑠璃やジェイドならば楽々と全ての農地を耕し水を蒔いてしまうのだろうが、ここにそれ程強大な魔力を持つ者はいない。

只でさえ年を通して人手が足りず、女性であってもそれなりに重い物を運ぶ必要のある時がある。

都会育ちで多くの事を機械に頼る生活をこれまでしてきたあさひ達にここでの暮らしは決して楽なものではなかった。

ナダーシャでは客人という扱いで至れり尽くせりの生活だったが、ここでは一杯の水を飲むのにも、井戸へ行き、桶を下ろして水を汲むという作業をしなくてはならない。

農作業で筋肉痛の体ではそれだけでも疲れる作業だった。

運が良ければ水の魔法を使える人にその場で水を出して貰えるが、あさひ達が配属されたのはあさひ達と同じ身寄りの無い人間が多くいるグループだったので、魔法を使えるほど魔力がある者は殆ど居ない。

魔法を使える者は一度に広範囲の作業を出来るとあって、別で作業しているのだ。

給金も魔法の使えない者より多く、裕美達は魔法が使えたらなあと非常に羨ましく感じた。

本来ならば魔力のあるあさひは訓練さえすれば使えるのだろうが、無意識で魅了を使う危うさがある為、常に魔封じをされているので魔法を使うことは出来ない。

便利な生活に慣れた裕美達には辛い生活ではあったが、四人は誰一人文句は言わなかった。

ここには親も兄弟もいない、頼れる者がいない事を良く分かっていた。

嫌だなどと言っていられる状況ではなかった。

辛い時はある。だが、周囲には同じように身寄りの無い者達が少なくなかったので、互いに励まし合いながら、仲の良い者も次第に出来、少しずつこの生活に楽しさも見いだしながら溶け込んでいった。

だが、そこに溶け込めない者が一人……あさひだ。

「重いよ……ねえ、手伝って」

収穫した作物を籠に入れ背負っていたあさひが、近くに居たあさひと同年代の女性に助けを求める。

だが、彼女には彼女の仕事がある。

「はあ?嫌よ、自分で持って行きなさいよ」

「でも重くて……」

「収穫したものが入っているんだからあたりまえでしょう。からの籠を運んでどうするのよ。

今日中に収穫しなきゃいけない作物がまだまだあるんだから、文句言っていないで早く持って行ってちょうだい」

向けられるのは冷たい眼差し。

あさひは他の人に助けを求めようと周囲の人を見回すが、誰もがあさひと女性のやり取りを聞いていても目を合わせる者はいない。

これまであさひの味方でいた裕美と目が合ったが、直ぐに逸らされた。

あさひはショックを受けた顔をする。

それら一連の事を含め、ああまたかというのが周囲の者達の感想だった。

あさひが助けを求めるのは一度や二度ではなく、日に何度も助けを求めるので周囲の者は嫌気がさしていた。

何せ自分に割り当てられた仕事があるのだから。

一々周囲に助けを求め、文句の多いあさひには、周囲へ迷惑を掛ける事を考慮して比較的簡単な作業を回されることになった。

周囲の人達もどうしても無理な事ならば手を貸してあげようかという気にもなるが、明らかに自分より簡単な作業を手伝えと言われて助ける気になるはずがない。

しかも手は貸せというが、あさひが手を貸してくれる事は無いのだ。

これでは助けようとも思えない。

しかし、あさひにはそれが分からない。

これまではあさひが言わなくても周囲は勝手にあさひを手助けしてきた。

学校での掃除や日直の仕事も、面倒だと思った事を周囲に伝えれば誰もが率先して手を差し伸べてきた。

それはナダーシャでもそうだったので、竜王国に来て突然周囲の反応が変わってしまった事に、あさひ自身ついていけてないのだ。

何故助けてくれないのか分からない。

だが、これからはそれが普通のことなのだ。

魅了の効果が消えた今、裕美達もあさひを手助けするつもりはない。

何せ自分のことで手一杯なのだから。

だが、あさひは………。

「ねえ、どうしてさっき助けてくれなかったの?」

斗真達男性陣と合流しお昼休憩を取っていると、裕美に対してあさひはそう不満げにもらした。

裕美は深い溜め息を吐く。

仕事をしないで文句ばかりのあさひを裕美達は再三窘めてきたのだが、幼少期からこれまで続いてきた頼り癖が直ぐに治るはずも無く、何かと我が儘を言い周囲を困らせている。

助けを求め、助けが無いとなるとぐすぐす泣き始め勝手に休憩をする。

我が儘を聞いてくれずいじける子供のように振る舞うあさひは、完全にここで浮いた存在となっていた。

あさひよりも幼い孤児院の子供もここではお小遣い稼ぎに手伝いをしているが、寧ろその子達の方がしっかりしているぐらいだ。

幸いなのは尻拭いをする裕美達に周囲の眼差しは温かい事だろう。

だが裕美達とていつまでも尻拭いをしていられない。

あさひにはしっかりしてもらわないと。

「あのさ、裕美にだって割り振られた仕事があるんだよ。

それをしなきゃ他の人に迷惑が掛かるし、毎回あさひさんの手助けなんてしていられないんだからさ、いい加減に自分の事は自分でする事を覚えなよ」

あさひの発言に眉をひそめた斗真がそうあさひを窘める。

「でも、以前は掃除の時も日直の時も助けてくれてたのに、どうして急に冷たくするの?私何かしたかな……」

「ここは学校じゃない。

それにこれまで周囲があさひさんを甘やかしてきたのは、あさひさんが魔法で魅了していたからだろ。

正気に戻った俺らがいつまでも甘やかすと思ったら大間違いだよ」

「それに、こんな事言いたくないけど、一応謝罪ぐらいしてくれても良いんじゃないの?

いくら無意識とは言え俺達の正気を無くさせていたんだからさ」

広大、孝雄がそれぞれきつく言葉を浴びせる。流石に全員あさひの言動に我慢の限界を感じているのだ。

「魅了……?」

きょとんとしながら首を傾げるあさひ。

裕美達はえっ?と互いに顔を見合わせる。

「えっ、もしかして聞いてないの?」

「いやいや、ちゃんと説明あったよな?」

「でもあさひさんだぞ。見当違いしている可能性だって……」

「ありえる」

裕美達はあさひに向き直り、魅了の魔法について詳しく説明をした。

「じゃあ、皆は私がその魅了の魔法を使っていたから親切にしてくれてたの?

そうじゃなかったらしてなかったっていうの……?」

「まあ、そういうことだな。

正直、魔法にでも掛かっていなければ、あさひさんに親切にしようなんて思わなかった。

いや、近付くのも遠慮してたよ」

「ちょっと、それは言い過ぎよ」

厳しい言葉を浴びせる広大を裕美が窘める。

「これぐらいはっきり言わないとあさひさんは分かんねぇよ。

大体お前だってそう思ってんだろ?

俺達は自分の生活を守るのに必死になってるってのに、やる気も無い奴の生活の面倒まで見ていられない」

誰も反論はしなかった。

魅了が切れた今だから、瑠璃があそこまであさひと関わるのを嫌がったのがよく分かる。

四人もここまで厄介だとは思わなかった。

「酷い皆……。私そんな事してない!

私の事が嫌いになったからって、全部嘘だったなんて、魔法のせいにしなくてもいいじゃない!」

目を潤ませながらその場を走って去っていったあさひ。

これまで関わった人の優しさが全て魔法のおかげなどと聞かされて直ぐには納得しないだろうと、ある程度予想していた裕美達はそのままにしておくことにした。

何かしらの変化を期待した四人だったが、その話をして以降もあさひの行いは変わらず、とうとう仕事をしないあさひの分の食事が出なくなった。

「え……私の分は?」

呆然と立ち尽くすあさひの周囲から「当然じゃない」「自業自得」といった声が聞こえる。

そこへ領主夫人が現れた。

忙しい領主に代わり、領主の手伝いとして時々こうして様子を見に来ることがあるので、だれも不思議には思わず夫人に道を開けていく。

そうして目の前にやって来た夫人にあさひは噛み付いた。

「あの、どうして私の食事がないんですか!?」

「お黙りなさい!!」

夫人の一喝にあさひはびくりと体を震わせ押し黙った。

「あなたはここで仕事をする為にこの場にいるのです。

仕事には報酬を。それをしないのであれば無いのは当然。

あなたはお姫様ではないのよ、働かない者を皆と同じ待遇にしては、懸命に働いている方々の侮辱になります」

「でも、ご飯を食べないと死んじゃうわ!」

「ならば働きなさい、言うことはそれだけです」

それだけを言うと夫人はあさひに背を向けた。

流石に可哀想に思った裕美が食事を分けようと皿を持ち近付こうとするが、それを夫人が止める。

「お止めなさい」

「ですが、流石に食事抜きというのは……」

「これは彼女が現実を見るようにするための処置です。

あなた方も今後は彼女の尻拭いをする必要はありません。それは彼女自身にさせなさい。

いつまでも甘やかしていたとて成長は見込めませんから」

「……はい」

「これまでは様子を見ていましたけど、彼女には厳しくした方がいいと良く分かりました。

愛し子様にお任せ下さいと言ってあなた方を引き受けた以上、途中で投げ出したりは致しません。びしびし行かせて貰います」

その日の午後、素直に作業をするあさひの姿があった。

しかし食事を抜いたからなのか集中力に欠け一向に作業が進まない。

「あの、少しだけでも食事を下さい。

これじゃあお腹が減って出来ません」

「一食抜いたぐらいでなんです。

別にやらないのであれば構いませんよ、夜の食事も無くなるだけですから」

「そんな……」

夫人の容赦ない言葉に絶望に顔を歪ませるあさひ。

周囲の助けは無い。少しすると、ぐすぐすと泣きながら農園の作業に取りかかった。

その手の動きは遅いが、夫人の最初の一喝と毅然とした態度が良かったのだろう。

特に反論もサボる事もなく、素直に作業をしている。

「これで上手くいけばいいけどな」

「あとは彼女次第だ」

「私達は自分達のこれからの生活の事を気にしましょう」

「俺は一人で生活出来るだけの金を貯めたら、他の国に行ってみたいな。

折角異世界なんだから」

「いいわね、それ」

「俺も一緒に行くぞ!」

「その為にはまず仕事だな」

未来を希望に話は膨らむばかりだった。